殺害理由

「うちの人がだいぶ前に殺されたって話、したよね?」

カフェで向かいの席に座る知人に突然切り出され、戸惑う。

「え、ええ、はい…」

確かに出会ったばかりの頃にそう聞いた。でも詳細までは聞いていなかった。

「詳しいこと、話してもいいかな?」

辛いはずのことを話してもらっていいのだろうかと思ったし、正直、何故食事中のこのタイミングで?とも思った。

でも本人が話したいのなら… 承知の意味でうなずいて見せた。


「ありがとう。じゃあ話すね。…うちの人が殺されたのはね、本当に突然だったの。明日一緒に遊びに行こうって話してたその翌日にだよ? ほんと、最初連絡もらった時は季節外れのエイプリルフールかと思ったよ。というかそうであってほしかった。

でね、うちの人の死に方がね、まず四肢を全部胴体から切り離されてて、喉から下腹部にかけて一直線にナイフで深く切り込みが入れられてたの。そこから心臓と肝臓と、えーとあと何だったかな? とにかくいくつか臓器が取り出されてその辺にほっぽり出されてたって。さらに顔も原形が分からなくなるくらいぐっちゃぐっちゃになってたよ。遺体見たけど、ほんとにあれは今でも脳裏にこびりついて離れないね」


知人は一旦そこで話をやめ、飲み物を一口飲んだ。


「それで、犯人の動機なんだけど… 今流行りの『誰でも良かった』ってやつだったよ。でもただの『誰でも良かった』じゃなかったんだよね… そいつ、犯人、SNSにね、気に食わない奴がいたんだって。いつも自分と正反対の意見ばっかり書いてる人がいるから、嫌がらせのためにひどいコメント書いたりしたけど何個アカウント作ってもブロックされて終わりだったんだって。それでとうとう頭にきたんだって。

だから、その気に食わない奴にグロい写真を送りつけてショック与えてやりたかったんだって。グロい死体になってくれるなら『誰でも良かった』んだってさ。笑っちゃうよねえ。そんなことのためにうちの人は殺されたんだって。そんな理由のためなら人もばらばらにして殺せるんだってさ。人間って結構固くてばらばらにするの大変らしいけど、そんなゲロ吐きそうなくらいくだらない理由があれば人も解体できるんだってさ。

結局そいつ、うちの人がばらばらになった写真を気に食わないアカウントに送ったことで犯行がばれて逮捕されたんだけど、そんなことしたら即捕まるってことすら分からなかったのかねえ? 人に嫌な思いさせることしか考えられなかったのかねえ? ほんっと馬鹿な人もいるんだねえ。ほんっとに馬鹿だよねえ?」


焦点の合っていない、でもわずかに潤んだ瞳で、知人は訴え続けてくる。

何も、言葉が出ない。


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