第3話:現実となった幻想②
寝て目が覚めれば……などと考えている人は、はたして何人いるだろうか?
俺もそのうちの一人ではあるが、正直現状でのんきに寝ることが出来るのはよほどの大物だろう。
「まずは、灯を探して……次に祥吾、か」
半透過ディスプレイを眺めながら今後の行動指針を口にしていく。祥吾は二の次、三の次なのはご愛嬌だ。あいつも戸惑っているだろうが、古参のベテランプレイヤーなのだ。少々のことでは問題になることはないはずだ。
ただ、絶対に“ない”とは言わない。
こんなふざけた状況に陥って楽観視するほど能天気ではない。ただ、友人と身内であれば、身内を優先するのは当然である。と、特殊な状況下では致し方ないと思っている。恐らく、祥吾も“あの人”を探していると思うし、その辺はお互い様というか、分かってくれると信じている。
……無事でいろよ、祥吾。
一抹の不安を感じながら半透過ディスプレイをタップしていく。
あのあと腕輪で他に出来ることはないかと触っていたところ、緑の宝飾を押し込むと半透過ディスプレイが起動してメニュー画面を表示されることに気付いた。
その中にフレンドリストの項目があり、タップすると現在ログイン状態のフレンド一覧が表示された。
その中には、灯の名前と祥吾の名前もあった。
そして、当たり前といえば当たり前なのだが、ログイン状況はフレンド全員がログイン状態となっていた。さっそく連絡が取れないものかと試行錯誤をしてみたが、ゲームのときであった”挨拶機能”が現状では使用不可となっていることに気付いた。
ゲームのときは“挨拶”をタップすればポイントを獲得して無料ガチャを引けたのだが、現実となった今ではガチャなど存在しないのだろう。ゲームとの齟齬を見せつけられて鬱屈とするが、遠方と連絡を取る手段がなく、現状では無理だな。と諦めて、次に行動開始を前に装備の確認をすることにした。
「何があるか分からないから、装備は変えておくか。あとはスキルの確認も必要だけど、これは後からでいいか」
メニューから”装備変更”をタップして、現在装備されている一覧を表示させる。
現在装備しているのはゲーム内で最高級品ではあるが、これは戦闘向きの装備ではない。どちらかといえば生産スキルの補正目当てで作った装備である。
『スマート・ワールド』内において、
その一人と言うのが俺なのだが……、その職業に就くには一つの要素がある。
それは、『運』である。
キャラクターメイキングを開始した時点で隠しステータス『特殊技能』と呼ばれるものが選択される。これはキャラクターに一つ付与されるスキルで、凡庸スキルからレアスキルまでその数は様々だが、その情報はSIMカードで認識される。そのため、チャンスは一度きりしかない。同一端末でアプリを再インストールしても、SIMカードを変えない限り、特殊技能の再習得は出来ないのだ。
そして、『特殊技能』の中には超低確率で付与される“先天性特殊技能”と呼ばれる特殊職業――
公式発表では先天性特殊技能は五つ存在し、その五つはすでに獲得されている。いずれは追加もあるのではと噂されているが、現在まで確認はされていない。
「防具は魔力特化でいいか……いや、体力上げた方がいいのかな」
そんなわけで当たると思っていなかった職業を引き当ててしまい、騎士ではじめる予定だったが気付けば錬金術師を目指していた。もっとも、最初から錬金術師になれるわけではなく、最終的に錬金術師へ至ることが出来る権利を手に入れただけなのだ。
別に騎士ではじめてもよかったのだが、せっかく手に入れたチャンスを逃すのも惜しいと目指してみたが、その道のりは過酷の一言だった。
まず、種族が普人族であることが大前提。そうでなければ、先天性特殊技能【思考の創造】が習得出来ないからだ。
そして、
そして、ようやく錬金術師へと転職が可能となる。
下級職はレベル三〇で転職可能となるが、ジョブをマスターにするまではレベル五〇まで上げないといけない。上級職に転職後はレベル一からはじまり、レベル五〇で転職可能。ジョブマスターがレベル七〇となる。このレベルは職業実装当時のカンストレベルで、現在もそのまま流用されているが、現在のカンストは一〇〇なのでジョブマスターになってもそのままレベルを上げることは可能となる。というか、上級職以上が未だ未実装なので、現在のカンストプレイヤーは上級職止まりとなっている。
まぁ、そんなこともあり、錬金術師到達までに複数のジョブをマスターさせることになり、二年半近くかかったのはいい思い出だろう。途中何度も諦めようと思ったが、今となっては生産の楽しさにどっぷりとハマってしまったのでやめる気など毛頭ない。
ただ、この
同じ生産系上位職業である
まず、『スマート・ワールド』はレベルアップしただけでは、ステータスは上昇しない。
他の職業では三から五、レベルが上がれば一〇ポイントというステータスポイントを付与され、それを任意のステータスに付与出来る。対して、
カンストしている現在でも振り分け可能なステータスポイントは合計二〇〇しかなく、しかも一〇〇はランダムだからかなり酷いものだ。しかも、ステータスリセットをしても、リセットされるのはランダム付与されたポイント以外の一〇〇ポイントだけという鬼畜仕様だった。
最初はこの事実にただ涙したものだ。レベルが上がっても旨みもないし、ダンジョン行っても戦力にならないから基本はソロだったし。
だが、しかし――
それは職業補正効果、“装備の補正値増加(超絶)”と“補正効果拡大(神技)”である。
補正値増加(超絶)は装備品の攻撃力や防御力などの数値を倍化させる効果で、補正効果拡大(神技)は装備品に付随するパッシブスキルやアクティブスキル、ステータス補正値を二倍から最大で五倍まで拡大や上昇させるものである。あと、補正効果拡大(神技)は、職業別に修得したスキルにも最大で三倍まで効果が適応される、とんでも仕様だったりする。
だから、レベルが上がるにつれて、装備品のグレードが上がるにつれて、徐々に
「武器は
半透過ディスプレイをタップして、“装備変更”画面を見ていると、“セット装備登録”の項目があった。
「おっ」
思わず吸い寄せられるようにタップすると、そこには以前登録していた“魔力特化”、“生産(通常)”、“生産(最上級)”の三種が表示された。
とりあえず、装備の
「うおっ」
刹那、強めの白光が瞬き、思わず目を瞑ってしまった。
「び、びっくりしたぁ」
そういえば、ゲーム内でも装備を変更するときアバターが光っていたなと思い出した。そして、自身の姿を確認して、特に違和感なく装備が換装されていることに気付いた。
全身黒ずくめから、灰色を基調としたローブとハット、白地の靴に紺色のグローブ。
ゲーム内ではアバターを課金して購入した衣装で着飾ることも出来たが、生産職としては手塩にかけた制作物をいつでも見ていたと思って課金衣装には一切手を出していない。というか、そんなものにお金をかけるなら他のアイテムを買う方が断然いい。
装備には生産時にランダムでスキルやステータス補正が付く。これは完全ランダムで、数値や効果もバラバラ。高数値に優良スキルを狙うとなれば、何度も作る必要があるのだ。
いくら生産系職業の最上位と言われる
素材集めのためにダンジョンに潜ること数百回。そして、数十回の生産を経て、INTのステータス補正数値マックス、おまけでDEXとLUKの高数値が付加されたローブが出来上がった。
錬金術師は生産系職業なので、DEXが重要になる。もちろん、他のステータスも重要なのだが、取り分けDEXが一番で、次いでLUKだろう。
STR(筋力)
INT(知力)
VIT(体力)
AGI(速度)
DEX(器用)
LUK(幸運)
『スマート・ワールド』内ではこの六種のステータスで構成されている。
この六種のステータスが平均的な種族というのが、普人族と呼ばれる『スマート・ワールド』内でもっとも数多い種族である。他に、魔族、妖精族、獣人族の三種族に、普人族を合わせた計四種族が『スマート・ワールド』の住人となるのだが、各種族にはそれぞれ“種族補正”というステータス値の上昇が存在する。
普人族は平均的。獣人族はSTRとVIT、魔族はINTとAGI、妖精族はDEXとLUK、のステータスにそれぞれ上昇補正があり、職業選択の基準になっていたりする。まぁ、種族補正を実感できるのは初期の頃だけで、カンスト付近になればどの種族でも大して変わらない事態となるのがこの手のゲームではよくあることだ。
生産だけをするのであれば、DEXとLUKの数値を上げれば大抵のことは出来る。もっとも、よりよい品を作ろうとすれば、槌を揮う筋力を補うSTRや調合の成功率を上げるINTも必要となる。
対して、モンスターとの戦闘を前提にすれば、ステータス補正は大きく変わってくる。何せ、ステータス補正が最低の
『聖隷の法衣』
レア度:Ⅵ 隷属させた偉大なる聖霊が着ていたとされる法衣。
呪われていたが、現在は呪いは解呪されている。
スキル A:簒奪の英霊召喚 暴虐と簒奪の英霊召喚。
現在召喚条件未達のため召喚不可。
INT+八五 DEX+五六 LUK+四八
あれ、おかしいな……見慣れない一文が装備説明にあるのだが。
装備一覧からローブをタップしてみたのだが、前半部分は見覚えがある。レア度は装備品の等級を示し、最下級のⅠから最上級のⅦまでの七段階。一般的な店売りの武防具はレア度Ⅱ相当で、Ⅲともなれば価格は二倍以上に跳ね上がる。レア度:Ⅰは下級素材や壊れたアイテムに付くことが多い。レア度:Ⅱはドロップした一般アイテムが相当し、店売りの武防具もドロップ品が元になっている設定となっている。
「ん? 物理防御と魔法防御の表示がない?」
装備の詳細で名前の横に表示されるはずの防御力表示がないのは何故だろうか? ……これだけでは考えても分からん。とりあえず、保留で。
「んー……耐久度とかの表示は元からないからいいけど、ないから“壊れない”ってことでは……ないよな」
『スマート・ワールド』には耐久度という設定は元々存在しないため、装備が壊れる心配はなかった。ただ、その代わりに制作の成功率が恐ろしく低く、ゲーム内の鍛冶師NPCに制作を依頼すると、レア度が高くなるにつれて成功率は下がっていき、レア度:Ⅶともなれば一割以下という鬼畜っぷりを発揮している。
「…………で、このローブ、呪われてたのかよっ」
衝撃の事実がここに明らかに!
「しかも、英霊召喚って……召喚師じゃねぇっての」
上位職の中でも高難易度の転職条件を持つ
しかし、ゲーム内ではなかった説明文やスキルが追加されているのは何故だ?
今回のアップデートで追加されたと考えるのが自然かも知れないが、ゲームが現実になった影響だと考えるのも妥当かも知れない。腕輪を操作してメニューを確認してもアップデートの更新内容に関する記載がないのだ。つまり、自分で検証しろってことだろうな。
どちらにせよ、憶測は憶測でしかない。結論づけるのは検証してからだ。
『隠者の灰霊靴』
レア度:Ⅵ 隠者が好んで履いていた靴。
精霊の恩恵を受けているため、身が軽くなる効果がある。
スキル P:シルフィードの気まぐれ 移動速度二五%アップ。
AGI+五〇
おや、こちらにも見覚えのないスキルがある。
装備の説明文は前と変わらないが、AGIが付加されたからそういうものだと思っていた。しかし、実際にスキルで効果が発動したとは驚きである。
「Pってことは、パッシブか……さすがに画面越しでは実感出来んわな」
そう思いながら次の装備をタップする。
『聖隷の魔帽』
レア度:Ⅵ 隷属させた偉大なる聖霊が着ていたとされる法衣。
呪われていたが、現在は呪いは解呪されている。
スキル P:詠唱短縮 魔法詠唱時間を半分にする。
INT+四五 VIT+二六
これは特に変わった様子はない。
スキルに関してはアクセサリーに上位互換のものが、あちらを換装した場合のためにあるようなものだから問題はない。
『魔導者の黒手袋』
レア度:Ⅳ 魔導士を志す者達が好んで愛用する手袋。
錬金術師が制作した特別仕様の一品。
スキル A:魔導捕縛(マジックバインド) MP二〇消費 冷却時間一〇秒
相手の動きを五秒間拘束する。
魔力抵抗値が高い場合、効果時間の軽減、効果無効。
DEX+二一 AGI+一七
いや、錬金術師が制作した特別仕様の一品ってなんだよ。とツッコミたいが、スキルの説明が少し変わっていた。
このグローブは装備のレア度でいえば中級のⅣなのだが、このグローブにしかアクティブスキル『
「二ターン捕縛から五秒間捕縛に変わってるな。――そして、全部防御力表示がなかったな」
ゲームではターン制のコマンド戦闘だったが、現実(リアル)の戦闘にターンなど存在しない。敵は待ってはくれないのだ。相手も黙って死ぬつもりはないだろうし。
「そうか……そうなると、AGIも重要になってくるってことか」
さすがにAGIに特化した装備は作ってない。しかし、今から新規作るのは色々と厳しいものがある。アクセサリーにはステータス補正が付かない分、特殊効果が充実しているのもあるし、そちらで代用するのもありか。
「そういえば、ステータスって見れるのかな?」
メニューを確認すると、“個人情報”という項目を見つけたのでタップしてみる。
名前:ワタル
主職業:
副職業:未設定
生命力:一〇〇 状態異常:なし
魔導力:一〇〇
特殊技能値:一〇〇
STR:二三
INT:一三七(+二六〇)
VIT:三六(+五二)
AGI:五八(+一三四)
DEX:一五〇(+一五四)
LUK:七〇(+九六)
備考:職業補正により、装備の補正値二倍(適応済)
ん? ゲームのときと微妙に違う?
“個人情報”をタップすると、ステータス画面が出現したを眺めながら、違いを探していく。まず、ステータスの数値は変化なし。カッコ内の数値は装備品の補正値でこちらも変化なし。備考の通り、二倍の補正値が適用されている。
この数値でもカンストしたプレイヤーと戦えば苦戦は必至だ。
カンストした魔法系上位職の『賢者』がINT極振りにすれば、余裕で三〇〇を超える。そこに装備補正まで入り、職業補正の『スキル攻撃力倍増(絶大)』まで入ると超高火力職に変貌する。
……アレは恐ろしかった。
武器制作の依頼を受け、その受け渡しで模擬戦をやりたと言い出し、ガチでやりあった賢者が一人いた。あの人は賢者なのに「力こそ正義だ、ヒャッハーッ」という世紀末脳筋だったからな。賢者でモヒカンてどうよと何度思ったことか。作った杖も性能より見た目で選んだ髑髏の飾りがついて禍々しい雰囲気を醸したものだったし、着ているローブもまっ黒でボロボロだったし、完全に賢者じゃねぇと思った俺は悪くない。まっ、武器以外はアバター衣装の『世紀末セット』なのだが、このセットは不人気で一週間ほど販売中止となった逸話を持つ。
閑話休題。
次におかしなところは……、生命力と魔導力の数値か。
生命力はヒットポイント、魔導力はマジックポイントと言えば大抵は通じるのだが、ゲームのときは生命力は七〇〇〇越えで、魔導力は一〇〇〇〇を超えていたはずだ。
「減ったわけじゃないよな……?」
可能性は否定出来ないか。
レベル表示が見当たらない代わりに、職業のところにレベル表示がある。ゲームのときはカンストしていたので、これはそのままの意味で捉えたらいいのだろう。
しかし、“副職業”とはなんだ?
「……分からん、さっぱり分からん」
情報が皆無だからひとまず保留だな。
しかし、生命力と魔導力は早急に把握しておかないとまずいな。と、思いつつ、とりあえず生命力の項目をタップしてみる。
『生命力は一〇〇%。健康状態は良好です』
すると、こんな表示が出てきた。
「ああ、パーセント表示なのか」
試しに魔導力もタップしてみるが結果は同じ。
なるほど、納得。……って、ステータスは数値化されてるのに、何故生命力や魔導力はパーセント表示とはこれ如何に? 何となく理解は出来るが明確な答えは考えても分からないので保留だな、これは。
特殊技能値についても同じだ。何となく名前から特殊技能――スキルに関するものだとは理解出来るのだが、要検証ってところだろうな。
戦闘スキルはひとまず置き、生産職だから検証するとなれば素材がいるな。
インベントリ内にも少しはあるが、大抵の素材は倉庫に入れたままになっているからな。
……ん?
倉庫? あれ、倉庫って――
「――って、そうだ! 倉庫っ」
何故今まで忘れていたのか。生産系職業にとって一番大事な素材を保管している場所――倉庫の存在を忘れているなんて!
慌ててディスプレイに目をやり、メニューをタップする。その中に“倉庫”の項目を見つけ、タップをするも何故か無反応。
「あ、あれ?」
もう一度タップする。しかし、結果は変わらず。
「……もう一度」
タップ、無反応。
タップ、無反応。
タップ、タップ、タップ、タップ、タップ……無反応。
「……なんてこったい」
その場で崩れ落ちるように膝をつき、腹の底から息を吐く。
倉庫が使えない。倉庫が機能していない。倉庫が……倉庫が――
「俺の素材達が消えたぁあああっ」
周囲の目など気にすることもなく、悲しみの慟哭が夕暮れの空へと消えていった……。
☆★★★☆
世の無常を嘆く慟哭が木霊する街の一角。
灰色のローブを着た少年が何やら独り言を呟いているのに聞き耳を立てていたところ、いきなりの大絶叫。
「きゃっ」
思わずあがった悲鳴を口を押さえてそちらを見れば、膝をついて崩れ落ちたローブの少年が黄昏ていた。そんな奇行に驚きながら、膝を抱えた革鎧姿の少女が目を赤く腫らして宙を見つめていた。
「……うぅ」
突如ゲームの世界が現実となった世界で、どうしたらいいのか皆目見当が付かない少女は途方に暮れていた。
少女はゲームをはじめてまだ一か月も経たない初心者プレイヤー。職業は
「どうしよう……」
フレンド登録されているのは現実の友達ばかりだが、探した限りでは誰一人見当たらなかった。
それもそのはず。少女がいるアジオルの町は新規プレイヤーが最初に降り立つ町であり、ここから多くのプレイヤーが巣立っていった。
少女の友人達は少女よりも早く『スマート・ワールド』をはじめていたので、すでに先にある町を拠点にしていた。ただ、少女は特に『スマート・ワールド』に対して思い入れがあるわけでもなく、友人達がやっているので取り残されるのは嫌だとはじめたに過ぎない。加えて、この手のゲームは初心者とあって、色々と友人達に聞きながらの手探り状態で、助言通りに行動していた。
あと少しレベルを上げて装備を整えてから次の町を目指そうと思っていた矢先、このような事態となってしまった。
「ああ、もう……」
助言通りに動くことに慣れてしまった少女は、いざ自発的に動こうとして頓挫していた。
何をするべきなのか、装備はこのままでいいのか、色々とやらなければいけないことがあるのに、何をどうすればいいのかまったく分からずにいた。
――ああ、嫌だな……
そして、もう一つ心配事もある。
それは戦闘に関してだった。
ゲームの中での戦闘であれば特に感じるものもなかった。
ゲームのキャラクターが死ねば悔しいがそれだけのこと。けれど、それを自分で行うとなれば? 死んでしまったら? 無理に戦闘をする必要はないのかも知れない。けれど、友人達に会うためには町を出なければいけない。そうなれば、モンスターとの戦闘は避けられないだろう。
そもそも、次の町はどっち? どこへ向かっていけばいい? モンスターの強さは?
痛い思いはしたくない。怖いことはしたくない。でも、友達に会いたい。グルグルと巡る思いが徐々に憂鬱へと変わっていき、こうして膝を抱えて座り込むことになった。
「帰りたい……」
自然と漏れたそれは、少女の本心なのだろう。
どこへと問われても、答えに困ってしまう。何故なら、ここは仮想現実(ゲーム)ではなく“
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