14 OTHERS -02-『暴食』

 歪みそうになる表情を押さえ込みながら、廊下の端をとぼとぼ歩く。

 ぼくは人間が嫌いだ。

 人はいつでも他人の粗ばかり探して、誰かの足を引っ張ることだけに死命を賭している。

 褒めるふりをして貶す。気づかうふりをして侮る。大人も子どもも大差ない、いつだってそんなことばかりだ。

 だからこそぼくは人前を歩くとき、そんな人間の顔を見ないで済むように必死で目を逸らし続ける。でもそれが露骨すぎると心無いバカの非難の的になるから、さりげなく窓の外に目を向けたり、腕時計を確認するふりをする。なんて生きにくい世の中だろう。

 まったく、思い出すだけでも腹立たしい。

 あのデカブツ――ゴトーの申し訳なさそうな佇まいが脳裏に浮かんでくる。

 あいつだって他の奴らと同じだ。どうせぼくのことを舐めてかかっているに決まっている。

 それに何より気に食わないのが、最近の奴の動向だ。

 まわりのバカどもは気づいていないようだけど、ぼくにはわかっている。

 あいつは、ジョスリーヌちゃんに関心を抱いている。

 ぼくの、ぼくだけのジョスリーヌちゃんに、ちょっかいを出そうとしている。

 ぼくなんかじゃ手の届かない高嶺の花だというのにあの野蛮人は、身分も弁えずにジョスリーヌちゃんとお喋りしていた。

 いったい何を話してた?

 遠目で見るだけだと内容は聞き取れなかったし、何よりあの場所はまだが済んでいない。家で確認しようにも、記録できていないのではどうしようもない。

 記録といえば――

 その単語から連想される場面を想像して、身体の奥底から狂喜がこみ上げてくる。

 おっと、人前で見せられない顔つきになっては困る。ぼくは咳き込むふりをして顔を伏せた。

 きっと良い音が録れているはず。早く家に帰って確認しなければ。

 そんな邪な想像に胸を膨らませていたとき、誰かがぼくに声をかけてきた。

「ねえ、大丈夫? 具合でも悪いの?」

 顔を見なくても声だけでわかる。

 この甘ったるい声は、マキのものだ。

 何かにつけて声をかけてきやがって、なんてウザイ奴なんだろう。

 どうせおまえもぼくを馬鹿にしているくせに、親切ぶるんじゃない。

「うるさい」

 ぼくは他の誰にも聞こえないよう、小さな声でそう言った。

 マキは悲しそうな顔をしていたが、そんなことぼくには関係がない。

 それよりも。

 ああ、ぼくはもっと君のことが知りたい。

 ジョスリーヌちゃん。ぼくは君のすべてが、知りたい。

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