第25話:エムノシル探訪⑤

 一夜明けて。

 本日も図書館で調べものを開始しよう。と思ったのだが、この状況は如何なものでしょうか。


「渉、ちょっといいか?」

「わ、渉君――これ、教えてほしいんだけど」


 モテ期到来? なわけねぇか。

 それにしても何故二人が一緒なのか? それは、広美さんが泊まっている宿と俺が泊まっている宿が同じで途中でエルさんと別れたのが、その十数分後、何故かエルさんも泊まっていた宿を引き払ってこちらへやってきたのだ。

 それから、世間話をしながら互いの近況を語り合ったが、広美さんは自身のことに話が及ぶと口を紡ぐことが幾度となくあった。人間、言いたくないことは誰にでもあるものだ。

 エルさんは深くは追及せずに話を切り替え、そんなこんなで一時間くらい話しただろうか。エルさんが何を考えてこちらの宿へ来たのかを再度問うと、どうやら広美さんの所持金が乏しいという話を聞いたらしく、相部屋を希望してきたようだ。 多分、罪滅ぼしなのだろうけど、広美さんも困り果てて俺に助けを求めてきた。さて、どうしたものかと思ったが、「別に渉も一緒の部屋でもいいのだが」と言い出したときは無理だと判断して即時撤退した。ごめんね、広美さん。


「えっと、エルさん何? 広美さん、ちょっと待ってね」


 とりあえず、先にエルさんを片付けて、広美さんの話をゆっくり聞こう。


「うむ。戦乙女には職業専用スキルが幾つかあるのだが、それは知っているよな?」

「うん、まぁ……名前くらいは」

「その職業専用スキルが現在、使用不可になっているのだ」

「……は?」


 初耳なのですが、それは。と、広美さんを見れば、同じく目を丸くしていた。


「広美はまだ、レベル的に専用スキルは習得出来ないと思う」

「あ、そうなんですか」

「戦乙女の職別スキルは、レベル四五ではじめて覚えるのだが……」


 それがすべて使えないということか。


「それって、職別スキルだけですか?」

「ああ。他の武器スキルは問題ない。魔法スキルはあとから試してみるが、恐らく問題ないはずだ」


 小さく息を吐き、エルさんは自嘲気味な笑みを浮かべて続ける。


「何せ、職別スキルは灰色の文字でタップしても反応を見せないからな。まったく、意味が分からない……ふざけているとしか言いようがない」

「灰色、か……」


 “ショートカット機能”にスキル登録しようと思ったときに見たが、恐らく選択不可の意味なのだろう。


「何か心当たり、ある?」

「んー……さすがに職別スキルとなるとなぁ」


 まったくもって分からん。お手上げです。というのは簡単だが、これは戦乙女に限ったことではない可能性もある。


「渉は問題ないのか?」

「ちょっと待って」


 以前も確認したが腕輪を操作して“スキル一覧”を呼び出して確認。


「んー…………問題はない、かな」


 オールグリーン。スキル一覧にある習得済スキルは職業専用もそれ以外も問題なく白色の文字をしていた。


「なら、何が理由で……」

「そもそも、ゲームのときはどうやって覚えたの?」

「それはレベルを上げて、神殿で祝福を受ければ使えるように――」


 ほほぅ。そんなことをしなければいけないのか。そして、何かに気付いたエルさんは小さく唸りながら考え事をはじめた。


「そうか……女神ミルリトの神殿で、再度祝福を受ければ……」

「ミルリトの神殿って、ここにもありましたっけ?」

「一応、“リ・ヴァイス”の世界では一般的に信奉されている女神だから、どこでもあると思うが」


 確かに、世界の維持を主神から任された女神だかな。それを崇めるのは普通か。


「それなら、あとで神殿の場所を聞いてみよう」

「そうだな」


 とりあえず、指針が出来たのでエルさんの話はこれで終わり。次に広美さんの話を聞くとしますかね。


「それで、広美さんは――」

「…………」


 何故か、頬を膨らませて拗ねてらっしゃいます。


「えっと……」

「仲……いい、ですね」

「……は?」

「何だか、気心知れているっていうか……通じ合っているっていうか」


 そうか? 俺としては、いまいちエルさんが分からないのだが。


「そうだな。身体で語り合った仲だからな」

「ちょっ――誤解を招く発言禁止っ」


 本当に分からない人だよ! 何しれっと爆弾発言紛いのことをここでぶち込んでくるかな。きっと、PVPでのことだと思うけど、あれはゲーム。直接やりあったわけじゃないだろうが。


「本当に、お二人はどんな関係なんですか……」

「どんなって言われてもなぁ」


 戦闘狂の被害者? が、一番しっくりと来るが、それを言うのは自殺行為ということものだ。

 大体、昨日のうちに適当な説明をするつもりだったのが、エルさんがやってきたことで話が有耶無耶となってしまったのだ。出来れば『錬金術師アルケミスト』というのは黙っておきたいから、エルさんと口裏を合わせたいところなのだが……、この人は空気を読むということは壊滅的に苦手そうだからな。


「うむ。装備を作ってもらったり、共にダンジョンを攻略したり……苦楽を共にした仲間、だな」

「仲間、ですか」

「そうだ。渉は強い……私も何度負けたことか」


 勝ち越しがよく言うわ。勝率は九割じゃないかよ。


「リーダー、あっ……エルさんに勝つなんて、渉君強いだねぇ」

「それはそうだろ。渉は五人しかいない唯一無二の職業ユニークジョブの一人だからな」

「……え?」


 ちょっ、止める間もなくサラッと何暴露してんだよ、戦闘狂!


「ちょっと、エルさんっ」

「ん? なんだ」


 本当に空気を読まない人だと抗議をしたが、当人は不思議そうに首を傾げていた。俺が何故怒っているのか分からないようだ。


唯一無二の職業ユニークジョブ……そして、生産職って、もしかして……」


 そして、広美さんが答えに行きつこうとしていた。


「渉は『天下五傑ピアレス・ファイブ』の一人、『隠匿の秘術者ヘルメス・トリスメギストス』の異名を持つ『錬金術師アルケミスト』だ」


 もう、いいか。広美さんは誰彼と言うような人には見えないし、エルさんは……このあとで要お話だな。


「あ、『錬金術師アルケミスト』って、生産職最上位って言われている……」

「渉の作る装備品は同じ素材を使ってもレア度や補正ステが高く、補正スキルも良スキルが付くことが多い」

「は、はぁ……」

「だから、渉に生産依頼をするプレイヤーは数多く、依頼完了は数か月待ちという状況になったこともあった。まぁ、それも騒動が起こった依頼はすべてキャンセルされてしまったけど」

「ふぇ……」


 ああ、あったなぁ。

 俺が『錬金術師アルケミスト』になったことで色々と生産依頼が舞い込んでくるようになり、最初は断っていたが、色々と陰口やら晒しの掲示板で自分の名前を見かけるようになり、条件付きで依頼を受けることにした。

 それは、『生産品の良し悪し、成功の可否で文句は言わない』である。

 必ずしも良品が出来るとは限らない。それに、生産は失敗することもあるのだ。失敗したからと文句を言われては堪ったものではない。

 だが、そんな取り決めをしても面倒な輩は必ず出てくる。

 もうちょっといいステータスの装備を作ってくれ、このスキルじゃないのがほしい、折角集めた素材を無駄にしやがって……等々、文句を言い出すプレイヤーも増えていき、こっちと慈善事業でやってるわけではないと、すべての依頼をキャンセルした。当然、苦情は殺到した。

 だが、依頼のときに取り決めをしているわけで、暴言を吐いたプレイヤーのログは保存している。それを伝えれば大抵のプレイヤーが渋々であったが納得した。 まぁ、そのあとで俺に文句を言ってきたプレイヤーが特定されて、掲示板で袋叩きにあっていたと灯が笑いながら言ってたな。ただ、「いい気味だよ、けけけっ……」とスマホの画面を見ながら笑う妹の未来が心配だったよお兄ちゃんは。


「私はその騒動のあとに依頼をお願いしたのだが、当然断られてな」

「そりゃ、断るでしょ。面倒だったし」

「だが、一度断れたくらいで諦めるつもりはなかったし、何度もお願いするためにチャットとメールを打ち続けたものだ」

「あれをお願いをいうのかね……」


 半分脅迫だったと思うけどな。受けてくれないと毎日PVPを申し込むとか……どんな拷問だよ、俺生産職だってのに。


「そして、私の誠意が通じて晴れて装備を作ってもらえることになったのだ」

「ものは言いようだな……」


 本当に毎日生産依頼とPVPを申込みに来るストーカーが何を言う。何度運営に通報しようかと思ったか。


「そんなわけで、この装備は私と渉の愛が詰まっている」

「いや、詰まってないから」


 人の話は聞かないし、話は捏造するし、本当に残念で困った人だ。でも、憎めない人でもあるんだよな。


「私は渉のことが好きだぞ?」

「それは友愛の意味ですよね」


 日本育ちでも感情表現は直情的ストレートだな。顔色一つ変えずに言い放つとは。


「まぁ、そんなわけで――改めてよろしくお願います」

「ああ、よろしく」


 いや、広美さんに言ったつもりなのだが、エルさんが頷く。当の広美さんはまだ困惑した様子だが小さく頷き、昼食の時間まで調べものを再開することにした。



 ☆☆☆☆☆



 昨日行った飲食店で昼食を取り、その足で演習場へ向かった。

 ミルリト神殿はどうするのかとエルさんに問うたが、それは明日でもいいということで今日はスキルを試すことにした。


「しかし、『動体補助機能ムーブアシスト』か……はじめて聞いた」

「ですよね。私も何のことかと最初思いましたから」


 実際に見ていない二人には分からないだろうな。


「俺も最初は驚いたけどね。それより、武器スキルは構えが必要になるんですか?」

「そうだな。色々と試してみたが――」


 エルさんの話ではこうだ。

 こんな状況になり、まずは自衛の手段を講じる必要があると思い、スキルの確認をした。だが、いまいちスキルの使い方が分からず、試行錯誤に四苦八苦の連続で何とか武器スキルが使えたときは嬉しく泣きそうになったそうだ。

 どうやら、武器スキルを使うには、スキル名に由来するような“構え”が必要になってくるようだ。

 例えば、『袈裟斬り』という武器スキルがあるのだが、これは剣でも槍でも使うことが出来る初級のスキルだ。これを発動させる動作は袈裟掛けに斬る――つまり、斜めに切り下す動作が必要になる。

 槍スキルの『疾風刺突』は突き刺すような動作が必要となり、『閃光裂破』は槍を捻りながら突くという動作が必要になるらしい。


「――といわけだ。まぁ、普通に考えて直立不動でスキルが発動するのはおかしいからな」

「確かに……」


 エルさんの言うのはもっとだ。直立不動でスキルだけ発動するのは色々と矛盾する。


「もっとも、これで合っているのか分からないから、出来ればどこかで確認したところだ」


 そうだな。

 ギルドに聞くのが一番だと思うが妙な顔をされるのは目に見えている。マニュアルの一件でも相当だったみたいだし。

 あ、そうか。徐に腕輪を操作してメニューからマニュアルを呼び出し、その中を確認して、“スキルについて”の項目をタップする。


「渉……?」

「ん、ちょっと待ってください」


 エルさんが不思議そうな声を出すも、それを無視して読み進めていく。確か、追加された機能の確認するのを忘れていた。もしかしたら、何か都合のいい機能でも追加されていないかと思ったが。


「あ……」


 ゲームのときはなかったが、あってよかった“動画機能”。

 まさか、本当に都合のいい機能があるとは思わなかったが、“動画機能”は自動的に戦闘やスキルの動作を記録して確認することが出来る。ただ、記録されているのは一か月ほどで順次削除されていくようだ。

 これがあれば、スキルの動作を確認することが出来る。


「えっと……」


 問題は、この機能が追加されたのは昨日。それ以前の動画が保存されている可能性は限りなくゼロだろう。まぁ、とりあえず確認していけば分かるか。


「あー……駄目か」

「渉、何をやってるんだ?」

「ああ、実は――」


 “動画機能”のことを伝えると、エルさんと広美さんが驚いて目を丸くしていた。


「そんな機能が……あとで、ギルドへ行ってみる」

「わ、私も」


 そんな二人を横目に、もう一度マニュアルを確認していく。すると、マニュアルの中に一つの記述を見つけた。


 『“動画機能”の追加に伴い、スキルの動作参照動画を追加しました』


 どうやら、こちらは探し求めていた本命のようだ。

 スキル一覧を呼び出し、数少ない棍棒・杖の武器スキルである『棒打撃ハードヒット』のスキル名を長押し。すると、一〇センチ四方の半透過ディスプレイが出現し、黒い人影が杖のようなものを構え、振り下ろす。という動作が繰り返さる姿が映し出されていた。


「渉、それって……何?」

「どうやら、これでスキルの動きを確認出来るみたいです」

「――っ。ちょ、ちょっと見せて!」


 ズイッと顔を近づけてきたエルさんは、肩に圧し掛かるようにして半透過ディスプレイを覗き込みながら感嘆の声を上げる。もちろん、反対側からは広美さんが覗き込んでおり、二の腕がとても幸せなことになっている。マーベラス。


「ちょっとギルドに行ってくるっ」

「あ、わ、私も――」


 いってらっしゃい。と二人を見送り、他に追加されたものはないかとマニュアルを読み進めていく。



 ☆☆☆☆☆



 数十分後。

 ギルドから帰ってきたエルさんと広美さんは腕輪を操作しながら、武器スキルの動作確認を開始。そして、実戦を繰り返していた。


「はあぁ……やはり、身体を動かすのは最高だ」

「はぁはぁ……つ、疲れましたぁ」


 アウトドアとインドアの差……かな? 何とも満足げに頬を上気させた顔で汗を拭うエルさんとは対照的に、槍を杖代わりにフラフラとしている広美さんは今にも倒れそうだった。


「大丈夫ですか?」

「う、うん……で、でも、ちょっと休憩」


 ヘニャヘニャとその場に座り込んだ広美さんは肩で大きく息をしながら、上気した顔で見上げてにへらと笑う。


「情けないぞ、広美。この程度で値を上げていては真の戦乙女にはなれないぞ」

「いや、誰も目指してないから」


 やだもう、この戦闘狂は。


「それにしても、渉」

「え、何ですか?」

「私もこの服がほしい」


 ビシッと指した先にいるのは当然広美さんで、広美さんが着ているのは昨日上げた『鋼鐵の桃色絹鎧衣ピンクワンピース』一式である。


「ほしいって……」

「さすがに、この格好では二人と一緒にいると浮いてしまうからな」


 それは気付いていたのか。

 確かに露出の高い装備だから広美さんと並ぶと痴女っぷりが半端ないからな。下乳、ハミ尻当たり前の露出っぷりだからな……うん、見ている分にはいいけどね。


「でも、これは一着しかないし……」

「素材が分かれば取りに行く」

「いや、そこまでしなくても……」


 まだスキルにも不慣れなのに万が一のことを考えると危険過ぎる。


「――って、待てよ。よく考えれば、服屋とかあるんじゃないのか?」

「ふむ。確かにそうだな……住人が着ている服が防具屋で売られているのはおかしいからな。衣料品店があってもおかしくはない」

「ですね。あとで、探してみますか」

「ああ。だが、渉が作った服はほしい。既製品は二の次だ」


 ズイッと近づき、物欲しそうな目をするエルさんを説得する術を俺は持っておりません。目がマジ過ぎて怖いっす……。


「と、とりあえず、あとで似たようなのを探しておきますから、今はスキルの方を確認しましょう、ねっ」

「そうだな。戦闘で足を引っ張るなど、生き恥を晒すも同じだ」


 いや、そこまでの覚悟はいりませんってば。

 フンヌッと息巻くエルさんは槍を振り回してスキルを連発。爆音が鳴り響く様子を眺めつつ、休憩中の広美さんに声をかけるも無反応。何だか考え事をして上の空だが、疲れているようだからそっとしておくか。


「反復練習は必要だが、一通りのことはやっておくべきか」


 初級スキルの練習と中級スキルの確認、どちらをやろうとか考えたが、まずは初級スキルの呪文詠唱を完璧――とは言わないが、ミスなく発動できるようにしないと駄目だ。


「ねぇ、渉君……」

「あ、はい」


いざ、魔法スキルを――と思ったところで、広美さんが声をかけてきた。


「あ、ごめん」

「いえ、どうしたんですか?」

「うん、ちょっと……衣料品店で疑問に思ったんだけど、この“リ・ヴァイス”に住んでいる人? って、どんな職業に就いてるのかなって」


 あー、そうだよな。アルダさんやマッシュさんは衛士という職業に就いているのだ。ギルドの職員もギルドに就職したわけだし、飲食店の店員も宿の従業員もそれぞれ仕事に就いているわけだ。


「多分、戦闘系の職業以外は現実と大差ないというか……変わらないと思うけどね」

「そうだよね……なら、ギルドって何のためにあるのかな?」

「ギルドは、簡単に言えば仕事を斡旋する組織じゃないかな。個人でも請け負うことは、ゲームの中だとデイリーとかでも出来たから、それに似たのはあると思うけど、効率で考えればギルドに入った方が断然いい依頼を受けることも出来るし、名声も手に入る」

「だとしたら、みんなギルドに登録しているのかな? それで生活しているってことだよね」

「んー……アプデの告知にもあったけど、ギルドの冒険者はほとんどがプレイヤーみたいだからなぁ。こっちの人達がどれだけいるのかは分からない」


 でも、何故こんなことを聞くのだろうか? 先ほどぼんやりとしていたように見えたのは、それを考えていたからだろうか?


「そう、だよね……なら、ギルドに入らなくても生活出来るくらい、きっと毎日努力してるんだよね。だから、あんな難しい呪文も簡単に――ううん、間違えながら何度も唱えて覚えたんだよね、きっと」

「俺が出会った衛士の隊長さんも、毎日鍛錬は続けているって言ってた」

「……なら、突然こんな力を持った私みたいな存在って、どんな風に思うのかな? 変だと思うよね、きっと」


 普通に考えれば、異端扱いだろうな。

 血の滲むような努力で得た力ではない、指先と金の力で得た“紛いもの”の力だ。もし、本物がいたら今の俺なら間違いなく負けるだろう。


「それは、考え過ぎだと思うよ。そもそも、俺達の存在がこの世界で騒動になっている様子もないし」

「私もそう思う。でも……もし、“リ・ヴァイス”の人と戦うことになったら、今の私達で勝てるのかなって……いえ、その前に戦えるのかなって考えたら怖くなって」


 やや支離滅裂気味だが、広美さんの言いたいことは理解出来る。出来るからこそ、返す言葉が難しく、言葉を呑んでしまう。

 どんな世界にも、どんな場所にも、“悪意”は存在する。

 そこから目を逸らすのは駄目なのかも知れない。


 可能性は、ゼロではないか。


 アジオルでも、マデートでも、出会う人は誰もが優しかった。けれど、それは絶対ではない。優しさの裏があるかも知れない。表だけを見ていては大切なことを見落とし、危険な目に遭うかも知れない。広美さんの不安を取り除くための言葉を探しつつ、一抹の不安が脳裏から離れずに悪いことばかりが浮かんでは消えていった。

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