週刊大義 web版 4月17日号
『白昼堂々の乱闘騒ぎ⁉︎ 社員を暴行事件まで追い詰めた会社に潜む「闇」とは?』
去る4月4日、東京都新宿区の中堅出版社「啓心堂出版」本社にて、同社勤務の会社員 戸井田源蔵氏(34)が同僚へ暴行、傷害の容疑で駆けつけた警官に現行犯逮捕された。
この事件を追うにつれ、単なる従業員同士のトラブルではない大きな「会社の闇」が潜んでいることが次第に明らかになってきた。今回は本誌記者が入念な取材の結果突き止めた、同社に関する「3つの闇」について言明していく。
と、その前にまずは本事件について既に公開されている情報を整理しよう。
容疑者の戸井田氏は、新卒採用で啓心堂出版に入社、その後は営業部に配属され、トップクラスの成績を維持しスピード出世を果たし、入社7年目で課長職に就いたとされる。その後も順風満帆なキャリアを積んでいたかに見えたが、近年の組織変更の際に要職から外れたポジションに異動になり、会社や同僚に対して不満を持つようになったという。
そしてあの日、人事発表後にさらに僻地へと配置転換を余儀なくされることが分かった後、溜まりに溜まっていた欝憤が爆発し、営業部の上長であるA氏、その部下B氏両名と口論になり、営業部のフロア内でA氏を数回に渡り殴る蹴るなどの暴行を加え、B氏や周辺の止めにかかった男性社員数名にまで同様の暴力を振るったとされている。
しかも、不運なことにA氏は顔面を強打し眼底骨折、脳震盪を起こし一時は意識不明の重体にまで陥ったと一部では報道されていた。フロアのその一角には赤い血飛沫が舞い、デスクは半壊していたとも聞かれる。
そのような凶行に走る戸井田氏という人物は一体何者か? と理解に苦しむ読者も少なくはないだろう。本誌記者の聞き込みによると、社内や同業他社でも最近は付き合いが少なく、有効な回答を得られなかったが、営業先の書店などでは概ね好印象で真面目な青年であったという印象が持たれている。
では、どのような理由でこんな衝動的としか言いようのない行動をとったのだろうか? ここで着目したいのが、今回の惨劇の舞台となった「啓心堂出版」だ。取材を重ねるにつれ、尋常ならざる同社の「闇」というべき特徴と今回の戸井田氏の凶行が繋がってきたのであった。
◆「3つの闇」その1…過酷な営業ノルマと「やり逃げ」営業
社員数70名程度の同社だが、出版業界にしては珍しく営業部隊が非常に多い。通常、100名規模の会社でも営業は10名いれば十分と言われているが、同社はなんと40名、非正規雇用(派遣社員、パートなど)を加えれば70名にまで及ぶ大部隊となっている。
通常、出版社はほとんどがトーハンや日販といった取次を通して書店やコンビニなどに本や雑誌を供給しているため、取次さえしっかり押さえて仕入れ確保してあれば基本的に売り上げは成立する。後は主要書店やチェーン本部などをフォローし取次に多くの注文が入るよう働きかけたり、書店店頭で優先的に陳列されるよう現場を回ったり有利なリベート条件をつけるなどして返品されないようにケアすることが主な活動内容だ。というのも、出版業界の特色として
・「定価販売」
・「原則として返品自由(=委託販売制度)」
の2大ルールが法律により定められているため、他業界ほどシビアな仕入れ交渉が存在しない、それゆえ出版社はより商品を「売れる」ようにすべく、編集部や宣伝部、昨今は版権管理や電子出版などに人員を多く投入する場合が主流であると言える。
同社が成功しているのは、他社がやっていない「営業部隊による書店シェアの拡大」を第一の戦略にし、全国の書店をくまなくフォローしようとしているからだろう。
しかしながら、その反面で費用対効果を得るがために高い売り上げ目標が個々の営業に設定されているため、とにかく仕入れを増やしてもらおうとする「押し込み型営業」に陥りやすい。
そのようなやり方が成立しやすい理由は、上記の「返品フリー」という条件によるところが大きい。委託販売である以上、売れなければ返品できるということで、書店サイドからすればほぼノーリスクで仕入れられるわけだ。
よって、社員によっては期末に無理やり「後で返品していいから(商品を)入れて下さい!」といったお願い営業をして形ばかりの実績作りに奔走する、といったこともあるという。
「こんなことをしても、返品になるのだから無意味なのでは?」と思う読者もいるだろう。しかし、同社でこうした「やり逃げ営業」というべき愚行が後を絶たないのは、営業部の評価制度と異常な速さの「出世レース」だという。
◆「3つの闇」その2…半期に一度の組織変更と、スピード出世
同社は若手社員が多く(HP情報によると平均年齢31歳)、新卒採用も毎年行っているという。これも中堅出版社としては稀なケースだ。そして、若手の積極登用を謳っている同社は、20代で課長級も夢ではないという。実際は早いと入社3~4年で課長職に就いたケースもあるとのこと(同社関係者談)。
そして、その場合はほぼ例外なく営業部での実績により抜擢されるという。何故なら、営業部が会社の花形部門であることに加え、実績を上げるのに好都合な「成果主義の盲点」とでもいうべき仕組みがある。そう、先述した期末の「送り込み」だ。派手な売上をカンタンに出す必勝法として、同社の営業マンの中ではよく知られている。
しかし、当然ながら書店もいつまでもそんな自分達の売上とは無縁な仕入、返品だけのムダに付き合ってはいられない。取次各社は、昨今の出版不況からコスト削減の一環として高返品率の書店、出版社改善のために「部安入帳=仕入より安い単価でしか返品を受け付けないこと」や返品率40%以上の出版社をブラックリスト化し仕入を厳しく管理するなどの具体策を採り始めている。
同社の返品率は非公開だが、今のところブラックリストに載るような話はない様子。しかし、一部の書店チェーンでは余りに同社の在庫が売上に対して多過ぎることが問題視され、本部主導による仕入規制が敷かれているという(関係者談)。
積極的な営業戦略を裏付けるように、社内組織の変動も激しく、「早ければ30歳で役員、ただし成果を出さないと昇進どころか即降格、2年あれば4回の降格により課長もヒラまで転落してしまう」(関係者談)とのこと。まるで外資系ベンチャーのようなラット・レースが展開されていることが想像できる。
◆「3つの闇」その3…強力なトップダウン経営の歪みによる「ご奉仕出勤」
強引とも言える営業手法はさておき、若手主体で活気に溢れた職場とやる気のある社員を引き上げる方針が同社の強みであることに異論はないだろうが、社員平均年齢31歳という、その若さには疑問が残る。
何故なら、同社は創業から40年を誇る、元々は図鑑や辞書など「全集モノ」が主な発行物で、現在はそれらに加え児童向け読み物などの書籍を中心とした事業を展開している。
こうして見れば、大きな変化もなく堅実な出版社という印象なのだが、その内実は決して清廉潔白とは言い難い、社員の過酷な労働実態が見られた。
出版社と言えば、かつては毎日深夜まで働きオフィスの明かりは消えることのない「不夜城」と称されることがしばしばあったが、近年は労働監督署の指導などもあり、フレックス制やノー残業デーなどを実施する企業が増え、徐々に改善されていく気風にある。
しかし、啓心堂出版においては、そもそも「原則として残業禁止、例外として3日前までに事前申請して社長の許可があれば可能だが、誰も申請しないので前例がない」(関係者談)という話だ。本当に全社員残業ゼロで会社が回るのか?
そんなはずもなく、実態は「直帰」または退社後の仕事の持ち帰りである。実際に、同社から徒歩数分の某ファミリーレストランには、仕事「持ち帰り」の社員が複数目撃できる。営業マンはノルマ達成まで書店回りを続け、「実質残業時間は月100時間は超えているはず」と言われる。時には、土日までタイムカードなしの「ご奉仕出勤」を強要されることまであると言う。
もちろん、これらは明らかな労働基準法違反だ。しかし同社において残業指示の実態はなく、「全ては社員が自主的やっていること」(関係者談)というのが半ば信じ難いものの、実情であると言わざるを得ないようだ。
社員自らが仕事に際限なく時間と労力を注ぎ込み、結果の出た場合は昇格やインセンティブで報いるという枠組みは、欧米型成果主義のようにも見えるが、そこに実態なきルールや縛りがある以上、自主的とは言い切れないのではないだろうか?
今回の加害者や関係者から実際に証言を得られるのは、まだ当分先の話であろう。ただ、これらの証言などがもし本当ならば、今回の事件の引き金と無関係ではないと見るべきであろう。
最後に加えておきたい事例として、世の中の企業には就業規則というものが必ず存在するはずだが、同社においては「そんなもの、見たこともないし、存在自体誰も知らない」(関係者談)とのことであった。
一連の事件から姿を覗かせた、同社の不鮮明な「闇」は、氷山の一角に過ぎずその深淵は相当に深いものと思われる。
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