第八話「夢や希望を消す……」

 ルー達は光の道を通って悪い魔法使いのところへ向かっていました。

 光の道は雲の上まで届いています。


「ねえ、そういえばナディーちゃんってどこからどうやって来たの?」

 ルーがナディーに尋ねました。

「あたしね、パ……じゃなかった、ドンタさんに呼ばれて来たのよ」

「え、ドンタさんに?」

「そ、そうだよ、オラが呼んだの、あの人が教えてくれた力で」

「物知りのお兄さんに?」

「う、うん」


「ドンタさんって凄いわね、あんな事おじいちゃんでもできないわよ」

「そ、そうなの?」


「そうだよー、ドンタさんは世界一の秘術使いなんだもんねー」

「なんでナディーがそんな事知ってるのよ?」

「秘密でーす」

「……あのねえ」


「ねえチャスタ。ナディーってさ、なんかレイカさんに似てない?」

 ニコがチャスタに尋ねました。

「うん。オイラもそう思うけど、なんかドンタさんにも似てない? 顔とかじゃなくて雰囲気がさ」

「え、そう? 僕はわかんないけど、チャスタが言うならそうなのかな」


「ねえ~、ナディーちゃんのお父さんとお母さんってどんな人なんですか~?」

 レイカがナディーに質問しました。

「秘密でーす。どうしても知りたいなら鏡で自分の顔見てくださーい」

「はえ?」

 そうこう言いながら一行は光の道を進んでいきました。




 ところ変わって、ここは悪い魔法使いが住んでいる場所です。


「ホホホ、クリスマスまであと一週間ですね、サンタさん」

 魔法使いが笑いながらそう言います。

「お前さん、もしかしてクリスマスが終わるまでわしを閉じ込めておくつもりか?」

「そうですよ。別に命を取る気はありませんよ」

「そうか。だがそうだとしてもこのままでは」

「ええ、子供達は嘆き悲しむでしょうね」


「世界中の子供達にプレゼントを渡せなければこの世界だけではない、全ての世界の夢や希望が」

「その『全ての世界』とやらに我々の世界は入っていませんけどね」

「何じゃと? そんなはずは」

 サンタさんは首を傾げました。

「あなたの存在はここ以外の全ての世界では夢幻。だが皆の心の中にたしかに存在するはずだとお思いでしょう。しかしね、そうでない世界もあるんですよ」

「そうでない世界、とは?」

「それはですね、戦争が起こったり、大災害で町がメチャクチャになったり、飢饉で食べるものもない世界などですよ。そんな世界では今日一日を生きるのに必死、明日の事などわからない、だからそこにいる多くの人は夢や希望など持つ余裕もないのですよ」

「し、知らなんだ。もうそういった世界は無いものとばかり思っていた」

 サンタさんは驚いていました。

「そうでしょうね、だけどあなたが悪いわけではないですよ。それをあなたに教えないあいつらが悪いのです」

 そして、

「私はね、全次元世界から夢や希望を消したいんですよ」

「そ、そんな事をしたら多くの世界が」

「破滅するかもしれませんね。そうすればあいつらは見守るだけといって、その実何もできない自分達の無力さを思い知るでしょう」

「……考えなおしてくれんか、そんな事しても何も救われんぞ」

「そうですね。では彼らがここに来る事ができたら考えなおしましょうか」

「彼ら?」

「あなたのお孫さんやトナカイさん、そしてそのお仲間さん達がここへ向かってきてますね、あなたを助けるために」

「ラチカやルーが」

「でもここに辿り着けるでしょうかね? ホホホホホ」


「皆……頼む、世界の夢や希望を」




「そろそろ山のてっぺんのようね」

「あ、あれ何?」

 光の道の終わりに大きな門がありました。

「あれは魔法使いの家の入口だよ、ドンタさん、あたしと一緒に秘術であれ開けよー」

「う、うん」


 ドンタとナディーは気を集中させ念じ始めました。

「「はあっ!」」

 ドンタとナディーの手から門に向かって光が放たれると

 ギギィ、と音を立てて門が開きました。

「さ、行こー」

「み、皆、行こう」

「うん!」


「な、なんだと? あの門はどんな秘術や魔法でも開かないはずなのに。いや全ての秘術の使い手が二人以上いれば可能だが、そんな人物は今までの歴史でもあのゴツイ男一人しかいないはず……はっ!? も、もしや!」


 そうだよ、たしかに「今の時代」にはね。

 それにわかってる?

 彼女がいるという事は「未来がある」という事だよ


「……まあ、いいでしょう。彼らにこの先の難関を突破できますかね?」

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