【第二話】 意外な嘆願

 部屋の空気が凍り付いた。

 王様も甲冑姿の人たちもクラスメイトまでもが華久良を見て固まっている。話し始めた王様の話をいきなり遮ったのだから当たり前といえば当たり前である。

 想護が時間が止まったのではないか? と思ったほどの静けさも、そのあとすぐに甲冑に身を包んだ男が立ち上がり声を上げた。それによってこの空間を支配していた静寂は終わりを迎えた。

 想護には聞き取れない単語ばかりなので内容はわからないが、声音から感じることができるのは怒っているということだけである。おそらく華久良が王様の話を遮ったことが原因だと想護は思った。のちに聞いた話では、やはり王様の話の腰を折ったことで怒っていたらしい。

 声を上げた男に向かって王様が片手を上げ何かを言ったところ、男は不満のある様子ではあったが静かになり頭を下げ直した。

 話の腰を折られた王様も特に気にした様子もないようで、妹の行動で何かお咎めがあるのではと心配していた想護はとりあえずホッとした。

 おそらく――想護には話している内容がわからない――王様に発言を許可された華久良は話し始めた。

 少し話すと王様も先ほどまで修道服姿だった少女も驚いたひどく驚いた様子で想護を見た。

 想護は話していた華久良に集まっていた視線が急に自分へ集中し驚き、なぜ? と周りを見渡して、さらに驚いた。なぜなら、甲冑姿の人たちもクラスメイトたちも驚きに満ちた顔で想護を見ていたからだ。想護にはわからなかったが華久良の話の内容は想護が言葉を聞き取れていないことであった。

「すみません。そちらの方は本当にわからないのですか?」

 王様の後ろに待機していた元修道服姿の少女が想護に向けて言った。

またしても想護は驚いた。なぜなら今度は日本語だったから。

「はい、今のは聞き取れましたが先ほどの広間での話は全く」

「まさか……。他にも聞き取れない方はいらっしゃいませんか? ブリスチーノ、そちらの方をお願いします」

想護が聞かれたことに返答したら、想護たちには聞こえない程度の声量で何かを呟き、他にも想護と同じく聞き取れなかった人がいないか確認し、他にはいないことを確認し終えると、今度は想護たちが入ってきた扉の方に向かって少女は言った。その後メイド服を着た妙齢な女性が部屋に入って来て、想護の隣まで来ると深々とお辞儀をし、

「私はここレグランド城のメイド長をさせて頂いております。ブリスチーノと申します。アミラお嬢様より貴方あなた様を任されましたので、私について来てもらえますか?」

 今名乗ったこの女性はこの城のメイド長をしているブリスチーノさんらしい。彼女の言葉は日本語だったので聞き取ることのできた想護は急に来たこの女性に付いて行って良いものか迷い自分のクラスメイトたちの方をチラッと見た。

「大丈夫です。他の皆様とは少し別行動になってしまいますが、またすぐに会えます」

 想護がどうしようか迷っているのを察したのかブリスチーノは微笑みながら言う。

 それを見て聞いた想護はこの人が悪い人ではないとなんとなくわかったので、ついていくことを了承し、その旨を伝えた。妹やクラスメイトにちょっと行ってくると言いながらブリスチーノと共に部屋を出ていった。



華久良たちは想護が出ていった扉を見ていると、

「あの方は大丈夫ですよ。先ほど華久良様が仰った。あの方はということが少々問題でありまして。それが本当か調べるだけですので。今から詳しくお話しするのでお聞きください。」

 三年K組の生徒たちはわけのわからないところ異世界に勝手に呼び出され、友達仲間が連れて行かれた状況に少しピリピリとしていた。そんな空気をどうにかするべく、先ほどメイドに指示を出した少女は努めて明るい声で言った。

「えっと、この国の王であるお父様が話す予定だったのですが、この問題などは私の方が詳しいので私がお話いたします。名乗り遅れましたが、私はアミラ・レグランドと申します。あなた方をこちらの世界に招く協力をいたしました。直接招いたのは私たちレグランド王国の神様のですが、話が難しく長くなるので今は省略させて頂きます。まず、あなた方をこちらの世界に呼ばせて頂いた理由なのですが……」

 華久良たちは数十分にもわたるアミラ姫の話を聞いた。

 簡単に話を纏めると、呼び出した理由は隣国などと戦争になりかけていて、今のレグランド王国ではどうしようもないために助けを求めたためである。

 助力を求めているのは、その戦争に力を貸して欲しい。のではなく、戦争が起こってしまう理由が魔国領にある魔王城にいる魔王であり、その魔王を倒して欲しい。理由わけでもない。

 では、何をして欲しいのかというと、

「私たちレグランド王国は呪いにより苦しんでいる魔王を助けて欲しいのです」

 アミラ姫がそういった瞬間、多くの日本からの来訪者たちは肩透かしを食らい芸人張りにズッコケた。

 なぜなら、戦争しそうだ! 魔王が原因! と言われたのでみなは戦争への参加、もしくは魔王討伐であると思っていたのに姫から言われたのは真逆の魔王の救助であるのだから。

「俺らが魔王討伐の勇者的ポジションじゃないの!?」

 これは誰の叫びだったのか? それとも全員の心の声が具現化したものか、はたまた異次元読者からのツッコミだったのか、それは誰にもわからないのであった。

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