⑤restart

「もう。みやびってば騒ぎ過ぎ!」


 私の前には、やけに冷静な夏希がいた。


 夏希は、教室でみんなの注目を集めた私の腕を掴み、この北校舎の外れにあるあまり使われていない音楽室まで連れて来た。


「だって……てか、夏希も?」


『も?』の後に何を聞いていいのか分からなかった。


 夏希も戻って来たの?

 タイムスリップした?


などと聞いたところで、そうでなければ意味が分からないだろうし、頭が変になったと思われるかもしれない。


「心配しないで。私もそうだから」


 そう言って夏希は微笑んだ。


 だったら何でそんなに落ち着いていられるのだろうか?


 これは夢?


 そんな私の不安を察したのだろうか。

 夏希は、一瞬ニッと口角を上げると、ポツリと呟いた。


「実はね、私ずっと思ってたんだ。もう一度人生をやり直したいって」


 それを聞いた瞬間、私の胸にもチクリと刺さるものを感じた。


「ねぇ、その話。私も混ぜて」


 スーッと静かに教室のドアが開き、その向こうから愛美がひょっこり顔を出した。


「愛美……も?」


の問いかけに、愛美はコクリと頷いた。


 つまりはあれだ。

 あの車に乗っていた3人が、3人揃って高校生に戻ってしまった、と言う訳だ。


 夢にしてはリアル過ぎるし、夏希に言われて気付いたが、よーく思い出そうとすると、ちゃんと自分が17歳で昨日の夕飯のおかずも今日受けた授業の内容も全て思い出せた。


 私、17歳なんだ。


 それから2人は話してくれた。

 今の自分の境遇について……。


 元気いっぱい我が道を何者にも邪魔されず生きているように見えた夏希も、実は家の都合で地元に残り、家業の八百屋を継いで婿養子をとったのだそうだ。


『勉強嫌いだし、進学なんて頼まれたってゴメンよ。地元でサーフィンやりながらお気楽に暮らす方が断然楽しい』


 昔夏希がそう言っていたのを思い出した。

 あれは強がりだったんだね……。


「本当は大学へも行きたかったんだ」


と、遠い目をして夏希が呟いた。


 そして、誰が見ても幸せいっぱいのお嬢様に見えた愛美も、大学時代に知り合った現在の旦那に裏切られ、今は離婚調停中なのだそうだ。


「今なら絶対、あんな男に騙されない……」


 愛美はそう言って涙ぐんだ。


 自分だけが不幸だと思っていた。


 自分だけが思うように生きれなかった気がしていた。


 でも……。


「3人で戻って来たんだもん。夢なんかじゃない」


 夏希が力強くそう言った。


「これはきっと、神様が私達にくれたチャンスだよ」


 愛美もあの大きな目をキラキラさせながらそう豪語する。


 こんな状況、1人なら完全にパニックだけど、3人ならちょっと信じられる。


 やれる気がした。


 こうして私達の人生は、17歳のこの日からrestartしたのだった。


 新しい未来に向かって。

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