33 OTHERS -07-『憤怒と色欲』

「ぎあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」

 ヘッドホンを壁に叩き付けた。床には残骸が散らばった。

 会合で両親のいなくなった家で、ぼくは肺の空気が空っぽになるまで悲鳴をあげた。

 信じられなかった。

 認めたくなかった。

 こんなことになってしまうなんて。

 あの野蛮人が、ぼくのジョーを押し倒すなんて。

「殺してやるっ、殺してやるっ、殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!」

 ゴトーめ、ゴトーのヤツめっ!

 もう許さない、絶対に許さない!

 ジョーが学校に戻ってくるまで必要な駒だったから活かしてやったけど、もう容赦しない。

 排除してやる!

 駆逐してやる!!

 鬼の形相で腰を振るぼくを、マキが涙ながらに見上げていた。

 その目つきが気に入らなくて、ぼくはマキの頬を引っ叩いた。

「何だよその眼はこの役立たずっ! 肝心なところも録れなかったクセしてぼくに意見しようっていうのかっ!?」

 マキに録音させた盗聴電波は、ジョーが押し倒されたと思しき場面で終わっていた。それから先はテレビの砂嵐のような雑音しか拾っていない。

 射程距離は充分だったはずなのに。安物の機械だから故障してしまったのか?

 くそっ、くそっ!!

 ジョーが、ぼくのジョーの純潔が!!

「ムウちゃん、いったいどうして……」

 ぼくに覆いかぶされて身動きが取れないマキは、カメラに向かって手を伸ばした。

 まるで誰かに助けを求めるかのように。

 マキの腕を絡み取ってねじり上げて動きを封じ、目元の涙は舐め取ってやった。

 短い悲鳴が実に心地いい。ぼくの怒りをほんの少しでも紛らわしてくれる。

 もうマキは完全に手中に置いた。こいつはぼくに逆らえない。

 あとはゴミ野郎のゴトーをジョーの前から消せば、ジョーは唯一にして絶対の存在としてぼくの偶像アイドルになってくれる。

 ぼくだけが讃えることのできる、正義の象徴に。

 問題はゴミ野郎を排除する手段だ。

 あのクソ野蛮人、貧乏すぎてスマホもケータイもパソコンすら持ってやがらない。ローテク相手じゃネットを使った誹謗中傷なんてまるで効き目がない。

 いまとなっては「ゴトーきゅん、ルミエール嬢を襲った疑惑(笑)」は学校でネタ扱いされる始末だし、その方向性で攻めてもやっぱり効果は薄そうだ。

 ぼくの得意とする方法じゃ、ゴトー本人の弱みを使って脅迫するには向かない。

 だったら、あいつが最も嫌がることをするしかない。

 それはやはり、ジョーにまつわることだ。

 前に学校裏サイトにアップロードした写真は、ぼくが撮影した動画のワンシーンを静止画化したものだ。当然、あの写真には前の場面も後ろの場面も存在する。

 ゴトーが野獣化シーンだけをアップしたのは、その前のシーンを静止画化するとほとんどすべてにジョーの裸体が写ってしまうからだ。

 そんな写真を衆目に晒せば、きっとジョーの心は壊れてしまうだろう。

 

 だからこそ、脅迫のネタになる。

 くくくっ。

 くくくくくく…………!

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