第十二話「別れ」

 ドンタが外に出ると、空には満天の星空が広がっていました。

 そして


「ドンタ」

 そこにはお兄さんがいました。

「オラ、そろそろ帰る時だよね?」

 ドンタがお兄さんに尋ねました。

「そうだよ、もうじき君がいた世界とこの世界をつなぐ扉が閉じてしまうんだ。そうなったら再び扉が開くまではどうやっても通れない。たとえ最高神様の力でも再び扉を開けるには、人の一生分くらいの時が必要だ」

「そう、なら」


「ありがとう。君が来てくれて本当によかったよ」

「オラ、役に立てた?」

「もう充分すぎるくらいにね」


「そうでーす。充分すぎでーす」

 いつの間にかドンタの側にナディーが来ていました。

「ナディー?」

「ちょっとー、あたし置いてっちゃダメでしょー」

「そ、そうだった。ナディーも一緒に帰らないと」

「一旦一緒に元の世界に戻ってから未来へ送ってあげて。その方が体の負担が少ないから」

「なのでお願いしまーす、パパ」

 ナディーはドンタをそう呼びました。


「パパか。いつかオラにこんな可愛らしい娘ができるなんて、嬉しい」

「あ、パパって言っちゃダメだったんだっけ」

「もういいさ、それより」

 お兄さんは後ろを指差しました。するとそこには


「ドンタさん、帰っちゃうの?」

「黙って行こうとするなんて、ミサイル撃つよ?」

 皆が来ていました。


「あ、皆」

「ちょっとドンタさん! 帰るならちゃんと言ってからにしなさいよ!」

 ラチカが怒鳴りました。

「ご、ごめんなさい。言うのが辛くて」

「そう。でもいいわ。辛いって事はそれだけ私達を大事に思ってくれてるって事でしょ?」

「うん、皆はオラの最高の仲間だ」

「……ドンタさん」

「チャスタ、どうしたの?」

 するとチャスタはドンタに抱きつきました。そして

「なあ、行かないでよ」

 チャスタは泣いていました。

「なあ、オイラを守ってくれるんだろ、行かないで」

「チャスタ」

「行っちゃヤダよ!」

 チャスタはドンタをそう呼びました。

「え?」

「オイラドンタさんの事本当の父ちゃんだと思ってんだよ~! だからさ~!」

 ドンタは黙ってチャスタを抱きしめました。そして


「あ、ありがとう。オラ、こんないい息子ができて嬉しい」

「だったらさ~」

「でも、オラがいなくても皆がいるじゃない。それに永遠に会えないわけじゃない」

「嘘だ! さっき言ってたじゃんか! 次に扉が開くのは何十年も先なんだろ~!」

「オラ嘘は言わない、絶対またここに来る」

「本当に?」

「本当」

「……わかったよ、オイラ皆と待ってるよ」


(チャスタお兄ちゃんって結構泣き虫だったんだねー。あっちじゃあんなにクールでかっこいいのに)


「さ、ドンタ、ナディー。そろそろ」

「う、うん」

「はーい」


「ドンタさん、ナディーちゃん、またね」

「ちゃんとプレゼントは皆に配るから安心してよね」

「ドンタさん、ナディー、元気でね」

「絶対また会おうね、父ちゃん」


「ま、またね」

「みなさーん、またねー」

 その時、ズザザと何かが通り過ぎた音がしましたが、誰も気づきませんでした。


 そして光が眩しく輝き……


 それが収まると、二人の姿は消えていました。


「……行っちゃったね、ドンタさんとナディーちゃん」

「ええ、ぐすっ」

「僕ロボットだけど涙が出てくるよ」

「父ちゃん……」


「ありがとう。ドンタ、いやド『あーーーーー!?』」

「ど、どうしたのよチャスタ?」

「いや、レイカさんは?」

「え? 寝てるんじゃないの?」

「いや、一緒にここまで来たけど、さっきから姿見てない」

「えーと、もしかして、ああっ!?」


「決定事項とはいえ、これで本当にいいのかと思いますよ。最高神様」




 そしてドンタは元の世界に帰る前に何やら違う世界に迷い込みましたが、どうにかこうにかして無事に元の世界に辿り着きました。




「あ、やっと着いた」

「パパー、ちゃんとしてよー」

「ごめんごめん。さてと、ナディーを元の時代に。とその前に聞きたいんだけど」

「なーにー?」

「ね、ねえ。ナディーのママって誰?」

「えー、気づいてなかったのー? パパの後ろにいる人でーす」

「え?」

 ドンタが振りかえると

「はーい」

 レイカがいました。

「な、なんでここに?」

「ずっと後ろにくっついていたじゃない、ねーママ」

「え、え、気付かなかった」

「ひどい、わたしのファーストキス奪っといてそんなのあんまりです~」

「い、いや、あの」

「もうナディーちゃんがお腹の中にいるのに~」

 レイカはそう言いながら自分のお腹をさすりました。

「キ、キスだけでは子供はできないよ」

「そうだよママー、あたしが生まれるのはもっとずっと先だよー」

「ありゃ、そうなんですか~」


「ど、どうしよう」

「とりあえずあたしを元の時代に戻せー」

「そ、そうだね」




「それじゃあまたねー、パパ、ママ」

「う、うんいつかまたナディーを抱きしめる」

「あ、ナディーって本名じゃなくて愛称なの、本当の名前は……パパが決めてねー」

「う、うん」

「あ、それとー、パパを待ってる人はねー、えーとこの時の名前なんだっけ? あ、『中央未開地域』ってとこにいるはずよ~」

「え、そうなの?」

「だから早く行ってあげてねー」

 ナディーはドンタの秘術で元の時代へ帰っていきました。


「ねえ、あなた、新居はどこにしましょうか~」

「あ、あのオラ達まだ結婚してないけど」

「ナディーちゃんが生まれてくるのは決定事項、だったらもう夫婦でしょ~」

「オ、オラ待ってる人のとこに行かないと」

「だったらそこへ行きましょう~。で、待ってる人って誰ですか~?」

「だ、誰って? それはわかんな……あ」

「はえ?」

「あ、あれ? 急に頭に浮かんできた……オラの妹だ、待ってる人は」

「おお、神よ、わたしは小姑にいじめられる運命なのですね」

「な、なんで?」

「冗談ですよ~、さ、行きましょあなた」


 こうして二人はドンタの妹がいるという中央未開地域へと旅立っていきました。



 このくらいいいわよね。

 彼等は全世界の夢と希望を守った者なんだから。

 ありがとう、ド……

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