好きなんだけど

なかの

第1話『好きなんだけど』

「私の体重は80kgある」

もちろん男子からのアダ名は関取だ。

美しき、どすこい女子高生生活である。


どうしてこうなってしまったのか、よく思い出せない。

生まれた時から、ふとっちょだったのかもしれないし、そうじゃないかも知れない。

記憶をたぐっていくと、小学生くらいの時は、特に太っていなかったような気もする。


まぁ、それは良くて女子高生生活である。

学校では関取関取言われていても、家に帰ると楽しいことがたくさんあった。

二次元のイケメンたちが思う存分私をなぐさめてくれるのだ。


アニメにゲームにソシャゲにボイスCDに抱きまくらにコップに・・・

おっと取り乱してしまったわ。

そう、私はオタクなのだった。


家に帰れば、二次元のイケメンたちが笑顔で出迎えてくれるのだ。だから、現実の男子なんてどうでもよかった。

どうでもよかったはずだった・・・あの日までは。


そう、あの日は高校二年の一学期の終業式。

私は聞いてはいけない言葉を聞いてしまったのだ。


私は関取関取、言われながらも、そこそこ男子とは仲良くできていた。それなりに成績が良かったので、勉強の質問にのったり。オタクな男子たちと、オタクトークをしていたのだ。


それは、とても楽しいものだった。

その日までは。


「タカシくんって、サトコちゃんのこと好きなの?」

という女子の声が聞こえてきた。ピョンピョン飛び跳ねながら、キラキラ女子が聞いている姿が浮かぶ。


サトコちゃんというのは、もちろん私の事だ。

それで、タカシくんというのは、私とオタクトークをしてくれる、イケメンの男の子だった。


私は、いつも彼と楽しく話していたから、少し好きになっていたかも知れない。すこしプラスのことを言ってくれると期待していた。


「いや、そんなんじゃないよ?」

と、タカシくんがサラッといった。

のおおおおおぉぉぉぉぉぉ。私は聞いてはいけない言葉を聞いてしまった。


「ああ、ふとっちょだもんね」とキラキラ女子が言う。

「まぁ、少しな」とタカシくんも否定はしなかった。


私の心はポッキリ折れた。


この、暗黒の終業式から、さらに私の漆黒の夏休みが始まった。

ろくに外に出ず、ごはんもあまり食べないという。

夏休みが。


しかし、とくに苦痛ではなかった。

空腹はいずれ心地よい辛さに変わっていくのだ。


そして、夏休みが開けた。

登校前に私は美容院だけ行っておくことにした。

気分を切り替えるために、バッサリ切ってもらったのだ。


そして、2学期が始まった。

「君・・・?誰・・・?」

とクラスの男子に話しかけられた。


え?新手のいじめ??高校生にもなって??

関取だけじゃ飽きたらず。

見えるのに見えない振りするあの伝統的ないじめ???


「高木沙都子だけど?」と私は答えた。

「えええぇぇぇぇぇ!!関取??美人になりすぎでしょ!!」とその男子が叫ぶ。

「え、美人?」

私が?なんの冗談なのだろう。たしかに、ちょっと痩せたかもしれないけど・・・。そう言われて思い出すと、お腹はベッコリへこんで、そして、胸は大きいいままだった。


「そういえば、男子の視線が結構ちがうような・・・」

と思いながら、二学期、登校初日は終わった。

「私が美人・・・?」言われたことのない言葉にとまどいっぱなしだった。


「なぁ、高木ちょっといいか」

と、男子に引き止められた。

「うん」

いいですけど、と振り向いた。その人は大樹くん。


「好きなんだけど、付き合ってくれない?」

と、クラスいちばんのイケメン。大樹くんが顔を赤くしながらそう言った。


「えっ!?」

私は言葉にならない言葉をだしていた。

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好きなんだけど なかの @nakano

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