第一章 【悲報】勝手に異世界に呼び出されたのに僕はお城でお留守番な模様……。

【第一話】 異世界

 一際強い光に目を瞑り次に目を開けたとき想護の視界に飛び込んできた光景は先ほどまでいたはずの教室ではなかった。

 そこには黒板や机、椅子といった学校のものは全く存在せず教室の数倍はあろうかというほど大きな広間であった。この広間には窓などがないため、この部屋の外がどうなっているのかを知ることはできない。窓がなく明かりも壁際にある松明のような火だけであり部屋全体が薄暗い。

 想護たち三年K組の生徒はおそらく大理石で作られていると思われる台座のようなものの上に全員いた。

 三年K組以外にも、この広間のようなところに二人の少女と一人の男の老人がいた。

 少女の二人は老人より少し離れており想護たちのいる台座の端にいる。

 老人はこの広間の唯一の出入り口の横に立っていた。

 想護たちに一番近い少女は台座の方を向き、目を瞑りながら膝を床に着き自分の右手と左手を胸の前で組んでいる。その恰好かっこうはまるで祈りを捧げているような恰好である。服装は協会にいる修道士シスターが着るような修道服のような服装であるが色が一般的な黒を基調とし一部を白にしたものではなく、真逆の白を基調とし一部黒が使われている。床に膝を着きしゃがんでいるため身長はわからないが、目を瞑り祈るようにしている。幼さを残した顔から修道服の少女の歳は自分たちとそれほど離れていないのではないかと想護は感じていた。

 白の修道服姿の少女のすぐ後ろに控えるようにたたずんでいる少女の姿はファンタジー世界のマンガやゲームに出てくる女騎士のような恰好である。一番目を引くのは彼女の腰にある平和な日本ではテレビの中くらいでしか見たことの無い剣。体は動きを阻害しないように胸部、腕部や脚部を鎧や籠手こてで身を包んでいる。顔には防具の類を着けていないので顔を見ることができる。顔は修道士の少女と同じく幼さを残した顔立ちをしているので歳は近いのであろうが、騎士姿の少女の表情は引き締められ如何いかにも三年K組の生徒を警戒しているといった雰囲気が伝わってくる。そのため幾分か年上のような印象も与えている。

 最後に、三人のうち一人だけいる男性である老人は少なくなった白髪で、皺の多い顔や曲がった腰から、歳を随分と取っていて六十歳は過ぎており、もしかしたら七十に達していようかというほどだ。服装はこちらも白を基調とした修道服である。老人の表情は騎士姿の少女とは違い、にこやかな柔らかい笑みを浮かべながら想護たちを見ている。

 想護は場所ここはどこで何が起きたのか考えようとして、軽い頭痛と乗り物酔いをしたような吐き気、激しい運動をしたような疲労感に似たものがあることに気が付いた。今までは急に起こったこの現象の驚きなどで感覚が麻痺しており気が付かなかったようだ。

「――――――――」

 一番近くに祈るような恰好をしていた修道服姿の少女が立ち上がり何かを言っている。それなりに長く話しているのだが、想護にはその言語を理解することができなかったため少女が何を言っているのかわからなかった。内容が理解できないため暇な想護は少女が話している間に周りにいるクラスメイトを見た。クラスメイトたちを見れば、彼らは理解できないはずの少女の話を真剣に聞いているように見える。

 騒がずに聞いているのはこれも学校のイベントと思っているのか、まだ理解が追いつかず混乱しているからなのか、想護にはわからなかった。

 少し長く話をしていた少女が話しを終えると一度こちらに綺麗なお辞儀をすると、少女は広間の出入り口の方へ向き歩いていく。彼女の少し後ろに佇んでいた騎士姿の少女も想護たちを気にしながらもお辞儀をして、修道服姿の少女に続く形で出入り口へ向かい階段を上っていった。

 これからどうする? と想護は聞こうとしたら、集が「とりあえず着いて行くか」と言い、クラスメイトたちも「そうだなぁ」と言いながら出入り口にある階段に向かい歩いて行った。想護は少女の話を聞いた後から不安そうにしている人や興奮し期待に満ちたような顔をした人がいることに気が付かなかった。いつもの想護なら気が付いたのだろうが今の想護は体調があまり良くないので気が付かなかったのも仕方なかったのだろう。

「ソウ兄もほら行くよ!」

 階段を上っていこうとしていた妹の華久良は兄がまだ台座から動いていないことに気が付き、後ろを振り返り呼んでいた。

 想護は体調がすぐれないが妹に呼ばれたこともあり、手に持っていたカバンを肩に掛け直し階段に向かって歩き出した。

動き出すのが遅かった想護が広間を出るのが老人を除くと最後になった。待っていた妹の華久良とその親友優莉と一緒に広間を出て階段を上がっているとその後ろから広間にいた老人が想護たちの後に階段を上ってきた。

 少し長い階段を上がりきると通路は左右に分かれており、クラスメイトは左側の通路に歩いていたので修道服姿の少女と騎士姿の少女は左側の通路に行ったのだろうと思われる。想護たちもそれに続くように左の通路に行くが、想護たちの後から階段を上ってきた老人は一度想護たちに礼をしてから右側の通路を歩いて行った。

 想護たちもクラスメイトと離れるのは良くないので左側の通路を進んだ。

 通路を進んでいる間、華久良と優莉が会話をしていたが、内容はあまり想護の頭には入ってこなかった。理由の一つは、先ほどからある頭痛や疲労感などであり、もう一つの理由は視界に入ってくる光景に目を奪われ、思考の大半がこの場所がどこなのか? になっていたためである。

 その光景とは通路を少し進んだら見えてきた大きすぎる学校の校庭ほどはある中庭やトラックが通れそうなほど大きい通路と高い天井、それを支える大きく装飾に凝った大理石の柱などである。先ほどの広間は地下にあったようで今歩いているフロアが地上一階にあたるようで、大きな中庭の横を想護たちは歩いていた。中庭には見たことの無い草花が咲いている。

 想護たちが今歩いているのは何かの建物の中であるのだが今まで想護が生きてきた中でこの光景に近い建物は一つしか知らないからだ、それは城。日本にあるような瓦屋根のではなく、西洋の城castleである。

 実際に想護が西洋の城に行ったことがあるわけではないので正しくはテレビや本などで見た城と似ていると思っただけであるが、想護の認識は正しかった。ここはレグランド王国の中心の街、ツェフボにあるレグランド城であるのだから。



 想護はクラスメイトたちに続いて歩いていると一つの大きな扉が見えてきた。

 扉の高さは七、八メートルほどで、横幅は四、五メートルはあろうかというほど大きな扉であり、その扉は開いている。

 クラスメイトたちの頭があるため、部屋の中はあまり見えないが少し見える部分だけでも先ほどの広間などとは比べ物にならないほど大きい部屋であることがわかる。

 クラスメイトたちが中に入り止まった。想護たちも少し遅れていたがすぐに追いつき想護はよく見えるようになった部屋の中を見回し、体調不良も忘れて立ち尽くした。

 さきほどまでの通路などでここが城のようなものとは思っていたが、この部屋の光景は想像の範疇を軽く飛び越えていった。

 綺麗な白い壁、一直線に敷かれた高級感のある赤い絨毯じゅうたん、キラキラと光るランプ。そこにある物はどれも一目で高級品であることがわかるほどの品々である。髙そうな赤い絨毯の両側に並んで立っている甲冑姿の人たち。そして絨毯を進んだところに如何にも玉座とわかるような椅子。それらに日本からの来訪者たち想護たちは圧倒され、言葉を失い立ち尽くしている。

 そんな何とも言えない空気の中で想護に話しかけてくるものがいた。話しかけてきた妹の言葉により想護は驚愕し、自分の置かれた苦しい状況に気が付くことになる。

「わぁ! ソウ兄ソウ兄! あの人のいたように本当にここはお城なんだね!」

「え? あの人が言った? ちょっと待ってくれ妹よ。さっきの部屋で話していた人の言葉が理解できたのか?」

「え? 何言ってるのソウ兄、あたりまえじゃん日本語だったし」

 想護は先ほどの少女の話を理解できなかった。話ていることが難しくて理解できなかったのでなく、言語ことばの意味自体が全くわからなかったのだ。想護には少女の言葉が知らない言語に聞こえたというのにもかかわらず、妹の華久良は日本語だったと言ったのだ。頭痛程度で母国語がわからないなんてことはない。明らかに何かが可笑しい。

「? そうですよ。お兄さんシスターさんの話を聞いていなかったのですか?」

 隣で会話を聞いていた優莉まで不思議そうにしている。

 想護は不思議に思い先ほどの広間でのことを思い出した。そして一つの仮説に行き着いた。自分以外の人たちは少女の話を真剣に聞いていた。知らない言語でわからないはずなのに。何十人といるのに自分以外の全員がわからない話を真剣に聞くだろうか? そんなことはあり得ない。騒ぎ出す者や隣の人と話したりするだろう。

 だから想護は思った。自分以外の人はあの話を聞き取れたのではないか? と。

 そこで想護は自分には聞き取れなかったこと、日本語でも英語でもない言語だったことを華久良と優莉に伝えた。

 華久良も優莉も驚いた顔をして二人はお互いの顔を見合わせた。

「本当なのですか?」

「ソウ兄が態々こんな嘘をつくとも思えないし、本当なんだろうね……」

 信じられないといった様子で優莉も華久良も言ってくるが想護がこんな嘘をつかないと知っているので信じたようである。

 とりあえず想護は先ほどの修道服姿の少女の話の内容を華久良と優莉に聞いた。話をまとめると、ここは日本がある世界とは別のいわゆる異世界にあたる場所であり、そこのレグランド王国という国のレグランド城という場所らしい。異世界に呼んだ理由はとても困っているので助けてほしいとのこと。

 先ほどの少女の話の内容を聞き終わった頃に玉座の横あたりに隠れるようにあったドアが開き、一人の老人と一人の少女が入ってきた。

 老人と少女が入ってくると甲冑姿の人たちは一斉に膝をつきこうべれた。それだけで入ってきた老人が偉い人であることがわかる。

 入ってきた人物をよく見ると優しそうな雰囲気をした老人と先ほどまで修道服を着ていた少女であった。先ほどまで一緒にいた女騎士姿の少女はいないようである。

「――――――――」

 優しそうな老人が玉座に座り、少女がその斜め後ろに立ったところで、老人が話し始めた。

 しかし、日本語ではないので想護には理解することができない。

「ソウ兄、あの王様の言葉も日本語じゃないの? 私には日本語にしか聞こえないんだけど?」

 妹がわからないのかと聞いてきた言葉の中にあった王様という単語で、想護はあの老人が王様であることが分かって――なんとなくそうだろうなぁくらいに――はいたが。

 妹が話しかけてきたが、優莉も気になっていたのか想護たちを見ている。

「あぁ、やっぱり僕には全く知らない言語に聞こえるよ」

 妹に返答した想護はどうしたものかと痛む頭で考えようとして、他のことに気を取られて思考を中断させられた。なぜなら華久良が、

――――――――すみません!」

 手を高く挙げ、大きな声で王様の話の腰を折ったのだから。

 尚且なおかつ、華久良が言った言葉が日本語ではなかったことも理由であろう。

 想護は華久良の言動が王様への不敬で不味いめんどうなことにならないと良いなぁと願い、妹がなぜ知らない言語を使えたのかを考えようしたが、自分にはわからないので諦めるしかなかった。

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