最期が見える

「あの人は火事で死ぬね」


「あっちの子は歳とって家でぽっくり逝く」


「あいつは事故で全身バラバラになって死ぬな」


 クラスメイトに、そんなことばかり言う奴がいる。「人の死に方が見える」のだそうだ。


 腹が立って仕方がないから、訊いてみた。


「じゃあ、あたしがどうやって死ぬのか当ててみてよ」


「んー、あなたは高いところから落ちて死ぬよ」


 そう言われた。やっぱり腹が立った。


 なので、覆してやろうと思った。


 美術の授業で使った彫刻刀を持ってきて、首に刺す。

 喉に異質なものが入り込んでくる違和感と激痛と息苦しさ。目の前がちかちかする。


 嫌だ、嫌だ、やめたい。でもやらなきゃ、あいつのインチキを証明しなきゃ。

 大丈夫、やれる。このまま刃の部分を全部押し込んで…


 ははは、どうだ嘘つき! お前の予言とは違う方法で死んでやるぞ!

 悔しいか? お前は超能力者でも何でもないんだ! ははははは!




 あれ? 何してるんだろう。


 なんでここまでしてあいつの言葉に逆らおうとしてるんだろう。

 なんで命をかけてるんだろう。どうせ嘘なんだから相手にする必要全然ないのに!

 このままじゃ死んじゃう! 死にたいなんて思ってなかったのに!


 彫刻刀を抜こうと力を込めたつもりだったけど、根元まで首の肉に埋まった刃は微動だにしない。手に力が上手く入っていないのかもしれない。


 嫌だ、嫌だ、誰か!


 窓を開けた。大声で助けを呼ぼうと思った。

 バランスを崩した。

 身体が宙に浮く。

 窓から飛び出す。

 地面が、眼前にぐんぐん迫ってくる。





「ね? 当たったでしょ?」

 笑いながらそう言う、憎らしい声が聞こえた気がした。

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