23 OTHERS -04-『傲慢と嫉妬』
「くそっ、こんなはずじゃっ!!」
空になったティッシュ箱を壁に投げつける。
両手で頭を抱えて、ぼくは机に突っ伏した。
もっと早くに教師連中が集まれれば、ジョスリーヌちゃんが襲われる直前でゴミ共を取り押さえられたのに。
なにより、犯人の一人がイイとこのボンボンで犯罪をもみ消し放題だって?
そんな
おまけに変な噂まで広まるし、もう何がなんだか……
これでジョスリーヌちゃんの気が触れたら、どう責任とってくれる!!
机を思い切り殴りつける。
思った以上に大きな音が立ってしまった。
ああ、きっとすかさず母さんがやって来る。
「ムツ、いまのは何ですか」
ぼくのことをこの愛称で呼ぶのは母さんだけだ。
……いまアンタの相手をしてる暇はないんだよ。
「夜中にそんな大きい音を立てて、ヤシロさんがお休みできないでしょう」
なにが「ヤシロさん」だ。二人きりのときは「旦那様ぁん」って甘ったるい声で媚びてるくせに。
「それにこの間の文化祭、どうして呼んでくれなかったのかってヤシロさん悲しんでましたよ」
二言目には「ヤシロさん」「ヤシロさん」って、しつこいんだよ。どんだけ父さんのことが大好きなんだアンタ。
「ムツ、聞いてるんですか」
「悪かったよ! 静かにするからもうぼくに構わないでよ!」
「またそんな乱暴な話し方をして、お母さん許しませんよ」
ドアの外では母さんがしつこく何やらのたまっている。
ぼくはたまらずヘッドホンを耳に覆い、ボリュームを上げていった。
たちまちジョスリーヌちゃんの生声がサラウンドに反響する。
耳から幸せが染み渡って、首筋が痺れる。
もうこれだけで生きていける気がする。
いつまでたってもぼくからの反応がないことで、母さんは諦めて下の階に降りていった。
邪魔者は消えた。思考を切り替えなければ。
当初の予定では、あのゴミ共の顔をゴトーに差し替えたコラ画像をネット上に載せるはずだったのに。
まさかゴトー本人が乱入するなんて予想外だった。
イレギュラーな出来事で驚いたが、おかげでヤツが野獣化した画を撮ることができた。
それでヤツの悪評が広まれば、停学処分くらいにはできると思っていたのに。
どうしてか、ぼくが写真を学校裏サイトにアップロードする前に、あのいやらしい噂が学校内に流布されてしまった。
だが、それもよくよく考えてみれば犯人は明らかだ。
あの日何があったのかについて学校側は緘口令を敷いているから、生徒たちは実際のところは何も知らない。それにもかかわらず、出回っている噂の確度があまりにも高すぎた。
そんなことをできるのは、事件の一部始終を目撃していた者か、事件を計画した首謀者だけだ。
噂の出所がぼくでない以上、犯人はあいつらしかいない。
あの下衆な四人組が調子に乗って、ありもしない噂を流したのだ。
まったく、どこまで腐ってるんだあのゴミ共は。
結果的にそれでゴトーは学校を休まざるを得ない状況にまで追い込まれたが、これではいつまで経ってもジョスリーヌちゃんが学校に復帰できない。
ジョスリーヌちゃんが気持ちよく学校に凱旋できるよう、急いで下準備しなければ。
スマートフォンを操作して、電話の発信ボタンを押す。
相手はもちろん、マキだ。
誰にも知られないよう必死に隠してるようだけど、マキがジョスリーヌちゃんと――いや、ジョーと懇意にしていることは随分前にわかっている。
あいつさえどうにかしてしまえば、もう誰もぼくの邪魔をすることはできない。
もうすぐだ。
もうすぐ、ジョーを愛でられるのはぼく一人だけになる。
ジョーを見守るのは、ぼく一人で充分なんだ!!
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