第7話 気が狂ってひたすらキンタマを壁に打ち付ける話。

 朝起きたら僕のおちんちんにでっかい文字で「FAKE!」と書いてあった。

 伏線かもしれない。「ああ、あのときおちんちんにFAKE!と書かれていたのは、このためだったのか!」と後で腑に落ちる展開があるのかもしれない、と一瞬考えたが、よく考えてみるとそういえば昨夜酔っ払って自分でマジックで書いたのだった。

 起床後、僕は睾丸を壁に打ちつけ始めた。

「ああ、忙しい、忙しい!」

 睾丸のトレーニングだ。僕には一秒だって休んでいる暇なんかないんだ。

「ふぅ……」

 少し休憩を入れる。休憩中は鏡と向かい合ってのメンタルトレーニングだ。

「Believe your penis...Believe your penis!」

 信じろ……己のおちんちんを信じろ! 鏡を見ながら自分自身にそう言い聞かせた。いつかこのおちんちんが壁を“突破”できると信じて……

 さあ、もうワンセットだ。僕は睾丸を壁に打ち付けるのを再開した。

「今日も一日、がんばあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


 心が壊れた。世界が歪む。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 老いだけが進み、他に何も無い毎日に耐えられなくなったのだ。昏いものが心の中でどんどん膨らんでいくだけの日々に。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

「本日のおとめ座のラッキーアイテムは、“身近な人とのSEX”です!」

テレビが何か言ってる。

「ああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「お、おにいちゃん……?」

 誰かの声が聞こえる。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「え、えっと、おにいちゃん、大丈夫?」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「も、戻ってきて、おにいちゃん!」

「もがふぅッ!」

 思い切り蹴飛ばされてその場に崩れ落ちて変な声が出た。

「し、四月ちゃん……」

「だ、大丈夫……大丈夫だから……」

 頭を撫でられて、少し正気に戻る。何が大丈夫だというのだろう。だけど何かが大丈夫なのかもしれない。

「わ、わたしが、なんとかするから……きっと……」

 四月ちゃんは震えながらも、何かを決意したように手を握りしめた。そして、その後俯いて、少し笑っていたような気がした。

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