【第五話】 専属メイド

ご主人様マスターご主人様マスター。聞こていますか? ご主人様マスター?』

 想護はそんな何かしらの声が聞こえた気がして目を覚ました。

 昨日はかなり早く寝たことと、昨日の体調不良が随分と良くなったことで想護はスッキリと起床することができた。

 何かに呼ばれていた気がして起きたのだが、昨日部屋に着くなりすぐに寝てしまったベットの上から見たところ、部屋の中には何も見当たらない。夢現ゆめうつつの状態であったために想護は夢を見ていたのか実際に呼ばれたのかがわからなかったのだが、周りに誰もいないので、きっと夢だったのだと納得した。



 想護が起きてすぐに部屋の外でコツコツとした人が歩いてくる音が聞こえた。その音は想護のいる部屋の前で止まる。

「大切様、ブリスチーノです。起きていらっしゃいますか?」

 部屋のドアが三度ノックされ、ブリスチーノの声が聞こえてくる。

 想護は起きていることを伝えるとブリスチーノが中に入って良いか? と聞いてきたので、想護が了承すると「失礼します」と言いながらブリスチーノが部屋に入ってきた。

「お身体の調子は良くなりまたか?」

「ええ、おかげさまで良くなりました」

「それはかったです。すみませんがもう一人部屋に入れても良いですか? 紹介したいものがいるのですが」

 体調の確認が終わると、ブリスチーノは想護に紹介したい人がいると言い、部屋に入れて良いか想護に聞いてきた。想護は構わないという伝えればブリスチーノは部屋の外に向かって「入ってきなさい」と言った。

「は、はぃ。し、失礼いたします……」

 そう言って入ってきたのは、窓から入ってくる朝日を浴びキラキラと光が反射することで、とても綺麗に見える腰あたりまで伸びた長いプラチナブロンドの金色の髪をした想護より少し幼い十三歳くらいの少女。少女の着ている服は黒色のメイド服でプラチナブロンドの髪が黒のメイド服に映えており、少女をより綺麗に見せている。

 少女が入ってきて、おっかなびっくりとした感じで深く礼をしながら挨拶をする。

「彼女はマーガレットと言います。大切様の身の回りの世話などをさせて頂く、専属メイドとして御傍おそばに置いてあげてください」

 ブリスチーノもマーガレットと言われた金色の髪の少女と一緒に頭を下げる。

「……専属メイドですか? どうして僕なんかに? 恐れ多いですよ。だからその――」

 想護はブリスチーノに言われたこと理解するのに時間がかかったが、自分なんかにはそんな必要が無いと断ろうとしていたがブリスチーノが想護が話し終わる前に、

「大切様も急なことで戸惑ってらっしゃると思いますが、大切様はこちらの世界異世界の言葉が理解できないため、今後大変お困りになると思われますので通訳としてお使いになってください」

 ブリスチーノと会話ができていたために、すっかり忘れていたが、想護は『神の加護』の効果が上手く発動していないために異世界の言葉が理解できない。ブリスチーノと会話が出来るのはブリスチーノが使っている魔術のおかげだと昨日教えられた。

「つまり、マーガレットさんも翻訳の魔術が使えるのですか?」

 想護が質問するがブリスチーノから返ってきたのは予想外のな言葉でより想護に疑問を持たせる言葉だった。

「確かにマーガレットも『言語疎通トラドゥカド』を扱えますが『言語疎通トラドゥカド』は消費魔力が大きいので長時間使うことができないというお話は昨日させて頂きました。人にもよりますが基本的な人なら十分じゅっぷんは持ちません。そのため十分を過ぎてしまう場合、大切様と意思の疎通が大変困難となってしまいます。何人もがわるわるに『言語疎通トラドゥカド』を使えば良いのですが、レグランド城にも『言語疎通トラドゥカド』を扱えるものはそれほど多くありません。マーガレット」

 想護の質問に答え終わったブリスチーノはマーガレットに話を促したが、なかなか話し出せないマーガレット。

 その間に、じゃあなぜマーガレットを通訳にするのだろうか? と思い、ブリスチーノに質問するために口を開こうとした想護より先にマーガレットが話し始めた。

「お、大切様っ! わた、私の名前はマーガレットと言います。今から大切様の専属メイドとして頑張りたいと思っておりますのでっ!ぉ、お、御傍に置いてください。いっ、一生懸命お仕えさせていただきたく存じますぅ……。」

 勇気を振り絞ってといった感じにつっかえつっかえ話し出したマーガレットだったが、途中から声がどんどん小さくなっていった。彼女に勇気計測器メーターでもあれば急激に下げっていく様子が見て取れただろう。

「マーガレットっ! 緊張しすぎです。それになぜ貴方あなたが来たのか、理由もお話しなさい。すみません大切様。マーガレットはまだメイドになってから浅く、人見知りなところがありまして」

 ブリスチーノはマーガレットを叱咤すると、今度は想護の方を向き頭を下げながら謝罪をした。マーガレットはメイド長に叱られて体をビクッとさせ、瞳を少し潤ませていた。

「いえ、知り合いにも同じように人見知りの子がいて慣れてますから、気にしてませんよ。それで彼女が選ばれた理由とは?」

 想護は年の離れた従妹いとこがおり、彼女も人見知りで今でこそしたってくれてはいるが、初めて会った頃は親に隠れてまともに挨拶すらできなかった。そんな少し昔の可愛かわいい従妹のことを思い出して懐かしんでいると、無意識に優し気に微笑びしょうを浮かべていた。

 想護の優しい笑みを見てしまったマーガレットが顔を真っ赤にしてることに、想護は気が付いたが、すごく緊張してるんだな。僕の所為せいで悪いことをしたな。と思い、大丈夫かな? と心配していた。

 確かにマーガレットは緊張していたが顔を赤くしていた別の大きな理由に想護が気が付くことはなかった。

 ブリスチーノがマーガレットを再び促すとマーガレットは自分が選ばれた理由を緊張しながらも話し出した。

「あ、あの……。私が大切様の専属メイドに選ばれた理由なんですが、私が日本語を完璧ではないのですが、ある程度なら理解して大切様と会話することや通訳を行えるから。なんです……」

 やはり緊張して最後の方はギリギリ聞こえるくらいの声量になっていたが、なぜマーガレットが選ばれたのかは理解できた想護。

 つまり、通訳の魔術は長時間使えない。使える人もあまりいない。なら、想護と会話できる人は日本語がわかるマーガレットしかいないということらしい。

 確かに想護はブリスチーノに感じていた違和感をマーガレットからは感じていなかった。

 マーガレットが日本語を話せることには驚いたが、そのために少し日本語の使い方が所々ところどころ間違っている点があったようだ。

「日本語を話せる人がいるのですね」

「はい。あちらの世界地球のニホンという国から稀に使者ししゃが来られるので、その時の会談でスムーズに話し合いができるようにニホンゴを勉強している方もおられます」

 想護の無意識のつぶやきが聞こえたようでブリスチーノが答えた。

 しかし、その内容は想護を驚かせるには十分じゅうぶんな内容だった。

 この話も長くなるので簡単に説明してもらったところ、この異世界と地球を繋ぐ『扉』というか『門』が存在しているらしい。そこを通るには色々な手順がいるらしいが、そこを通るといつでもが可能だとか。

 だが、一番驚いたのは日本が相当昔から異世界と関係を持っていたということ。もちろん学校の教科書でもテレビでもそんなことは聞いたことが無い。

 つまり、政府か特別な機関が口止めをし、情報を隠していることになる。しかも、日本以外の国は全く知らないらしい。他にも日本の一部の人も魔術が使えるとか。色々な事情を急に知らされ驚きっぱなしの想護だが、とりあえず日本に帰る方法が一応あること――なんでも相当面倒な手順を踏まなくてはならないらしいが――を知れたので安心することができたのだった。

 する予定ではなかった話をしてしまったので順番が狂ってしまったが、マーガレットとの顔合わせが済んだので簡単な自己紹介を行うのだが、時間も押しているので一先ひとまずは簡単な自己紹介となった。

「もう一度名乗らせて頂きます。私の名はマーガレットと申します。歳は十二歳です。日本語を勉強していたので少しわかりますが、可笑おかしなところがいっぱいあると思いますが、すみません。これからよろしくお願いします。大切様」

 確かに今までの会話で可笑しいな点がいくつかあったが、そこはご愛敬というやつである。

 異国の言葉を十二歳が一生懸命覚えて一生懸命使っているのだ、可愛く思えるだろう? 特に金髪美少女が! ここ重要。別に作者はどこらへんがモザイクなのかわからないタイトルの着いたあの漫画に登場する、こけし似の彼女のように金髪好きでは無いけれども、全然無いけれども。

 マーガレットの簡単な自己紹介を聞き終えたので想護も自己紹介をしたのであった。



 マーガレットと想護の自己紹介が終わったところでブリスチーノが朝食の準備ができているので、今から案内すると想護に伝えた。

「わかりました。ですが一つ良いですか? 昨日制服を着たままで寝てしまったので、服がしわになってしまっているのですが、何か衣服を貸して頂けませんか?」

 昨日は着替えることなく寝てしまったので想護の制服は皺だらけになってしまっている。

 このまま皺になってしまった制服でも問題はあまりないが、やはり恰好は悪い。

 そこで想護は衣服を借りれないか尋ねたが、次のブリスチーノの行動で借りる必要がなくなった。

「確かに皺が出来てしまっているので、少し恰好がよろしくないですね。お召し物をご用意することはもちろんできますが、貴族のものとなってしまうので慣れているのなら良いのですが、慣れていないと息苦しさを感じてしまいます。ですから、別の方法を取らせて頂きます。」

 ブリスチーノはそう言ったあと深く深呼吸をした。その瞬間かが変わったように想護は感じた。この感覚は前にもどこかで? 想護はそう感じそのことについて考えようとしたが、考えが纏まる前に目の前のブリスチーノの行動に目を奪われ意識がそちらに行ったことで、今感じた感覚についての考えは頭から抜けてしまった。

「――――」

 とブリスチーノが何かをつぶやき、想護に向かって手をかざしたとたん、今まであった想護の制服の皺は無くなり、袖口にあったかすかな汚れも買ってきた当初のように綺麗さっぱり無くなった。

 想護は目の前で起きた現象ことがわからなかった。十五年生きてきた中で初めて見たものだったのだ、道具も何も用いずに皺も汚れも綺麗になくなったのだから。

「今のも魔術ですか?」

 想護はこちら異世界に来てから知った魔術なのかとブリスチーノに聞いた。

「はい。これはかなり難しい魔術なのですが衣服の汚れや皺などを取り除くための魔術です。」

 なんでも希少な素材を使った衣服などを洗濯すると生地が傷んだりしてしまうので、傷ませないで綺麗にするための魔術ということらしい。被服屋――この世界では防具などを売っていなくて、下着からドレスまで衣服全般を扱っている店のこと――にクリーニングなどの服の手入れをお願いできるのだが、その時に高級な服に使う魔術らしく、本来は被服屋だけが使うことが出来る魔術らしい。そのため城でも使えるのはブリスチーノだけである。

「この魔術を使ったことは内緒にしておいてください」

 ブリスチーノは「あまり使えることを知られるのは良くないので」と微笑みながら言った。

 なら何故なぜわざわざ使ってくれたのかと想護は思ったが、すぐにブリスチーノが「朝食の用意が出来ていますのでマーガレットがご案内致します。他の皆様もすでにお集まりになられているはずです。それでは私は所用がございますので、すみませんが後のことはマーガレットにお願いします。これで失礼いたします」と言い、想護に深く礼をした後部屋から出て行ってしまったので聞くタイミングを逃してしまった。

「で、では! これから案内するので付いて来てくださいっ!」

 マーガレットが声を所々裏返しながら想護に言う。

 想護はマーガレットを微笑ましく思いながら、わかりましたとマーガレットと共に部屋を出た。

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