1-1 執行
翌日――だと思うが――目覚めると、雰囲気からいって、そこは安アパートではなく、よくよく見ると窓に格子があったので拘置所の一室だと知れる。
ちょっと厭な予感。
それが当たりだとわかったのは、
(やっぱり同じ狭い部屋の中にトイレがあると臭うよなあ……)
と、いい加減気持ちが悪くなりかけていたときで、ドアがノックされ、死刑囚番号と名前を呼ばれ、刑執行の日が来たと告げられる。
午前十一時頃か。
「そうですか?」
暴れて怪我をすると痛いので素直に従う。
いろいろはなく、刑務官に首吊り部屋まで連行され、牧師が来て説教を受け、拘置所のお偉いさんから最後の望みを聞かれたので、
「世界に秩序を!」
と答え、
ついで――
「咽喉が渇きました」
と水を貰う。
ほどなく五メートルほど先の首吊り揚までの道程を促され、首にロ―プを巻かれ、
(ああ、さっき廊下に立ってた二人の刑務官が支え役なんだろうなあ……)
と、のろのろと考えていたとき、床が外れ、ぶらんと瞬間、ぶら下がる。
一般的に、ここで頚骨が折れれば、あまり苦しまずに死ねる。
そうでない揚合は支え役が死刑囚の身体を下に引っ張る……というか、暴れないように押えつける。
それで死刑囚がもがき。遅くとも一分後か二分後には息絶える。
世はすべて事もなし。
刑の終了だ。
後は事務手続きが滞りなく実行される。
でも――
あたしの揚合は例外。
ブツッと音を立て、ロープが切れ、ドサリとあたしの身体が落下する。
気をつけたつもりだが、足首を軽く捻挫したようだ。
身構えていた支え役の二人はすでにあたしに抱きついていたので腕を振るって払い除けようとする。
けれども残念ながら刑務官たちの方が腕力がある。
だから、あたしはもがくだけだ。
「てめっ、痛いじゃないかよ。セクハラで訴えるぞ!」
事の成り行きにぎょっとしたのは、あたし以外の全員なので、
「ほおっら、さっさと離せよ!」
さらに声を荒(あら)らげると呆然とし、判断が付かなくなった支え役たちが力を緩め、あたしにもその腕を振り解くことが可能となる。
「ふう」
息を吐く。
男が嫌いなわけじゃないが、汗臭いヤツは厭だ。
しかもヘンな冷汗が混じってるし……。
拘置所長と日本警察のお偉いさんと政府の担当者は目を丸くしている。
法的な事後処理は彼らの方が詳しいから、あたしは口を挟まない。
代わりに我が身を嘆いてみる。
あたしは断片だ。
あたしは死なない。
あたしは生きてもいない。
身体は普通の人間と殊更変わったところはないが、存在様式が違うらしい。
それ以外のことはわからない。
時折あたしの前に現れる怪物たちがそれを知っているのかもしれないが、性別不明なあやつらは口を利かない、話さない、情報を与えない。
考えることができるのか、脳があるのかすら、まったく不明。
でも、あいつらは死ねるようだ。
あれが死と呼べるならばだが……。
輻射し、消え、空間に還る。
天使に破壊されたときには、そう見える。
遠い記憶のようだが、時間線が真っ直ぐでなければ、あれらは未来の出来事かもしれない。
ついで、もう一度、あたしは嘆く!
「あたしは、この世界のはぐれものだ!」
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