第十六幕「それは、彼らと彼女の戦いで」
砂混じりの風が強く吹きつける、クィンガーシュ山脈。
砦を見下ろす険しい山肌に、
ただでさえ奇妙な半人半馬という形、さらにはその頭部が欠落しているとなれば、普段であれば目立って仕方がなかったであろう。
こうして堂々としているのも、視界の悪い砂風の日なればこそだ。
「……フム、時が来たカ」
懐中時計を開いたクレーンが、文字盤を眺めて呟く。
ヘッドレスホースマンは頭がない代わり、そこには広めの
通常の
「確かニ狙撃手ト言ッタ。ガ、風が強イ日は遠撃ちニハ向かナイというノニ。ククク、奴らモ買いカブリだトハ思わナカッタのカ」
標的である砦を見つめながら、彼は低い笑いを漏らす。
砂風が視界を霞ませているはずだが、その動きは淀みなかった。
ヘッドレスホースマンが険しい山肌を進む。馬を模した四本脚は、険しい斜面であっても十分な安定性を発揮する。
狙撃手たるクレーンにとって、安定性は極めて重要な要素である。この形も、彼なりのこだわりあってのものだ。
「サアテ、仕事の始まりダ」
彼の命を受けるや、ヘッドレスホースマンがその機能を開放した。
四本の脚をしっかりと踏ん張り、かつ膝の関節を
次に上半身が動き出し、背負っていたライフル銃を掴んで、その銃口に
そうして通常よりもさらに長い銃身を備えた、狙撃用ライフル銃を組み上げると、砦へと向けて構える。
客架に乗ったままのクレーンが身を乗り出す。
ヘッドレスホースマンは頭部がないことによって、
剥き出しの客架の上、彼は流れる風の強さをその身に感じていた。距離を測り、狙いを修正する。
それらを、握った手綱の繊細な操作を通じてヘッドレスホースマンに伝える。
銃口がわずかに揺れ、鉄騎手の意思を反映した。やがて最適な位置についた瞬間。ライフル銃が、激しい炎を噴き上げる。
遠距離まで届かせるために
当然生まれる強烈な反動を、機体の全身を使って受け流した。
コッキングレバーを操作し排莢しながら、跳ね上がった銃口を下げる。一拍を置いて、さらにもう一発。
銃弾が、吹きすさぶ風を切り裂いて飛翔する。
風に位置、距離。あらゆる要素を計算しつくして放たれた弾は、狙い過たず停止していた銃鉄兵のうち一体へと突き刺さった。
胸の装甲に、黒々とした穴が穿たれる。
あっさりと鋼鉄の外殻を貫いた弾丸は、そのまま機体の内部を抉った。ついには胴体の奥にある冷却水のタンクへと辿りつき。
直後、刻まれた
銃鉄兵が、胸の内部から衝撃を受け、爆ぜる。
部品と冷却水、硬貨と潤滑油をばらまきながら、地面を転がっていった。
その瞬間、周囲に並べられていた銃鉄兵に、いっせいに火が入った。
銃鉄兵に宿る
そこへと、もう一発の銃弾が飛来する。立ち上がりかけた銃鉄兵の脳天へと突き刺さり、穴を穿つ。
衝撃で揺れる躯体が、次の瞬間には爆裂する。銃鉄兵にとって最重要の機能を持つ頭部を吹っ飛ばされ、二体目が永久に沈黙した。
それらが倒されている間に、残る八機は緊急起動を終えていた。
駆動部の暖機もそこそこに、銃を抜きながら駆け出し城壁の裏に身をひそめる。
数打ちの銃鉄兵に積まれた簡易な
騒がしさを増す砦を眼下に、クレーンは狙撃の戦果を眺めてぼやいていた。
「隠レタか。ヤハリ数がイルと難しイ。次はモウ少し、近寄らネバな」
砂風吹き荒れる悪天候の中、長距離狙撃を成功させるのがどれほどに困難であることか。
平然とそれを成し遂げておきながら、彼はそんなこと毛ほども気にしていないようだった。
ヘッドレスホースマンが、関節の固定を外し自由を取り戻す。
そうして蹄鉄の音も高らかに、山肌を駆けだしていったのであった。
◆
屋外から轟いてきた爆発音は、警戒状態にあったならず者たちに大きな混乱をもたらしていた。
「爆発だぁ!? ちくしょうでかいぞ、銃鉄兵だな!」
「これが
そうして罵声をあげるならず者たちの間を、コリー・アイザックスが走り出す。
「てめぇら、ぼさっとすんな! 迎え撃つぞ! 鉄騎手は全員ついてこい! 半数はこっちを手伝え、残りは砦の掃除だ!!」
「お、おうっ!」
外へと向かうコリーに続いて、ならず者たちは砂風の中へと飛び出す。
「銃鉄兵が動き出している! 迎撃してんのか!?」
「くそっ、二体も殺られてやがる!?」
中庭は、惨憺たる有様となっていた。破壊され倒れ伏した巨体が蒸気を噴き上げ、動けるものは城壁の陰で戸惑っている。
主である人間が明確な指示を与えてやらねば、銃鉄兵は真価を発揮しえない。
「敵はぁどこだ……! 近くにはいねぇのか!」
コリーは腕をかざして吹きすさぶ砂風を避け、目つきを険しくする。
最初の銃声のあと、撃ちあいにはならなかった。近くに銃鉄兵がいるのならば、すでに反撃が始まっていてもおかしくはない。
そのため彼は、遠距離からの攻撃であることを想定する。
「こんな砂風のなかを……! これまでみてぇな、雑魚とは違げぇ!」
居場所も不明な敵が、今もどこからか彼らを狙っている。それに気づいた瞬間、戦慄が彼の背を這いあがった。
その頃、砦の中に残った者たちの所には、アントンとビルがやってきていた。
強盗団のボスを前にして、浮足立っていたならず者たちは落ち着きを取り戻す。
「コリーは……外か。賞金稼ぎめ、砂風の日を狙いやがるたぁな」
「親父、気をつけろ。こいつは今までのよりもはるかに巧妙だ」
「わかってる。あちこちから攻めてくるたぁ、規模もでかいかもしれん」
アントンは、ただでさえ厳つい顔つきをさらに険しくしていた。
殺気立った熊のような唸りを聞けば、味方であるはずのならず者たちすら恐れ戦くほどだ。
「ビル、お前はコリーの手綱を握っておけ。あいつにゃ荷が重い」
ビルは頷き、問い返す。
「親父はどうするんだ」
「こちらを掃除したら、合流する。それに、だ」
アントンは、熊が威嚇しているかのような笑みを浮かべた。
「向こうが銃鉄兵で攻めてきたんだ。ここはひとつ我らが客人にも、一働きしてもらわねぇとな」
◆
ヴィンセントはパチりと懐中時計の蓋を閉じ、周囲に耳を澄ます。
クレーンによる銃撃の音が轟いてから、ならず者たちの罵声と足音は徐々に少なくなっていた。代わりに、外からは巨大なものが動く音が響いてくる。
「銃鉄兵が動き出したな。おそらく、賊の大半はそちらに向かっているだろう」
「だといいがねぇ。で、旦那。ここからの方針は?」
「砦に残った強盗を、出会う端から片付ける。もしもこちらに
「ヒュウ、素敵だね」
こそこそするのはもう終わり。ハリーは肩をすくめ、銃を掲げて見せた。
「よし、いくぞ」
ヴィンセントは頷きを残して扉を開く。彼が先を、ハリーが後ろを警戒しながら進む。
そうして、最初の曲がり角をこえようとした時。行く先に、ばったりとならず者どもが顔を出した。
双方ともに予想外の、突然の遭遇。
ならず者の顔が罵声の形に変化をはじめ。同時に、ヴィンセントはためらいなく引き金を引いていた。
銃口が唱煙を吐き出し、それを突き抜けて銃弾が飛ぶ。金属のつぶてがならず者の腹を食い破り、彼はもんどりうって倒れていった。
銃声に驚いたハリーが振り返り銃を構えるより前に、ヴィンセントはさらに
重なるように銃声が響くと同時、短い悲鳴を残してならず者どもがくずおれた。
「はずれ、雑魚ばかりだな」
一瞬のうちに、その場に立っているのはヴィンセントとハリーだけになっていた。ならず者どもは、結局一度も引き金を引いていない。
ヴィンセントは周囲を見回し、後続がいないことを確認すると素早く弾丸を装填する。
「ううむ。旦那、こりゃ俺の出番はあるかい?」
「あるさ。撃ち合ってしまった以上、これからは忙しくなる」
「そいつは嬉しいねぇ。涙が出そうだよ」
銃声は砦中に響いたことだろう。それを捨て置くほど、銀行強盗も気楽ではあるまい。
ならば遠慮は無用とばかりに、彼らは走り出したのだった。
◆
「おい、撃ち合いが始まっちまったぞ!」
「ちくしょう、倒してくれよ……」
砦の中を銃声が駆け巡る。金庫を守っていたならず者どもは、物陰に潜みながら首を巡らせていた。
彼らは部屋の入り口を机で塞ぎ、簡易な障害として篭城の構えをとっている。彼らの役割は、大切な奪った金を守ること。そのためにここを動くことはできない。
そのため多数の銃に銃弾もたらふく置かれ、防備は万全であった。もしも見慣れぬ何者かが入ってくれば、即座に蜂の巣にする構えだ。
その時である。
廊下から、カツカツと足音が聞こえてきた。誰かがこの場所を目指して歩いてくる。しかも、足音はたったひとつ。
「おい、そこにいるのは誰だ! 名乗らねぇと、撃つぜ!」
不審な状況だった。彼らは侵入者に備えて警戒している。そんなさなかに、一人で歩き回る必要があるのか。
ならず者どもが、入口へと向けて銃を構えた。引き金に指をかけ、ちらりとでも見えれば即座に撃てるよう備える。
答えはない。だが、代わりに何かが部屋の中へと投げ入れられた。
緊張を含む視線が集中する。カツッ、と硬質な音を立てて転がったそれは、
「な、何のつもりだ……?」
いきなり金を投げ入れる、その意図を掴みかねたならず者どもが、首をかしげる。
彼らは知らない。淡い光をまとった硬貨が、何を引き起こすのかを。それを投げ込んだ者が、何を仕込んだのかを――。
光の軌跡を残して床に当たった鉄貨は、その瞬間に自らを代償として魔術反応を引き起こした。
バリケードの内側に、強烈な衝撃が巻き起こる。鉄貨は詠唱済みの
まったく予期していなかったならず者どもは、身を守る暇もなく爆風に巻き込まれた。悲鳴ごと吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
積み上げてバリケードにしていた家具類も粉々になり、部屋の内装が実にシンプルなものになった。
呻く声もなく静かになった部屋に、一人の男が入ってくる。
カツカツと足音を鳴らし、荒れ果てた部屋を踏みしめた。その足元には一匹の猫が続き、周囲を歩き回っている。
一人と一匹は、部屋の奥にある扉の前へとやってきた。
砦のなかでも重要なものを保管しておくための倉庫である。その扉は頑丈な金属製で、さきほどの爆発を浴びても小動ともしていなかった。
「さて、どう開けたものかな」
男がひとりごちていると、足元の猫がぴくりと首を上げる。直後に勢いよく振り返り、鋭い鳴き声を上げた。
男の反応は、素早かった。外套をひるがえして振り向くや、銃を抜いて入口へと向ける。
その先には、同じように銃を向けたヴィンセントとハリーが、いた。
互いに銃を向け合い動きを止める。
「お前が、先客か。ずいぶんと手間をかけてくれたね」
ヴィンセントの問いかけに、男は無言をもって答えた。目深に被った帽子に遮られ、男の表情は判然としない。
「だろうねぇ。こいつはひどい有様だ」
ハリーが口笛を鳴らす。
彼らが問答無用で撃たなかったのは、この部屋の状況を見たからである。
部屋の端には、吹き飛ばされたならず者どもが折り重なっている。明らかに何か、強烈な衝撃を受けた跡だった。
このタイミングでならず者同士の仲間割れがあったと考えるのも、少々不自然であり。
そうなると残る答えはひとつ、この男が先客――おそらくは、
考えている間も、互いに銃を向け合い僅かも逸らさない。
確かにならず者どもを倒していたとはいえ、味方である保証など何もないからだ。
「……うん? その声。お前、ヴィンセントじゃないか?」
そうして緊張高まる中、ヴィンセントは突然名前を呼ばれて眉を傾げた。
疑問に思わず銃口がそれるのを見て、男はゆっくりと帽子を降ろす。そこに現れた顔を見て、ヴィンセントの表情が今度こそ驚きに染まった。
「なっ。まさか……ジョン・ダーレル! 君なのか!?」
「やはりか。これは懐かしい顔だな」
そうして男――いや、
ヴィンセントは苦々しげであったが、やはり銃をしまった。すでに戦う気は失われている。
「ジョン、こんなところで何をしているんだ。もしやと思うが、銀行強盗の一味になったのかい?」
「それこそまさかだな。私は賞金稼ぎだ、狙いは
「ああうん、そうだろうね」
当然とばかりに胸を張る彼女に、彼は溜息をもらす。
前の仕事でも人一倍報酬に執着した上に、とんでもない荒業を繰り出した彼女である。愚問としかいいようがなかった。
「君が先客だとして、もしかして一人なのかい?」
「ふうむ? 私以外にも侵入者がいるとは、寡聞にして知らなかったな」
ヴィンセントは、もうとめどなく呆れ果てた。
「なんてことだ。というか君はもしかして、一人で銀行強盗団を片付けるつもりだったのか」
「もちろんだ。報酬は私のものだ」
そういえば、こんな奴だった。
しかしなんと無謀なことか。ヴィンセントたちとて少数精鋭とはいえ、それなりに仲間を集めて乗り込んできたというのに。
しかも単身であるにもかかわらず、銀行強盗団を壊滅させるつもりだったというのだから、いっそ驚嘆すべきクソ度胸であった。
彼は頭を抱えそうになるが、状況を考えてなんとか堪えることに成功する。
「で、旦那。こいつは敵じゃねぇってことで、いいのかねぇ?」
その隣で、ハリーはまだ油断なく銃を構えていた。
話しぶりからヴィンセントと旧知のようであるが、ハリーにとってはそうではない。
さすがに銃口は逸らしているものの、妙な動きを見たら即座に撃てる姿勢である。
気付いたヴィンセントは、手を上げて射線を遮った。それから、アレクサンドラに向きなおって。
「ジョン、ここはひとつ手を組まないか。一度は仕事を共にしたんだ、いまさら銃を向けあうのも気が引ける」
アレクサンドラは、低く笑って帽子をかぶり直した。
「相変わらずお人好しなことだな、ヴィンセント。だがまぁいいだろう。私も敵は少ないほうがいいと思っている」
「ほぅ。旦那はやっぱり、前からこんな感じなのかい。ま、そういうことならよろしく」
彼女がにやりと笑って手を差し出し、ヴィンセントがしぶしぶと握り返した。それをみたハリーが、ようやく構えを解く。
「……しかし人数が増えるということは、賞金を分ける必要が出てくるな」
そこに思い至ったアレクサンドラが、途端に眉根を寄せた。横で聞いていたハリーが、呆れた表情を浮かべる。
「はぁん? あんたぁ旦那とは大違いだな。んな心配しなくとも、獲物なんて山ほどいるだろう?」
「いいや。独り占めと、分けるのでは大きな差がある」
「ちなみに僕たちの仲間は、外にもう一人いるね」
「なんだと……!? さらに減るじゃないか。ううむ、これは皆殺しにしてから
彼女はぶつぶつと物騒なことをつぶやきながら、魔術で吹き飛ばしたならず者どもを蹴飛ばして顔を確認して回った。
ついでにその懐のものを失敬している。
「……安い。やはり、ここに居るのも雑魚ばかりだ」
「すると首領格は、銃鉄兵とともにいるのか。いよいよ戦いは避け得なくなってきたね」
「お前のシューティングスターは、今どこに?」
「すぐ近くだ。それに彼の銃鉄兵と、離れたところにもう一人のがある」
共闘を決めたところで、彼らは顔を突き合わせて後の戦い方を話し合う。
多数の銃鉄兵を相手にするのは、できれば避けたいところ。その点では全員の思惑が一致している。
「敵の銃鉄兵は多いぜぇ。いくら俺のスクトゥムだって、正面に立つなんてぇ到底無理だ」
「誰かさんのおかげで手順が狂ったしな。何とか、数を相手にしないやり方を考えないといけない」
悩めども、良い方法などすぐに思い浮かぶものではない――が、最初から一人で全てを相手にするつもりだったアレクサンドラは別である。
「なるほど。ならば私の切り札の出番だな」
「いちおう、聞くけれど。何をするつもりだい」
嫌な予感を覚えて、ヴィンセントは問いかける。この流れには、ものすごく聞き覚えがあった。
そう、おそらく彼女は続けてこういうのだろう。
「奴らの銃鉄兵を失敬するのさ。なあに、どうせ拾いものだ、景気よく吹っ飛ばそうじゃないか」
やはりか。こういう奴だった、彼は頼もしさのあまり、ついに頭を抱えたのであった。
◆
「なんと騒々しいことだ。お前の自慢の手下どもは、とんだ役立たずぞろいだな」
同刻、砦の一角にて。アントンはその機嫌の悪い熊じみた顔つきを、さらに凶暴に変じていた。
その原因は、彼の目の前にいる。
アントンの迫力を毛ほども気にせず、悠然と猟犬を撫でる小太りの男。ライナス卿である。
普段のアントンならば、すでに相手の頭をカチ割って野鳥の餌にしているだろう。しかし今回ばかりは、ギシギシと歯を鳴らしながら耐えていた。
銃鉄兵の駆動音に交じって、砦のどこかから爆発の音が響いてくる。彼の手下は、どうやらしくじったようだからだ。
「これだから賤民どもは使えん。だがこのまま舐められたままとはいかない。そうなのだろう? アントン・アイザックス」
「チッ……まったくおっしゃるとおりで、
「いいだろう。私も不遜の輩を野放しにするつもりはない。再び、私自ら手を下してやろうとも」
ライナス卿は、腹を揺らしながら部屋を後にする。その足元に猟犬がぴたりと寄り添った。
アントンは黙ってその後を追う。
彼らが向かった先は、砦の中にある銃鉄兵の格納庫だった。かつては整備場を兼ねていたと思しき空間は、いまはたった一機の銃鉄兵によって占拠されている。
それは、あまりにも古臭い外見をしていた。まるで甲冑のような曲面主体の外観に、まったく実用性のない
どこの骨董品かという様相だが、その腰部には後付されたと思われるガンフォールドがあり、いちおうは現役であることを示していた。
猟犬が、主の足元から走り出す。それは軽快に銃鉄兵の上へと駆けあがると、吸い込まれるように頭部の中へと消えた。
「フン、紛い物どもが。真なる銃鉄兵の姿、その目に焼き付けてくれよう」
唸りを増してゆく銃鉄兵を見上げ、ライナス卿はたるんだ頬を笑みの形にゆがめたのだった。
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