2-5 連行
警察のパトロールカーがH公園横に用意されている。
あたしは黒田隊長たちと一緒にそれに乗る。
あたしが座る椅子がVIP席の一番奥で、その隣が黒田隊長、その隣が隊員の山崎さん。
助手席に座るのがもう一人の隊員、小川さん。
ついでに運転席の警官の名前は本木さんと言う。
彼らの名前は携帯電話から得た情報。
偶然にしては出来過ぎか?
携帯電話を、あのベンチに仕掛けたのも主催者側なのだろうか、と訝しむ。
H公園からパトロールカーで外に出るとき、大勢の警官たちに整理されつつも周囲を取り巻く市民たちの顔に不安の色が浮かび上がっているのが見て取れる。
何事が起こったかわからないにせよ、音は聞こえただろうし、煙も見えただろう。
天使の姿を見たものもいるかもしれない。
が、天使は通常のカメラには写らない。
だから、その証拠写真は残せない。
天使がカメラに写らない理由を、あたしは、以前跳ばされたある世界で懇意にしてくれたイケメン科学者から聞いている。
けれども、あたしに、それを上手く説明する自信がない。
あたしなりに要約すれば、天使がこの世のものではないから……となる。
さて、あたしが連れて行かれたのは警察署ではなく、自衛隊の地方協力本部のようだ。
だから建物が見えた時点で、そろそろ車から降ろされるのだろうと身構える。
が、敷地内で何事かが確認され、パトロールカーが本部敷地内から外に出る。
方向的には逆走する形で出島の方に引き返す。
やがてパトロールカーが、寒風吹き荒ぶ埠頭突端で停止する。
ついで黒田隊長があたしに車から降りるように促す。
そのとき、お腹がグウと鳴り、あたしは、
「ああ、お昼ご飯がまだだったんだ!」
と思い出す。
その際、黒田隊長と視線が絡み、黒田隊長が呆れた顔付きであたしを見返す。
あたしは恥ずかしくて、顔を赧らめる。
ふと見た埠頭には巡視艇が停泊している。
黒田隊長に促され、あたしがタラップを踏み、それに乗り込む。
凪の波に緩く揺れている艇内を艇のほぼ中央に位置する室まで案内されると、
「わたしはここで……」
と黒田隊長が告げ、あたし連行ミッションが終了する。
「ありがとう。黒田さんの将来のために二度とあたしと出会わないことを祈ります」
あたしは本心からそう言い、握手をせずに彼と別れる。
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