【第八話】 チートやチート、チーターやn(自重)

「遅れて申し訳ございません」

 そう言って優莉が広間に入ってきた。

「あら、お兄さんもいらしていたのですね。お身体の調子は大丈夫ですか?」

「うん。もう大丈夫だよ。それより丹敷さんの方こそ何かあったらしいけど大丈夫だった?」

 先ほど妹の華久良からは優莉は『神の加護』の影響で何かあったということしか聞いていないので心配に思っていた想護はどうだったのか優莉に聞いた。

「はい。特に問題はありませんでした。魔力が極端に多いからだと思われるらしいですよ」

 しかし、返ってきたのは理由だけで何が起きたのかも知らない想護にはわからず首をかしげるしかなかった。

「あれ? 私に何が起こったか詳しく聞いてないのですか?」

「うん。『神の加護』で凄いことになったって華久良が言っていただけだからね」

「華久良ちゃんらしいですね」

 優莉は首をかしげる想護を見て理解していないようなので知っているのかを確認すれば華久良から詳しくは教えてくれていないと言われてしまい親友の華久良らしさに苦笑した。

「では、昨日私に起こったことをお話ししますね」

 そういって優莉は昨日起きたことを想護に説明していくのだった。



 姫様に魔王救助に行くことを伝え、自己紹介を行った後、メイド長ブリスチーノから想護の体調不良を聞いた後、想護を除いた三年K組の生徒たちは姫様とブリスチーノに連れられて命証を作るるために想護が先ほどまでいた部屋に来ていた。来る途中に命証にある特殊能力や偉勲について想護と同じように説明を受けていた。

「あちらの台にお一人ずつお乗りください。皆様の能力の計測を行い、命証の作成を行います」

 集や華久良などクラスメイトたちがわりばんこに台に乗り命証の作成を行い全員分の命証作成が終わった。

「それでは今お渡ししたカードの様なものに魔力を通してほしいのですが、やり方の説明が難しいのですが、力を籠める感じでやって頂ければ良いです。それでおそらく出来るはずですので」

 ブリスチーノが言えば集たちは言われた通りに力を籠める感じにして魔力を通した。

 しかし、ここで問題が発生した。優莉を中心に凄い風が発生したのだ。

「丹敷様! 丹敷様すぐに力を抜くようにしてください」

 ブリスチーノの焦った声が部屋の中に響く。

 優莉が力を抜くと風がんだ。後から聞いた話では優莉を中心にして発生した風は風ではなく膨大な魔力の動たときに起きる余波の様なものだったらしい。

「すみませんが丹敷様の命証を拝見してよろしいですか?」

 ブリスチーノが魔力の風が止んだところで優莉に近ずく。どうぞと優莉は命証を渡した。


《基本情報》

姓名:丹敷 優莉

年齢:15

種族:異世界人族(――――)

特記:――――


《基礎能力》

攻力:32

防力:29

速力:28

力量:8235


《特殊能力》

『感情特性』


《偉勲》

『神の加護』



「八千!? アミラ様見てください」

「ブリスチーノあまり人の命証を見るのは良くないことですよ」

「わかっておりますですが『神の加護』があっても異常です」

「……確かに凄いですね。それに特殊能力保持者ですか」

 ブリスチーノは優莉の命証を見たとたんに驚愕したような表情をし、アミラ様に命証を見せる。アミラ様も命証を見ると驚いたようだ。その後優莉に命証を返すと、

「失礼しました。皆さまの命証に《基本情報》より下の欄は記載されていますか? まだでしたら、もう一度魔力を通すようにしてください。ゆっくりとお願いしますね」

 集たちは今起きたことに意識が向いていたために自分たちの命証を確認していなかった。そのためアミラ姫に言われて初めて自分の命証を見た。

 全員の命証が書かれていることを確認したところでアミラ姫が命証の説明を始めた。

「今皆様が手に持っているカードが命証と言います。これはあなた方を証明するものです。そのために無くさないようにしてください。魔力を通すと測定されたときのあなた方の個人の能力が記載されます。命証の一つ一つが本人専用ですので他の人が魔力を通しても記載されません。それから、自分の能力を表示した状態のまま他の人に見せるのはあまりしないでください危険ですから。証明に使うときは魔力を通さずに人に見せてください。また、本人以外が命証を持つと文字の色が黒ではなく赤に変わるので、本人の証明に使えます。それでは何か書いてある内容以外で質問はありますか?」

「魔力を通して記載された部分はいつになったら消えるんですか?」

「はい、その部分を消すには「終了フィーノ」と命証に向かって詠唱うか、数分経過したら勝手に消えます。他には何かありますか?」

 アミラ姫が聞くが誰も手を上げないので命証についての説明はこれで終わった。



「へぇそうだったんだ」

 想護は優莉の話を聞いてる途中に声を上げた。

「あれ? 聞いてなかったのですか?」

「うん。体調も悪かったから説明は飛ばして部屋に案内してくれたんだと思うよ?」

「なるほど」

「話の腰を折ってごめんね。続けてもらっても良い?」

 わかりました。と優莉は話を続けた。



「人に見せてはいけないと言ったのですが、一度見せてもらえませんか? 先ほど丹敷様の命証を拝見させて頂き、他の皆様がどのようなことになっているのかを確認したいのですが、無理にとは言いませんし他言しないと誓います」

 アミラ姫は他人の命証を見るのは良くないことと知っているが、それでも普通ではない数値を見てしまったために他の人がどのようになっているのか、本当にこの人たちを魔物のいる国の外に活かせても大丈夫なのかが気になっているために確認をしたかったのだ。こちらの都合で勝手に呼び出してしまったのに先ほどのような基礎能力のバランスでは危険なことをアミラは知っている。如何いかに魔力が多くても防力が普通と変わりないのでは危険すぎて行かせられないと思っていた。

「別に俺は構いませんよ?」

 と集は言い、アミラ姫に自分の命証を渡した。

「ありがとうございます」

 アミラ姫は集から命証を渡され集の命証を見た。そして先ほどと同じくらいの衝撃を受けた。

――えっ! 確かにこちらの方は平均的に数値が高いですが、高すぎませんか!? 特殊能力はありませんが。

 アミラ姫が見たのは三百を越え五百を越える数値まである集の命証。

 アミラ姫は騎士団の優秀な人たちの基礎能力を見たことがあるがその何倍もある。

 戦えば基礎能力の数値が高いほうが必ず勝つというものではないがそれでも自分の倍の能力値の相手に勝つのはそうは出来ない。それが四倍や五倍となれば計り知れない。これだけの能力があれば小さな村を一人で攻め落とすことも簡単だろう。

 アミラ姫は不安を無くそうと命証を見せてもらったが、新たな不安が生まれてしまった。この人たちが本気で国を滅ぼそうとした場合どうなってしまうのかと。

 しかし、頭ではそんなことを考えていたが心ではこの人たちなら大丈夫と思っていた。

 王族であるアミラは他の国の人などをよく目にするその経験で培ってきた人を見る目では集たち三年K組の人たちは大丈夫な気がしていたのだ。

「えっと皆さまの基礎能力の数値なのですが、三百を越える数値の人はいますか?」

 アミラ姫は集以外の人もこれだけ高いのか気になり皆に聞き、二度あることは三度あると三度目の驚きを経験した。

 なぜなら、全員が手を上げていたから。

 聞けば三百を越えていない数値がある人が数人いるだけという結果。

 全員のほぼ全ての基礎能力値が三百から六百の数値をしているとのこと。

 全員の数値はバラつきはあるが平均的に高いことが分かった。

 しかし、一人だけ例外がいた。それが優莉。

 彼女の基礎能力は力量の超特化型。攻力・防力・速力が平均と同じか下回る程度なのに力量は常人とは比べ物にならないほどの量。生涯を賭して魔導を究めたと言われる伝説の魔導士の力量が二千弱と言われている。その人物より四倍以上は高い数値。先ほどブリスチーノが声を荒らげるもの納得である。

 それに見たことも聞いたこともない特殊能力。優莉は異常なほど高い数値をもつ集たちの中でもさらに異質な存在であることが分かった。

「えっと《特殊能力》と《偉勲》の欄に何か書いてあった方はおりますか?」

 アミラ姫は色々と考えることをやめ、他にも特殊能力などを持っている人はいないかの確認に移った。

 結果を言えば特殊能力を持っているのも優莉だけであることがわかった。

「それでは今日はお疲れだと思いますので、これからあなた方を客室に案内いたします。少し休憩されましたらお部屋にお食事をお持ちいたします。その時にメイドに今後の予定を聞いてください。皆様の協力、誠に感謝いたします。」

 アミラ姫が深く頭を下げるのに合わせブリスチーノの頭を下げた。

 それを合図にしたかのように部屋の中にメイドの一人が入ってきた。

「皆さまお部屋にご案内致します」

 と言って部屋から出て行った。それに着いて行くように集たちは部屋を出る。

「丹敷様。すみませんが少々お時間をよろしいですか?」

 優莉と華久良も部屋から出ようとしたところ優莉がアミラ姫に呼び止められた。

「はい。構いませんよアミラ姫様」

「先ほども言いましたが、そんなに畏まらなくて結構ですよ。もっとにしましょう?」

「癖みたいなものなのであまり気になさらないでください」

 優莉が格式ばった感じで言えばアミラ姫は苦笑をしながらなぜか知っている日本語ではなく英語を使って言う。

 先ほどの自己紹介をしたときに砕けた感じの態度で良いとアミラが言ったときにも言っていた言葉だ。なぜ異世界の言語を知っているのかと聞いたところ勉強したらしい。

「それで何の要件があるのですか?」

「丹敷様は特殊能力をお持ちになっていましたので、それがどのようなものかできれば調べたいと思っているのですが」

「なるほど、わかりました。これから何かするので私を呼び止めたのですね?」

「えっと、先ほども言った通り疲れていらっしゃると思うので明日の朝に行いたいのですが、準備などもございますので。構いませんか?」

「朝ですか? わかりました。自分も気になりますので」

「私は一緒に行っても良いんですか? 姫さま?」

 優莉とアミラが話をしている横にいた華久良が質問する。

「えっと……。別に問題はないのですが、魔力を使うこともあるので先ほどのように丹敷様の魔力で何かあったら危険ですので」

 アミラ姫の言葉を聞き華久良は少し睨み威圧するように言葉を紡ぐ。

「それって優莉は大丈夫なんですか?」

「もちろんです。丹敷様の安全を第一にして行いますので心配しないでください。ですが、大切様の安全まで確保するのが可能かと問われれば難しいと言わざる負えないのが現実です。そのため大切様がご一緒されるのを控えて頂けるとより丹敷様の安全を確保できるのでそうして頂くと嬉しく存じます」

「華久良ちゃん私は大丈夫ですから心配しないでください。それに先ほどの一件で自分が一歩間違えれば皆を危険にさらしてしまうのがわかりましたから、早く力の使い方を覚えないといけませんからね。そのために自分の力を正しく知っておくことは大切だと思いますから。明日の朝に調べてもらいます。アミラ姫様よろしくお願いします」

「優莉がそういうなら良いけど」

「こちらこそよろしくお願いします」

 華久良はしぶしぶといった様子でアミラ姫は申し訳なさそうに言う。



「と、こんな感じのやり取りがあって、その後は皆さんと同じように部屋に案内されて食事とお風呂を頂いて就寝しました。それが昨日の出来事です。今日は朝起きて調査として色々と試したのですが、あまりよくわからないという結果になってしまいました」

 遅れて来た優莉が食事をしながら昨日の出来事を話し終えた。

「よくわからないの? 調査したのに? そもそも調査って何をしたの」

 今日行ってきた調査をしてもよくわからなかったということだったが華久良はどんなことをしたのか気になり優莉に聞く。

「調査といっても機械のような物で調べるのではなくどんなことが出来るのかとやりながら確認するというような方法で私の特殊能力は『感情特性』と言う能力なのですが前例が無いらしくて感情によって発動する能力なのでは? という程度しかわかっていません。実際は感情に関係ない可能性もありますが」

 優莉は結局何もわかりませんでしたと苦笑いを浮かべた。

「それと午後から訓練を始めると先ほど聞いたのですが、私は皆さんとは別で訓練らしいです。私は皆さんと違い能力が平均的ではなく魔力特化ですから皆さんと違い動きの練習などをしないで魔力の使い方などに重点を置いて練習らしいですよ」

「そうなの? さっきの丹敷さんの話にもあったけどそこまで皆と違うの?」

 優莉の能力値の特に力量の値を知らない想護は驚く。

 見ますか? と優莉に言われ優莉の命証を見た想護はさらに驚いたのだった。

「あっ! そういえばソウ兄はスマホを使おうとした? まぁ触ってすらいないと思うけど」

 華久良は何かを思い出したのか質問をするが、その後に続いた言葉はなかなかに酷い言葉だった。

「いや、触ってもないけど、どうしたの使いたいの? 今はカバンに入れた状態で部屋に放置してきちゃったけど」

「使うなら自分のを使うわよ。そうじゃなくて、昨日異世界に呼び出されて電波あるかなって面白半分で誰かがスマホを使おうとしたら壊れたのよ。他の人も試したら皆のも壊れたの。他にもデジタルの腕時計とかも壊れた。明らかにおかしいでしょ? そこで壊れた理由をメイドさんに一応聞いてみたんだけど、まずスマホとか電子機器がわからなかったから理由とかもわからないって言われちゃった。そういうことでソウ兄には関係ないだろうけどスマホとか電子機器は使えないってことを教えておく」

 華久良に言われた通りの想護には関係ない話が終わると、ちょうど優莉も食事を終えた。

 食事を終えたので午後からは訓練だが、それは昼を食べた後からであるため、それまでどうするかという話になるのは当然と言えば当然の流れであった。

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