②同窓会

 私の通っていた高校は、神奈川県にある海沿いの街にあり、同窓会は、その近くの海岸を見渡せる丘の上のホテルで行われた。


 約20年振りの同窓会。

 一見しただけでは、誰が誰やらサッパリ分からない。


「みやびちゃん?ねぇ、桐原みやびちゃんでしょ?」


 そう言って声を掛けて来たのは、大きな目をキラキラさせ、パッと花の咲いたような笑顔の女性。


「私よ私。久保田愛美まなみ分からない?」


 ピンクのシフォンドレスでバッチリ決めた彼女は、小さく小首を傾げ、口を尖らせる。


 同い年とは思えないほどの愛らしさ。


 そう、久保田愛美。

確かに彼女はこんな感じだったかも知れない。


 少々幼く、天然の愛されキャラ。

 誰からも好かれるお嬢様タイプだった。


「愛美?」

「そうよぉ。久し振り」


 苦労を知らなそうな微笑み。

 毎週エステとか行ってるのかしら?


 愛美は幸せなんだろうな。


 くたびれた42歳達の中で、愛美は一際光って見えた。


「あれ?もしかして、みやびと愛美?」


 そこへ入った来たのは、小麦色に日焼けした黒髪の細身の女性だった。


 着飾る様子もなく、愛美のシフォンドレスとは対照的なジーンズのジャンパースカート姿で現れた女性は、


「みやびと愛美でしょ?私っ、夏希、戸田夏希」


 高校時代はショートヘアで、スポーツ万能。


 年中日焼けしてて、確か将来の夢は……ハワイに海外移住。


「うわぁ。夏ちゃん。変わってない変わってない」


 愛美がキャッキャッと手を叩いて喜ぶ。


「何よ。みやびは喜んでくれないの?」


 昔から芯が強くて我が道を行くって感じの夏希。


 同窓会なんて、みんなそこそこオシャレして気合い入れて来るのに、ジャンパースカートだなんて……。


 その一本筋の通った感じ、全然変わってないな。


「喜んでるって。喜んでますとも」


 私はそう言って、慌てて笑顔を取り繕った。


 なぜだろう。

 会う人会う人が全員幸せそうに見えるのは……。


「みやびは相変わらずビシッとしてるねぇ」


 え?

 夏希にそう言われて少し戸惑った。


「ね、ね、キャリアウーマンって感じ」


 愛美の言葉にグサッときた。


 私は主婦。

 只の主婦。

 スーパーでレジ打ってる只のパートのおばちゃんよ。


「そんなことないよ」


と笑って見せたが、内心は泣きたい気分だった。


 キャリアウーマン。

 あの時仕事を辞めずに続けていたら、あるいはそうだったかも知れない。


 こんなつまんない主婦なんかじゃなかったかも知れない。


 否、それ以前に、アイツと結婚しなかったら……。


 つまらない妄想が頭の中を駆け抜けた。


 あぁ、人生をやり直したい。

 もしやり直せるなら、今度こそ上手く生きるのに……。


「ねぇ、みやびは今何やってるの?」


 愛美の心無い言葉に笑顔が凍りついた。


 同窓会なんて、来なければ良かった。

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