【第七話】 信用を得るのは難しく、失うのは一瞬である。
「それで具体的には何をするの?」
想護は魔王を助けてほしいことしか聞いていないために疑問に思った。
「魔王が弱っているらしいんだが、なんでも呪いをかけられたらしい。その呪いを解ける人が少なくて、この国にいる聖女様とかいう人が出来るらしい。それで聖女様を魔王のところまで護衛して行くのが俺らの役目らしいぞ?」
「わざわざ何で僕たちに頼んだの? 僕たち以外に兵がいるでしょ昨日の広間でも甲冑を着ていた人たちいたし」
集に教えられるがより謎が生まれた。異世界から想護たちを呼び出さなくても護衛をさせられる人はいるだろうし、なぜ全く知らない自分たちがその役目に選ばれたのか?
「
想護は知らないことを首を横に振ることで伝えた。
「まぁ、この国は他種族とかなり友好的らしいんだが、
「うん? 他の国が躍起になっているのはわかったけど、結局なんで集たちなの?」
「
集の話をまとめると、呪いを解けるのは一部の人間だけで、友好的なレグランド王国に魔族が助けを求めた。助けを求められたレグランド王国は魔王を助けようと聖女と共に護衛の兵を魔王の解呪に向かわせたが、護衛の兵の中に他国の魔族を良く思っていない国のスパイが潜入していて解呪を行う前に魔王を殺そうとした。それを魔王の側近たちが阻止したのは良かったのだが、魔王殺害に失敗したスパイは聖女に重傷を負わせて自害。レグランド王国の兵たちは聖女の傷を治すためにも国に撤退するしかなかった。聖女の傷は癒えたが時間もかかってしまった。その間に友好的でない他の国々が魔王討伐に乗り出し、魔族と人間の戦争が起こりそう。その戦争が起きないようにレグランド王国の使者や騎士たちが他の国に行き、戦争にならないように抑えているがいつまでもつかわからない。そこで即急に魔王の解呪に再度向かおうをしたが友好的であるレグランド王国だったが先の事件により助けを求めた魔族も信用したくてもできない状態になってしまっていた。
「で、聖女を魔王の
「良くわからんってそれで良いの? まぁ集らしいけど。でも魔物とか他の国から刺客が送り込まれるかもしれないんでしょ? やっぱり凄く危険なんじゃ――」
「想護、おまえが何と言っても俺はやめねぇーぞ?」
集のいい加減さに呆れつつも、危険なことが知りより心配になった想護が止めようと言葉を発する前に、長年の付き合いにより想護が何と言うのかを察した集が想護の言葉に被せて言う。
想護も集の性格を知っているので大きなため息をつくだけで、それ以上は何も言わなかった。
「いつ出発するの?」
「いや、知らん」
集たちがの予定が気になった想護は聞くが、集たちも知らないと言う。
想護はため息をつくしかなかった。
「なるべく早く行って頂きたいのですが、いきなり魔物などに襲われたりしては危険ですので今は力の使い方などを訓練して力を強くして頂こうと思っております」
想護たちに話しかけてきたのは光沢のある高そうなドレスをまとい、綺麗な金色の髪をした少女だった。少女の後ろに控えるように二人の人物がいた。その少女をどこかで見たことある顔だと思って想護が見ていると、
「あ、姫さんじゃないっすか」
集の言った言葉に驚いた。集は今目の前にいる少女に向かって姫と言った。確かに昨日王様の横にいた少女と似ているというか同一人物だった。
しかし、一番驚いたのはそのお姫様に敬語どころか軽口を言う集にだ。
「集! お姫様にそんな口利いて良いのかよ」
「気にしないでよろしいですよ。私がもっとふれんどりーにして下さいとお願いしたのですから」
集に小声で注意しようとすれば、聞こえていたのか姫様から許可というより推奨されてしまった。
「貴方様は『神の加護』の調子が良くなかった方ですよね? 誠に申し訳ありませんでした」
想護は何と言えば良いのかわからずにあたふたしていると、お姫様は想護に向かって深々と頭を下げた。それにより、一層混乱してしまう想護。
「えっと、とりあえず頭を上げてください。えっと、お姫様ですよね?」
どのような理由で姫様が謝っているのかわからなかったがこのまま姫様に頭を下げさせたままにすることはできないので頭を上げるように促す。
「はい。申し遅れましたが私はレグランド王国第三皇女アミラ・レグランドと申します。こちらがレグランド王国騎士団総団長のヘリオロ・ナズナ。こちらが私の
姫様改めアミラ姫はまず自分の名を名乗った後、自分の後ろに控えていた男性と少女の紹介をした。
「ご紹介に
先に紹介された優しそうな男性は凄く整った顔に腰まである薄い黄緑色の髪を一つに結っており、少し尖った耳が特徴的な細身の男性。歳も想護たちよりは上だがそんなには離れていないように見える。お兄さんといった感じだ。
「アルストロメリア・アミラだ。アミラ様の護衛を任されている。ヘリオロ総団長のように直接何かを教えたりすることはないが、これからも会うことがあると思うので覚えておいてくれ。それとアミラ様に何かしたら身の安全は保障できんぞ」
後に紹介された少女は肩を過ぎるくらいまで伸びた白色に近い銀色の髪をした少女は昨日異世界に呼び出せれた最初に修道服着ていたアミラ姫と一緒にいた女騎士であった。
アルストロメリアは自己紹介の最後の方を集を睨みつけながら言った。
姫様に許可されていても、あんな態度をするのは護衛としては見過ごせないようだ。
「アーちゃんそんなこと言っちゃダメでしょ?」
「アミラ様。アーちゃんはやめてくださいと……」
集を睨んだことや発言をアミラ姫が注意するが、アルストロメリアは自分の呼ばれ方がアーちゃんであったために小声でアミラ姫にやめるように進言している。
会話から同じようなことをいつも言っているのだろうことがわかる。
アミラ姫とアルストロメリアが言い合っている間に集は気になったことを指導してくれるらしいヘリオロに聞いた。
「それで訓練って何をするんですか?」
「まずはあなた方が自分の身体能力に慣れてもらうことですね。普通に過ごしているだけでは気が付いていないでしょうが、あなた方は一瞬で凄い力を得てしまっている。今、集様が本気で走られた場合おそらくちゃんと止まれません。今までとは走る速さが段違いですからね」
「へぇー。特に何も感じないんですが、そんなに違うんですか?」
「ええ、勿論。午後から訓練を行いますので、その時に思う存分体験してください。あと無暗に力を出したりしないでくださいね。今のあなたなら殴っただけで簡単に人に重傷を与えられますので」
ヘリオロは何でもないような口ぶりで恐ろしいことを言う。
集も想護も他の皆も言葉を失った。自分たちがいつの間にか殺人パンチを会得しているのだ驚くのも無理はない。
「えーっと、あちらがあのような状態ですみませんが、お名前をお聞きしても?」
ヘリオロはアミラ姫とアルストロメリアが言い合っている方を一瞥すると想護の方を向き言う。
「すみません。申し遅れました。
「
「はい、そうですけど、集や華久良の名前は何で知っているんですか?」
「すでに想護様以外の方には昨日のうちにお名前を拝聴しましたので。それと想護様は『神の加護』が上手く発動していないため、魔王の下に向かう旅は危険すぎるために同行していただくことはできなのですが、最初の方の簡単な訓練は受けてみますか?」
やはり、危険ということでヘリオロからも魔王救助の旅には同行させてもらえない想護。
しかし、多少力の使い方などの訓練は一緒に行うかと聞かれた。
「そうですね。僕も身体能力が少しは上がっているようなので訓練に混ざらせてもらいますね」
「かしこまりました。では、午後からの訓練に参加してください。詳しくは追って連絡したします。それでは我々は失礼いたします。引き続きごゆっくりお過ごしください。」
ヘリオロはそう言うと、想護に会釈をしてからアミラ姫たちの下に行き二人を引きずって部屋の外に出て行った。
三人の言葉が聞き取れたことと、口の動きと言葉が合っていなかったことから魔術を使っていたことに気が付いた想護はこの魔術を使える人は案外多いのかな? と思っていた。
「なぁ想護? 騎士団の総団長と姫様ってどっちの方が偉いんだ?」
「たぶんお姫様だと思うよ?」
「そうだよなぁ」
集と想護は引きずられていった姫様を見ながら疑問に思った。
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