24 校内賭博事件
校長は、眉間に深いシワを寄せて「またも重大な事件だ」と、呻いた。
カズが「どういうことですか?」と、続きを促す。
「ウム。実はだな。校内で
賭博と聞いて勝春が目を丸くする。
「校内でトバク? 賭博ってギャンブルのことですよネ?」
「さよう。それも組織的に行われているらしい。表面には出てこんがな」
大志が腕組みをしながら呟く。
「組織的ってことは友人同士で昼飯を賭けるとかのレベルではないということか」
「ウム。その通りだ。実体は分からんが、噂では何十人もの生徒が参加しておるということだ」
校長の言葉を聞いてカズが唇を噛む。
「もしかして……これも何者かが裏で……」
「それは微妙なトコだネ。ギャンブル好きな連中が勝手に集まってんのかもしれないしサ」
勝春の楽観的な感想に対してカズは冷静に分析する。
「いや。それはどういう方法で賭博をしてるかにもよると思う。果たして高校生だけでそんな大規模な組織作りができるかどうか……だから裏で大人が入れ知恵してる可能性もゼロではないはずだよ。それに大志が聞いたもうひとつの計画っていうのも気になるし」
カズのいう『もうひとつの計画』とは、加美村狩り事件の時に遭遇した中年男から大志が奪ったスマホに電話してきた人物が口にした言葉だ。
カズの分析を聞いて校長は唸った。
「ムムゥ……それは分からん。が、これが表沙汰になってしまうと我が学園の評判は地に落ちてしまう。正直言ってこれ以上、生徒が減ることは死活問題なのだ。最悪、閉校も考えねばならん」
加美村学園を取り巻く環境が深刻化していることは校長も憂慮しているようだ。
大志が、これまでの経緯をおさらいする。
「はじめの柔道部事件にしても進学実績水増し事件にしても、もしマスコミに報道されていればこの学校のイメージは確実にダウンしただろう。これもパターンが似ているな」
「そうだネ。裏で操ってる人間は、後でマスコミにリークすることを前提に事件を起こしているような気がするヨ」
勝春のコメントにカズが同意する。
「そうだね。前回の加美村狩りにしても事件が
校長が悲痛な面持ちで
「き、君等の力で何とかしてもらえんか……」
それに対してカズと勝春が力強く頷く。
大志は首をパキパキと鳴らして気合を示す。
敵はいよいよ本格的にこの学園を陥れようと攻撃を仕掛けている。
否が応でもミステリーボーイズの緊張も高まる……。
* * *
二時限目の休み時間に菊乃がカズにそっと耳打ちした。
「きのうは、ごちそうさま」
「あ、いやボク達の方こそ。遅くまで引き止めちゃって申し訳なかったね」
「で、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
「いいけど? ボクだけ?」
「そ。カズ君にこっそり聞きたいことがあるんだ」
そう言って菊乃は大志や勝春に見つからないようにカズを教室の外に連れ出した。
廊下の突き当たりには扉があって、その先には非常階段がある。
菊乃は非常階段に出て、周りに知り合いがいないことを確かめてからカズにお願いをした。
「ゴッキーに昨日のお礼がしたいんだけど、プレゼント、何がいいか一緒に考えて!」
「ああ、そういうことか。それはいいけど。何でもいいんじゃない? 気持ちがこもってれば」
「でも、せっかくだからゴッキーが喜ぶものの方がいいじゃない。ね、何かない?」
「大志の喜ぶプレゼントねえ……『筋力トレーニングの器具』とか『刀』」かなあ」
「や、それは無理……」
「じゃあ、手作りで小物なんか作ってあげれば? ストラップとか」
「分かった。それで考えてみる。で、どうやって渡せばいいと思う?」
「どうやってって……『ハイ、プレゼント』でいいんじゃない?」
菊乃は確信した。
やっぱりカズは女心がまったく分かっていない。
「だから普通に渡しても受け取ってもらえないかもしれないから相談してんの!」
「あ、そうだ。だったら、ちょうど来週、大志の誕生日だから、そのお祝いってことにすればいいかもよ」
「来週!? 来週って……いつ?」
「九月十八日」
「え! マジで? ウソでしょ……」
菊乃の反応を見てカズが首を傾げた。
「どうしたの藤村さん?」
「まさか同じだなんて……」
「え? ひょっとして藤村さんも同じ日なの?」
「ん……」と、菊乃が頬を染める。
「そうなんだ。おめでとう! でも偶然だね」
「ホント偶然。超あり得ない……」
「いや、そんなことないよ。だって人間、五十人集まると必ず同じ誕生日の人が一組できるからね」
「え? そうなの?」
「そうだよ。確率論的にね。なんなら数学で証明してみようか?」
「や、それはいいけど……そっかゴッキーと同じなんだ」
思わぬ偶然に胸がときめいてしまうことを菊乃は押さえきれない。
運命的な何かを感じる、といったら大げさかもしれない。
が、その時の菊乃には何か不思議な縁で結ばれているような気がしてならなかった。
頭の片隅には大志の女性アレルギーという問題も残っていた。
しかし、それも何とかなるという希望の方が大きかった。
それどころか(それって浮気できないってことだからアタシにとってはラッキーかも)と、都合のいい解釈すら菊乃の中には芽生えていた。
誕生日が同じという偶然。
その事実が菊乃に勇気を与えてくれた。
* * *
昼休みの体育館裏。
五人揃っての作戦会議。
いつものようにカズが仕切る。
「さて。早速、今回の分担を決めたいところなんだけど、今回の事件は、まだまだ分からないことが多すぎるからね。まずは全員で情報収集をしなくちゃならない」
情報収集と聞いて勝春が胸を張る。
「じゃあ、オレの出番だネ。早速、校内ネットワークを利用して……」
勝春の言葉を聞いて美穂子がすかさず「校内ネットワークって何?」と、尋ねる。
そこでカズが勝春に代わって説明する。
「勝春の築いた人脈のことだよ。これで校内の70%の情報はカバーできるらしい」
「へぇ」と、美穂子が感心する。
菊乃も驚く。
「へ? だって転校してきてまだ半月もたってないのに?」
「まあネ。友達の友達はみ~んな友達だヨ!」と、勝春がにっこり笑う。
「ただ……」と、カズが少し表情を曇らせる。
「勝春のネットワークをフル活動させるのは勿論だけど今回は秘密組織が相手だからね。広く浅く情報を集める方法では苦戦するかもね」
大志が「その通りだ」と、口を挟む。
「校内で賭け事をやるなどもってのほか。おそらく賭け事をしている連中は自分がメンバーであることを隠しているはずだ」
確かにそれは一理ある。
絶対に秘密厳守でなければ校内で堂々と賭けをすることはできないはずだ。
勝春がしばらく考えて提案する。
「でもサ。メンバーを集める為には勧誘しないとならないよネ。てことはそこが狙い目なんじゃないカナ?」
カズが頷く。
「なるほど。賭ける人間が多ければ多いほど元締めの儲けは大きくなるはずだから勧誘は続いている可能性があるね」
そこで美穂子が、いつもの質問攻撃。
「モトジメって何?」
話のコシを折られてもカズは嫌な顔をせずに教えてくれる。
「元締めっていうのはね『
「へぇ、そうなんだ」と、菊乃も納得する。
そこでカズが調査の方針についてまとめる。
「ポイントはどうやってお金をやり取りしてるのか? その方法を突き止めることだね。で、そこから元締めの正体を割り出す。元締めを押さえれば組織は解体できるはずだからね」
勝春が大きく頷く。
「ダネ! その為にはまず賭けに参加してるメンバーを見つけることだネ。任せといてヨ!」
大志が勝春の顔を見ながら言う。
「そうだな。メンバーさえ見つけてしまえば後は勝春の得意分野だからな」
それを聞いて美穂子が妙な顔をする。
その顔つきは何か変な想像をしている証拠だ。
菊乃が美穂子に突っ込む。
「美穂子、何か変なこと考えてない?」
「いや……ちょっとね。カッチーが机叩きながら『さぁ吐け!』とかやってるトコ想像しちゃったから……」
美穂子のボケに四人がずっこける。
勝春が苦笑しながら美穂子に言う。
「あのサ。刑事ドラマじゃないんだから……」
大志も、やれやれといった感じで説明に加わる。
「つまり、勝春には誰とでも仲良くなる特技があるってことだ。それで相手をたらしこんで情報を聞き出すという寸法だ」
勝春が苦笑する。
「何だヨ。『たらしこむ』って嫌な言い方だナァ」
勝春の特技については菊乃も薄々感付いていた。
なぜなら、特進クラスの事件の時に勝春がターゲットとあっという間に親しくなってしまったのを間近で見ていたからだ。
昼休みが終わりそうになったところで作戦会議は終わった。
こうして五人はすぐに手分けして情報収集にあたることとなった。
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