第2話

 「オーランド王国行きの船かい……悪いねぇ、うちの船は交易船なんでね、一般の人は乗せられないんだよ、済まないねお嬢ちゃん」


 そう答えた船頭の男は話し掛けて来た少女を見る。


 外套を纏いフードを深く被る少女の表情はよく伺えなかったが、その華奢な体躯とまだ若い女の声がこの外套の女がまだ若い少女であることを示していた。


 商船の船頭を務める男にとっては港に停泊中にこの様な交渉を持ち掛けられる事は実は珍しい事でもない……危険な陸路を避けて比較的安全な海路で旅を続けようと考える旅人は少なくないからだ。


 そしてそうした旅人を乗せる事で得られる金が船員たちのちょっとした小遣いになっている事も事実なのだが、敢えて船頭の男はこの少女からの頼みを断っていた。


 その理由は簡単だ。


 埃塗れの汚い外套を身に纏うこの少女が金目の物を持っているとは到底思えなかったし、何より少女が腰と背中に下げている二振りの剣が強烈な違和感を放っていた。

 明らかに訳ありであろうこの少女を船に乗せる危険性と得られる報酬を秤に掛ければ自ずと答えは出てしまう。


 「そうですか……お手数をお掛けしました」


 済まないね、と立ち去る男をエレナは肩を落として見送るしかなかった。


 このベナンの街に着てから今日で四日……北部域の大国であるオーランド王国に向かう船自体は少なくはないのだが、エレナを乗せてくれる船は此処まで一隻も無かった。

 今の男はまだ話を聞いてくれた方である……大半の者はエレナの話しすらまともに取り合おうとはせず、相手にすらされない事が殆どであったのだ。


 最もその理由はエレナ自身判ってはいたのだが。


 ――――やっぱり金が無いと始まらないな。


 腰に吊るした皮袋を開き中身を確認してはぁ、とエレナは深い溜息を付く。

 皮袋の中には数枚の銀貨と銅貨が顔を覗かせていた。


 当分この街に滞在するには十分な額はある……しかし船に乗せて貰うために支払わなければならぬ、女将から聞いた金貨一枚程度という相場にはまったく足りていない。


 ならばどう金を稼ぐか……とエレナは頭を悩ませる。

 それが当面の大きな問題であった。


 エレナが危険を冒して傭兵団を渡り歩いていたのにはそれ相応の理由がある。


 致命的に体力と持久力に欠ける今のこの身体で、魔物に単独で挑むリスクを回避するという保険的な意味合いは確かにあったのだがそれが一番の理由では無い。


 一番の理由は誰もエレナを雇ってくれないという、単純だがそれだけに最も深刻な問題である。


 今のこの身体には傭兵に必要なものが決定的に欠けている……女であるという事は別にしても華奢で頼りなげなこの少女に依頼するような物好きなどいようはずがないのだ。


 その点においてある程度の人数を擁する傭兵団なら多少の余裕があるところも多く、興味本位で仲間に加えてくれるところもあった……入ってしまえば後はその中で実力を示せば良かったのだ。


 この際多少の危険を覚悟で単独で魔物を狩ろうか、と悩むエレナの前にちょっとした人だかりが出来ていた……通りに立てられた立て札に人が集まっている。


 人垣が高すぎて小柄なエレナには立て札の内容が見えず、好奇心にかられたエレナはその人の輪を潜る様にすり抜けて立て札の前へと出る。


 交易船の護衛を求む。複数名。報酬金貨三枚。実力試験、面接有り。受付はノルト邸にて。


 立て札にはそう書かれていた。


 一般的に傭兵を雇う場合の大半が寄合所というギルドに手数料を払い依頼する形を取る。

 そして寄合所からの依頼という形で傭兵たちがそれを受けるのだが、其処には依頼人と傭兵との仲介役を寄合所が果たす事で、両者の間で最も発生しやすい金銭トラブルを回避できるという大きなメリットがあった。


 依頼人は寄合所に手数料を払う事にはなるが報酬だけを騙し取られるというリスクを無くし、傭兵側も報酬が払われないという危険を回避できる。


 だが如何しても寄合所を通すと時間が掛かかる為、性急に人を集めたい場合はこうして依頼人が自ら立て札を立て傭兵を募集する場合もあるのだ。


 そしてこの手の依頼はエレナにとってまさに渡りに船である。


 この際オーランド王国まで行かずとも北の方面にさえ向かう船であるならそれだけでいい……ただで船に乗れる上に報酬まで貰えるというのだから。


 エレナは直ぐに踵を返すと逗留している宿屋へと向かう。

 この手の募集は期限ではなく人員が埋まった時点で募集が終わってしまう……その為に急ぐ必要があったのだ。


 このまま向かいたいところではあったのだが、流石にこの格好では門前払いされる可能性が高い。


 エレナは我が身を見て苦笑しながら宿屋へと歩みを急がせた。




            ▼▼▼▼



 立て札に書かれていたノルンという人物のことは宿屋の主人に聞いただけで直ぐに分かった。街一番の交易商であるノルン・ガラートの名はこの街では有名であるようでその屋敷の場所まで親切に教えてくれたのだ。


 だが急ぎ駆けつけたノルン邸の鉄の門はエレナをまるで拒むかのように固く閉ざされていた。

 あの立て札が何時から立てられていたかは分からない……少なくとも自分が港に向かう前には確実に無かった筈なのだ。

 長くても一刻は経っていなかったはずなのだが……と落胆に暮れ、呆然と閉じられた門をエレナは眺める。


 「お嬢様、坊ちゃんのお友達の方でしょうか?」


 門の外で佇んでいるエレナに気づき、門番らしき男が声を掛けてきた。


 今のエレナは着飾っているわけではないがきちんと身なりを整え、帯剣していた長剣も皮袋に入れ肩に担いでいる。

 着ている服は安物とはいえその容貌である……今のエレナはただの町娘などにはとても見えないであろうし、どこかの貴族の令嬢といわれても誰も疑う者などいないだろう。


 門番の男も不審者に声を掛けているという感じではない。


 「ええっ……と、あの……」


 そこでエレナはたと考える。


 恐らくこの様子だと募集は締め切った可能性が高い……普通に話しても追い返されるのが関の山だろう、と。


 そう思い至った刹那、天恵のようにある考えが思い浮かぶ。


 「はい……友人です……」


 さり気無く手を前に組みなるべく淑やかに、静かに声を絞り出す。


 騎士時代、多くの淑女たちと知己を得ていた経験からエレナは彼女たちの所作をとっさに真似る。


 「そうでしたか、いや失礼しました」


 門番の男は何の疑いも持たずにエレナの為に門を開けた。


 「しかし坊ちゃんもこんな美しいお嬢様が来られるなら一言言っておいて貰わないと困りますね。本当にお待たせしてすみませんでした。」


 済まなさそうに頭を下げる男に、いいえ、とエレナは首を振る。


 表情には出すまいと努力する余り無意識に目が泳いでしまいそうになり、それを悟られまいとついつい伏せ目がちになってしまうエレナ。


 敷地に入るという第一段階は成功しはしたが本番はこれからなのだ……上手く話しを進めて屋敷の主であるノルンにさえ会えれば、直接会って自分の技量を見せれば雇って貰える自信はあった。


 不本意ではあったがこの際利用出来るものは全て利用する……この自分の容姿すらもだ。


 そう心に決めるエレナではあったが、やはり少女のふりをするのは未だに慣れぬもので知らず羞恥にその頬に朱がさしている。

 本来慎重な性格であるエレナにしては随分と強引な手法ではあったが、それだけ追い詰められてもいたのだ。

 残された時間は決して長くは無い……だというのに今だ目指すオーランド王国は遥か遠く、その状況が焦りとなってエレナに圧し掛かっていた。


 「失礼ですがお嬢様、お名前をお聞きしても?」


 「申し遅れました、エレナ・ロゼと申します」


 「ではエレナ様、屋敷までご案内いたしますので私に着いて来てください」


 男に促されエレナがその後に続く。


 暫く歩くと目の前に大きな屋敷が見えてきた。

 貴族の屋敷といわれても疑わず信じてしまいそうな立派な屋敷の外観に一瞬目を奪われていたエレナであったが屋敷の中庭にいる幾人かの男たちの存在に気づき視線を向ける。


 「あの……あちらの方々は?」


 エレナの眼差しを追うように男たちに目を向ける門番の男。


 「ああ……旦那様が新たに雇われた傭兵の方々です。大丈夫、怖いことなどありませんよ」


 エレナが傭兵たちの存在に怯えたと勘違いした門番の男は優しく笑い掛けてきた。

 その言葉にやっぱりか……と内心動揺しながらも笑みを返す。

 不意にエレナと視線が合ってしまった男は照れくさそうに視線を直ぐ外してしまった。


 「では家の者を呼んできますので、扉の前でお待ち下さい」


 エレナに背を向けたままそれだけ告げると男は屋敷の中へと消えていってしまった為、一人残されたエレナは言われた通り扉の前で待つ。


 「ここからだ、坊ちゃんというのがどんな奴かは知らないが、上手く誤魔化して父親に会わなければ」


 と、内心決意を新たにするエレナ。


 この先の展開を脳裏で想像し幾度と無く繰り返しては見るが、正直上手くいく図がなかなか浮かばない……元々計画性など皆無な衝動的な行動であったのだから当たり前といえば当たり前の話ではある。


 「まぁ最悪、好奇心からの悪戯でした……と泣き真似でもして謝れば、少女の姿の俺を警備隊に引き渡すようなことはしないだろう」


 と、最終的には開き直りに近い心境にまで至る。


 当たって砕けろ、などとは些か決意と呼ぶには余りにも情けないが、それがエレナの偽らざる本心であるのは間違いない。


 緊張するエレナの前の扉が不意に開かれ、目の前に一人の青年が姿を見せる。


 亜麻色の髪をしたその青年は一瞬自分の前に立つエレナに目を奪われた様に固まり――――そして不意にエレナの手を掴む。


 「おいで」


 と、エレナは青年に手を掴まれ屋敷の中へと引き込まれるように入る。


 エレナの手を引いたまま青年は迷うことなく広間を抜け二階への階段を上がっていく。

 突然のこの展開に呆気に取られたエレナは抵抗するのも忘れ思わず青年についていってしまう。

 途中すれ違う屋敷の使用人たちがその二人の姿に好奇な視線を向けていた。

 青年の部屋であろう一室まで連れ込まれ、二人だけになった状況にやっと我に返ったエレナが青年の手を強引に払いのける。


 「なんのつもりだ!!」


 思わず素にかえってしまったエレナを楽しげな表情で眺める青年。


 「酷いな、僕は君の友人なんだろ、ええっと……エレナだったよね」


 自分を見て笑う青年……レイリオ・ガラートの第一印象はエレナにとって最悪のものであった。




              ▼▼▼▼



 

 レイリオの私室にて紅茶を飲む二人。


 促されるままに思わず席についてしまったエレナであったが当然レイリオに対して警戒心を解いている筈もなく紅茶を手にした合間に幾度と無くレイリオの様子を伺う。


 使用人が運んで来た紅茶を飲む自然な一連の所作だけでも、レイリオが高い教養を受けてきたであろうことを十分に伺わせる優雅さを感じさせた。


 ちょっとした立ち振る舞いにもそこはかとない優美さがあり、そんな貴族然とした雰囲気と整った顔立ちが相まって落ち着いた知的な青年という印象を多くの者が抱くのであろう。

 だがそんなレイリオに対するエレナの評価は些か異なり初対面で小馬鹿にされた、と感じていたエレナにとって彼への評価は、


 女受けしそうな優男だな、


 という男の嫉妬とも捉えかねられない些か辛らつな評価となる。


 第一印象でその人間を判断するなど無論論外ではあるのだが、それを差し引いてもエレナがレイリオに抱く感情はお世辞にも良いとは言えなかった。


 「エレナ……だったよね? 君は父上に仕事を貰うために僕の友人になりすましてこの屋敷に来た、という事で大体合ってるのかな?」


 不機嫌そうに頷くエレナ。


 珍しい小動物でも見るかの様に自分を眺めるレイリオの姿に苛立ちを覚えながらもエレナは必死に自制する。


 エレナには我慢せねばならない理由がある。


 本来ならばエレナの行為は立派な不法侵入であり、即警備隊に突き出されたとしても文句などいえない立場にあるにも関わらず、少なくともこうして話を聞いてくれているレイリオに対して感情的な理由で逆切れなど、余りに礼に失する行為であったからだ。


 「君は面白い子だね」


 それはどうも、と答えながらもエレナの表情は冴えない。


 先程からのレイリオの態度はエレナをからかっているという訳ではないのかも知れないが、どうにもその意図を掴みかねた。

 そもそもレイリオにエレナの芝居に付き合う理由が見当たらない上に、部屋にまで連れて来た真意が判らないのだ。


 「そう警戒しないで貰いたいんだけどね、別に取って食べようって訳じゃないんだから」


 そう言われて、はいそうですか、と安心する程エレナも馬鹿では無い。


 寧ろその言葉はレイリオに対する警戒心を強める結果となる。

 少女の身になってからというもの、命の危険は言わずもがなだが、それに貞操の危機という新たな項目が追加されてしまっていたからだ。


 「じゃあ、はっきり聞くけど、お前の目的はなんだ」


 芝居を止めたエレナの男口調にもレイリオは一向に動じた様子を見せない。


 「君の容姿に惹かれたから、という理由では納得して貰えないのかな?」


 「残念だけど無理だね」


 そのエレナの言葉にレイリオは少し残念そうな表情を見せるが、どこまでが本気なのかを計らせないそんな不思議な雰囲気がレイリオにはあり、それを人によっては魅力という言葉に言い換える者もいるかも知れない。


 「ではエレナ、本題といこうじゃないか、まず君の思惑は残念だけど成就することはないよ、例え僕が協力したとしてもね」


 「どうしてそう言い切れるんだ」


 その言葉に少し呆れた様な、それでいて楽しそうな様子を見せるレイリオ。


 「君は本当に父のことを何も知らずに来たんだね……父ノルンが会頭を勤めるガラート商会の顧客は全て南部の豪族たちが占めていてね、必然的にガラート商会の交易船は七都市同盟行き……つまり君が望む北へ向かう船は一隻もないんだよ」


 「――――!!」


 レイリオの言葉にエレナはその場に凍りついた様に固まる。


 これは悪夢なのか、それとも魔女の呪いなのか……とエレナは自分の不運を呪わずにはいられない。

 いや……全ては己の判断の甘さ故という事はエレナ自身気づいてはいる、いるのだが中々その現実を受け止められずにいた。


 傍目からも激しく落ち込んでいるエレナの姿を気の毒に思ったのか、


 「そこでエレナ、君に提案なんだけど」


 とある種、猫なで声に近い、露骨に怪しい声音で囁くレイリオ。


 耳元で囁かれたその内容に信じられない者を見る眼でレイリオをまじまじと見るめるエレナ。


 「冗談なら笑えない、本気ならもっと笑えない」


 「でも悪い話じゃないだろう?」


 「…………」


 そう……レイリオの提案はエレナにとっても悪くない話……いやだからこそ――――。


 「もし俺がその話を信じて提案を受けたとしてあんたが裏切らない保障は?」


 「僕を信じて貰うしかないかな」


 二人の間に流れる沈黙。


 或いはそれは一瞬の時間であったかも知れない……しかし張り詰めた空気はエレナの不敵な笑みによって破られる。


 「その話乗ってもいいよ、けど裏切りの対価はあんたの命だ。その程度の覚悟はあるのだろう?」


 恫喝に近いエレナの言葉に右手を差し出す事で応えるレイリオ。


 差し出されたその手を一瞬迷う素振りを見せながらもエレナの小さな手が握る。


 「交渉成立だね、では早速エレナの腕を見せて貰おうかな、その自信が只の虚勢でした、というつまらない結末は困るよ」


 「では期待に応えるとしようか」




 エレナがレイリオに促されるように赴いたのは屋敷の裏庭。


 中庭程の広さではないが二人の目的を果たすには十分過ぎる広さがあり、静まり返ったその場には二人の以外の人の気配はない。


 簡単な説明と準備を終えたエレナとレイリオは距離を取り向かい合う。


 レイリオの手に握られているのは細身のレイピア。

 対峙するエレナの両手の長剣が陽光を反射させ輝く。


 「最初にいっておくけど僕は結構強いと思うよ」


 レイリオの様子に驕ったところは微塵も見られない。

 むしろ淡々と事実を述べている様にすら見えるその態度は自信の現れなのであろうが、それでもエレナの口元に浮かぶ不敵な笑みが崩れることは無かった。


 「ではその自信のほどを見せて貰おうかな」


 そのエレナの声が合図であったかの様に二人が同時に動く。

 開始と同時に微塵の迷いすら見せずレイリオが直線的にエレナとの間合いを詰めた。


 レイリオの得物であるレイピアの特性は刺突。


 魔物には有効とはいえない武器ではあったが人体となると話は異なり、急所を穿つその一撃は致命傷をもたらす程の威力を秘めている。


 エレナの間合いの外から放たれたレイピアによる突きは正確にエレナの喉元に狙いを定めていた……威力、速度ともに申し分の無い殺傷を目的とした突撃。


 「言うだけのことはある」


 自分に迫るレイピアの剣先を冷静な面持ちでエレナは見やる。


 その身のこなし、剣捌きからもレイリオが身につけている技術はとても商人の息子が護身用に学ぶレベルを遥かに超えている。


 ――――僅かに身を捻るだけでそのレイピアの一撃を避けるエレナ。


 そのまま一歩踏み出すことで己の間合いにレイリオを捉え、刹那奔るエレナの剣閃はレイリオのレイピアは半ばから切断しその首筋でピタリと止まる。


 強度は決して高くはないとはいえ、鋼を鍛えて作られたレイピアの刀身を折るのでは無く断ち切ったエレナの技量は常識の範疇を逸脱している。


 開始から数十秒……勝負は拍子抜けする程あっさりと着く。


 レイリオの剣の技量は決して低くはないのだが、これまで数多の死線を超えてきたエレナに言わせればレイリオの剣筋は余りにも素直で基本に忠実であるがゆえにその軌道が読み易い。


 レイピアはその特性から扱いが非常に難しい。


 特に相手の急所を狙う場合は相手との高い駆け引きを必要とし、ただ相手より早く踏み込み突けば良いという訳ではないのだ。


 そうした意味に置いてレイリオには実戦の経験が致命的に足りていなかった。


 冷たい刃の感覚が首筋に当たる。


 だがその感触にレイリオは恐怖を抱いてはいない……何故ならレイリオの瞳はその剣の主たるエレナの姿に釘付けになっていたからだ。


 まるで神話で語られる戦女神の様に戦うこの少女の姿を本当に美しいと思った。


 初めて抱いたその不思議な感覚は、レイリオにとっては戸惑いを覚える程強烈で抑えがたい衝動を伴うものであったが何故か悪い気分では無かった。


 この瞬間からレイリオの中にあったエレナへの関心と興味は、別の感情へと劇的に変化しいく事になる。


 「合格だよ、エレナ」


 「それはどうも」


 剣を引き今度はエレナの方からレイリオに手を差し出す。


 その手をレイリオが握り返した瞬間、本当の意味での二人の契約は成立した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る