【第四話】 置いてけぼりはイジメですか?

 華久良たちはアミラ姫の話を聞き終えてクラスメイトたちで、これからどうするかを話し合っていた。

 アミラ姫の話は同時刻にメイド長ブリスチーノから想護が聞いていたことよりも詳しく華久良たちに伝えられた。

 まず、想護がなぜ一人だけ連れて行かれたのかを聞いた。その時に自分たちが『神の加護』を授かっていることもアミラ姫は話してくれた。

 華久良たちは想護にはなぜ『神の加護』がないのか? と質問したところ、本来は説明の場にも神が来るはずだったのに、現在加護を授けてくれた神は来ていない。また、神とのコンタクトが取れないらしく理由も聞けないためアミラ姫も詳しいことはわからない。

 しかし、神とコンタクトが取れないということは神側に何らかの問題が発生したことを表しているらしい。そこから考えられることは二十八人――リネーヨ学校は基本的に少人数のクラス編成をしているため三年K組は二十八人である――という大人数を一度に異世界転移させ、『神の加護』を授けたために力を使い果たしたのではないか? ということ。その結果、今は神が力を回復するために休眠状態にあるというのがアミラ姫たちの意見らしい。想護以外の華久良たちにもアミラ姫からの話が全て終わってから測定をする予定らしい。

 その後、異世界に招いた理由やレグランド王国の現状を話し、力を貸してほしいと言われた。

 レグランド王国は人以外の他種族のことも差別しないで友好関係を結んでいる国なのだが、他の国々も同じように他種族のことを良く思っている訳ではない。

 そして今、魔王は呪いで弱っている。

 魔王率いる魔族たちを良く思っていない国々が魔王が弱っている間に魔国領に攻め込み、魔族を滅ぼそうとしているらしい。

 それをめようとレグランド王国は攻め込もうとしている国々に説得しているのだが、聞き入れてもらえない。

 だから、攻め込もうとする原因である魔王が弱ってしまっている現状を打破するべく、呪いを解くことのできる人を連れて魔国領に行ったのだが、魔王を倒そうとしているのでは、と警戒されて一触即発になりかけた。そのために国に帰還するしかなかった。

 その後、どうすれば良いのか? と魔族たちと交渉した結果、異世界地球から来た人たちと呪いを解ける人だけなら魔国領に入れても良い。と決定されたらしい。

 なんでも、異世界に来たばかりなら戦闘力もあまりないし、レグランド王国とか以外の攻め込んで来ようとしている国との繋がりもないから安心できるらしい。

 本来、レグランド王国は随分と前から魔族と交流があり、信頼関係がちゃんとあるのだが、この前にあった事件により神経質になっているらしい。

 争いを起こさなように。また、苦しんでいる魔王を助けるために力を貸してくださいとアミラ姫と王様は頭を下げて話は終わった。

華久良たちはアミラ姫に考えを纏める時間が欲しいと伝え、華久良たち以外の人たちは部屋から出て行った。



「どうする? この話を信じるか?」

 他のみんなの意見を聞こうと最初に口を開いたのは集。

 思いついたら即行動するようなアホなやつだが他人の意見やアドバイスをちゃんと聞いたりするのである。そのアドバイスをかしているかは別として。

「アミラさんの話を聞いた感じだと、魔物? だか、モンスター? だかが存在しているらしいし危険じゃない? 『神の加護』とかいうので身体能力が強化されているからって、私たちは平和な日本で過ごしていたから戦い方なんてい知らないし、誰かサバイバル経験でもあるの? 『神の加護』で一応死んでも大丈夫なんて話が信じられるの?」

 危ないから、そう言っているのは通称クラスのオカンと呼ばれている。母里ぼり瑠璃沙るりさ。すこしぶっきらぼうなところはあるが、困っている人や泣いている人などをほっとけない性格で皆によく頼りにされている人。

 彼女の言葉は皆が思っていても言い出せなかったことだ。

 自分たちの思っていたことを言い当てられた三年K組の生徒たちは何も言えなかった。しかし、そんな中にも例外はいる。

「はい! はい! 私はサバイバルしたことあるよ!」

「まぁ、俺もあるな。あれがサバイバルと言えるかは微妙だが。」

 華久良は勢いよく手を上げながら、集は気まずい感じで頬を掻きつつ口を開いた。

「……マジ?」

 華久良と集の話を聞いた皆は最初なにも言えなかったが、皆同様に耳を疑い、誰かが確認のために聞き返してきたのであった。

「あぁ、俺は華久良と一緒に想護に着いて行っただけだがな。三日程度山の中で野宿したよ」

「そうそう、確か中一の秋くらいだったかな? ソウ兄は二週間くらい一人で暮らしてたけど」

 集と華久良の話を聞いたクラスメイトたちはより耳を疑う結果になった。

 まぁ、確かに中学一年生が二週間山で暮らすとか都会に住んでいる人からしたらマジ? ってなるよね。うん。田舎でもあまりないよね。きっと。作者は都会っ子なので知らないけど。

「「「想護君ってサバイバルするの!?」」」

 集と華久良を除いた他の全員の反応は驚きを通り越し、驚愕なんてものには収まりきらなかった。

 学校や寮での想護を知っている人たちはそう思うのも当然である。

 平常時の想護は優しいお兄さんという雰囲気で、困っている人を助けたり、陰ながら何かをするイメージなのにもかかわらず、山で野宿というのは衝撃だった。

 クラスメイト仲間の新たな一面を知り驚いた三年K組の生徒だったが、その驚きも一先ひとまず収まりを迎えた。

「で、結局どうするか? だよな。全員で行かなきゃならない訳でもないし、行きたい奴だけで行くか?」

「そんなの危険じゃない!行かない方が良いに決まってるでしょっ!」

 集の意見にすぐに反応したのはオカンこと瑠璃沙であった。

「でも、困っている人をほっとけないよ。ルリちゃんだってそうでしょ?」

「それは……」

 華久良に言われ瑠璃沙は迷っていた。確かに異世界にまで人を招くなんて簡単には出来ない。それなのにわざわざ招いたということは切羽詰まっていることを表していると思われる。そんな困っている人をオカン体質の瑠璃沙はほっておくことはできない。

 しかし、きっと自分が行くと言えば、お人好しで仲間意識の強いこのメンバーは一緒に着いて行くと言うに決まっている。アミラ姫の話を信じ、死なないとしても危険だと分かっている場所に自分の意見で向かわせる訳には行かないと思っている瑠璃沙。

 そんな心の中で葛藤している瑠璃沙に話しかけてくる人がいる。

「瑠璃沙さん」

 優莉である。優莉は瑠璃沙の瞳を見て視線が合ったのを確認してニッコリと笑いかけた。その後他のみんなの方を振り向きながら続ける。

「どうせ皆さんが同じような気持ちですよ。危険なところに皆を連れて行きたくない。けど、困っている人をほっておくこともできない。と、ここにいる皆さんはその様なお人好しな方ばかりですから。それに色々言いつつも異世界探検なんて楽しそうとワクワクしている方までいるようですしね?」

 この一言が決め手となった。

 危険かも。と思って尻込みしていた人たちも助けたい思いが少なからずあった。他の人たちが行くなら自分が何か出来るかわからなくても着いて行くと。一年一緒に過ごしたクラスメイト《仲間》が危険なところに行くのなら自分も。それほどクラスの絆は強い。その結果皆が行くことを決意した。





「あれ? そう言えばソウ兄はどうするの?」

 華久良の声が静かになった部屋の中に悲しげに響いた。

 皆がこう思った。想護には『神の加護』無いんじゃね? つまり死んだら終わりやん!? オワタ……。

 こうして密かに想護の留守番も決まった。

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