第二章 二時のランドリー
1
ぼくは、なぜかふたたび深夜の洗濯室にいる。
八時間ほど前のこと。
きつい団訓のせいで空腹なのに夕飯も喉を通らないという中総体以来の経験をしたあと、さあ風呂だ、と気力を振り絞って開けたロッカーに、一枚の下着も残っていないことを発見した。
ゆうべ、というか今朝方の洗濯物を取り込み忘れたことに気づき、面倒くさいのを我慢して乾燥室へ向かった。
一日中熱風吹きすさぶエコロジー度外視型の乾燥室は、洗濯室のすぐ隣にある。
寮そのものが時代錯誤的雰囲気だから、乾燥室だって時代に逆行していてもいいらしい。
ケッペンの気候区分によればBWh、解説すると、乾燥気候にあるリビア砂漠ってこんなとこじゃね、と思われるほど熱く乾いた室内で自分の衣類を探す。
ない。
濡れた衣類やハンガーを引っかけるため、室内に造りつけられ、縦横無尽に張り巡らされたステンレス棒は既にほかの洗濯物で隙間もないほど埋まっていた。干した覚えのある場所には、誰か知らないやつの名前入り衣類しかない。
――盗まれた?
いやいや、他人の、しかも同性の下着を盗んでいくやつなんているか。
スリッパの先で何かを踏みしだいた。
ぱりぱりいうその音に足もとを見ると、乾きすぎて板のようになった下着だった。
しかも、それはぼくのだ。
よく調べてみると、自分の洗濯済み衣類はすべて床の上に落とされていた。
まだ濡れているうちに床へ放り出されたと見え、それらは大勢の人間に踏みしだかれ、無数のスリッパ痕までついている。
思わずカッとなり、目の前にある名入りの洗濯物も同じ目に遭わせてやろうかと考える。だが、必ずしもこいつの持ち主がやったという証拠はない。
仕返しはあきらめ伸ばした手を引っ込めた。
ぼやぼやしていたら、入浴時間そのものもなくなってしまう。
入浴は夕食前一時間から夕食後三十分までと決められているからだ。
で、いまここにいる。
本当は夕食後の時間に必要最小限の洗濯を済ませるつもりで、でも、入浴後に寝室でちょっと横になったのが運の尽き、結局さっきまでうたたねをしてしまったのだ。
下着がわりの短パンはごわごわして着心地も悪い、下着だけでも先に洗って乾かさねば。
現在午前二時十一分二十秒。すぐ二十一秒。
起き出してからまだ十分少々しか経っていない。寮監は毎夜消灯時間の午後十一時から午前零時三十分近辺に一度寮生の見回りをするみたいだ。
彼らも人間だから、おそらくもう巡回はないだろう。現に昨夜はこの時分、誰も見回りに来なかった。
少し寝たおかげで今朝方の寝不足も含めた疲労は多少回復している。けど、このまま受験生の時みたいに、夜行型になるのじゃないかとちょっと心配になった。
乾燥しすぎてドライフラワーのようになったパンツ一山と、下着がわりのTシャツ類を洗濯槽に放り込み、ふたを閉める。
自動、と書いてあるボタンを押すと、中でうぃんうぃんと洗濯槽が回り始め、すぐ適切な水量と洗剤量を液晶に示した。
古い型落ちの機械でも、きちんと仕事をこなしてくれるもんだ。えらい、えらい。
液晶に表示されて思い出す。
またもや洗剤を持ってこなかった。
思考の方はまだちゃんと回っていない感じで、やはり完全に復調とはいかないみたいだ。
――しかし……
あの倉庫室には行きたくなかった。
なぜ昼間あの洗剤を戻しにいったんだろうと、ひたすら悔やむ。
京山のせいだ。
決して怖がっているわけじゃない。たかが画が消えただけじゃないか。
洗濯室のほかの洗濯機周辺をあさって、だれかが洗剤を置き忘れていないか、もしくは洗濯室に備え付けの洗剤かなにか――こうなれば固形石けんだっていい――ないか、探し回ってみた。
全くの徒労に終わった。
備え付けの洗剤があるなら、決して寮に持参せよとは書かないよなあ、と、入寮前に郵送されてきた持ち物リストの紙を思い出した。ああ、もう。
――ごめんなさい。本当は怖いんです! 恐怖でびくびくです!
人ごとのように自分で自分にカミングアウトすると、ぼくは重い気持ちのまま倉庫室へ向かった。
自慢じゃないけど、暗い場所で不安になったことはあまりない。
暗い場所で危険に遭ったことはないからだ。
暗い場所は怖くない。廊下も部屋も怖くない。暗がりを怖がるのは原初的な恐怖だから、誰でも感じることで、よくあることだ。
画が現れたり、消えたりするのは壁に反射した屈折のせいかも。だれかの荷物の中にプロジェクターがあって、たまたま壁に投影されていた可能性もある。
倉庫室の前にたどり着くまで、くだらないことをいろいろ考えた。
いざ引き戸の取っ手を握ってみると、急に自分の恐怖がばかばかしく思えた。
――だって、アニメだぜ?
壁のしみが人の顔に見えたとか、血の染みが広がっていくだとか、ありがちでもおどろおどろしい話なら、このまま恐怖を持続してよい気もする。
けど、魔女とか言うくせに、中世風味の現代的ミニスカートをはき、凍ったような笑顔を浮かべてるアニメの女子高生にビビってちゃ、人間として終わってるんじゃないのか。
そう思うと、多少気も楽になり、そのまま引き戸をするすると開けた。
天井のレールの滑りはよく、音もほとんどしなかった。
中に入って戸が勝手に閉まらないよう後ろ手に取っ手を支えながら、手探りで天井灯のスイッチを入れる。
やっぱりいるんですけど。
2
――いきなり真っ正面かよ……
人間、本当に驚くと声も出なくなるというのは真実らしい。
ついでに言うとぼくの場合は身体の方も金縛りにあったように停止していた。
いつの間にか手の力も抜けていたらしく、背後の引き戸がオートクローズ機能によって閉まった音により、ようやく我に返る。
画はぼくの前方、部屋の両側に積み上げられた個人用荷物箱の間の壁面に描かれていた。
しばらく引き戸の前を動かず、正面の壁のアニメ画をにらみつける。
きのう見たのと位置は違うものの、画は、動きも、消えもしなかった。
当たり前だ。
画は動くものじゃない。画は動かない。動かないんだぞ。
深呼吸を繰り返すと、心臓の鼓動もようやく落ち着きを取り戻した。
なんだか急に腹も立ってくる。京山が何らかの手段を使ってぼくを引っかけてるんじゃないか。そんな気すらした。
――『ポスター、か』
昼間のその発言は、トリックを知っているからこそ出たのだとしたら?
壁の画はかなり大きい。
そんな大きなポスターを持っているとすれば、アニ専オタクで、このアニメのファンであるあいつしかいやしない。
うまく切り抜き、壁に貼っておいてぼくを驚かせ、回収する。
あとで考えると動機不明、矛盾点満載のその論旨を思いついたせいか、このときぼくは頭へ血を上らせ、思考能力を無くしていただけだった。
――絶対、真相を暴いてやるからな!
そう決めて、ぼくはまず遠目からじっくり画を観察してみた。
雑誌で見た服装とほとんど変わらない。
モスグリーンを基調とした、ゴシック調ミニスカート姿。
スカートの下のスパッツも変わらないし、あの変な杖も手に持っている。
頭の冠みたいなのはなんだろう。
姿勢はきのう見たときや、雑誌に載っていたのとも違うように思うが、興味のないことへの記憶なんてそんなものだろう、と考えつつ、妙なことに気づく。
表情だ。
よく知らないけど、アニメ画なら定番の笑顔とか、必殺技の時に見せる決めのふてぶてしい顔とか、静止画だからそれほど表情にバリエーションのあるはずはないと思う。のに、壁の画はどこかマヌケ面をしていた。
半開きの口元。デフォルメされ、単色の線で描かれたまゆ毛はすこしだけ上がり、目を多少見開いているせいか、なんだか驚いたような顔にも見える。
まあ、これだって見ようによっては可愛く見えるかも……いや、可愛いか、これ? ぼくがファンだとしたら、このポスターは買わない。
アニ専だっているんだから、マヌケ面専門のファンだっているのかも知れない。
――マヌケ専門……マヌ専か
すくんでいるわけでもないのに動かしづらかった足は、マヌ専を考えついたことで軽く前に出た。
さすがマヌ専。すごいぞマヌ専。
これでようやくアニメ画に近づいて見られる。
なぜなら、いまのぼくは怒りのエネルギーが驚愕のショックを凌駕しているのだ!
そういやポーズも変だ。左に向かって駆け出そうと身体をねじっているのに、顔だけ正面に向いている。まるで正面の敵から逃げだそうとしているように見える。
――じゃ、今夜の敵はぼくだな
頭をよぎるその連想に、すこし不安を感じる。
まさかね。
壁際に寄り、ようやく画を近くから見る。等身大とも思える大きさだ。
――ポスターじゃない?
画はしっかり壁に描かれていた。
コスチューム部分のモスグリーンには、壁面の微細なデコボコもはっきり現れていて、画が壁に貼り付けられた紙などでないことは一目瞭然だった。
――塗装? ……でも、それじゃ
オカルトチックな現象は信じないほうだ。
壁と画の境界部分を手でなぞってみる。
薄いフィルムか何か転写されているかも知れないと思ったからだった。とくに指先に段差は感じられない。
けれど、壁面と画には明らかな差異を感じた。
温度だ。
壁そのものは昼間触ったときのようにひんやりと冷たかったが、画にそうした冷たさはない。
明らかに何かが……貼って? ……あるのか、これ?
ぼくは画の身体のあちこちに触れながら、頭の中で仮説を組み立てようとしていた。極薄のプラスチック素材か何かを使っている?
だから段差を感じず、壁の温度も通さない?
壁と画との境界線を爪でひっかいたり、こすったりしてみても、フィルムがめくれてくる様子はなかった。
調べれば調べるほど、かえって自説は崩壊していく。
そもそも最初に感じたとおり、誰がこんなに手間のかかることをするのか、ということも未解決だ。
それに塗装であれ、フィルムであれ、これほど壁に密着するような加工が素人に可能だとは思えない。再塗装したり、剥がすのだって容易じゃなさそうだ。
じわり、と痺れのようなものが頭の中心部からしみ出してくるように感じた。
ぼくの推理は完全に行き詰まっている。
不意に、アニメ画の表情が変わっているような気がした。
近くに寄って見ているからか。
斜め横から見るとさほどマヌケ面とも言えなくなっている。
眉間にしわを寄せ、怒っているか、困っているかのようにも見えた。
きっと壁の凹凸がしわのように見えるせいだろう。
何気なく画の顔に手を触れた。
「うわ!」
彼女の頬に触れた瞬間、ぼくは電撃にでも遭ったように身を引いた。
今までとは比べものにならない温かさだった。
――人肌の……いや、気のせいだ
きっと壁の後ろに給湯の配管でもあって……その推測はもう、気休めにも似たただの自己欺瞞かも知れない。
ぶるぶる震えはじめた手で、確かめようともう一度彼女の頬へ手を伸ばす。
背後でがらがらと、勢いよく引き戸の開く音がした。
心臓が飛び出しそうになり、体ははね飛ぶように反り返った。
「おまえ! なにしてるんだ!」
ぎこちなく精一杯の速さでふりかえる。
「せ、せんせい……」
寮監のショージだった。
「何時だと思ってる! なにをしてた!」
怒鳴るショージの視線はぼくだけを捉えているようだった。
首を動かし背後の壁を横目で確認すると、予感した通りそこにはもう、アニメ画はなかった。
消える瞬間を目撃できなかったのは残念だ。
生きている人間が現れたおかげで、心理的に恐怖は大分軽減されたようで、しかし、その場からすぐに動くことはできなかった。
どうやらぼくは立ったまま腰を抜かしていたらしい。
引き戸の音に驚いたからだけじゃない。
アニメ画が忽然と消えていたからでもない。
扉の開ききる瞬間、ふりかえったぼくの背後で、壁から『やべっ』とつぶやく声を聞いたからだった。
3
「どうしたの。すごく痩せたんじゃない?」
十日ぶりに会った母親の最初のことばはそれだった。
昨夜、というか今朝方の一件で、ぼくは寮監の詰め所でショージを含めた宿直の寮監にみっちり説教を食らっていた。
一応、今日が入学式ということで、やっと解放してもらったのは、なんと起床の十分前。そのせいで本来なら緊張しまくる入学式の最中、ほとんど居眠りしていた。
隣りに座ったこれまで話したこともない同級生が見かねて、肘でこづいてくれなければ、講壇から呼ばれたときに返事をすることも出来なかっただろう。
「了くん、寝てたでしょ?」母はお見通しだった。
「わかった?」
「首がカクカクしてたもの。他に何人もそういう子はいたわね……みんな疲れてるのかしら」
「まあ……ね。入寮してからずっと、忙しいんだ」
入学式は午前中いっぱい使い、新入生は家族と共に昼食を学校のカフェテリアで取ってよいということになっていた。
昨夜のことや、団訓のことは黙っていた。
話せば長くなるし、母に余計な心配をかけることになる。
カフェテリアは満員だった。
午後のオリエンテーションまでのほんの少しの間、久しぶりに会って談笑する新入生とその家族であふれかえっている。
セルフサービス方式なので、ぼくたちはそれぞれ好みの食品を取り、空いた席に腰かけた。
首にぴったりした制服のカラーを外す。金ボタンではなく、フックで留める濃紺の上着をまさぐり、外しにくい前身頃を数段外すと、中に籠もった体温の熱気が顎の下から生暖かく立ち上ってきた。
母はなぜか言い訳めく弁解を始めた。
「ごめんね。……お父さんも来るって言ってたんだけど、研究の……」
「わかってるよ。新しい環境なのはそっちも同じだから」
ぼくの両親は研究職に就いている。
民間の研究所からふたり揃ってここ、宮城県
歩桜高校以外で近辺に通える学校はバスと電車を乗り継ぎ、片道二時間もかかるような所にしかないため、ぼくはここ一校にしぼって受験せざるを得なかった。
歩桜高校にはそう言った経過で入学するものは多いらしい。
生徒の親の多くはぼくの家同様、『やのべつサイエンスパーク』や『やのべつインダストリアルパーク』で何らかの仕事に従事しているからだ。
東北の国立大学群を筆頭に、主に東北地方の優秀で有能な研究者たちを集積させたのだった。
藤田は市になるまで郡であり、遣抻恫も自然の多い村だったらしいけれど、いまでは国からの補助に加え、国内でも有数の工業系、IT系企業からの出資で、大自然に囲まれつつ研究施設の建ち並ぶ、贅沢な環境となっていた。
ぼくの入学した私立歩桜高校も、もとは
いまどき全寮制の形式をとっているのは、実は研究者の便宜のためだという。
ぼくの両親のように夫婦で研究者という家庭は多くあり、乱暴な言い方をすると『子育てより研究』という親にとって、子どもを安心して預けられる環境があるかないかは、研究者を全国から集める際や、研究進度、その成果に大きく影響するらしい、ってことだった。
『やのべつサイエンスパーク』内には、研究員、職員向けの保育所もあるけど、小学校、中学校は歩桜高校同様、全寮制の私学が設置されていて、子育てに研究員の手が煩わされないよう配慮されているみたいだ。
それらは所在する地域が少し離れているので、直接的に歩桜高校との関係はなくても、卒業生のほとんどはここへ入学してくるらしい。
小、中、高をまとめて『歩桜学園』と総称することもあるのだそうだ。
はっきり言って、ひどい話だと思う。
少、中学時代は確かにぼくだって、両親の研究のため、悲しい思いをしたことはある。約束した行楽地に連れて行ってもらえなかったり、コンビニの弁当や出前ばかりでまともな手料理を作ってもらえなかったことだって一度や二度じゃない。でも、一緒に暮らせていたから、まだ我慢できたんだろうとも言える。
それなのに、ここじゃ、両親が近くにいても共に暮らせない。
一番身近なのは、寮にいる、仲間とも思えない他人なんだ。
親との関係がそれほど悪くなかったぼくでさえ、そんなところで十日も暮らすと、ホームシックを越えて複雑な感情になってきている。つまり、自分は親の研究のために犠牲となっているんじゃないのか、と思ったりするってことだ。
「食べないの?」
大好物のハンバーグをつつくばかりでなかなか口へ運ばないぼくに、母は驚いたような声を出した。
「なんだか、あまりおいしくない」
「……そう」
きつねうどんを食べ終えた母は、トレーの中に箸を置くと立ち上がった。
「お茶はどこにあるかしら」
彼女がお茶のサーバーを探しに行っている間、ぼくはがやがやとさんざめくカフェテリアの中を見回した。
京山や志田の姿を見つける。
こちらからは後ろ姿しか見えなくとも、ちゃんとふた親そろっていた。
素崎には弟がふたりもいるみたいだ。
みんな寮で見せたこともない笑顔を浮かべ、楽しそうに会話している。
進級式は入学式ほど盛大にやらないから、来年、上級生になったら家族とそうする機会もなくなるんだろうな。
「ね、きみ、新入生?」
ふいに頭上から声をかけられた。
振り仰ぐと、見知らぬ女子が立っている。
浅黒い顔をした、おかっぱのような髪型だ。
上下濃紺のブレザースタイルの制服、白い襟の水色ブラウス、上着同色で小さな白い校章の入った襟の細いリボンで、この学校の生徒と分かる。
「あ、うん」
彼女はぼくの胸元に目を走らせた。
「オ……トリ、オン、ドリ? あ、やだ!」
やだもなにも、自分で勝手に読み違えているだけだろ。
「ミドリと読みます」
「そそーだよねーっ!」なぜあわてたのか、素っ頓狂な声を出す。
なんだこの女子は。
ちょっと可愛い、かな? 同じ新入生?
睫毛の長い大きい目の印象的な子だ。
うまくことばも出てこないので、肯定の返事をする変わりにわずか頭を動かした。
「そっかぁ、入学式の日にひとりでいるなんて、……って、だれか一緒じゃん!」
ぼくの正面にある母のトレーに気づき、女子はあわただしくひとりでつっこみ、ひとりで納得したようだった。
「こんにちは、お知り合い?」
湯飲み茶碗をふたつ載せたトレーを持った母が戻ってきた。
「あ、あ、こんにちはぁ! それじゃあ失礼しまーすぅ!」
ぼくに声をかけたとき同様、彼女は唐突に母へお辞儀をすると、急ぎ足で去っていった。
「知ってる子? だったの? ちょっとかわいいんじゃない?」
「……いや、全然知らない」
この高校が男女別学だったという話をすると、母はいぶかしげに眉をひそめた。
「願書には男女共学って書いてあった気がするけど」
「うん。共学には違いないらしい。女子もいるから……でも、男子寮だし、クラスも違うし」
さっきの女子はカフェテリア出入り口近くのテーブルに戻っていった。
遠目にはそのテーブルに他の制服姿の女子もふたりほど一緒にいるようだ。
いずれもなんだかこちらの方を伺い、きゃはきゃはと、はしたなく声を上げているように聞こえる。
「男子寮や女子寮のことは書いてあったわよ」
「そりゃそうさ、全寮制なんだし男子寮、女子寮って書いとかないと。一緒に住むのかって誤解されたりするでしょ」
「まさしく『驚愕』の真実ね」
『共学』とかけたダジャレらしかった。
「そういえば、了くんの寮ね、あら!」
母はくすくす笑いながら話を続けた。
一回ダジャレモードになると止まらないのが、母の欠点のひとつだ。
どうしようもない寒い空気はこの際無視する。
「はいはい……」
「あそこはここ一帯がサイエンスパークになる前、私営の研究施設だったんだって」
「ふーん」
「そこはシエーッて驚いてくれないと」
「やめてよ」
「ノリが悪くなったわね」
「元からだよ」
特に関心もない話だけど、あそこじゃ大がかりな実験装置や設備も置けただろうなと、広大な寝室の風景をうっすら思い返す。
以降は母のダジャレにつきあわされることなく、他愛もない話になった。
母の新たな仕事の話とか、父の苦労だとか……ぼくの話はあまりしなかった。
そうしているうちに、全校放送のチャイムが天井のスピーカーから聞こえた。
〈新入生のみなさん、オリエンテーションの時間十五分前です。名簿に従い、各自自分の教室へ入ってください。保護者の方はカウンセリングルームへ集合して下さい〉
母にも新入生の保護者向けオリエンテーションはあるので、ぼくたちは席を立って、カフェテリアから出た。
出入り口近いテーブルに座っている、さっきのあの女子を認めると、母は笑顔になって通りすがりに辞儀をする。
「了くんをよろしくね」「はい」「はーい」
テーブルの女子三人はぴょこりと軽く立ち上がり、にこにこしながら母に辞儀を返す。ぼくは彼女らと顔をまともに合わせず、横向きにぺこりと頭を下げ、母の後ろに続いた。
背後から「了くん」「了くんだって」と、何がおかしいのか愉快そうな小声も聞こえ、ぼくは、自分の頬のあたりに不愉快にも、血の上ってくるのを感じた。
4
歩桜高校の校舎はなんの変哲もない鉄筋コンクリートの三階建だった。
建物は二棟あり、それぞれ、男子用、女子用と分かれている。
建築構造上、別棟の男子棟と女子棟を繋ぐ役割を果たしているのが、さっきのカフェテリアほか、さまざまな特殊教室を含む事務棟であり、男女共用の体育館やグラウンドへ行くには、必ず事務棟を通る構造になっていた。
ぼくのクラスは一年二組。
寮と同じ理由なのか一年生の教室はみな三階にあった。
クラス分けは受験時の成績順だという話もあって、一学年は三組あるから、それを信じる限り、ぼくの受験答案は中程度ということになる。
教室はいたってふつうの造り。
中学時代とそう変わらない。雰囲気だって入学前に入寮してお互いの顔はある程度見知っているから、新鮮さは皆無だ。席順はまだ決まっていないらしく、めいめい教室へ入った順に好きな席を選んでいる。
「ああ、わりぃ、そこ俺の席」
空いていると思った席へ近づくと、その近くに立って話していたやつからそう言われた。空席のありそうなのは、すでに教壇に近い前二列しかない。
仕方なく教壇正面を避け、窓寄りの席に腰を降ろした。
「御鳥。……おまえミドリって言うんだよな?」
そのあたりにいた、見た覚えはあっても名を知らない同級生に、名ばかりか、いきなりおまえ呼ばわりされる。
だぼついた制服ズボンをはき、何となくヤンキーチックな風体をしている。
毛髪は黒でも、根本に染め直したような跡も見られた。
「そうだけど……」
「度胸あるな。さっき『アクタレス』としゃべってただろ?」
聞き慣れない名詞に、一瞬思考を奪われる。
いったいなんのことだ? 自分は名乗りもせず、そいつは自分の言いたいことだけをしゃべりかけてきた。
胸の名札を見ると『穂村現一』と書いてあった。
教師らしき人物の到来により、穂村との会話はそこで中断された。
「きりーつ!」あらかじめ当番を依頼されていたらしい同級生は声を張り上げた。
入学以来、初の仕事にしては張りのあまりない、だるそうな言い方だった。
着席後すぐ、言われたことの意味に、なんとなく気づいた。
さっきの……カフェテリアで声をかけてきた女子のことを指していたらしい。
アクタレス? ……アクトレスの聞き違いか。女優? どういう意味なんだろう。
教師は自己紹介のあと、どうでもいいようなことをくだくだと話し始めた。
入学オリエンテーションで説明される学校生活の諸注意なんて、どの学校でも大抵同じだと思う。
小学、中学と義務教育で九年間も生徒をやっていれば、たとえ分からないことがあっても、渡されたプリントを斜め読みすれば済むことだって知っている。
だけど歩桜高校の場合は、ちょっと違った。
たとえば、廊下は必ず右側を通らなければならない。
うん。当たり前だ。
……いや、違う。
歩行者は右側通行という、国の道路交通法を遵守させようとしているのじゃなく、右側は男子専用なんだ。
女子は左側を通る。
事務棟にふたつある特殊教室への階段もそれぞれ、男子用、女子用と分けられ、女子棟への男子の入棟は原則禁止。
逆もまた禁止。
例外は防災訓練時と文化祭、体育祭などの催事のある時のみ。
……ちょっと異常じゃないか?
極めつけは生徒手帳。校則の第一条第一項にはっきり、
――男女交際は厳禁とする。
と書かれていた。
オリエンテーション後は速やかに寮へ戻るように言い渡され、ぼくらはまだ日の高いうちに校舎を退出させられた。
保護者のオリエンテーションはまだ終わっていないらしく、ぼくらは家族に改めて挨拶する間もなく、寮への帰途に着いた。
寮は早歩きの徒歩で五分くらいの距離と近い。
帰り際、ぼくはさっき声をかけてきた同級生に再び声をかけられた。
「わりぃ、さっきの話の続き、いいかな?」
ぼくが少し黙っていると、ようやく気づいたようで、名乗る。
「あ、おれ穂村。
握手の手は差し出されない。
さっきの印象とは異なり、今度は不思議に、感じのいいやつかも、と思った。
丈はちょうどぼくくらい、似たような体格。
「あの三人はこの辺じゃ有名人でさ」
唐突に話が始まる。
この辺、というのは学校だけじゃなく、遣抻恫地区全体をさすようだった。
「演劇部……三人しかいないから本当は部活じゃないのに、歩桜高校演劇部って名乗ってる」
やっぱり演劇部か。アクトレスの聞き違いだった。
カフェテリアにいた三人娘は地域の演芸会の常連だったり、福祉施設や保育所を余興で回ったりと、課外活動にたいそう熱心らしい。
三人とも二年で、上級生ということらしい。
「ダブってるから、本当は三年だけどな」
「へぇ……」
落第するほど演劇に夢中になれるのは、ある意味すごいかも。
穂村はサイエンスパーク近くにある全寮制の遣抻恫中学校出身で、もともとこのあたりに住む地元の人間だと語った。
それだけに中学時代から寮生活にも慣れているようだったし、なにより地元民の強みで、歩桜高校についての事情通でもあった。
同室の新入生に地元の人間はひとりもいないので、ある意味、穂村の情報は貴重だ。三添さんならそのあたりに詳しいのかも知れないが、ぼくらを寮生活に慣れさせるためか、寮に関することは教えてくれても、いまのところ学校の内部事情に関する話はひと言もない。
「この学校って男女関係に厳しいから、あっちこっちに呼ばれて出て行く演劇部の存在は、正直頭も痛い、ってこと。外に行けば、当然いろんな人間に会う機会も増えるだろ? 学校としては校外での交友関係まで管理しきれないから、本当は活動を止めさせたいのさ」
「止めろ、って言えない理由は?」
「聞いた……話だと、まず地域ウケがいい。三人とも結構見た目はいいからな。それから、あの三人はいずれもサイエンスパークやインダストリアルパークの有力者の娘で……」
穂村はそこでちょっと息を継いだ。
「でも、まあ実際は怖いんだ。学校の連中はみんなびびっちまってる」
「は?」
突然わからなくなった。
怖いってなんだ。
「ひとりひとりならまだしも、あの三人が一緒になるととんでもないことを考えたり、やらかしたりするから。一度ゴネると後が大変で……末代までたたられそうだってね。演劇部が原因で辞めた生徒や先生もいるって噂だぜ」
なるほど。
そういうことだったか。って、やっぱり全然わからないし!
「アクタレスって言うあだ名もそのせいだな。『悪たれ』に、複数形のsを付ける……」
女優となんの関係もないじゃん!
正直、女子をさして『悪たれ』と言われてもそれほどぴんと来なかった。
けど、そのくらい行状の悪い女子たちということなんだろう。
実のところ、カフェテリアで見た彼女らの姿はすでに記憶から揮発しようとしていた。意識して見たわけじゃないし、母が可愛いと評価していたことぐらいしか覚えていない。
だから、彼女らの恐ろしげな話をいくら聞いても、気にさえ留まらなかった。
5
寝室にはいると、ちょっとした騒ぎになっていた。
例の生徒手帳の件だ。
「俺の青春は灰色だぁ!」
背の高い素崎は、平常服姿で吠えまくっていた。
男女交際の禁止がよほどショックだったらしい。
志田や副島はどちらかというと白けたような表情でそれを見ている。
「話もしちゃダメって言うのはきついよな」
アニ専のくせに京山までそんなセリフを吐く。
「アニメオンリーじゃなかったのか?」そう声をかけると、なすびは着替え途中のまま憎々しげに、高校生らしからぬ不適切なことばを平然と吐き捨てる。
「嫁だ、嫁! 愛人は別!」
「ハイ、注目!」
三添さんは部屋に入ってくるなり、ぱんぱんと手を打ち鳴らした。
どことなく浮かない顔をしている。
「今日から、新たな部屋員が加わることになった」
入学式にも間に合わなかったやつが、ようやく入寮か。
そう思って荷物の置いてあった二段ベッドの上段を見上げると、荷物はふたつともなくなっている。
もう入寮しているのか。
「そこにあった荷物のやつじゃない」
ぼくの視線に気づいたのか、三添さんは説明を加えた。
「そいつらは結局入寮を辞退したらしい。で……部屋の人数調整のため、南の四十五から吉岡が部屋替えになった」
……食堂のあのヤンキーだ。
制服から平常服に着替えていると、荷物を抱えた吉岡が部屋へ入ってきた。
近くで見ると、背の高い素崎よりもさらに高い身長をしている。
「うぃーっす、今日から世話になるわ。よろしく頼むわ」
なぜか坊主頭になっていた。
黒と茶と金の入り交じった複雑な色の短い毛髪のせいで、どう猛な顔つきは、ますます凶悪そうな人相になっている。
まるでアメリカ映画の刑務所の囚人みたい。
「北向きやん。冬はえらそうやなぁ」
荷物を足もとに置くと、早速不満を漏らす。
「三添さん。俺のベッドどこ? ……え、上? 聞いてへんやん」
空いているベッドの上段が気に入らないようで、険しい顔になった。
ぎろりと目を動かし、そのまま部屋内のぼくらを見渡した。
「だれか交換してくれへん? 俺、上は苦手やねん」
新入生の中でもさらに新入りのくせに、態度はかなり横柄だ。それでも、部屋内は緊張感に包まれる。
「おい、わがままいうなよ」三添さんは困ったような声を出した。
かなりの小声だ。
「わがままて。……だれか交換してくれはったら、ええのちゃいます?」
言いつつ、吉岡の目は獲物を捕らえたように小柄な副島を捉えた。
「なあ、交換してくれへん? ええやろ?」
低く、脅すような声音だ。
というより脅している。ナマズ顔を蒼白にして副島は黙り込んだ。
「聞いてんねんけどなぁ? あぁ?」
声の調子は一段上がった。
典型的な不良口調。
関西弁なので迫力もある。
部屋員はみな恐喝の現場を黙認していた。
みんなびびっていただろうし、ぼくも悲しいことに、ターゲットが自分でなくてよかったと思っていた。
「……いいよ」副島はつぶやくように言った。
「おう。済まんな」その声は満足そうに寝室内へ反響した。
吉岡が元の部屋へ他の荷物を取りに戻っても、ぼくらの部屋は気まずい雰囲気になったままだった。入学式後の浮かれたような気分は跡形もなくなってしまった。
副島は自分の寝具をベッドの上段へ移し替えている。
彼が、ぐす、と鼻を鳴らすような音を立てるたび、ぼくはなんとも済まないような気分に落ち込んでいった。
結局、部屋員全員で副島を見捨てたことになってしまった。
気分を変えるため、ぼくは京山に雑誌を借りることにした。
例のアニメ雑誌だ。
誰も副島に声をかけたり、手伝ったりするものはいない。
ぼくもそうだった。
そんな自分に嫌気がさし、ベッドへ寝っ転がって雑誌を開く。
他の部屋員も忙しそうに自分のベッド周辺でごそごそと音を立ててなにかをし始めた。三添さんは逃げるようにして部屋を出て行った。
「おい!」
吉岡は数ページもめくらないうちに戻ってきた。寝室の入り口付近から大きな声を出す。
「おい! 手伝おてくれや!」
絶対に目を上げるもんか。絶対に手伝ってやらない。
「おい、おまえやおまえ!」
ひとの動く気配に思わず雑誌から目を上げると、吉岡はベッドの脇に仁王立ちし、ぼくを見下げていた。
「何で返事せえへんね……おまえに言うとるんやで」
静かな口調ながら、怒気を抑えたような声だった。
「ん……気づかなかった。読んでたし」ぼくの返事は弱々しく、いやになるほど震えていた。
「あぁ? 気づかなかったて、なめとんのか」
いきなり平常服の襟元をつかまれ、ぼくの身体は強制的に引き起こされた。
「ええかげんにせえよコラ。しばくぞ、ボケ!」
中学時代にも不良はいたし、多少の暴力沙汰は目にしていた。
だけど自分がその対象になったことはない。
急激に耳のあたりへ血の上る不快な熱を感じはじめる。
「手伝えちゅうとんのや!」
「じ、自分でやれよ」
かすれ声に、やっと反抗する。意表を突かれたように口をつぐむ吉岡の眉間にはしわが寄り、その目はつり上がった。
「なんや? ……ええ度胸やんけおまえ」拳を握った手を振りかざす。
「やめとけ」
ぼくの胸ぐらを引き絞りつつ、手を挙げたまま背後へ首を回す吉岡の動きは、とてもゆっくりに思えた。
「あぁ? だれやおまえ」
「おまえ、吉岡だろ? 三保先生に坊主にされたってな」
寝室の戸口に穂村が立っていた。
「……あいつがなんぼのもんじゃ。こわないぞ」
口とは裏腹に、ぼくの胸ぐらをつかむその手の力は少し弱まった。
「そいつ殴ったら、今度は完全に剃られちまうぜ」
「あぁ? だからなんや。おまえだれじゃ、なんの用じゃ!」
吠える吉岡にも臆さず、穂村はぼくを指さした。
「そいつに用事だ。自分の荷物くらい自分でしまえよ」
「なんやごらぁ!」
しばらくふたりはにらみ合う。
やがて吉岡は舌打ちするとぼくの襟から手を放した。
穂村のそばを通り過ぎるときに立ち止まり、捨て台詞を吐く。
「おばえとけや、チクリが!」
「ときどきああいうのがいるんだよなあ」
ぼくは寝室から一階のラウンジへ連れ出された。
ここは三学年共通のスペースだ。
「穂村、くんは、ああいうこと慣れてるの?」
「助けられたからって、下手になることないよ。くんづけじゃなくてさ」
穂村は恥ずかしそうにそう言った。
そうか、やっぱり助けられたんだな。
「ありがとう、助かったよ」一応、礼儀は見せとかないと。
「あいつ、大きいだけでたいしたことないと思うぜ、口ばっかりだ。実際、おまえでもやれちゃうよ、たぶん」
恐ろしげなことを平気で言うやつだ。
とんでもない。そんな勇気はとても出せそうにない。
先ほどまでの身体の震えを思い出し、ぼくは首を横に振った。
「ケンカは苦手なんだ」
「……ま、いいけどね」苦笑まじりにそう返された。
「おー、穂村。おまえ入寮したのか?」
ラウンジへ入ってきた上級生らしき私服の男子が、ぼくらに向かって声をかけてきた。
「あ、先輩。これからお世話になります」
穂村は椅子から立ち上がり、しっかり腰を折って挨拶をする。
ぼくも釣られるように立ち上がり、もごもごと挨拶しながら彼と同じ姿勢をとる。
けれど、ぼくなど眼中にもなく、その先輩は彼へなにかを頼み、別なテーブルの友人と話し始めた。
今のやりとりの際、周囲へ視線を巡らすと、周囲の人間はみな私服を着用していて、平常服を着ているのは穂村とぼくだけだ。
つまりラウンジに新入生はぼくらしかいなかった。
「……大丈夫なのかな? ここにいて」
穂村はなぜ? というような顔になった。質問の意図に気づくと笑顔になる。
「ラウンジは全学年共用だぜ?」
「そうらしいけど、一年はぼくらしかいないよ」
「上級生っても、別に鬼じゃないから」
きみみたいに地元民じゃないし、事情通でもなく、知り合いの上級生だっていないから不安になるんだ……とは言えなかった。
「でさ……」
急に穂村は口ごもりながら、ぼくを上目遣いに見た。
「……なに?」
「んー。……いや、さっきのことがあったから……ちょっと言いにくいんだが」
「なんだよ。……さっきのこと?」助けられたこと、ということだろうか。
「恩を売ってるように思われたくなくて。で……実は頼みがあるんだよ」
「え……」
ようは、頼み事をするのに、さっきの件はなしにしろ、ということかな。
あれはたまたまだったから、借りと思わなくていい。
ぼくにそう理解して欲しいらしい。
「何を頼まれたとしても、別に恩を売られたとか、そうは思わないよ」
思わないけど、借りを作ってしまったとは思うな。
「まあ、それなら俺も気が楽になる」
とはいえ、なかなか本題を切り出してこない。
いい加減待つのに疲れたころ、穂村はようやくちらちら自分の腕時計を見ながら重い口を開く。ブラキットという新興の時計メーカーのものだ。スポーツタイプで品質に比して安く、デザインのチープさが逆にぼくらの世代には受けて人気だという。
ぼくの好みではないけど。
「時間もないから、さっさと言うが……」
「……そうだね」
また少し間。
「さっきの演劇部の話だけどさ」
「うん……」
え、その話なの?
「……入部してもらえないかな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます