第五話「絵の中のお姫様 後編」

 そして夜になり、大きな満月が夜空に高く昇った頃。

 絵の中にお姫様が現れました。


「おお、可愛い」

「本当だね」

「はて? どこかで見たような?」

 皆それぞれ感想を言いました。


「姫、君を閉じ込めたのは誰? どこにいるかわかる?」

 王子様はお姫様に聞くと、声は聞こえませんが口は動いていました。

「ふむふむ、うん」

 チャスタがお姫様の口の動きを読みました。

 元盗賊なので目がいいようです。


「……えーとね、お姫様を絵に閉じ込めた奴はこのお城の中にいるって」

「なんじゃと? 城にそんな怪しい者がいたらすぐわかるぞ?」

 王様が言いました。

「うーん、閉じ込めた人、言っていいのかな?」

「誰なの?」

 ルーがチャスタに尋ねました。

「……王妃様」


「え?」

「そんなバカな!? 嘘じゃ!」


「嘘じゃないよ、そう言ってるよ」

 


「とうとうわかったのね」

 その王妃様が玉座の間に現れました。

「母上、本当なのですか?」

 王子様が信じられないという声で聞きました。

「ええそうよ。その女は私が閉じ込めたのよ」

「なぜじゃ、なぜそのような事を?」

 王様は王妃様に尋ねました。

「その女があなたを誑そうとしていると思ったからよ」

「は? なんじゃと?」

「その女をよく見てみなさい、見覚えがあるでしょ?」

「何? ……あ、まさか!?」

 王様は姫を見て誰かを思い出しました。

「そうよ、その女はお城のメイドだった女よ」

「何年も前に行方不明になった……しかし誑すとは?」

「その女はいつもいつもあなたの側にいて、あなたもその女ばかりを」

「いや、この娘はよく気がつくしっかり者じゃったからのう、ついつい頼ってしまったのじゃ。如何わしい事などしとらん」

「今はそうかもしれないけど、そのうち私を捨ててその女を。そう思っていたらね、何か黒いものが体に入ってきたのよ。そして気がついたら私は呪いをかけれるようになってたわ。これでその女を絵に閉じ込めて商人に売ったのよ」

 王妃様は憎々しげに言いました。


「で、それが回りまわって私の元に」

「ええ、まさかそうなるとは思わなかったわ。王子、あなたが持っていると知った時は取り上げようかとも思ったけど」

「けど?」

「あなたが楽しそうにその女に語りかけているのを見て、そのままにしておいたわ。あなた普段あまり笑わないから心配してたのよ」

「……母上」

「その女が最初から王子と仲良くしていてくれたらよかったのに。あなたの妃になら申し分ないくらいのいい娘だと思うけど、王には近寄ってほしくなかった」

 王妃様は悲しげな顔になりました。


「なんか勝手なおばさんだよな」

「そうよね」

「本当にそうだね」

「ねえ、ミサイル撃っていい?」

「だ、ダメだよ」

 皆が文句を言い出しました。


「そうね、勝手なおばさんよね……ごめんなさい。もう呪いは解くわ……う? うう、あ」

「?」

「な、何なの? ……や、あ」

 王妃様の顔つきが変わっていきました。


「呪いを解くなどさせるか」

 そして声も変わりました。

 

「お前は妃ではないな、誰じゃ!」

「俺は、まあ妖魔とでも呼べ。人間の憎しみや妬みや苦しみや悲しみを糧にするものだ」

「なんじゃと!?」

「王妃の心に物凄い憎しみや妬みがあったからな。別次元から逃げてきて弱っていた俺のエネルギーを回復させるのに利用させてもらった」

「なんということを」

「だがまだ足りぬ……そうだ、貴様等を殺せば王妃やそのメイドは嘆き悲しむだろうな。どれ、貴様等を」

 王妃様にとり憑いた妖魔は皆を襲おうと身構えました。


「え、えと」

 ルーはどうしていいかわからなくなっています。


 ルー君、ルー君。


「え、あれ? 物知りのお兄さん?」

 ルーの頭の中で物知りのお兄さんの声がしました。


 ルー君、心の中に光の弓矢をイメージしてみて。


「う、うん?」

 ルーは弓矢を思い浮かべました。

 

 するとルーの目の前に光の弓矢が現れました。

「あ!」


 それであの妖魔を射るんだ。大丈夫。王妃様は怪我しないから。


「……うん!」

 ルーは光の弓を引いて狙いを定め、矢を射ました。

 

「ぐぎゃああああ!」

 矢が当たると王妃様の体から黒い霧が出てきました。

 そしてそれはすぐに消えました。


「ちょっとルー! あれ何なのよ凄いじゃない!」

「僕もわからないよ。物知りのお兄さんが言ったんだ。ってあれ、どこに?」

「お兄さん? いないけど?」

「あれ? じゃあさっきのは?」


 このくらいはいいですよね……様。


「う……はっ?」

 王妃様が目を覚ましました。

「妃よ!」

「母上!」

 王様と王子様が駆け寄りました。

「私はなんて事を……うう」


 その時突然絵が光り輝き、呪いが解けて絵からお姫様が出てきました。


「あ……姫」


「王子様。こんなドレス着てますけど私はただのメイドですよ」

「いや、私にとっては姫だ」

「王子様……」

 二人は抱き合いました。


「ごめんなさい。あなたにひとい事をして」

 王妃様はお姫様に謝りました。

「正直お恨みもしました。でもおかげで王子様と楽しく過ごせました」

「そう……私にこんな事言う資格はないけど、これからも王子を」

「ええ。わかりました」


「なあ、よかったのか?」

「よかったんじゃないかしら?」


「お姫様、光の玉って持ってないですか? これと同じものを」

 ルーがお姫様に光の玉を見せて尋ねました。

「え、これ?」

 お姫様は光の玉を出しました。

「はい、そうです」

「それをこの子達に譲ってやってくれんかの」

 王様が言いました。

「いいですよ。どうぞ」

 ルーは光の玉を受けとりました。

「これで六つ、残り一つね」

「そうだね」


「ところで姫、あの玉をどこで手に入れたの?」

 王子様が聞きました。

「ご存知なかったのですか? あれは王様から頂いたものですよ」


「え、そうだったのですか?」

 王子様が王様の方を向くと、

「そうじゃよ。更に元を辿ればその昔、彼女の父が儂に預けてくれたものだったのじゃよ。だから娘に返そうと思ってな」

「じゃあ後で返しますね」


「いえ、皆さんが持っていた方がいいです。どうぞ受け取ってください」




「本当にありがとう。皆気をつけてな」

「はい、王様」

「ラチカちゃん。サンタに言っといてくれ。王子の結婚式に出てくれとな」

「はい。じゃあ皆行きましょうか」


「ドンタさん、最後の玉はどこにあるの?」

「え、えーと、南の洞窟の中」

「南? なんか私達って国を一周してないかしら?」

「そうだね、まあ行こうよ」


 こうして一行は南の洞窟へと向かいました。

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