⑥第2の人生

 17歳とは、高校時代とは、やはり素晴らしいものなのだと改めて実感した。


 テストは嫌だし、受験勉強だって二度と御免だと思っていたけど、それに余るだけの自由と、キラキラとした毎日がそこには存在していた。


 大人になるにつれ、いつしか忘れてしまった感動、小さな驚きや喜びを私は今、また新鮮な気持ちで思い出していた。


が、その一方で、自分だけでは何も決められない。

 全てにおいて周りの大人から干渉されてしまう未成年者故の葛藤とも戦わなければならなかった。


 思えばそんな時代だったかも知れない。


 人生とは、その時その時に見合った重大な悩みを抱えつつ、それでも止まることなく流れ続けているのだ。


 17歳の私はまだ子供だ。


 だが、今の私は一度42歳まで生きた経験者。

 私には、それだけのスキルと知恵がある。


 今度こそ、絶対に上手く生きてみせる!


 私は一度目と同じ大学へ行き、一度目と同じ出版社へ入社した。


 当然、一度目と同じタイミングで優しい夫に出会ったが結婚はしなかった。


 だって結末を知っているから……。


 そりゃあ、悩まなかった訳じゃない。


 でも、ここで情に流され結婚なんてしてしまったら、一度目と変わらない。


 せっかくのやり直すチャンスを棒に振るのだ。


 そんなバカみたいな選択、今回は出来ない。


 やってはいけなかった。


 30歳の時、私は一冊の小説を出版した。

 勿論自分の勤める出版社からだ。


 タイトルは『セカンドライフ~リルートという選択~』


 内容は言わなくても分かるだろう。


 私達3人にしか分からないだろうが、本格的ノンフィクションだ。


 まぁ、世間的にはフィクション小説になるのだけれど。


 その小説が大ベストセラーとなり、私は一躍有名人となった。


 まだ若いのにおばさんの気持ちをシッカリと代弁していると、中高年の主婦に大人気となり、あちこちでコメンテーターなども務めるようになった。


 程なくして小説がドラマ化され、正に順風満帆。


 残念ながら『結婚』には縁がなかったが、それを後悔する隙など全くないほど、私はこの二度目の人生に満足していた。



―2015年―



 仕事を終え、1週間振りに世田谷の自宅へ戻ると、沢山の手紙やチラシに混ざり1枚の往復葉書がポストに入っていた。


『光陽学園高等学校第58期同窓会のお知らせ』






 あの……葉書だ。


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