否定派
「幽霊なんているわけないんだよ!」
友人はいつものように演説を始めた。私が幽霊とか妖怪とか、そう言うのが好きだと知った上でこうやって軽蔑するのだ。
「魂なんて身体のどこに入ってるっていうのかな? 本当に入ってるならとっくのとうに、人間を解剖するようになった頃に発見されてると思うんだけどな」
にやにやしながらこちらを見て、続ける。
「そもそも魂ってもんが本当にあるなら、誰にでも分かるように証明してもらいたいねえ。一部の霊感とやらがある人たちの主張だけで信じろって言われても無理だよ」
こちらが無反応なのが不服なのか、友人は少しむっとした表情になる。
「幽霊がいるなら、なんでみんな死ぬのを怖がるのかね? 死んでもこの世に残れるなら、怖がらなくていいような気がするんだよね」
声が棘を含み始めた。あからさまにこちらを睨んでいる。
「『幽霊の正体見たり枯れ尾花』って言うじゃない? 幽霊なんてみんな怖がりな奴の勘違いなんだよ」
半ば怒鳴るような声。
「とにかく、幽霊なんていないんだよ」
力を込めて、友人は宣言した。
「だからね」
言葉を切り、息を吸い込む。吸えたのかどうか、分からないけれど。
「だからね、私があの日夜道で知らない人に刺されたことも、ものすごく痛かったことも、たくさん血が出たことも」
俯いて肩を震わせる友人の声が、涙声になっていく。
「そのまま死んだことも、全部嘘なんだよ。だって、死んでるなら私はここでこうしてないはずだもの。幽霊なんていないんだもの。
ねえ、そうだよね? 私、生きてるんだよね?」
命を落とした上に、自分が否定し続けていた存在になってしまった友人に、うっすらと向こう側の景色を透かして立っている友人に、何と言葉をかけたら良いのか分からなかった。
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