第3話 シュリの実力
「マーよ、魔王とはどんな奴なんだ?」
マーの案内により、森を進む中、マリウスが質問を投げかける。
「実は僕らも今の魔王様には会ったことが無いです。ただ、先代魔王様には会ったことがあるです。あの方は僕たちの事を良く理解して親身になってくれた方です。」
マーは中空に目を向ける。おそらく想像上の魔王を崇めているのだろう。
「ほう、それでその先代魔王の種族はなんだ? 魔族にはいろいろ種類がいるからな」
「それはですね……あれ? えーっと……どんな人です?」
マーは口ごもる。説明が難しいのか一向に説明が始まらない。ふとシュリに目を向けると、マーを見つめている。
「んー……あ、ついたです」
マリウスとシュリは顔を上げると森のはずれ、人間の住むフィーレ村に到着した。
フィーレ村、そこはフィーレの森の西端に位置する人口100人程度の村で、太い丸太を主に用いた木造の家屋で、風通しの良い構造をしている。熱帯の気候のため、西部にはジャガイモや、バナナ等が栽培されている。また、そこに住む人の肌は皆褐色に焼けており、この地域の日差しが強いことがうかがえる。普段は農作物などを育てるために働いている村人だが、その村には村の住人とは別に十字架の模様の入った鎧と剣や盾、鞭など様々な武器を身に着ける兵士が5人ばかりいた。
鎧の兵士は村人に怒鳴るような指示をだし、村人はそれに従い、手に持った斧で木を切ったり、切った木をどこかへ運んだりしている。
「人間たちがまた木を切ってるです」
マーは木を切っている村人たちを指さしながら、少し涙目の溜まった目をマリウスとシュリに交互に向ける。
「……あんなに切ってなんに使うんだ?」
シュリの疑問の通り、奥にある村人の住む木造の家々は少し荒いが作り自体はしっかりとしており、補強の必要性を感じない。
周囲の状況を確認していると木を運んでいた村人が倒れる。それを見た兵士は村人へ怒鳴りながら鞭で地面をたたく。それに対して倒れた村人はふらふらと立ち上がるとまた、木を運びはじめた。よく見れば奥で背中が血だらけの村人の1人が兵士に鞭で叩かれている。
「おいおい、ありゃ扱い酷すぎるだろ。死んじまうぜ」
「それに食事もあまりとっていないようだ」
マリウスの言葉通り、兵士たちの健康的な顔とは対照的に村人たちの頬は痩せこけている。
「どーも、村の人間は兵士の命令で動いているっぽいな」
「どうするです?」
「一度村人の話を聞きたい。村人と話してくるから少しここで待て」
マリウスが村へ向かおうとするがシュリがズボンの裾を引っ張りあわてて止める。
「まてまてまて、人間と魔族は対立してんだぞ! しかもあそこは人間の領地、そんなとこにお前が行ったらなにされるか分かったもんじゃねぇ!」
「ならばどうする? あのまま放っておくのか?」
「見たところ村人は兵士に扱使われているらしい。ってことは兵士を始末しちまえば木の伐採は中断するはずだ。そこから話し合いに持ちこめば伐採量の契約もしているわけだしこっちの有利に働くさ」
「確かにその通りだが……あの人数は倒すことが難しいと感じるが」
マリウスの言葉にシュリはにやりと微笑む。
「このシュリ様に任せな。この俺があんなヒョロそうな兵士に負けはしないぜ」
「……ほんとに大丈夫ですか?」
自信満々に宣言するシュリに対し、マーは不安そうな声を上げる。それも無理もない。いくらフォルウルフを倒したとはいえ、自分と変わらない体長のネズミがその18倍もの体調の人間たちを5人も相手することに不安を感じないわけがない。それでも自分の勝利が揺るぎ無いものと確信しているシュリの目は自信に満ち溢れていた。
・・・
フィーレ村に到着し、シュリが兵士の配置や地形を確認しに行くと言って約10分、マリウスとマーはシュリの帰りを待っていた。
「シュリさん、見つかってないといいですが」
「大丈夫だろう。派手な格好をしているとはいえ、見た目はただのネズミだ。見つかったところで気にも留めないだろう」
マーが不安そうな声を上げる。しかし、シュリへの信頼か、それとも心からそう思っているのかマリウスはそれをあっさりと否定する。
村の様子を見ながらシュリの帰りを待っていると、後ろの草陰からシュリが出てきた。
「いやー、おまたせおまたせ。大体わかったよ、あれなら行けそうだ」
シュリの調査によると、ここにきている兵士は8人、村人に指示を出しているものが5人と、木材置き場の番をしているものが3人。兵士は皆一様に鉄製のバックラーと呼ばれる小型の盾とブロードソードと呼ばれる幅広な70~80cmの剣を持っているそうだ。
「倒せるですか?」
いまだに不安そうなマーに対してシュリはニコリと笑うと”余裕だ”と宣言する。
「じゃ、ちょっくら行ってくるわ」
まるで散歩にでも行ってくるかのような軽い声を二人にかけると、カバンを下した後、後ろの茂みへ四足歩行で入る。
マリウスとマーは村の様子を見ると、兵士は怒号や驚愕の声とともに倒れていき、数分後には視界内に剣を構える兵士の姿が無くなっていた。
・・・
「さてと、やるか」
シュリはマリウスの下から出発し、迂回して木材が伐採されている場所の茂みに来ていた。どうやら村の中とは違い、森林を伐採した場所には、草丈15㎝程の草が切り株の間に生えている。どうやら密林の中心部とは違い、日光を遮るものが少ないため、草が成長しているらしい。
シュリは現在も怒号を上げながら村人へ指示する兵士の下へとばれない様に茂みに隠れながら接近する。兵士の真横へ到着するが、兵士は村人への指示に夢中なのか気付いている様子はない。シュリは背中のカバンと剣をおろし、音もなく抜くと、鎧の付いていない右足の足首、つまり足の筋の部分を両手剣で切り裂いた。
「がぁぁぁ、いでぇぇぇ!」
あまりの痛みに思わず声を上げながら兵士は地面に転がる。シュリはチャンスとばかりに左足の足元へ移動し、同じく鎧の付いていないの右足の足首の部分を切り裂く。
「どうした!何があった!」
周囲の兵士が味方の異変に駆けつける。が、シュリはネズミらしい機敏な動きで、駆けつけた兵士の足首を切り裂いていく。
「足下だ!草の茂みにに何かいるぞ!」
シュリが4人目の人間の右足首を切り裂こうとすると、駆けつけた兵士の1人が茂みの不自然な動きに気づき、声を上げる。その声に反応し、シュリの攻撃を受けていない兵士たちが一斉に茂みから離れる。
(ッチ、逃がすかよ!)
シュリは逃がすまいと兵士たちを追う。逃げ遅れた5人目の兵士の足首を切り裂くと、茂みから出る。シュリが茂みから出ると、3人の剣を抜いた兵士たちがシュリの回りを取り囲む。
「こいつか? このネズミがやったのか?」
「おい、みろ!こいつ剣持ってるぞ!」
兵士の言うように、シュリの手には血の付いた両手剣が握られている。俄かには信じがたい者の兵士たちはシュリがこの騒ぎの原因と分かったようだ。
兵士たちは騒ぎの原因が1匹のネズミと分かると、顔が険しくなる。どうやら1匹のネズミが5人もの兵士を倒したことに憤りいるようだ。
「死ねぇ!ネズミィ!」
兵士たちはシュリに向かい、一斉に剣をふるう。シュリはそれを真上に跳躍しかわすと、1本の剣に乗り、兵士へ向かい、走り出す。
兵士がシュリを振り払おうと剣を振るう。シュリはその反動を利用し、跳躍すると、兵士の腕、丁度肩の部分に突き刺す。
「痛ッ!」
兵士は悲鳴を上げ、振り払おうと腕を上げようとするが、思うように上がらない。それもそのはず、シュリの狙った部分は腕の腱を断ち切ったためだ。
「このくそネズミィィィ!!」
仲間がやられ、より怒りが増した兵士たちはシュリが地面に降りる軌道の先へと剣を振るう。しかし、シュリが剣の軌道が読み、両手剣で防御をする。
その小さすぎる身体は、通常ではいとも簡単に後方へと弾かれてしまうだろう。だが、シュリは剣を斜に構え、そのネズミとは思えない握力と共にしのいだ。
(あと2人か)
再び地に降り立ったシュリは兵士たちを一瞥すると、1人の兵士の足元へと走り出す。急な対応に兵士たちは対応しきれず、シュリが1人の兵士の後ろへ回り込むと、同様にして足首を切り裂いた。あまりの痛みに兵士はうずくまる。
「クソネズミがぁ!」
ネズミという小さな的に剣を一太刀も当てられないためか、残り1人となった兵士が先ほどやられた仲間の背後へ向かう。しかし、その視界に白いネズミを捉えることができない。
「どこ行きやがった!くそネズミ!」
怒号を上げながら、シュリを探す兵士はうずくまる兵士へ背を向ける。と、その瞬間、うずくまる兵士の陰からシュリは飛び出した。
ザシュッ ザシュッ
背中をみせる兵士の両足首を剣で切り裂く。兵士は痛みのためかその場にうずくまる。シュリの手によって周囲には足首を抑えうずくまる兵士7人と、肩口を抑える兵士が、痛みのため、声も上げずに傷口を抑えていた。
(よっし、これで終わりだな)
シュリはそう思い、兵士たちに向かって話をし出した。だが、
「チュウチュチュウ!チュウチュウ!」
ネズミであるシュリの声が兵士たちに理解できるはずもなく、あるものは憤怒の、あるものは恐怖の視線をシュリに向けるばかりだ。
(……そういえばマリウスいなきゃ話ができないわ)
シュリは兵士たちを尻目にマリウスの下へ向かった。
・・・
「シュリよ、まさかああも早くに終わらせるとは」
マリウスはシュリに対して称賛の声を上げる。
「あんなもん楽勝だぜ」
シュリは自慢げに胸を張ると、手招きをした。
「ちょっと来い、言いたいことがあるが俺だけだと会話ができないからな。あと、危険かもしれないからマーはここで待っとけ」
マリウスはシュリと共に村の兵士の下へ向かった。
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