エピローグ
「そうして、お姫様はお姫様ではなくなったけれど、とても幸せな花嫁になりました」
バルザック邸の中庭の木陰で、アレクシアは絵本を広げて双子の子供達に絵本を読み聞かせていた。
結婚式から六年。結婚して一年後に男女の双子に恵まれた。そしてつい三日前には第三子の妊娠がわかったばかりである。
五歳になるふたりの子供は、ここで絵本を読んでもらうのが好きだった。
今日は絵本作家が自分とギデオンを元にした絵本を作ったものを読み聞かせていた。
子供向けらしく脚色されて人物像もちょっと変わっているけれど、読んでいると当時のことが蘇ってきて懐かしかった。
「お母様とお父様のお話、面白かったです。お母様はお姫様だったの?」
娘の方が首を傾げる。隠しているわけではないけれど、まだ今ひとつ理解していなかったらしい。
「女の子は誰でもお姫様だってサリム叔父様が言っていたよ」
息子の方がそんなことを言って、アレクシアは吹き出した。
「まあ。サリムったらそんなことを言っていたの。ふふ。でも、サリムも本当に素敵なお姫様に出会ったのね」
駐在大使として任期を終えたサリムは、任務中に知り合ったいつつ年下の貴族の女性と近々結婚する。外交官としてこの先も活躍していくらしかった。
「じゃあ、わたしはローランお兄様のお姫様になるわ」
娘がそう言って、アレクシアは微笑ましく見守る。
ジゼルとは半年前に再開した。息子のローランが十三歳になり、侯爵家の跡継ぎとして様々なことを学ぶために王都に戻って来ていたらしい。
お互いまだぎこちないが何回か子供達を交えてお茶会もしている。
ローランは自分がよくお菓子を贈っていたことを覚えていて、子供達に瓶詰めの糖花ををくれた。それ以来娘の方は優しく素敵な少年に育ったローランに夢中だ。
ギデオンは、娘の早い初恋に複雑そうではあるが。
「さあ、そろそろお父様とお茶の時間よ」
そう言って、なんとなしに執務室の方を見上げると、ギデオンが窓辺から外を眺めているのを見つけてアレクシアは手を振る。
ギデオンはバスティアンの側近として順調にやっていて、自分の教育改革もなんとか進みあちこちに新しい学舎が出来ている。
お互い政務で揉めることはあれど、その後には仲直りしてよりよい方向へと事を進められていた。
「今日のお茶菓子は林檎のパイよ」
アレクシアがそう言うと子供達が大好物に目を輝かせてはしゃいで喜ぶ。
子供は乳母を雇わずに侍女達に手伝ってもらいながらも、一日のほとんど一緒に過ごしている。
確かに大変なことも多いけれど、毎日少しずつ成長していく我が子を見守る日々は驚きと喜びに満ちていた。
母のセシリアはあいかわらず、愛人も絶えずに彼女らしく生きているらしい。コルベール家も大きく傾くこともなく続いている。
時々、今の選択を後悔していないかと意地の悪いことを聞いてくる人もいるけれど、自分はいつでも胸を張って言える。
今、とても幸せだ。
そうしてまた新しい家族が増えるこの先の未来もずっと、愛する家族と一緒に幸せでいられると信じられた。
――fin
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