③迷子

「でも意外だわ。みやびって絶対仕事辞めない人だと思ってた」


 夏希が車を運転しながらチラリと助手席の私を見た。


 同窓会の帰り、2次会だの何だの盛り上がる中、私と愛美そして夏希の3人は、揃って会場を後にした。


 今日は実家に泊まると言う愛美と、今も地元に住んでいると言う夏希。


 車で来ていると言う夏希が、私達の配送に名乗りを上げてくれた。


 私は勿論、あのダメ亭主の元に帰る為、最寄り駅で下ろして貰うのだが……内心はあまり帰りたくない。


「仕事も辞めれるほど、素敵なご主人なんだよね!きっと」


 後部座席から愛美がそう言って茶化す。


「そっかそっか、なるほどね。だから今日もわざわざ帰るんだ」


 夏希までそう言って納得したように頷く。


 全然……違うのに。


「そんなんじゃないってば」


 私、笑いながら照れ隠しでもするみたいに否定する。


 言っとくけどコレ、謙遜とかじゃないらっ!


 なんて言えないけど。


「アレ?」


 その時夏希がかなりの低音でそう呟いた。


「どうかした?」


 多分愛美には聞こえなかったのだろう。

 私のその言葉で、愛美がグイと後ろから顔を出した。


「何?」


 夏希はそれに答える事なく、速やかに車を路肩に寄せて止まった。


「夏ちゃん?」


 運転席の夏希は、焦ったような表情で、当たりをキョロキョロと見渡している。


「ココ……どこ?」


 そう言われて気づいた。

 この場所に全く見覚えがない。


 確かにこの土地を離れて久しいけど、古い街だ、そんなに変わってしまうなんて有り得ない。


 まして、今もこの街に暮らしている夏希が知らない場所なんて……。


「道、間違えた?」


 私の問いに夏希は大きく首を横に振る。


「さっき池田屋の角曲がったもん。間違うはずない」


 池田屋は、いわゆる何でも屋みたいなもので、私達も高校生だった頃、嫌と言うほど通っていた店だ。


「うん。池田屋なら私もさっき見た」


 愛美の声が少し震えている。


 見た事のない住宅街。

 沢山家はあるのに、なぜか生活感が感じられない街。


「ナビ……つけてみれば?」


 私はスイッチの入っていないカーナビに手を伸ばした。


 同窓会の会場だったホテルから最寄りの駅まで、車なら10分程。


 通常ならナビなんて全く必要ないけど、今ならナビに頼っても良さそうだ。


 否、今こそナビを頼るべきだ!


「そうね」


 夏希もそう言うと、カーナビのスイッチを入れ起動を待った。


 ナビのGPSが現在地の確認を行う。


 画面には『NOW ROADING』の文字。


「時間掛かるね」


 愛美が呟く。


 次の瞬間『ジャン』と言う電子音と共に『オートリルートしますか?』の文字が浮かび上がった。


『yes or no』


 そんな事決まっている。

 勿論YES……を選ぶしかない。

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