少年、初めて己の立場に悩む-3
「ほれみろ塔子! だからつっきー投入すべきだっつったろ!」
依子先生が条辺先輩の頭をベシベシ叩きながら言う。
「はぁ? アタシは最初っからコイツ使うべきって言ってたし!」
俺は一体どういう扱いなんだ?
平委員の一年生がどうして交渉の矢面に立たされてるんだ。
育成枠選手を一軍に投入して無理矢理育てようってか?
「だーからぁ、コイツは先発じゃねーんだよクローザーなんだよ。いやーほんと今回は面倒くさかったなぁ!」
「痛いですって先生!」
そして今度は俺の頭をベシベシ叩く。
どう考えても本物のクローザーは条辺先輩だったしなぁ。
「どうしたよつっきー? 大量のカメムシ噛み潰したみたいな顔して。まあいいや、校内組は予定通り三時に解散な」
嫌な表現だな。
元々の造形が悪いと苦虫程度じゃ表現しきれないのか。
「いやぁ、つっきーが来てくれて助かったよぅ」
「お前と杜太でどうにかなっただろ」
どうして曜日をひっくり返す提案を最初からぶつけなかったんだか。
「んなことないってぇ。あたしもとーくんも震え上がっちゃってさぁ」
多江が『とーくん』と言うだけで脳みそを掻きむしられてしまう。
「つっきーよぅ! アタシがブスじゃなかったら濃厚なベロチューしてやるのになぁ! アタシもうバックレるから! じゃーねー!」
条辺先輩もずいぶんマイペースだな。
童貞の心臓を破壊するような捨て台詞はやめていただきたい。
「塔子! 教師の前で堂々とし過ぎだろが!」
「疲れたんだよー! 湊もいねーしつまんねーんだよー!」
条辺先輩は本当に走り去ってしまったが、サボることはないはずだ。
本当にサボって山丹先輩にバレたら処刑されるだけだし。
「はーあ。
「いいけどカギ閉めんの忘れたら分かってんだろうな? アタシの持ってる技術の粋を集めてほむほむコスさせっからな! マジだからな!」
「いやいやコスプレはマジ勘弁!」
うわ、鍵閉め忘れて欲しい。
というか、先生コスプレイヤーだったのかよ。
漫画家志望の時点でそんな気はしてたけど。偏見なのは百も承知で。
極寒の自治会室に戻りたくないのも本音だろうが、多江は多江なりに白馬と瀬野川を気遣っているんだろう。
「あ! カギ壊れてる!」
「ちっ! ばれたか」
本当にこの先生が一番食えないな。
今後もずっと交野依子監督にエースという名のペーペーとして扱われるのか。
実に俺らしい人生だよ。
さて、俺はどうしようかな。
ゲームなら選択肢前の定番の台詞なんだけど。
いや、それ以前に。
ゲームだったら選択先に攻略対象ヒロインの一人が居るだろう。
だけど、現実の俺に与えられた選択肢はカップルがいる場所と、カップルになるかもしれない二人がいる選択肢だけだ。
そんなのどっちも選択したくないし、スポーツ部の部長二人を相手にした気疲れまで襲ってきていた。
「俺、調子悪いから先帰るわ」
先生は職員室へ消えたし、活動終了時間まであと三十分ほどだ。
「えぇ? ほんとにぃー!?」
調子が悪いのは確かだ。
昨日の瀬野川の言葉の数々が重くのしかかって、ひどく寝不足だ。
「ありゃ? つっきー、最近元気ないと思ったら体調悪かったの?」
「んー……うん」
「だったらバスで帰りなよー。今日俺月人の家でご飯だから、チャリ乗ってくお」
「い、いや、そこまで悪い訳じゃないから。夕立降る前に帰るよ。嗣乃にも言っといてくれ」
我が愛馬を奪われてたまるか。
夕立は気になるが、少し一人になる時間が欲しかった。
昨日は嗣乃と陽太郎にはかなりの醜態を晒してしまっただけに、顔を合わせ辛かった。
む?
そういえば杜太の奴、俺も一緒にいてくれとは言わなかったな。
多江と気安い関係になってるじゃないか。
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