【第六話】 男子三日会わざれば括目して見よ! 半日なんだけど……。

 マーガレットの案内で少し歩くと昨日とは別の大きな広間に着いた。

 移動中にマーガレットとの会話はなかった。

 想護はせっかくなので少しでも仲良くなろうと話しかけようとしてマーガレットを見るとマーガレットは不自然なほどカクカクと歩いていた。

 それを見た想護は緊張しているのかな? と感じたので、今話しかけると余計緊張しちゃうなと思い、ゆっくり仲良くなれば良いなと思い直した。

 その後もマーガレットの動きを微笑ましく見ていた想護であった。

 歩いた先で着いた大きな広間の中は壁際にメイドやシェフのようなひとがいて、壁から少し離れたところに横長な机があり、そこに大きな皿に乗った見たことの無い肉や見たことの無い形の野菜と思われる草やパンなどがある。その横長の机より中央寄りに小さ目な丸テーブルがあり、そこにはグラスに入った飲み物があり、広間の中央はかなりスペースが空いている。

 クラスメイトの皆はブリスチーノが言っていた通りすでに集まっていて、横長の机にある食べ物を食べていたり、丸テーブルの飲み物を持っていたりと様々である。隣の人と話しているのは皆同様である。広間の入り口に立っている想護の耳にも騒がしい喧騒が聞こえてくる。

 想護が相変わらず皆は朝から元気だな、と思っているとマーガレットが、

「ここで朝食を摂ってください。ここにあるものはご自由にどうぞです。私は壁の所にいるので何かあったら言ってください」

 お辞儀をすると壁の方に歩いて行こうとしたので想護は何気なにげなく聞いた。

「一緒に食べないのですか?」

「えぇ? 私ですか? ご主人様やお客様たちと一緒に食事するのはダメなんですよ。……ご主人様はやさしいのですね」

 マーガレットは言われたことに少し驚いた後、共に食事するのは出来ないと言ってお辞儀をすると再び壁際に歩いて行った。途中で「優しいですね」と呟いたが誰にも聞こえることはなかったが、先ほどまですごく緊張していたマーガレットだったが少し緊張がやわらいでいるようだった。

 想護は残念に思いながらもマーガレットが端に行くのを見た後、クラスメイトたちが騒いでいる広間に入っていった。



 想護が広間に入って行くとすぐに食事しながら会話していたほぼ全員が想護に気が付いた。

 いち早く想護に駆け寄って話しかけたのは妹の華久良だった。

「ソウ兄! 昨日はメイド長さんと部屋から出て行って、その後戻ってこないから心配したんだよ? メイド長さんは返ってきてソウ兄が体調悪いとか言うし。また、隠してたでしょ!」

 想護たちの周りにいて華久良の言葉を聞いていた他の皆も同じ気持ちなのかコクコクとうなずいている。

 そんな息の合ったクラスメイトたちと見て苦笑いをしながら想護は、

「ごめんね。実際結構辛かったから。でも十分じゅうぶんに休憩を取ったから、もう大丈夫。心配させてごめんね」

「もう良いよ別に」

 華久良は心配していたと言ったことが恥ずかしかったのか、将又はたまた安心させようと想護に頭をでられたのが原因か顔を少し赤くしながら答えた。

「ようよう! 想護! おまえ『神の加護』が無いんだって? 笑えるな」

 想護と華久良の何とも言えない雰囲気に突貫してきたのは集。

 集は想護の体調不良には触れずに想護が本当に『神の加護』が無いのかを確認した。てか、親友の不運を笑っている結構酷い奴なのだが、それは長年一緒にいた信頼関係から成り立っている軽口であり、想護もあまり気にしている様子はない。

「それもブリスチーノさんに聞いたの?」

「ああ、メイド長さんが言ってた」

「そっか、でも僕にも『神の加護』があるにはあるんだよ。ただ、上手く発動してないと思われるって。異世界こっちの言葉はわからないけど、身体能力に軽く上方補正されているんじゃないかって。……はい」

 想護は急に聞かれて驚きつつも自分の現状を言いつつ、自分の命証アテストリオをポケットから取り出し、昨日のように魔力を通してから集に手渡した。二度目ということもあってか昨日よりはスムーズに行えた。

「おいおい、命証の基礎情報以外はあまり人に見せて良いもんじゃないらしいぞ?」

 集は不用心な想護に注意をしつつ、これも信頼の証か? と思いながら命証を受け取った。

 その想護の命証を集と近くにいたクラスメイトたちは覗き込んだ。


《基本情報》

姓名:大切 想護

性別:男

年齢:15

種族:異世界人族(――――)

特記:――――


《基礎能力》

攻力:84

防力:153

速力:240

力量:2


《特殊能力》



《偉勲》

『神の加護』



「確かに『神の加護』は一応あるな、グレーアウトしてるけど」

「上方補正は防力と速力か? てか、力量が一桁かよ」

「これは死んでもセーフなの? アウトなの?」

 集や他のクラスメイトたちは想護の命証を見ながら口を開き、思ったことを言う。

「渡してから思ったけど命証について知っているし、ブリスチーノさんも皆に後からやってもらうって言ってたから皆も命証あるの?」

 集たちが想護の命証について話している間に想護は気になったことを聞いた。

 集は想護に言われて自分の命証を想護に見せた。集は想護と違い命証に魔力を流し込む動作がスムーズだった。

 人には注意しときながら自分の命証も簡単に人に見せているじゃないか、と想護は思ったが何も言わなかった。


《基本情報》

姓名:末武すえたけ しゅう

年齢:15

種族:異世界人族(――――)

特記:――――


《基礎能力》

攻力:538

防力:511

速力:489

力量:327


《特殊能力》



《偉勲》

『神の加護』



「凄く数値が高いね。これがちゃんとした『神の加護』の力なのかな?」

 想護は自分の数値と見比べての感想を言うが、『神の加護』がない状態や普通の人の平均などをしらないために何とも言えなかった。

「おう! 力量以外なら数値が五百ごひゃく越えとか普通ありえないらしいぞ? まあ俺らもよく知らないけどな。成人男性の平均的な数値が五十ごじゅうプラスマイナス二十にじゅうくらいらしいし、特定の能力だけを特化して鍛えた人でも強化魔術なしに身体能力だけでひゃくを越えるかどうかくらいらしいぞ? ついでに力量は鍛えれば鍛えるだけ上がるらしいぞ、一応」

 一応と言ったのはなんでも鍛えれば総量が増えるが増えれば増えるほど増えづらくなっていくために、誰でもある程度で鍛えるのを止めてしまうのでどこまで伸びるのかはわからないらしい。

 そして、今の話が本当なら集は攻力。つまり腕力なら一般的な成人男性の約十倍。腕力だけを頑張って鍛えた人と比べても五倍は凄いらしい。

「俺らも似たような感じだぜ?」

 想護の命証を覗き込んで見ていた他の人も自分の命証を想護に見せる。

 彼らの命証を見て見ると、確かに皆同じように三百から五百くらいの数値が書かれている。

 なぜ数値にバラつきがあるのかと想護が聞いたところ適正があるかないかでその能力が高いか低いかが決まっている。と思われると言われたらしい。すでに曖昧な意見を何となくしか理解していない人から聞いた情報なので本当かどうかはかなり怪しくなっている。



 とりあえず一度話すのをやめて、想護は朝食を頂くことにした。昨日、異世界に来たのが夕方で夕食を取らずに寝てしまったためにかなりの空腹を感じていたためである。

「異世界のことはわからないけど朝食ってこんな感じなの?」

 想護は朝食を頂こうとしたが、先ほどから感じていた違和感を他の人はどう思っているのか聞いてみた。

「なんか、ソウ兄が昨日の夕食いなかったじゃん? その時に歓迎会的な感じでパーティーをする予定だったらしいんだけど、ソウ兄がいなくて全員じゃないからってパーティーは延期になって、結局昨日の夕食は各自が用意された部屋で食べたの。それで今日の朝食は昨日のパーティー用の部屋で皆で食べることになったんだけど、机とかの配置がパーのティーままになっちゃったってメイドさんが言ってたよ」

 想護の質問に華久良が答えたが、答えを聞いて想護は少し申し訳ない気持ちになった。そこで想護はあることに気が付いた。

「あれ? 皆で朝食をここで食べるんじゃなかったの?」

 想護が気になったのは皆が集まるはずなのにひとりいないことに気が付いたからだ。

 まだ来ていないだけかも知れないが、来ていない人物はとても時間などにきっちりとした人物なので一番遅いということは考えにくいためである。

「あぁ、優莉ことだよね。優莉は『神の加護』の影響で発現した能力でなんか凄いことになってて、それの調査? で今はいないよ」

 私も良くわかんない。と言いながらも肉を頬張る妹に親友そっちのけで肉を食べてる場合なのかと思わなくもないが、異世界の人たちとまだ数人しか会っていないが想護は悪い人たちではないと思っているので優莉のことを少し心配に思うが何も言わなかった。

 ある程度朝食を取り、満腹になると想護は昨日ブリスチーノから聞いた話の中に自分たちが呼ばれた理由もあり、皆がそれを知っているのか気になった。

「そういえば、魔王を助けて欲しいとか聞いたけど詳しく聞いた?」

「えっ! ソウ兄も聞いたの?」

 想護は横にいた妹に聞いたが、わざわざ小声で話していたわけでもないので周りにいたクラスメイトたちにも聞こえていた。

 想護の質問が聞こえた者たちはビクッと体を強張らせた後、こっそりと想護の様子を確認していた。周りが静かになったことに想護は気づいていない。

 なぜ皆が想護の言葉に驚き、警戒するように見ているのかと言えば、困っている人をほっとけない性分の女子ナンバーワンはオカンこと母里ぼり瑠璃沙るりさ

 男子ナンバーワンは想護というのが、この学年では有名であるからだ。

 助けを求められた想護が危険だからと言われて大人しくしていられるのか? という不安と動揺が華久良たちの頭の中によぎった。

 華久良たちは魔王を助けとほしいと助力を求められたことを想護には内緒にしておき、適当な理由をつけて想護だけ城で留守番をさせることで想護から危機を遠ざける予定だったのだ。それなのに想護が既に助けを求められていることを知っているとなれば動揺するもの無理はなかった。

 華久良はどう言えば想護に納得させて、留守番をさせられるか考えながら言った。

「確かに魔王を助けてほしいって聞いたよ。理由とかも聞いた。少しの危険はあるけど助けてほしいって言われた」

「そうなんだ。それで皆は了承したの?」

「……うん。危険かもしれないけど、凄く困っているみたいだし姫様が言ってたけど最悪な場合でもどうにかなるらしいし」

 華久良は魔王を助けに行くこととか、危険があるかもしれないということを隠そうか迷ったが、真実を伝えることにした。自分たちも半信半疑だが最低限の安全はあるということも。

「『神の加護』の効果にある死んでもどうにかなるってやつだね……?」

 想護も昨日ブリスチーノが言っていたことを思い出しながら聞き返す。

「そう。死んでもこっち異世界の記憶がなくなるだけって」

「本当かどうかの確証はないんだよ? 本当に何も知らないこの世界異世界で危険を犯してまで助けに行くのか?」

 想護は皆に皆に聞こえるように少し大きな声で言った。危険があってもそれでも行くのか? と、ちゃんと考えてほしかったため。

 想護たちの話をこっそり聞いていたクラスメイトたちの数はいつの間にか全員になっていた。

 クラスメイトたちは口々に言った。

「あぁ、危険かもしれないが困ってるみたいだしな」

「『神の加護』があるしね」

「それに異世界だぜ? 楽しそうだろ」

 クラスメイトたちは不安を感じさせない声で言う。

 想護はそれを聞き、答えはわかっていたのだろう。一度ため息をつくと

「じゃあ、僕も――」

「想護は留守番な!」

 想護が自分も行くと言おうとしたところに集が被せて言った。

「どうして? 集?」

 不思議に思いながら集に問いかけるれば、

「当り前だろ? 俺らは『神の加護』があるから最悪大丈夫ってことで行くことにしたんだぞ? おまえの中途半端な『神の加護』で強化も微妙。そんで死んだらアウトかもしれない想護を連れて行けるか」

 そんな当たり前のこともわからんのかというように集に言われてしまった想護であった。ついでに周囲のクラスメイトたちも再びコクコクと頷いていた。

 ――まぁコイツ想護なら異世界とはいえ、滅多なことでは死にはしないだろうがな。

 集が心の中で思ったことを知る者はいない。

「確かにそうかもしれないけど皆だって絶対大丈夫という保証はないじゃないか」

 少しムスッとして想護が言えば集ではなく周りにいた女子たちが「拗ねてる。可愛い」と何やら反応していたが想護は気が付かなかった。

「何といってもおまえは連れて行かん! 姫さんにもそう言ってある。おまえはこの城で留守番決定なのだ!」

 フハハハハッと集が笑う。だが集が、いやクラスメイトたち全員が想護を思いやってこんなことを言っていると想護も分かっているので、

「わかったよ。確かに一番高い速力でも皆の半分くらいの数値しかない僕は足手まといになるから城で待ってるよ。でも絶対に全員が無事に城に帰ってくることは約束してね」

 想護は皆のことを心配に思いながらも笑って言う。またしても女子が騒いでいたのに想護が気が付くことはなかった。

「あたりめぇーだろ?」

 集は笑い返すのだった。

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