第十一話「皆を助けてほしかった」
魔法使いは起き上がりました。
「まだやるの?」
ラチカが聞くと、
「いえ、私の負けです」
魔法使いはそう言いました。
「そう、ならいいわ。おじいちゃんも無事だったし、これで皆にプレゼントを」
「でも、もうクリスマスまで日がないよ」
ルーが困り顔で言いました。
「あ、そうだったわ。ん~、今からプレゼント用意できるかしら?」
「私達のところにも来てほしかった。たとえ一夜限りの幻だったとしても」
「え?」
「わしらサンタ一族はこの世界の子供達に毎年プレゼントを配る、そうすることにより異世界の子供達の心の中にもわしらの事が伝わるのじゃ、夢や希望という形で」
サンタさんが言いました。
「え、そうだったの?」
「うむ、そう思ってたんじゃがの」
「私達の生まれた世界では戦争や大災害が起きてメチャクチャ、夢や希望など持つ余裕もなくサンタさんの事など思うこともできませんでした」
魔法使いはうつむきがちに言いました。
「私は希望も何もなく生きていました。そしてある時、この世界の事を知りました。この世界の子供達は皆プレゼントを貰いニコニコと……羨ましい、そう思ったら私は悪い魔法使いとなっていました」
皆は何も言えませんでした。
「そして、サンタさんを攫い世界中から夢や希望を消し去ろうと。そうすることが奴らへの復讐にもなると」
「奴らって?」
「神々ですよ。見守るだけと言いつつ、本当は何もできない奴らへの」
「それは違うよ」
「え?」
いつの間にかそこに物知りのお兄さんがいました。
「あ、お兄さん」
「やあ」
「違うとはどういう事ですか。この世界の守護神様」
魔法使いがお兄さんをそう呼びました。
「え? お兄さんがこの世界の?」
「そう。僕は最高神様の言いつけでこの世界を見守っているんだよ」
「じゃあお兄さんが物知りなのって?」
「僕はこの世界の事ならなんでも見えるからね、そういう事だよ」
「ねえお兄さん、違うってどういう事なのよ?」
「僕だって本当は手を貸したいんだよ。でもね、そうすると世界中の人達は神に頼って何もしなくなってしまう、と」
「そうかもしれませんけどね。人の力ではどうしようもない大災害くらいは防いでくれてもいいでしょう」
魔法使いが言いました。
「完全には防げないかもしれないけど、被害を最小限にはできるよ」
「それも今すぐには出来ません。遠い未来では可能になるかもしれませんが、それまでにいったいどれだけの人達が苦しみ悲しんで死んでいけばいいのですか?」
「……」
お兄さんは何も言わずにいました。
「さっきいたゾンビ達は私の仲間。そうやって無念のうちに死んだが天に昇れず、腐った体にずっと」
「え?」
「お嬢さん達、改めてお礼申し上げます。仲間を救ってくれてありがとうございました」
「いえいえ、そんな~」
レイカは照れていました。
「なあ、あんた」
チャスタがお兄さんに話しかけました。
「なんだい?」
「オイラが苦しんでる時もただ見てただけ?」
「ねえ、マー君のパパの事も見てただけ?」
ニコもお兄さんに聞きました。
「そうだよ、僕は手出ししちゃいけないんだよ」
「でもお兄さん、あの時僕に光の弓矢の出し方教えてくれたよね?」
「あれは直接僕が手を出した訳じゃないからね」
「あ、あの」
ドンタがお兄さんに話しかけました。
「なんだい?」
「あ、あんた何でオラをこの世界に呼んだの?」
「サンタさんやルー君達を助けてもらうために最高神様にお願いしたんだよ、君なら光の玉の場所がわかるから。そう言ったよね?」
「そ、それだけ?」
「ん?」
「ほ、本当はオラ達に皆を助けてほしかったんじゃないの?」
「え、ドンタさん?」
ルーはドンタを見上げました。
「光の玉を集めるだけならオラじゃなくてあんたがやってもいいんでしょ? だって三つは最初から持ってたんだから」
「あっ、そういえばそうよね!」
「マー君のパパさんやお姫様や王妃様、チャスタ、そして魔法使いさんやその仲間も旅でオラ達と出会う事がわかってて」
「そうだよ。君達が行く先の人達をね」
「そうでしたか。神というのは回りくどいものですね。しかし私はこれからどうすればいいのでしょうか?」
「はーい、じゃあこうすればどうでしょう~」
「こうすればって何よ、レイカさん」
「魔法使いさんなんだからプレゼントくらい魔法で出せますよね~?」
「はあ?」
魔法使いは間の抜けた声を出しました。
「今からじゃ作ってる時間ありませんし~、ここはひとつ魔法でパパッっと。そしてサンタさんと一緒に配って回るんですよ~。そして子供達の喜ぶ顔見てくださ~い」
「なんで?」
「それ見てどうすれば喜んでもらえるかを知って、元の世界でもそれやっちゃってくださ~い」
「どうすれば喜んでもらえるか、か。……よし、やってみましょう。サンタさん、どのような玩具がいいか教えてください」
「うむ、わかったわい」
「ルー君、君も心の中で念じれば玩具が出てくるよ」
お兄さんがルーに言いました。
「うん!」
それから魔法使いは魔法で玩具を作っていきました。
ルーも心で念じてたくさんの玩具を出しました。
他の皆はそれを綺麗に箱に詰めたりラッピングしたりしました。
そして
「終わったー!」
全員に配るプレゼントができました。
「ふう、これでクリスマスに皆にプレゼントを配れるのう」
「そうですよね、今年も皆の笑顔が見れますね」
そうサンタさんとルーが話しているところにチャスタが話しかけました。
「あのさあ、ルーってトナカイに戻んなくていいのかよ?」
「あ」
「すみません忘れていました。じゃあ元に戻します」
魔法使いが呪文を唱えるとルーの体が光り輝きました。
そして光が収まると、ルーはトナカイの姿に戻っていました。
「やったー! 元に戻ったー!」
「ルー、元に戻ったのね。……人間の姿カッコ良かったのになあ」
「え、何か言った?」
「な、なんでもないわよ!」
ラチカはぷいっと横を向きました。ちょっと顔が赤いです。
「さて、今日はもう休もうかの」
「では皆さんのベッドを用意しましょう」
魔法使いは魔法で全員分のベッドを出しました。
「部屋は魔法で暖めておきますからゆっくり休んでください」
そして夜。
「……お、オラは」
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