第5話 「小学生 下着モデル」で検索した回。

「うーん」

 水玉ショーツ、という子供用下着柄っぽいワードでグーグル画像検索をしてみたが、普通に大人のモデルが着用している画像ばかりが出てきたので頭を抱えてしまった。ロリモデルが下着を着用している画像が見たかったのだが……ん? ロリモデルが下着を……着用?


瞬間、はじめての射精の如き快感的閃き! 天啓インスピレーションのインパルスが走る! 人生の最善手を思いついた!


 あまりに直球過ぎて盲点であった検索ワード……僕はグーグルの検索窓にその魔法の文字列を打ち込んだ。

「小学生 下着モデル」

 クリック! ダイブ……! 深く深く、インターネットの暗い海を潜った。

 あるぞ! ロリ下着モデルの画像! こいつぁすげえや!

 今までの人生、要領の悪い自分にも何かひとつくらいは才能というものがあるんじゃないかと思ってあれやこれやと試してみたが自分に向いていることなどひとつも無かった。しかし今ようやっとロリ画像を検索するという天賦の才にたどり着いた。齢三十近くにして己の行く道を知る。父さん、母さん、僕は立派なロリ画像検索マンになります。

 それにしてもすげえ! ロリの下着モデルってマジでいるんすね! オッケーグーグル! 性犯罪予備行為幇助お疲れ! 

 い、いや、ででででもこれ問題のある行為ではないと思うんですよ。

 そもそも、ロリ画像とは言ってもモニターの画面に映る画像というのはR(赤)G(緑)B(青)の三色の光を組み合わせて出力したただの光の羅列であって、本物の人間の肌ではない。ルーペでモニタを拡大すれば、これがロリではなくロリのように見せかけた光の粒の集合なのであると諸兄もわかってくれるだろう。いや、そう言ってしまうのならば、現実にいる下着ロリを凝視したとて問題は無い。何故ならば我々が認識するロリとは、ロリの表面を反射した光が眼に入り視覚情報となったものであって決してロリそのものではない。光、どこまでいっても人間が視認できるのは色の付いた光だけなのだ。いや、ここまできたのならば根本的な、認識のシステムそのものも疑おうではないか。近代哲学の大家イマヌエル・カントによれば我々が認識しうるのは主観によって構成された感覚のみであり、主観とは別に独立した存在である物自体つまりロリ自体を認識することは決してできないのだという。ここにあるのは認識主観でしかないのだ。

 そういったあらゆる理由から、たとえ僕がロリを凝視したとしても国家権力に逮捕される筋合いは無い。セーフ! セーフ! だって僕はロリそのものを決して認識できないのだから。おお諸君、なんと虚しいことか。我々は決してロリへとたどりつく事はできないのだ。まるで月が地球の周りをくるくると回り続けるかのように、我々はロリの周りをくるくると回るばかりで、決して触れることはできないんだ。なんというトラジディ!

「まあそんなことどうでもいい! すげえ画像がいっぱいで最高だ! この世はでっかい宝島!」

 そうさ今こそ自慰行為アドベンチャー

「ふ~ん……」

 四月ちゃんの声で一気に腹の底が冷え切った。検索に夢中でまったく気付かなかったが、雨色四月ちゃんがいつの間にか僕の後ろにいた。

「あ、あれ、四月ちゃん……いつの間にか来ていたんだね、お、お、おはよう」

 上記のクソみたいな言い訳を並べても、どう考えても僕の行いは世間的に悪なのである。見られたら言い訳できないのである。

「……し、下着の子が、いっぱいだね」

 四月ちゃんは引き気味に言った。まずい。まずい、まずいぞ。この局面、いかにして乗り切る? 僕の頭は人生でいちばんの高速回転を始めた。

「いや、今アパレル関係の仕事をしていてね。子供用の下着市場にコミットしようと思っているんだけど、まずはインフルエンサーであるモデルとの共同制作によってブランディングしていこうって会議でコンセンサスが取れて、モデルのことを調べていたんだよ。ドラスティックに消費者へのアドバンテージを取っていきたいっていうか、股間が垂直バーチカルでマスターベーションもやむを得ないっていうか……」

 よくわからない横文字を並べることによって誤魔化す方策に出た。さあ、どうなる!?

「……」

「……」

「……」

「……」

「……そ、そっか。お、お仕事のことを調べてたんだね」

「……! う、うん、そうそう!」

「て、てっきり、おにいちゃんが下着の女の子の画像を検索して鼻の下を伸ばしているのかと勘違いしてしまいました。ご、ごめんなさい」

「いやいや! わかってくれればいいんだよ!」

 なんて素直なんだ、四月ちゃん! 勘違いじゃないんだけどね、大正解だよ!

 いつもどおりの空気に戻る。四月ちゃんはテレビを見始め、僕はパソコンをいじった。

「……うそつき」

 彼女が小さな声で何か呟いて、くすりと笑ったような気がした。

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