天使聖戦 - the battle rages on -
り(PN)
第一章「縮潰」 episode I : collapsed / 1-0 予兆
そう寒くはない冬初めの夜遅く、ヒトを殺し、あたしは木造モルタル製の安アパートに帰ってくる。
千鳥足で錆びた鉄階段を昇り、五部屋仕様の向かって左から三番目の自分の部屋入ろうとすると、
「なんてことするんだ!」
と詰られる。
造り付け――とはいわないか? 前の住人がそのままにして置いていった窓外壁側――の洗濯機に、だ。
いつものこと。
「ふん、見てたのかよ!」
憤る。
「長い付き合いだから、わかるのさ」
そいつが続ける。
「……で、こんどはダレを?」
「わかってんじゃなかったのかよ!」
怒鳴る。
「イケメンの兄ちゃんだよ。昔、付き合ってたヤツと良く似てる。ヤクの買人で顔見知りじゃないヤツ。ペレットの方だったんだけどさ、買って、ロッカーの鍵を受け取って、歩いて、振り返ったら、後付けてきたから、逃げたら、追いかけてきてさ。靴を踏まれた。で……」
後はわかるだろうと空気を横に掴み、ナイフを胸に突き刺すマネ。
「地獄に落ちるろ!」
「ここが、そうじゃないのか?」
でも違うことを、あたしは知ってる。
「とにかく、またね」
手すりに掴まり、伸びをし、十七夜の月を見上げてから部屋に入る。
すると――
「なんてことするんだ!」
今度は冷蔵庫から詰られる。
重力が崩壊していくような脱力感。
これまでこの世に一度も存在しなかった人々が全員同じような顔つきをして一斉にあたしをねめつける。
「話はカンベン。……少し疲れた、寝る!」
それから思い直し、付け加える。
「今日は、降りてきた?」
「いや」
「他には?」
「誰も来なかったよ」
冷蔵庫の代わりに固定電話が答える。
「あ、そ!」
何となく人待ち顔になり、冷蔵庫を開け、缶チェーハイを取り出し、プルトップを捻る。
「飲み過ぎだよ!」
ガスレンジが指摘。
「余計なお世話!」
ひと口飲む。
生き返る。
チェーハイ缶を持ったまま、布団が敷きっ放しの部屋に逃げ込む。
彼らの詰りを避けるように……。
コートを剥ぎ、エスニックの重ね着を脱ぎ、さらにいろいろ脱ぎ、枕元に置いたチューハイ缶を取り上げ、またひと口飲み、布団にもぐり、感情を消す。
明日はいいことがありますように……。
そう願うが、あたしにとって何が良いことなのか、自分でもさっぱり見当がつかない。
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