負け犬共は


 私達は檻の中で毎日その光景をずっと見ていて、言葉を失っていた。そして次は自分じゃないかと、他の仲間と共に、死の恐怖を味わっていた。

 次ではなかったら明日かも。明日ではなかったら明後日かも。明後日ではなかったら明明後日かも。そうやって震える日々を送っていた。


 観客が「ざまぁみろ」と私達に向かって喜びの声を上げていた。その言葉が今でも脳裏にこびり付いている。

 その場が狂気―…否、狂喜に満ち溢れていた。あれはあの世の入り口に近い場所だった。

 呆然とするまでもなく、淡々と他の仲間も同じように死んでいった。



 ――嫌だ。あんな死に方したくない。

 あそこには戻りたくない。あんなこの世の物ではない場所に帰りたくはない。


「捕まえたぞ!」

 無骨な男の手が私の肩を掴んだ。男の込めている力は強くて、肩の骨がギリリと痛んだ。


「触らないで無礼者! 私を誰だと思っているのです!」

 その手を振り払い、後ろを振り向き、咄嗟に構えた。

 彼らはそれぞれ武器を持っていたからだ。武器と言っても鎌やら鍬やら斧。一般的に目にする農具等である。武器と呼べない代物だが、長年培われてきた防衛本能が私を勝手に動かした。


 足が止まると、男達は私が逃げられないように包囲する。

 ――囲まれたわね。


「国家の犬だろう!」

「毛並みの良いだけの駄犬共がっ!」

「一匹残らず殺してやる!!」

「私の娘を返してちょうだい!」

 口々に罵声を浴びせられるが、そんなもの右耳から左耳へ流せばいい。無視を決め込み、敵の人数を数える。


 六、七、八――……十一人か。なら、まだなんとかなりそうね。


 戦うことを知らないたかが民衆に、遅れをとるつもりはない。それに相手は男だけでなく、女もチラホラといる。

 女なんかは相手ではない。その手には包丁を持っているが、私にとってはそこまで脅威な存在ではない。其処らの石ころと同じである。

 家の中で従順にご飯を作っていればいいものを――。

 ――大丈夫。確実に殺れる。


「お待ち。その娘なかなかの別嬪だよ」

 棒のように細いおばさんが、前に歩み出た。


「だからなんだと言うんだ、ロルダさん」

「あんたらその娘、犯しちまいな。女にとって一番の地獄を見せるのさ。今までの怨みをあの娘の体に刻むんだよ」

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