13 SCENE -06-『ジョー』

 どうしてテメェがここに来るんだよ……

 旧校舎脇にある備品庫の前で探し物をしていたら、いきなりゴトーが現れた。

 俺を見るなりゴトーは狐につままれたような呆け顔をしくさりやがった。その態度が無性に腹立たしくて、嫌味たっぷりに挨拶してやった。

 ゴトーはどこまでも真面目に挨拶し返してきたが、決して俺の顔を見ようとはしなかった。

 二人の間に無言の時が続く。

 こちらから話しかける用事なんてないし、こちらが話を振るのは何か負けた気がする。かといって黙ってここに居続けるわけにもいかない。俺は今、授業を抜けてここに来ているのだから。

 ゴトーは何かを言いたそうにまごついていたが、結局何も話さずに俺の横を素通りして行った。

 俺はそんなヤツの態度が癇に障り、わざと大きめに舌打ちしてから本来の任務に戻った。

 俺は、自分が吹っ飛ばしたソフトボールの玉を拾わされに来たのである。

 あれは俺も誤算だった。学校で変に目立ちたくないから、俺自身の本質のことはもちろん、自主トレでカラダを鍛えていることも悟られないよう気を配っていた。

 今日も普段通り、打席に立ってバットを構え、全力でやってますオーラを演出しつつ、適当にツーストライクまで漕ぎ着けた。

 だがピッチャーの三投目が放たれたあのとき、いつも抑えていた力が一瞬だけ最大出力されてしまった。

 バレーコートにいるゴトーが目に入ったのである。

 その瞬間、心臓が一際大きく脈打って、バットを握っていた手が痛くなるほど力んでしまった。フルスイングされた俺のバットは、小中学校とでソフトボールの経験を積んできたというバカでかい女生徒が放った白球を、いともたやすく打ち返してしまったのだ。

 入学してからというもの、運動面に関してはとにかく目立たないようにしてきたのに。俺が急に快活な動きを見せたもんだから、まわりの女子共はみんな水を打ったように静まり返りやがった。あのときの気まずさといったらもう……

 女子共の称賛とも蔑称ともとれるお喋りから逃れるために、俺は自ら旧校舎側へ飛んでいったボールの回収任務を志願したのである。

 ……クッソ、確かにこのあたりに飛んでったはずなんだが。

 二棟ある校舎のうち、旧校舎側には音楽や料理といった実習系科目の教室と倉庫が配置されている。グラウンドに面しているのは目の前にある備品庫やゴミ収集所くらいなものだ。たいした広さのないスペースだからすぐに見つかると思っていたのに、これは手間取りそうな予感がしてきた。

 自分で探すと言っておきながら、何だか面倒くさくなってきた。

 もうこの際、新しいボールとかでいいんじゃないだろうか。

 それならと、ふと備品庫の方へ振り返ってみた。

 しゃがみこんだゴトーが、不慣れな手つきでシャッターを持ち上げようとしている。しかし、シャッターは耳障りな音を立てるだけで、一向に開く気配がない。

 ガシャガシャ、ガッシャガッシャ、グワシャグワシャ……

 ああああああうるせえええええええ!!

 まったく、料理はあんなに手軽にできるくせに、どうしてこうも不器用なんだこいつ。

「そこ、どいてください」

「えっ?」

「コツがいるんですよ。あなたじゃ無理です。消えてください」

 ゴトーの隣にしゃがみ、ヤツをシャッターの前から追いやる。二つある穴の中に手を突っ込み、少し引き気味に持ち上げたところ、簡単にシャッターは開いた。

「す、すごい……」

「感心してないでさっさと用事をすませては?」

 俺の剣呑な物言いに、ゴトーは大きな身体を縮こめた。

 ……ああもう、ダメだこいつ、メンタルが弱すぎる。

 ゴトーはちょっとでも強い口調で話されると、すぐに遠慮がちな態度になってしまう。人に脅える野鳥みたいなヤツだ。

 ここ数日、ずっとこの調子でいい加減うんざりしていた。ゴトーは明らかに俺と話したそうにしているのに、いざ俺の前に立つとすぐに逃げてしまうのだ。

 これじゃまるで、俺がこいつをいびってるみたいじゃねぇか。

 もしそう思われているとしたら不本意だ。コイツに苛立ちこそすれ、別に嫌がっているわけじゃ……

 嫌がってるわけじゃ、ないのに。

「……ちょっといいですか」

「へっ、えっと……な、なに?」

「その態度、やめてもらえませんかね」

「た、態度?」

「そのビクついた卑屈な態度、見ていてイライラするんですよ」

「ご、ごめん……」

「言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうです? この前までの無遠慮さはどこ行ったんですか」

「ご、ごめ――」

「だからっ!!」

 思いのほか大声が出てしまい、俺は自分の手で口を塞いだ。

 ゴトーも目を丸くしてこちらの様子を窺っている。

 咳払いをひとつして、やり直す。

「私はあなたを憎んでいるわけじゃない」

「……うん」

「あなたが私と話したいと思うのなら、堂々と話しかけてくればいい」

「えっ?」

 俺の申し出がよほど意外だったのか、ゴトーの言葉には聞き返す響きがあった。

「勘違いしないでください。私はまだ、あなたを全面的に信用したわけじゃない。それでも――」

 俺は備品庫に足を踏み入れながら、二の句を継いだ。

「あなたの誠実さに免じて、ただのクラスメイト同士、よろしくやっていこうと……まあ、そういうことです」

 言いたいことは伝わっただろうか。

 もっと素直な言い方もできただろうが、俺にはこれで限界だ。

 ソフトボールの予備を掴みとって、俺は足早に備品庫から抜け出した。

「ルミエールさん!」

 振り返らずに駆けて行こうとした俺を、ゴトーが呼び止める。

「……僕はちゃんと、見てるよ。だから――」

 ……っっっ!!

 俺は最後まで聞くのが辛くて、そのままグラウンドへ走っていった。

 息が苦しい。

 胸がはちきれそうなほど、鼓動が大きくなっているのを感じる。

 これ以上走れば酸欠になるかもしれない。でも、そうでもしないと、我慢できなくなりそうだった。

 額から流れ落ちた汗が、目尻に浮かんだ水玉と混ざり合って、地面へと落ちた。

 あいつは……ゴトーは、どこまでも俺の心を見通していた。

 あの彫りの深い野蛮な面構えに反して、どこまでも思慮深く、俺の心に寄り添おうとしていた。

 これは、奇跡なのか?

 こんなことって、ありえるのか?

 俺は……あいつを信じてもいいのか?



 学校の授業の中で嫌いな科目ワースト3をあげたら、まわりの連中はどんなふうに答えるんだろうか。

 俺の場合、ワースト3位は英語で、2位は数学だ。

 英語は逐語訳をノートに書いて予習しなきゃならないのがとてもかったるい。ただ、英語は文法さえ覚えていれば、前後の文脈からある程度は文章の意味を推測できなくもない。

 それに比べてさらに厄介なのは数学だ。こいつは公式を覚えればハイ終わりというわけにはいかない。提示された問題にどの公式をどのように当てはめればいいかを、いくつもある公式の中から選び取らなければならないからだ。

 まあ学生である以上、こんな悩みは日常茶飯事、決して避けては通れない。その他大勢の学生にとっても、似たような悩みを抱えてるヤツは多いのではないか。

 ただそれはあくまで俺が英語や数学が嫌いだというのと同じ程度の悩みだろう。俺だってもっと勉強するなり、勉強方法を開拓するなりすれば、その嫌いという意識は克服できるかもしれない。ようは、嫌いさだ。

 でも俺のワースト1位の科目に対する嫌いさは、前の二つとはかなり毛色が違う。そんな単純な理由ではない。

 言うなれば、生理的に受け付けないのだ。

「あのさゴメーン、あとでナプキン貸してくんなーい?」

「え、うん、いいよー」

「あの先生、マジびびりすぎだし。肩ぶつかったくらいで訴えたりとかないから」

「ねー、どんだけセクハラ対策してんのかって話。ってかそれでいいかげんな指導されてもねー。まあ楽でいいんだけどさ」

「はやく帰りたいわー。もー汗だく、びしょびしょ。下着蒸して気持ち悪いし、髪ぼさぼさになるし、もう最っ悪」

「やっぱこの季節はねー。あー、でもはやく着替えないとお昼休み始まっちゃうよ。荷物取れねーってまた男子がイラついてせっついてくるじゃん?」

「ほっときゃいいよあんな連中。どーせ言うだけで何もできやしないんだから」

「のぞく甲斐性もないしね(ぷっ)」

「いやのぞいたらフルボッコだし(ぷぷっ)」

 その一言であたりに笑いが沸き起こった。真面目に聞いていなかったので何がおかしいのかまったくわからないが、何とまあ粗暴な笑い声か。まるで酒飲みのオッサンが大口を開けて喚いてるようにも聞こえるぞ。

 そう、俺がもっとも嫌いな科目とは言わずもがな。

 体育なのだ。

 女子どもが教室中で乱痴気騒ぎをしているあいだ俺は、教室の隅っこでこじんまりと、カーテンの布地や床の板目を凝視しながら、教室全体に対してかたくなに背を向けていた。

 それがこの苦痛の時間、俺に取りうる唯一の対抗策だったからだ。

 出来るだけ誰の姿も視界に入れないよう、誰の声も聞かないよう、全神経を自分の着替えだけに集中させて、ひとりきりの空間を作り上げる。そこでそそくさと着替え終えたら、トイレにでも行くフリをして教室の外へ出てしまうのだ。

 この学校は制服がないから、暑ささえ我慢できれば上だけはシャツを重ね着という力技が通用する。しかしジャージからジーンズに着替える場合はそうはいかない。できるかぎり静かに、秘密裏に、かつ迅速に、誰にも見咎められないうちにズボンを脱いで、さっさと着替えてしまう必要がある。

 だってそうでもしないと、頭がおかしくなってしまいそうになる。

 誰でも良い、ちょっと想像してみてくれ。

 男子生徒がひとり、女子生徒が大勢着替えている中で公然と着替えをしなきゃならない状況があるとする。

 さて、その男子の心境はどんなものなのか。

 ぬるい考え方をすれば、「やべー女子の生着替えのぞき放題じゃねーかウヒョー」とか、そんな応えが返ってくるかもしれない。そしてそんな想像をするヤツは多分、そんな男子生徒に対して「なんだよそれ、ひとりだけいい思いしやがって」などという妬み全開な反感を覚えていることだろう。

 じゃあここで一度、発想を変えてみよう。

 もしこれが、男女が逆だったらどうなるか。

 女子ひとりが、着替え中の男子大勢に挟まれて着替えている。

 その女子は恐らくこんな心境なんじゃないだろうか。

 誰が見てるかもわからないのに、恥ずかしい。

 自分の裸なんて誰にも見せたくない。隠したい。逃げ出したい。

 ……実感がともなってきたか? それならここでもう一度、男女を元に戻そう。男子がひとり、女子が大勢の中での着替えだ。

 よっぽどの怪傑か露出狂でもないかぎり、男だって羞恥心くらいはある。当然、人前で服を脱ぐのは恥ずかしいことなのだ。

 そして、さっきはぬるい考えと斬って捨てたが、あの考え方もあながち的外れでもない。人間なんだ、誰だって異性のカラダが気になって当然だ。そんな興味本位な視点があってもおかしくはない。

 でもその男子生徒は、果たしてそんな好奇心だけであたりを堂々と見回していられるだろうか。

 いくら女子の中で着替えることを認められているからといって、無遠慮に好奇の視線を送っていいことにはならない。それは自分の立場を悪用した、許されざる行いだといえる。

 まともな倫理観の持ち主なら、きっと葛藤することだろう。

 見たい、でも見てはいけない。

 一度くらいいいだろう。

 いや一度だってダメだ。

 ここで着替えろと、強制されているのにか!?

 でもそれは卑怯じゃないか!!

 まともな道徳心の持ち主なら、ちょっとでも誘惑される自分の心に吐き気を覚えることだろう。

 ……少しは理解してもらえるだろうか。

 この男子生徒ってのは、つまるところ俺のことなのさ。

 すぐ隣で、真後ろで、何人もの女たちが着替えている。ささいな衣擦れの音も、制汗スプレーのフルーティーな香りも感じる。ときには、生々しい汗や血の匂いだって、感じてしまう。

 そんな光景がまわりで繰り広げられているのだ。理性を保つのがどれだけ大変なことか。

 そしてそれ以上に、理性で抑えなければならないほど動揺している自分に対して、極大の嫌悪を感じているのだ。

 恥ずかしいんだよ。考えれば考えるほど、情けなくなるんだよ。

 どうして自分はこんなところに押し込められているのか、居たたまれなくて、納得できなくなるんだよ!

 だから俺は、体育の時間が大嫌いなんだ!!

 着替えのときはすその長いカーテンに隠れてするとか、毎回トイレに行ってあらかじめ着替えてくるとか、そもそも体育の授業に出ないとか、こんなことを考えないで済む方法はいろいろあるかもしれない。でもそれはどれも普通の手段じゃない。そのどれをとってしても、俺はまわりから浮いてしまう。注目されてしまう。

 それじゃダメなんだ。

 俺は俺でありたい。俺らしく生きていきたい。

 でもそのためには、誰かに俺のことを知られてはいけないんだ。

 俺は誰にも後ろ指をさされない、普通の人間でいたいんだ。

 矛盾してるって、わかってるよ。俺らしくしようとすることと、俺のことを誰にも知られないで生きていくことは、絶対に両立できないんだって、わかってるよ。

 だから苦しいんじゃないか。嫌でもそれを突きつけられるから、こんな時間があるせいで。

「あれ、ジョー、もう着替え終わったの?」

 背後から聞こえたその声は、姿を見ずとも誰のもかすぐわかる。

 俺はしかめっ面になりかけていた顔に優等生の仮面をかぶせて、涼やかに振り向いた。

 カエデだった。

 汗で上気した彼女の顔を見下ろした流れで、俺の視線はカエデの手元へ落っこちていく。フリルのついたクリーム色のワイシャツと、留めかけのボタンに、シャツの隙間からのぞかせる小ぶりな――

 それをはっきり認識する前に、俺はすぐさま視線をそらした。

 俺の挙動を見てカエデは不思議そうな声をあげたが、それほど気にならなかったのか、すぐに話の続きをしてきた。

「さっきのバッティング、すごかったよね」

「えっ?」

「ほら、模擬戦の終わり間際の三塁打だよ。ジョー、あのヒイラギさん相手にヒット出すんだもん、びっくりしちゃったよ」

「あ、あぁ……あれですか」

「うん。いつも内野ゴロとかだったから、なおさら。ジョー、ホントは運動神経いいんだよ、きっと」

「……あんなの、ビギナーズラックですよ」

 俺は苦笑気味に言葉を濁した。

 ゴトーの動向が気になって力んでしまったとは口が裂けても言えない。

 この話は危険だ。これ以上話題を広げられると思わぬボロを出しかねない。

 俺は咄嗟に閑話休題を試みた。

「そういえばカエデさん、私が打ったボール、あなたが見つけてくれたそうですね?」

「え? あー、あれね。うん、吹き抜けになってる地下倉庫のベランダに落ちてたんだ」

「もしかして、私と入れ違いに拾いに行ってくれたんですか? 言ってくれれば私が行ったのに」

「これも委員長としてのお勤めだから、気にしないで――っつ」

 カエデの口から詰まるような声がして、反射的に彼女の方を向いてしまった。

 一瞬だけカエデの鎖骨周りの柔肌が目に飛び込んできたが、俺はすぐに意識を逸らして、彼女の顔を見た。

 右手の指から血が出ているらしく、指を口でくわえている。

「大丈夫ですか!?」

 ちょっと大げさに問い詰めたせいで、まわりの女子たちから注目を集めてしまう。

 カエデは何でもないと皆に言い、俺に笑いかけた。

「ちょっと木片で指を切っちゃっただけ。絆創膏でも貼れば大丈夫だから」

「しかし……」

「もう、心配しすぎだって。利き手じゃないし、問題ないから」

 まさかこの俺が他人に――あろうことかカエデに怪我をさせてしまうなんて。

 ただでさえ気弱なのに、カエデは責任感が強すぎるから、簡単に人から雑用を押し付けられてしまう。そんな理不尽が許せなくて彼女を見守っていたというのに。

 しくじった……あのとき、面倒くさがらずに俺がちゃんとボールを見つけていれば。

 俺はカエデの眩いほどの笑顔が見ていられなくなり、彼女に背を向けた。着替えの定位置に戻り、窓ガラスとカーテンだけを見据えて最後のシャツを着込んだ。

 着替え終わった俺は、教室の後ろにあるロッカーに体操着をしまい、教室の出口へと歩き出した。もしカエデが話を続けようとしてきても、「お手洗いに」と優雅に微笑んで回避するつもりだった。

 しかし、そんな俺をカエデが先回りして待っていた。

「そんなに申し訳ないと思うなら、今日は一緒にお昼ご飯を食べない?」

「えっ?」

 意外な申し出だった。

 普段からカエデは、教室の自席で一人でご飯を食べていた。男子では比較的そういった輩が多かったが、女子は群れるのが好きな生き物だ。少なくとも、うちのクラスで一人ご飯を敢行する女子はカエデを入れても2人だけだった。

 ちなみに俺はこれらのカウントに含まれていない。

「ジョーって、お昼休みになるとどこかに行っちゃうでしょ? 食堂で見かけたこともないから、たぶん校庭のベンチかな? お邪魔じゃなければ、わたしも連れて行って欲しいなー、なんて」

 確かに俺はよく外で昼飯を食っていた。それは人目につくのが嫌なのと、人付き合いが煩わしいという厭世的な理由が主だった。

 それともう一つ、別の理由もある。

 それは――必要以上に女子に近付きすぎないという理由だ。

 万が一、また昔と同じ過ちを繰り返したら、今度こそ俺は生きていける自信がなくなってしまう。

 だから、本当ならこの申し出は断るべきなのだ。

 俺はこの世界では異端者だから。

 決して本気になってはいけないから。

 だけど俺は、子犬のようなカエデのおねだりを無碍にすることはできなかった。

「……私と居ても楽しくありませんよ?」

「そんなことないよー。わたし、もっとジョーとお話したいもの」

 わざとらしく上目遣いをする仕草が、少しだけ――ほんの少しだけ可愛らしいと、不覚にも思ってしまった。

 結局それが決め手になって、なし崩し的に約束する羽目になった。

 今日一日で、随分と変化が起きてしまった。

 俺は平穏無事に、誰にも後ろ指をさされないように生きたいだけなのに。

 余人が見ればこの変化は喜ぶべきものなのだろう。

 俺も本心では喜んでいるのは理解している。緩みそうな口角を引き締めるために無駄な筋肉を使っていることからもそれは明白だ。

 だが、本当にこれでよかったのだろうか。

 このときの俺には、予想なんてできるはずがなかった。

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