Ⅲ
いつもより遅く目覚めたアレクシアは、だるい体をゆっくりと起す。その気配にジゼルが天蓋の紗を開く。
「お加減はいかがですか?」
「昨日よりはいいわ……。ねえ、窓を開けて」
また上掛けを被って穏やかな眠りの中へ舞い戻りたいと思ったものの、夜眠れなくなりそうでアレクシアは側のクッションを背もたれにして陽射しを乞う。
部屋が明るくなり、風にあたっていると少しは目が醒めてくる。
着替えるか、それとも夜着のままで過ごすか問われたアレクシアは後者を選んだ。
重たいドレスも、体を締め付けるコルセットも今日は身につけたくなかった。
アレクシアはゆったりしたレースのリボンで飾られた白い夜着のまま、窓際のテーブルで朝食を終える。
(公務と選挙のこと以外に考えること……)
木漏れ日がきらきらと輝く庭先を見つめながら、アレクシアはギデオンに言われた心を休める、ということについて思い出す。
しかし自分の日常といえば、公務と選挙しかない。
「姫様、セシリア妃殿下とコルベール侯爵がお見舞いにいらっしゃっています」
他に何があるのだろうかと考えていると、母が伯父と共に戻って来たことを侍女が告げに来る。
アレクシアはそのまま寝室へとふたりを案内させる。
「アレクシア、体調はどうかしら?」
今日は深紫のドレスを纏った母のセシリアがまず入ってきて、アレクシアの隣に座る。
「沢山寝て良くなりましたわ。まだ選挙が始まったばかりなのにごめんなさい」
「最初だからこそ気を張りすぎたのかもしれないわ。今日はゆっくりおやすみなさい」
セシリアはまるで機嫌を損ねた様子もなく、アレクシアは安心する。
「姫殿下、お元気そうで何よりです」
遅れて片眼鏡をつけた壮年の男が入室してくる。彼がアレクシアの伯父で、選挙参謀を務めるコルベール侯爵のパトリスである。
肩口までの漆黒の髪は白いものはまるでなく、伶俐な灰色の瞳は艶めいた印象で、四十四という実際の年齢より五つは若く見える。
「伯父様、こんな格好で申し訳ありません」
「こちらこそお休みの所を申し訳ない」
今でも年下の愛人が絶えないパトリスの笑みや声はもちろん、立ち居振る舞いまで自然と色気が滲み出ている。こういう所も若く見える所以だ。
「休養に入る前にひとつ、姫殿下にお伺いしたいことがありますがよろしいですか?」
「ええ。かまいませんわ」
なんだろうかとアレクシアは小首を傾げる。
「バルザック候の嫡男の攻略は順調ですか?」
「いい関係を築けていると思いますわ」
ギデオンのことを問われて、アレクシアは咄嗟に嘘を吐いてしまっていた。
彼の欲しいものを自分は何ひとつ持ち合わせていない。あとひと月で彼をバスティアンから奪える自信はなかった。
「アレクシア、兄様に嘘は通用しませんわよ」
すかさず嘘を見抜いたセシリアに窘められてアレクシアはうつむく。
「……他の殿方のように、あまりわたくしの夫になることに魅力を感じていただけていません」
仕方なく正直に話すと、パトリスは顎に手を添えて思案する。
「ならば、ひとまずは手をお引きください。思いの外、バスティアン殿下への忠誠心が強いらしい。私の方でも候補の内の幾人かと交渉していますので、姫殿下はその中からお好きな者をお選びください」
「でも、伯父様、まだ五日と経っておりませんわ」
諦めるには早過ぎるのではないだろうかと、アレクシアは食い下がる。
「どうしたの、アレクシア。兄様の仰ることにはいつもすぐにはいと言っているでしょう」
セシリアに優しい声音ながらも厳しい視線を向けられる。
(どうしたのかしら、わたくし)
自分自身でも驚いていた。今まで母や伯父の言葉に疑問を抱いたことはなかったのに、なぜか反論めいたことを口にしてしまっている。
「まだ姫殿下はお疲れらしい。余計な労力は使わない方がよろしいでしょう。ドゥメルグ伯爵家の一件に関してはジゼルから聞いています。それも、私の方で調査してバスティアン殿下に必要な情報は渡しておきます」
パトリスにギデオンとの繋がりを絶ち切られて、アレクシアはこれ以上何も口に出せなかった。
「アレクシア、他の候補達とバルザック卿は票の価値はどれも同じよ。わざわざ苦労する方を選ぶことはないわ」
セシリアが優しく諭してくる言葉は納得のいくものだ。
どれも同じ。誰を選んでも結果は変わらない。だったら楽なものを選んだ方がずっといい。
「ええ。そうですわね。あとでまた、選びますわ」
答えながらも、アレクシアは疑問も同時に覚えていた。
(どうしてこんなに胸の中が変なのかしら)
小石を胃の中に無理矢理詰め込まれたような、重たくて不快な感覚が胸にあった。
やはりまだ体調が良くないのかもしれない。
「……やっぱり、まだ体が優れないみたいですの。休んでもかまいませんか?」
母と伯父に告げるとふたりはアレクシアの体調を気づかいながら退出していく。
ジゼルや数人の侍女達と部屋に残されたアレクシアは寝台の上に戻る。
「侍医をお呼びしましょうか?」
ジゼルが不安げに問いかけてくるのに、アレクシアは首を横に振る。
「大丈夫。少し横になりたいだけだから」
「私は父とお話があるのでお側を離れます」
ジゼルがいなくても侍女は部屋に数人残されるので大きな問題はない。横になっていても眠気は訪れないしただじっと丸くなっているだけだ。
(ギデオン様とは会ってもあまりお話しできなくなるのね……)
他の夫候補や支援者を得る時間を、引き込む予定のないギデオンに割くことはできなくなる。
衣装どころか言葉や仕草さえも過剰に装飾した貴族達の前で、自分も同じように様々な装飾をつけて振る舞わねばならないことを思うと、寝台から出たくないと思ってしまう。
(同じだけど、違うの)
ギデオンはとりたてて派手に飾ることはない。見た目はもちろん、言葉も態度も華やかさとは縁遠い。宝石の中に石ころが混ざっているのに似ているけれど全く違う。
彼はけして石ころではない。見かけばかりが派手なものに惑わされず、本当にいいものを見分けているのだ。
そんなギデオンが自分に望むものは他の誰とも違った。女王になりたい理由など、今まで誰も問うてこなかった。
王の子は選挙に勝ち抜いた後に王となる。それが当たり前でなりたいかなりたくないかなど、自分自身ですら考えたこともなかった。
そうしてギデオンがたったひとつ望むものも、他の者達と違った。
(心。わたくしの心)
アレクシアは自分の胸にそっと手を当ててみる。小さな鼓動を打つその奥底に存在するかも分からない。
ドゥメルグ伯爵夫人のことを思い出して、アレクシアは体を丸める。
(愛は恐ろしいわ)
捧げた心は帰ってこない。最後は命まで奪い去られてしまうのだ。
もし本当に心をあげてしまえばギデオンを跪かせるどころか、自分がどうにかなってしまう。
(どうなるのかしら、わたくし)
恐ろしいと思うと同時に、どくどくと胸が大きく鼓動して何か得体の知れない熱さで体が満たされていく。
(それに、わたくしがギデオン様の心を奪えたなら……)
互いに心を握った時に何が起こるのか。
今までに感じたこともない高揚感に、アレクシアはたまらなく落ち着かない気分になって側のクッションをきつく抱きしめる。
試してみたい。
(伯父様にもお母様にも内緒の取引)
アレクシアは初めて体験する感情の高ぶりにすっかり目が冴えて、ひとり作戦を立てはじめたのだった。
***
ジゼルはセシリアとパトリスが控える部屋へと入る。
「ジゼル、アレクシアの容態はどう?」
「お顔色も悪くはありませんし、ゆっくりお休みになればよくなられると思います」
いつもの陶磁器のように白く滑らかなアレクシアの肌は、赤みもほどよくさしていて健康そうだった。
惜しむべくは、昨日の不調に気付けなかったことだ。
毎日髪を整え、肌を手入れし体型も確認しているのに落ち度があったことが悔しい。
「お前は筆頭侍女としてもっとしっかり姫殿下を見ていてやるんだよ」
「ええ。お父様、分かっておりますわ。だからバルザック卿を引き込むのをやめた方がいいと進言しましたのよ。アレクシア様が王位につくことに疑問を持つなんて、きっとろくでもないことを吹き込まれたのだわ」
ジゼルは不機嫌な顔で父の隣に座る。
「さすがにバスティアン殿下の気に入りのひとりというわけか。それに関しては良く報告した」
「でも、兄様、あの方がそこまで策略家にも見えませんことよ。問題なのはアレクシアが少し気に入ってしまっていることよ。あんなつまらない男に、これまでの苦労が無駄にされるのはごめんだわ」
セシリアが言う通り、ジゼルもそれが気になっていた。
アレクシアはこれまでどんな男にも選挙の票という認識しかなく、自分から興味を示すことなど全くなかった。
「珍しいものに気を惹かれているだけではないのか? お前だって若い頃は家柄のいい男に飽きて、中流階級の愛人を作っていただろう」
妹の怒りにパトリスが苦笑する。
「まあ。兄様、そのおかげでコルベール家の資産が増えたじゃありませんの。本当に珍しいだけならいいのだけれど。ジゼル、ちゃんとアレクシアの様子には気を配っておくのよ」
叔母の忠告にもちろんとジゼルは従順にうなずく。
言われなくともアレクシアに恋などさせない。彼女はどんな男も愛さない、崇高な女王となるのだ。
「姫殿下のことも第一だが、ジゼルは愛人のひとりも作らないのか? もう跡継ぎもいることだし、使えそうな若い貴族を好きに見繕ってくれてもかまわないのだがな」
「私、アレクシア様のことで手一杯ですもの。いりませんわ。お父様が必要というのなら作りますけれど」
ジゼルは六年前の十四の時に父の命ずるまま、三十四年上の侯爵に嫁いでいる。翌年には、前妻や愛人との間に女児しかいなかった夫にとって初めての男児を産み、役目を終えた後は息子は乳母に任せて婚家には五日に一度しか帰っていない。
夫のことはどうでもいい。息子も可愛くないことはないのだが、一時でも長くアレクシアの側にいたかった。
「若い時期は短いのだからもったいないことをしてはいけないわよ」
未だに奔放に恋愛遊戯を楽しんでいるセシリアが言うのに、ジゼルは曖昧に微笑む。
「お前はそう若くないのだから、度の過ぎた遊びは控えるように」
そしてそんな妹へパトリスが釘を刺す。
「選挙のためになるならいいでしょう。わたくしと同じ年頃だった時の兄様ほどではないわ」
「それを言われると困るな。まあ。選挙は始まったばかりだ。焦らず慎重に進めなくてはな」
そうして三人は今後の選挙活動について小一時間ほど話して、ジゼルは退出する。
「ジゼル様、ギデオン・バルザック様よりお見舞いが届いております」」
アレクシアの部屋に帰る途中、侍女が小さな包みと添えられている手紙を差し出した。アレクシアへの贈り物は全てジゼルが最初に品物と手紙の内容を確認することになっている。
「処分して。礼状は私が後で代筆するわ」
ジゼルは見舞いの品を一瞥して命じ、侍女がそのまま退出する。
もうギデオンはアレクシアには不要な存在だ。無駄な手間は全部自分が省いてしまわなけばならない。
(私の、私だけのお姫様)
みっつ年下のアレクシアとは、彼女が産まれた時から一緒だ。
長じるにつれて、アレクシアはどんどん綺麗になっていく。絵物語から出てきたような、お姫様が現実のものとして目の前にあることはこの上ない奇蹟だ。
あの滑らかな黒髪を梳くときの幸福、美しい姿をさらに飾り完璧な姿に変えたときの満足。
他の何にも変えがたい瞬間を思い出して、ジゼルは自然と頬が緩んでしまいそうになるのをこらえる。
回廊の奥からサリムがやってくるのが見えたからだ。
「……サリム殿下、ご機嫌麗しゅう」
「姉上の容態は?」
「少しお疲れのようですが、休めばすぐによくなるとのことです」
正直な所、この王子も気に食わない。アレクシアがことの外、気に入っているからだ。
添い寝の役目をサリムに取られたことを根に持っているジゼルは、作り笑顔を必死に保ちながら応対する。
だがまだ許せるのは、アレクシアが気に入っていると言っても、けして恋愛対象には見ていないからだ。
そうして、サリムも女王の夫になりたい他の貴族の男達と同じだ。彼らと違って多少はアレクシアを大事にしている節は見せても、結局、次の王の父になりたい野心家であることに変わりない。
「サリム殿下、ギデオン・バルザック様はアレクシア様の夫候補から外れました」
「ギデオン殿は一体何をやらかしたんだ?」
王位につくことにアレクシアが疑問を覚えたことをかいつまんで話すと、サリムはさして驚きもせずに聞いていた。
「なるほど。コルベール候が外すのも道理だね。僕もギデオン殿は好かないしちょうどいいや。君も今からアレクシアの所に?」
「もちろん。私はアレクシア様のお側に仕えるのが役目ですので」
これまでも、これからも誰よりもアレクシアの一番近い所で侍るのは自分の役目だ。
アレクシアはこの先、誰も愛さない。自分もアレクシアに愛されることはない。
その代わり、自分のアレクシアへの愛が永遠に踏みにじられることもない。
絵物語の美しいお姫様は、やがて崇高で神々しい女王になる。愛を知らない彼女は、この先どれほどの男を寝台に招き入れても可憐で無垢なままだろう。
(永遠に私だけのお姫様なのよ)
ジゼルはアレクシアに王冠を飾る幸せな未来を思い描いて、密やかに微笑んだ。
***
サリムは領地の視察から戻ってすぐに、アレクシアの体調不良を聞かされ自分の住まいである薔薇宮より先に、この椿宮にやってきた。
(まったく、あれだけ熱心に仕えているジゼルが気付かないぐらいなら、そこまで大したことでもないだろうけど)
サリムはジゼルがアレクシアに訪問を告げて入室の許可を取るのを待ちながら、出立前夜のことを思い出す。
アレクシアは歪だ。知能も肉体も十分に大人なのに、心だけは幼いままなのだ。歪みは確実に彼女を蝕んでいる。ここ数年は、夜中に添い寝をねだられることも多かった。
「サリム、おかえりなさい」
寝台の上でアレクシアが花が綻ぶように微笑む。
(本当に変わらないなあ)
いくつになっても従姉の浮かべる表情は変わらない。共に過ごす時間が増えた七つの頃からどんな表情も同じだ。
「お倒れになったと聞いて驚きましたよ」
「少し疲れていただけで大したことはないわ。サリムの方はどうだった?」
「順調、ですよ。お土産にローズティーを買ってきましたから、後で一緒にお茶にしましょう」
「ええ。そうしましょう」
楽しげなアレクシアの笑顔に微かな違和感をサリムは覚える。ギデオンのことは今までの夫候補よりも気に入っていたから、諦めざるを得ない状況で多少は拗ねているかと思ったのだが。
「ところでギデオン殿は夫候補から外されたそうですね」
「伯父様が手を引きなさいって言ったのだもの。仕方ないわ。ドゥメルグ伯爵家のことも伯父様の方で全部やって下さるそうよ」
「なら、次の候補を選ばないといけませんね」
「もうその話はなしにしましょう。わたくし今日はお休みなのよ。だからこんな格好で、いつまでも寝台の上でのんびりしているの」
すっかり機嫌の良い調子でアレクシアが夜着を纏った自分の姿を見せる。
「元気そうですね。なら、そろそろ寝台から出ましょう。領地で見た物を話しますよ。羊の毛刈りをさせてもらったんです。春に産まれたばかりの子羊もたくさんいました」
アレクシアに手を伸べ、寝台から降りる手伝いをする。
椿と薔薇の境で出会った日から比べ、アレクシアは自分より小さくなった。背丈は頭半分ほど下に、普段はコルセットで締め付けられている腰回りなど自分の半分ぐらいしかなのではと思うほどに細い。
「羊は昔見たけれど、かわいいわよね。でも、匂いは苦手だったわ」
「僕もあの匂いはなかなか慣れませんよ」
窓辺に白い夜着の裾を閃かせて窓辺へ移動するアレクシアの姿に、サリムは目を細める。
明るい陽射しに照らされ、真白い夜着に身を包んだ彼女は光り輝いて美しい。
(綺麗になっても子供のままだな)
アレクシアはいつまで無垢なままでいるのだろうか。
あの奔放なセシリアの娘に産まれ、これだけの美貌を備えていながら、この純粋さは奇蹟のようなものだ。
だが、王位継承選挙という泥沼の中ではあまりにも無防備だ。
(コルベール候の育て方は悪くはないと思うけれどね)
母であるセシリアとコルベール候は、アレクシアが欲しいと思う間もなくドレスも宝石も、侍女も教育も最上のもの用意して彼女から欲を持つということを奪った。徹底的に、アレクシアを支配するためだ。
そうして何もかもを与える傍らで、愛情だけは与えずに愛することを悪として教え込んだ。欲というものを知らない彼女は、自分が何かに餓えていることすら気付いていない。
アレクシアが自分を可愛がるのは、誰かを愛したいのかそれとも誰かにそうして欲しいのかどちらだろう。
何を与えられても満たされない毎日が続くことに、無意識に絶望を覚えるのも仕方ない。
(このままだとバスティアン兄上には勝てない)
サリムはアレクシアの隣に座り、領地での話を始める。従姉であり姉でもある彼女は穏やかな微笑みを浮かべて聞いている。
たったひとりの王女であることと後ろ盾の強力さ、そしてただのお飾りではない賢才と類い希なる美貌。
これで相手がバスティアンでなければ、どれだけ病んでいても勝利は手堅かっただろうが。
「姉上、昨日ジゼルに自分が王位につくことがいいことなのか、訊ねたそうですね。気弱になってしまうことがあったんですか?」
「……少し、疲れていただけよ。わたくしは女王になるの。それで、サリムがわたくしの最初の夫になるんでしょう」
幼い頃の約束を確認するアレクシアに、サリムは半眼を伏せる。
王の子でない自分はこの選挙で勝ち抜けない。ならば、せめて女王の夫となろうと子供ながらに考えた。
王族といえど、王弟の実子で現国王の養子という半端な立ち位置にいた。
侍女が母のことを浅ましいと陰口を叩くのを聞いてしまったこともある。落選は確定なのに立候補せねばならいとは、惨めなと憐れむ声もあった。
どれだけ悔しくとも、選挙に勝って皆を見返すことなどできない。
それならば、貴族の男達が欲しがるものを手に入れようと思った。女王の夫。そして次の王の父に。
「ええ、最初ですよ」
約束したときはどうせなら一番目が上等だと単純な童心からの言葉だった。
しかし、歳を経るごとに一番の意味合いは変わっていた。
(最初に僕がアレクシアを抱くんだ)
誰も彼もが王の父になるためにアレクシアと寝所を共にする。無論、自分もそのためだけれど、少なくとも他の男達よりは彼女のことを好きだと思うのだ。
これが姉同然である従姉へのただの親しみなのか、恋愛感情なのかは知らない。
「サリムは一番が好きね」
「誰だって一番が好きですよ。だから、姉上も一番になりたいでしょう。選挙で沢山票を取って、兄弟の中で一番になるんですよ」
「一番……そうね。一番になるのはいいことなのね」
アレクシアはさして興味もなさげにそう言う。
(何か姉上が王位についきたいと思うものを探さないといけないな……)
だけれど王位に執着を覚えたとき、アレクシアは変わってしまうかもしれない。
この無垢さが損なわれるのは惜しい。かといって選挙に勝たなければ自分は惨めなままで、アレクシアも他国に嫁がされる。
「今日も添い寝しましょうか?」
「本当に? じゃあ、晩餐もここでね」
やはり七つの頃と変わらない表情と声に、サリムは口元に苦い笑みを浮かべる。
もういっそ時が止まればいいのにと願うのは何度目だろうと。
***
三日後、すっかり回復したアレクシアはさる侯爵夫人の絵画のサロンに出席していた。ドゥメルグ伯爵夫人の一件の後、公の場に姿を見せたのはこれが初めてだった。
(ギデオン様もいらっしゃるわね)
出席者に体調を気づかわれながら、アレクシアは部屋の隅で行儀よく座っていたギデオンを見つける。
彼の方はすぐにこちらにきづいていたらしく、目が合うとそわそわと視線を泳がせつつ軽く頭を下げた。
おそらく彼がこのサロンにいるのは自分と同じ目的だろう。
このサロンにはドゥメルグ伯爵夫人もよく出席していた。そして愛人の版画家との出会いの場でもあった。
不貞に関してはこのまま訴訟もなく終わりそうだが、まだ不明な点が残っている。どこかで何者かの意図が入り込んでいるなら、追求しておいた方がいい。
「まさか、ドゥメルグ伯爵夫人と彼がこうなってしまうなんて、わたくしも心が痛みますわ」
サロンの主催者である侯爵夫人が羽扇子を口元に当てて、悲しげな表情を作る。
今日は絵画よりもその話題が中心となりそうだった。
濃紺で色合いを統一し、壁に幾つもの絵画が飾られた大広間に集まっている来客達のお目当てもそうだろう。
所詮は他人事。興味本位で噂話をするのもサロンを訪れる貴族の楽しみのひとつだ。
(ギデオン様はわたくしと同じく情報収集ですわね)
アレクシアはまるでくつろいだ様子を見せないギデオンを見て、くすりと笑い口を開く。
「こちらで出会われたのですわね」
ドゥメルグ伯爵夫人の亡骸を見つけた王女自ら話題を振るのに、来客達は興味津々といったところだ。
「ええ。若手の画家を何人か呼んで、パトロン探しのお手伝いをしておりましたの。ドゥメルグ伯爵夫人は彼の絵をいたくお気に召した様子でしたわ」
「わたくしも彼の版画をみたことがありますけれど、一目惚れしてしまうのは分かりますわ。夫人以外に彼のパトロンをしようという方はいらっしゃらなかったのかしら?」
アレクシアが問いかけると、ど侯爵夫人がうだったかしらと首を傾げる。
「あの方の絵は確かに素晴らしかったが、彼も夫人も絵の話に夢中で間に入りづらかったですな。よくあることといえば、よくあることですが」
当時を覚えている紳士が言葉を濁しつつ言う。
「……あの時夫人より年下の画家は彼しかいませんでしたわよね」
そして来客の女性のひとりがぽつりとこぼして、ああ、と幾人かが訳知り顔でうなずく。
「ドゥメルグ伯爵夫人は年下の方がお好みだったのかしら?」
アレクシアが問いかけると、何人かが夫人の恋愛遍歴を口にし始める。
「結婚前はほら、サロンに出入りし始めた若い方とよく遊ばれていたでしょう」
「十五、六の方によく声をかけておりましたわよね。夫人も十七、八ぐらいでしたから、それほど歳が離れているわけではなかったし、年下好きというのもいかがかしら」
「あら。わたくし夫人が、年上の男はあまり好かないだと仰っているのを聞きましたわよ」
「ええ。早く嫡男をもうけて、年下の殿方とまた親しく遊びたいと仰るのをあたくしも聞きましたわ」
もはや絵画の話などどこへやらという状態で、彼らは噂話に花を咲かせる。実際、何人かに思わせぶりな態度も見せていたらしい。
しかし版画家にパトロンになってから三月もすれば、若い青年貴族に自分から声をかけることもなくなったそうだ。
「呼ばれた若手の画家は全員、あなたがお選びになったのですの?」
アレクシアは主催の侯爵夫人に問を投げる。
「わたくしがよく絵を買わせていただいている画商に、若い才能ある方を集めていただきましたの。そうね、彼は若くてとても見目も麗しくて素敵でしたわ。ドゥメルグ伯爵夫人が夢中になっていまったのも、分かる気がいたしますわ。夫人もお可愛らしい方でしたのに……」
支援をしてもらっていたのにひとり逃げた愛人の方も酷いものだと、夫人を憐れみ悼む声が出てあたりはしんみりした空気に包まれる。
「……さあ。皆様、絵をご覧になって。今日は花の絵ばかりを集めましたのよ」
主催の侯爵夫人が目尻の涙をぬぐって、壁に掛けられた色とりどりの絵画を示す。それぞれが席を立ち、気に入りの絵を見つけたり、あるいは絵をきっかけに親しくなろうとお目当ての人物の元へと異動する。
アレクシアは再び多くの人に話かけられ愛想よく返しながら、数人と話しているギデオンの側にまでなんとか近づけた。
「お体は、よいのですか?」
なぜかギデオンはいつもよりも緊張していた。
「ええ。先日はご心配とご迷惑をおかけしてごめんなさい。おかげさまですっかりよくなりましたわ。ギデオン様はこの絵がお気に入りになりましたの?」
薄暗い書庫の卓に一輪の白い蘭が生けられている絵を見上げる。
「ああ、いえ。たまたま立ち止まった所がここだったのです」
絵についてその場凌ぎの話をせずに、素直に答えるギデオンにアレクシアは笑みを零す。
「正直な方ですわね。わたくしも絵ではなくあなたとお話ししたくてここにいますのよ」
アレクシアは寄り添う様にギデオンに身を寄せた。
「そのままでいらして。こうしていれば、誰も近づいてきませんわ」
ギデオンがびくりとして体を離そうとするのを、声を潜めて牽制する。親しげな男女の間に割って入る礼儀知らずなことは誰もしない。
「……承知しました。王女殿下はこちらにドゥメルグ伯爵夫人の件で?」
身を硬くしたままギデオンも小さな声で問いかけてくる。
「ええ。伯父様がほとんどやってくださっているけれど、まだ情報はそれほど集まってもいないから、わたくしの回復を広めるために一番話題が広まりそうなサロンに出るついでに調べに参りましたの。どうせならお知らせ下さればよろしかったのに」
ギデオンからの連絡はなかったものの、ここならば会えるかもしれないという期待もしていた。
「いえ、み、見舞いの礼状が侍女の方の代筆だったので、まだ伏せっておいでかと思いましたので」
なぜかひどく声をつっかえさせてギデオンが背をぴんと伸ばす。
「お見舞い? ギデオン様、お見舞いを下さったの?」
初耳だとアレクシアは目を瞬かせる。昨日は見舞いへの礼状書きに追われていたが、ギデオンへ書いた覚えはなかった。
しかしすぐにジゼルが処分したのかと思い当たる。
もう夫候補でもなんでもないのだから、わざわざ自分にいらぬ手間をかけさせないためだろう。
「……中を検めて王女殿下に相応しくないとご判断なさったのやも知れません」
ギデオンが肩の力を抜いてうなだれる。
「あ、いえ。あの、実はギデオン様を夫候補から外しなさいと伯父様が仰ったからだと思いますの」
「そうなのですか。……バスティアン殿下の内偵だと告白したも同然でしたね。不甲斐ない……」
主命を果たせなかったことを悔いているギデオンの表情は険しい。
「たぶん、バスティアンお兄様もわたくしを呼び出した時すでに、あなたが内偵であることを隠す気はなかったのですわ」
慰めを口にすると、ギデオンは難しい顔のままアレクシアを見下ろす。
「では、なぜ王女殿下は私にお声をかけられたのですか?」
「もう少しギデオン様とお話ししたいと思って……ドゥメルグ伯爵夫人の件もギデオン様と始めたことなので」
アレクシアは本音と言い訳を同時に並べて、ギデオンを見返す。
「そう、ですか。ですがよろしいのですか。コルベール侯爵からお叱りを受けませんか?」
「選挙活動に支障をきたさなければ、お母様も伯父様も何も言わないと思いますの」
きちんと他の課題をこなして夫候補を引き込んでいれば、ちょっとぐらいは大目に見てもらえるはずだ。
いつも取引の内容にまでは触れないし、何を試そうとしているかなんてばれやしない。
「ならば、私は王女殿下に従います。……ドゥメルグ伯爵夫人と愛人の出会いは意図的なものでしょうか」
「ええ。新進の画家でしたら、若い方が多いでしょうけれど、十九だったドゥメルグ伯爵夫人より若い方がひとりだけで素敵な方というのなら、夫人をよく知っている方が手引きしたのかもしれませんわ」
「そうなると、やはりドゥメルグ伯爵を貶めるためでしょうか。あるいは王女殿下の得票を削ぐためとも考えられますか」
「ドゥメルグ伯爵とウダール伯爵家。どちらもあまり重要な票ではありませんのよ」
選挙に絡んだ謀略としては、あまり利になるとも思えない。
「画商について調べるのが先決ですね。バスティアン殿下ならそちらの繋がりも深いので伺って参ります。それと、ドゥメルグ伯爵家の資産について、もう一度洗い直してみましたがやはり資金援助としては多額かと。ウダール伯爵家は観光船に多額の投資をしたものの、集客に失敗した上に嵐で船に損傷が出てということです。他に投資した貴族も何人かいた模様ですが、一番多く投資して痛手を被ったのがウダール伯爵だったそうです」
「嵐は人の手で操るのは無理ですけれど、おひとりだけ読み間違えたというのも不自然ですわね。もし船に損傷がなければ、両家の婚姻は妥当な取引になり得たと思います?」
「ええ。船の件がなければそうでしょう……思い過ごしかもしれませんが、ドゥメルグ伯爵がどうしても令嬢を迎えたかったのではと考えてしまいます」
アレクシアはギデオンが顔を伏せ考え込む横顔から、目の前の絵画へと目を移す。
「……夫人にとってこれまでの殿方と何が違ったのかしら」
他の貴族達と変わらず恋愛遊戯を楽しんで慣れていた彼女は、無数の花からたった一輪だけ選び取った。
「ご本人しか分からないことだと思います。理屈も理性もきかないのが恋だと……その、私は思います」
真面目に答えた後に、ギデオンが我に返って耳を赤くする。
(わたくしはこの方に恋をしているのかしら?)
理屈も理性もきかないのが恋ならば、彼が気になるはっきりした理由が見つからないのはそういうことだろうか。
「ギデオン様」
気まずそうに口ごもってこちらを見てくれないギデオンの顔をもっとよく見てみたいと、アレクシアは彼の名を呼ぶ。
そうすると素直に厳めしい顔をギデオンがこちらに向けてくる。
整ってはいるが目を惹くほどの華やかさはなく、荒削りな面立ちだ。
だけれど一度目が会えば、澄んだ灰色の瞳に引き込まれる。
「王女殿下、なんでしょうか」
「ギデオン様がお見舞いに下さったのものって、何かしらと思って」
アレクシアはギデオンの瞳を覗き込みながら小首を傾げる。
「え、ああ。ポプリを枕元に置けるように、陶器の容れ物に詰めて贈らせていただきました。何分、女性への贈り物というのは慣れないので、侍女達に選んでもらったのでお気に召していただけるかと思ったのですが……」
「まあ。そうなの。でも、それならまだあるかもしれませんわ。食べ物やお花だと、すぐに下げ渡されてなくなったり、どこかに適当に飾られたりしてしまうから」
帰ったらジゼル以外の侍女にこっそり訊ねてみようと、アレクシアは決める。せっかくギデオンから初めて貰った贈り物なのだ。
どうしても手に入れたい。
それが初めて抱く欲求だとも気付かないほどに、アレクシアはギデオンの贈り物のことで頭がいっぱいだった。
「……あの、王女殿下、ひとつ、お訊ねしてもよろしいでしょうか」
「もちろんですわ」
「遠方に嫁いでいる妹から、都の女性の流行をが知りたいと手紙が来たのですが、何分、贈り物を侍女に選んでもらわねばならないほどなので、特にお詳しそうな王女殿下に教えていただきたいのです」
最近の流行は花模様の刺繍を刺したハンカチーフに、黒レースの日傘。蔦をモチーフにした宝飾品。
いろいろと浮かぶものの、ギデオンの妹が嫁いだ先にもすでに広まっているだろうものばかりだ。
そしてふとあるものが思いつく。
「……ポプリ。可愛らしい容れ物にポプリを詰めたものですわ」
「なるほど。流行りだったから侍女達が選んだのですね」
ギデオンが感心してうなずくのにアレクシアは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「これからわたくしが流行らせますのよ」
王女のお気に入りというのはすぐに広まるものだ。王宮の流行は王女や王妃がつくるものと決まっている。
「では本当に最新の流行になるのですね。ありがとうございます。これで妹も喜びます」
ギデオンがふわりとほんのかすかに口元を緩める。本当に一瞬のことだが、初めて見るギデオンの笑顔だった。
この表情を引き出せたことにアレクシアも嬉しくなる。
「ギデオン様は妹様と仲がよろしいのですね」
「ええ。我が家で一番賑やかでしたので、嫁いでしまってからは両親と私は少し寂しい思いをしております」
「とても洗練されて溌剌とした方でしたわね。都にいらした際にはまたお目にかかりたいですわ」
自分よりひとつ年上のギデオンの妹とはサロンで何度か会ったことがある。よく喋ってよく笑う、場を華やがせる令嬢だった。
「王女殿下にそう仰っていただけて、兄としても喜ばしく思います」
「ふふ。ギデオン様は本当に妹様がお好きなのね。……だから、あの時バスティアンお兄様が巫山戯ているのをお叱りになったのかしら?」
自分が倒れたとき、兄はいつもの調子で軽口を叩いていた。ギデオンがそれをきつく窘めたことが不思議でしかたなかった。
「さすがに身内が倒れてあれはいかがなものかと、つい頭に血が上ってしまいました……あの場ではなく後で冷静に御注進申し上げるべきでした」
またいつもの難しい顔で反省するギデオンにアレクシアはくすりと笑う。バスティアンがギデオンが子を王にできないと言ったのは、家族思いな彼には自分の子を権力のためだけに兄弟で争わせることができないからだろう。
「ギデオン様が何を言ってもバスティアンお兄様も聞きはしませんわ。そうだわ、わたくし丸一日お休みしたのだけれど、ずっと部屋でいるのも退屈でしたの。ギデオン様はお休みの時はどうお過ごしになるのかしら」
「私は、狩りと遠駆けをしています」
「そういえば、ギデオン様は詩を捧げるぐらいに馬がお好きでしたのよね。あら、馬ではなくて馬に似た方だったかしら」
あの日のことは疲れもあってか、記憶がぼやけていてアレクシアは首を傾げる。
「いえ、人間より馬の方が話しやすいということだけで、馬は無論とても好きではありますが……もうその件は忘れていただきたく思います……」
恥じらい縮こまるギデオンにアレクシアは目を丸くして、忘れろというなら忘れようと素直に受け止める。
「ギデオン様は馬のどんな所がお好きですの?」
そして何気なく問いかけると、ギデオンは真顔になってうなずく。
「馬はとてもよいものです」
その力強い一言を始めとして、饒舌にギデオンは馬について語り始める。彼の馬に対する熱い弁舌は主催の侯爵夫人が再び来客を呼び集めるまで、延々と続いた。
アレクシアには正直なところギデオンが何を言っているのか、九割ほど分からなかった。
だが彼が自分に対してこうも熱心に話しかけてくれる物珍しさと、妙な楽しさがあって最後までにこにこと聞いていたのだった。
***
椿宮に戻ったアレクシアは、ジゼルが側を離れるのをそわそわと待っていた。今日は婚家に帰るらしくこっそりギデオンの贈り物を手元に置くにはちょうどいい。
「ねえ。バルザック卿からお見舞いをいただいていたでしょう。まだ残っているかしら?」
そうしてジゼルがいなくなった夕餉の後に、入浴の準備をしている侍女にそっと耳打ちをする。
「はい。どうされるのですか?」
「持ってきて。ジゼルは中を確認している?」
返事は否でアレクシアは安堵する。これならば枕元に置いていても、サリムに貰ったとでも言えばどうにかなる。
早く手に取ってみたいと入浴中もそのことばかり考えてしまっていた。
今まで贈り物の中身などさして興味がなかったのに期待に胸が弾んだ。そして入浴を終え、髪を乾かすために鏡台の前に腰を下ろす。
沢山の化粧道具が並ぶ机の上に小ぶりなリボンをかけられた箱が置かれていた。
「自分で開けるわ」
侍女が包みを解こうとするのを止めて、桜色をしたサテンのリボンをそっと指先で解き丁寧に薄茶の包装紙を開いていく。
なんでもない一連の作業すら、楽しくて仕方なかった。
簡素な木の小箱を開けるとふわりと花の香が広がる。
中には掌ぐらいの大きさのぽってりとした白い磁器が入っていた。蓋の取っ手が蓮だ。側面は繊細な蝶の透かし彫りがされていて、中のポプリで羽が虹色に色づいて見える。
蝋燭の灯を反射して淡く光るポプリポットは、ずっと眺めていたくなるぐらいに綺麗で素敵なものに見えた。
アレクシアは両の掌にそっとポプリポットを載せて、自分の目の高さまで持ち上げる。
(ギデオン様から最初にいただいたもの)
最初の贈り物は特別。
今まで何度も口にしてきたが、何がどう特別なのかさっぱり理解出来なかったことが初めて分かった気がする。
「ジゼルには内緒よ」
髪を梳いて乾かす侍女にしっかり口止めをして、アレクシアはうっとりと小さなポプリポットを眺める。
寝台の側のサイドテーブルに置けばいい夢が見られそうだ。
明日のサロンまで楽しみになる。誰かに早く素敵なものを手に入れたと伝えたくてうずうずする。
(でも、サリムからって言わなくてはいけないのね)
それはつまらないが、ギデオンに流行りにすると言ったのだ。また喜んでもらえるといい。
アレクシアは優しい花の香りに包まれ、一瞬だけ垣間見たギデオンの笑みを眼裏に浮かべる。
そうすると胸の中に甘く暖かいものが溢れてきて、とても満たされた気分だった。
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