【第十話】 裸の×突き合い○付き合い

「こちらがお風呂です。お着替えはご用意しておきますのでごゆっくりしてきてくださいです」

 相変わらずの少し可笑しな日本語で風呂場までマーガレットに案内してもらった想護。

「ありがとうございます。マーガレットさん」

「あの、先ほどから申し上げようと思っていたのですが私は年下でメイドです。ですから畏まった態度でなくてよろしいのです。私は特にまだまだ未熟者ですから至らない部分も多くあります。なのでもっと砕けた感じでよろしいのですが……」

 マーガレットは恐る恐るといったように想護に言う。お客様である想護に意見して怒らせてしまわないか、などを気にしているのだろう。

「えっと気分を悪くさせてしまったのならすみません。初対面の人で尚且つ色々と面倒を見てもらっている人にため口は失礼な気がして敬語になってしまっています」

「え? いえいえ私は健康ですよ? そんなことは気になさらないでくださってかまいませんよ」

「マーガレットさん。今の“気分を悪くさせてしまった”っていうのは、嫌な思いをさせてしまったという意味ですよ」

 日本語が完璧ではないマーガレットは気分を悪くが体調の話に思ったようだ。

「そ、そうなんですね」

 マーガレットは恥ずかしそうに顔を赤くして俯いた。

「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。マーガレットさんは凄く日本語が上手ですし。……えっと、それじゃあマーガレットさんに言われたようにもう少し砕けた感じでしゃべりますね。すぐには難しいので徐々にで良いですか?」

 これ以上このちょっとした勘違いの話を頑張ってフォローし続けると逆にマーガレットが恥ずかしいと思って話題を変えることにした想護。マーガレットが言ったようにこれからも一緒に行動するらしいので仲良くなるためにも敬語を直していこうと思った想護はマーガレットに言うが、この調子ではまだまだ敬語が続きそうだ。

「無理はしなくていいのです。あの、できればこれからも私の日本語が間違っていたら教えて頂けると嬉しいのですが」

 マーガレットは恥ずかしそうに言うが、想護は感心していた。自分の間違いを正してくれ、というのはなかなか出来ることではない。親切心で教えてあげたら逆切れされたこともある人は多いのではないか? ついでに作者である私は友達に間違いを教えたら好きな人の前だったために、後で二人きりになったときに無言で殴られた。解せぬ。

「マーガレットさんが望むならもちろん構いませんよ」

 話が終わったのでマーガレットは想護の着替えを用意しに行き、想護は案内された風呂に入っていった。



 お風呂は大きく日本のホテルなどでもありそうなロッカーのような物があった。

 ここで問題。異世界のロッカーの使い方あなたはわかりますか?

――あれ? これどうすれば良いのかな?

 もちろん想護も使い方がわからず固まった。

「これは大切様ではありませんか」

 そんなときに想護の後ろから話しかけてきたのは

「あ、こんにちはナズナさん」

 いつの間にか風呂に来ていた騎士団総団長のヘリオロ・ナズナだった。

「呆然としていましたがどうかしましたか?」

「えっと、お風呂場まで案内してもらったのですが使い方がわからなくって」

「あぁ、なるほど。案内してくれた人が教えておかなかったのですね。後で言い聞かせておきますので、誰だかわかりますか?」

 確かに異世界に来てわからない想護に何も言わなかった案内人には多かれ少なかれ非はあるのが叱っておくと言うヘリオロを想護は慌てて止めた。

「叱らないで上げてください。マーガレットさんに案内してもらったのですが、凄く緊張していましたし、聞かなかったこちらにも非がありますから」

「なるほど、彼女ですか。しかし、ちゃんと失敗を注意しておかないと彼女のためにもならないのですよ」

「確かにナズナさんの言う通りですが、今回は多めに見てあげてください」

「わかりました。大切様がそう仰るなら今回だけは聞かなかったことにしますね。それより大切様、私に敬語をお使いになる必要はありませんよ。こちらが無理やり呼んでしまった客人である大切様方の方が、高々たかだか一介いっかいの騎士風情である私よりも身分が上ですから」

 騎士団総団長のヘリオロよりも身分が上と聞いて想護は目を丸くした。

「そうなんですか? マーガレットさんにも敬語を使わなくて良いと言われたのですが、まさかナズナさんになでそう言われるとは思ってませんでしたよ」

「客人である大切様の方が上なのは当たり前ですよ。それにまだ敬語ですし」

 意外そうに想護が言えば苦笑しつつもヘリオロが返す。

「そうは言われましても年上の方や初めて会った方などに敬語を使うのは癖みたいなものなので直すのは難しいですね」

「なるほど、昨日他の皆様と会話した時も似たようなことを言われましたが、やはり大切様の同じなんですね。絶対に敬語を使ってはいけない訳ではないので使いやすい言葉で結構ですが最低限マーガレットには敬語を使わないで上げてください」

「敬語をやめる努力はしますが、なぜですか?」

 無理せず使いやすい言葉を使って良いとヘリオロが言ったのにマーガレットには敬語を使ってはいけないと言われどうしてなのか不思議に思い質問した。

「今の彼女、マーガレットは大切様の専属メイドとなっています。そうでなくてもメイドはかなり身分の低いものとされています。あまりこの国では気になさりませんが、そんな身分の低いメイドが客人に敬語を使わせているというのは周囲の人からは良く見られません。ですから彼女には敬語を使わないで上げてください。他のメイドにも同様に基本的には敬語を使用するのは控えて頂きたい」

 身分の高いメイドも例外的にいるんですがね、基本的には敬語は無しでお願いしますね、とヘリオロが付け足した。

「すみません長くしゃべってしまって、では風呂に入りますか」

 ヘリオロにロッカーの使い方や風呂のシャワーの使い方を習いながら身体を洗いこの世界にもあった湯船に入った想護とヘリオロであった。



「ナズナさん。色々教えてくださってありがとうございました」

 銭湯にありそうな大きな湯船に浸かりながら一緒に浸かっているヘリオロに軽く頭を下げながらお礼を言う。

「いえいえ構いませんよ。敬語も結構なのですが、まぁその話は置いといてっと。大切様に言っておかなければならないことがあります」

 ヘリオロは想護の感謝を受けた後、真剣な顔で想護に言った。

「えっとナズナさん。ナズナさんこそ敬語をやめてくださって良いのですが。それと大切おおぎりは妹もいるので僕のことは想護で結構ですよ。様もないほうが良いです。なんか年上の人に敬語で話されたり、様が付いていると落ち着かなくて」

 想護は先ほどから気になっていたことヘリオロに伝えた。

「あまり良いことではありませんが落ち着かないのなら、変更するしかないな。こんな感じで良いか想護? ふぅー。実は敬語とかって疲れるし面倒だから嫌いなんだよ。あっ、俺が今言ったことは内緒な」

 まるでそんなことは出来ないと言うような感じで話始めたヘリオロだったが、すぐに口調は崩れて本音を吐露した。それと同じように想護への態度もかなり変わっていた。

 あまりの代わり映えに目を丸くして驚く想護だが気を遣われている気もしなく、騎士団総団長であっても身近に感じるために自分も敬語を少し崩せそうだなと思ったのであった。

「話す相手がいませんよ。それで話とは何ですか?」

 想護も幾分かヘリオロへの態度を軟化させていた。

「やっぱ、堅苦しいのは嫌いだ。で話なんだが、その前に」

 想護の態度が良くなったことを感じたヘリオロはいたずらっ子のような笑みを見せたが、すぐに真剣な表情を浮かべた。

「――――」

 ヘリオロが何かを呟いた瞬間に想護たちの周囲の空気が一変したことを想護は感じ取った。

「何をしたんですか?」

「っ! まさか今のを気が付くとはな。何たいしたことはしていないさ。今から話す内容を誰にも聞かれないように防音の壁を俺と想護の周りに作ったんだが、いくら隣にいると言っても隠密性を高めて作ったのに法術ほうじゅつについて何も知らないにも関わらず気が付くとは驚きだな」

――それにブリスチーノの話では力孔が閉じていて力量が低かったと聞いていたが、力孔は開いているだろうな、俺が今感じている想護の魔力量は想護の年齢の平均値よりはかなり多そうなんだがな。聞いていた話とは別人だな。

 ヘリオロは想護が気が付いたこと、また聞いていた話とかけ離れた印象の想護に驚き、声に出しているが頭のなかでは、『神の加護』に順応したのか? それとも昨日と今日で何か変わったことでもあるのか? と考えを巡らせていた。

「えっと、どうかしましたか?」

 考えている間想護の顔を凝視していたので不審に思った想護に話しかけられてヘリオロは考えを中断して、周りに聞こえないようにしたとはいえ誰かが来たら怪しまれるので想護に言おうとしていた話を話し始めるのだった。

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