三匹の求婚者

 竹から生まれた大層美しいお姫様は、鼻の大きな三人の求婚者にお題を出しました。(※1)

「私と結婚したければ、二人で暮らすための家を建ててください。ただし、全て自分の手で完成させることが条件です」

 こうして三人は、それぞれ家を建てることになりました。



 一人目は、とても怠惰な性格だったので、藁で家を建てようと考えました。

 三時間で完成してしまいました。

 大満足の彼が家の出来を確かめていると、大きな口にギザギザの牙を持った化け物が、舌なめずりしながら走ってくるのが見えました。

「見つけたわよぉん!(ベロリッ)」

 彼は恐れをなして藁の家の中に逃げ込みましたが、相手は全く意に介しません。ブゥーッと大きく息を吹くと、藁の家は哀れな男一人を残して簡単に吹き飛んでしまったのです。(※2)

 その後、彼の消息を知る者は誰もいません。



 二人目は、木で家を建てようと考えました。街で中古のチェーンソーを手に入れると、森に行き、木を伐り始めました。五本目の木を伐り倒そうとしたとき、チェーンソーがキックバックしてしまい、近くあった泉にボチャンと飛び込んでしまいました。

 すると、新品のチェーンソーを両手に一つずつ持った泉の女神がヌルっと出てきて言いました。

「あなたが落としたのは、この北欧製のチェーンソーですか、それともこちらの世界的工業国製のものですか?」

「いいえ、私が落としたのは、中古で買った国産のチェーンソーです」

「まあ!あなたは正直者なのですね。そんなあなたには、三つ全てのチェーンソーを授けましょう」

「なんと優しいのだ!突然ですが、私と結婚してください!(※3)」

「は?そ、そんな無茶苦茶なっ!……まずは、お友達からお願いします」

「もちろんです。喜んでお友達から始めさせていただきます」

「チェーンソーはどうしますか?」

「三つともください」

 彼は女神からチェーンソーを受け取ったかと思うと、躊躇いもなく泉に投げ捨ててしまいました。

 そして、呆気に取られている女神の手?を取ると、森の奥へと姿を消しました。(※4)



 三人目は、長靴を履いた家来に相談しました。すると、家来は言いました。

「めんどくさいなぁ。そんなもの、大工に作らせればいいじゃない」

「姫は自力で建てろと仰せだ」

「自分で建てたって言いはればいいよ。そんで、大工が頑張っている間に、嘘の苦労話でも考えとけばいいんじゃないの?」

「ふむふむ。なるほど、なるほど。……よし、手配は任せた」

「なんでボクが!?もう、しょうがないなー」


 一年後、家は完成しました。(※5)

 彼は早速、姫を新居に招くと、意気揚々と案内を始めました。

「一人でここまで作るのは、大変でしたよ~。でも、君との愛を育む大切な巣だから、こだわり抜いて建てました……ペラペラ……ペラペラ……」

 しかし、姫は気づいてしまいました。

「おやぁ?この柱で使われている工法は、うちの会社の特許ですねぇ~(※6)」

「え!?」

 姫の養家は、竹を使った建築材の製造会社だったのです。

 姫は、しどろもどろに弁解を繰り返す彼を冷たくあしらうと、さっさと帰ってしまいました。


 落胆した男は、家来にあたりました。

「お前のせいだ!」

「自分で何にも考えないのが悪いのよ」

「もう終わりだ。金も全て使い果たしてしまった。何も残っていない……」

 絶望する彼に、彼女は言いました。

「ボ、ボクがいるじゃない。また、二人で頑張りましょう(※7)」



 さて、そもそも誰とも結婚する気のなかった姫は、月にいる耳の長い許嫁の元へと帰ってしまいましたとさ。めでたしめでたし(※8)





 注釈

 ※1 登場人物の詳細な外見については、各読者様のご想像にお任せいたします。


 ※2 助けを求めて、こっち見るな。


 ※3 彼は惚れっぽく、浮気性なのだった。


 ※4 後に不倫がバレて、泉の底から引きずり出されたドロドロのチェーンソーで、女神に○○(ピー)される事になるとは、このときの彼は知る由もない!


 ※5 実際は三か月で完成したが、早すぎると怪しまれるので、一年間ニートした。


 ※6 某特命係の刑事風に。


 ※7 そう、全ては彼女の策略通りなのだ!それにしても、こんな奴のどこが好いんだか……。


 ※8 そう、全ては彼女の策略通りなのだ!飢えた捕食者に獲物の居場所を教え、浮気者には好みの女をあてがわせ、恋する乙女を唆す。全ての裏で糸を引く恐ろしき魔性の女。気をつけなはれや!





 おまけ

 一人目の彼があまりにも可哀そうだと思われる心優しい方は、(※2)を書き変えて彼を救ってあげてね☆

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