第11話 戦前準備-マルクス帝国
マルクス帝国。初代皇帝リチャード・リ・マルクスによって創られたこの国は現在、第8代皇帝エドワード・リ・マルクスによって統制されている。
この国はエドワード・リ・マルクス皇帝による独裁国家であるが、その持ち前の手腕を振るい、近年、自国で訓練を施した群を用いて小国を飲み込む動きがあり、自国の領土としているため、年々大きくなっている。そんなこの国の首都、グランマードの人々は自分の生活環境が年々豊かになっていっている。そのため、グランマードではエドワード皇帝を支持する人々が多い。
そんなこの国の首都、グランマードにある城にはこの国の各部門代表たちと、皇帝エドワード・リ・マルクスが一階にある、会議室として使われる1室に集まっている。会議室には長机の左右に代表たちが座り、最奥に皇帝エドワードが座っている。そして、国旗などが掛けられている壁際には緊急時の際、行動ができるように代表たちや皇帝の側近や秘書、護衛などがいる。
「で、首尾はどうだ?」
エドワードが顔にかかったセミロングの金髪を手でかき上げながら、まるで海の底を見ているかのような深い青色をした目を技術開発部の代表に向ける。
「ええ、順調ですよ。あと1週間もすれば今作戦に参加する兵士へと行き渡るでしょう以前、金の採掘が一部不可能になったことが残念ですが……」
その返答に満足したのか、その皺ひとつない顔に笑みを浮かべる。
「フィーレ村の事か、気にするな」
「申し訳ございません」
「で、兵の教育のほうはどうだ?」
エドワードはその目を軍部代表に向ける。
「ええ、こちらも抜かりはありません。すでに全兵士が扱うことが可能です」
「そうか、間に合いそうで何よりだ。」
「ありがとうございます」
エドワードはまた、笑みを浮かべる。が、その笑みは報道部代表の言葉によって消え去る。
「しかし、あんなもので勝てるのでしょうか?」
「どういうことだ?」
「いえ、奴らの中には刃を通さない身体を持った者もいると聞きます。そんな奴らに鉄の塊をぶつけたところで効き目があるのかと……」
「おい、貴様皇帝陛下を信用していないのか!」
軍部の代表は激しく糾弾する。が、それでも信用できないのか、言葉を続ける。
「そういうわけではなく、実際見て見ないと国民も信用できる記事を書くことができませんし……」
「貴様、まだ言うか!」
「いや、しかし……」
「よい、二人とも発言を控えよ」
口論に発展しそうになるが、その言葉はエドワードの一言によって止まる。
「つまりは実際に見てみたいと言うのだな?」
「え、ええ、そうです」
「おい、あれを」
「少々お待ちを」
エドワードは側近に何かを指示する。側近は指示を受けると素早く後ろにいる兵士たちに命令をする。兵士たちは窓の外にいる兵士たちに指示をする。指示に従い、外では何かを準備をしだす。
「では、窓の外をご覧ください」
兵士たちの準備が終わり、各代表は窓の外をみる。
窓の外には一人の兵士が案山子に鎧を着せた的にに向けて何か筒のようなものを向けている。その形状はマリウスが記憶映像で見た”拳銃”と似た形をしているが、筒の部分が長く、その銃身の手前には丸い水晶とそれに纏わりつくように金が渦巻き状に巻かれている。その形状はまるで鉄製の火縄銃のようだ。
「撃てぇぇ!」
掛け声とともに銃を持った兵士が銃のトリガーを引く。すると、銃についた水晶が青く発光し、トリガーを引いた数瞬後、その銃身から何かが発射される。
バンッ!
ガァァァン!
周囲に乾いた音が鳴り響き、その後、何かが激しく金属に当たる音が鳴り響いた。
「見せて差し上げろ!」
側近は窓を開け、兵士に指示を出す。銃により傾いた鎧の的を兵士たちが窓の傍へ運んだ。
「さぁ、ご覧ください」
側近は的へと視線を促す。鎧は鋼鉄でできているにもかかわらず、中央に小さな穴が開いていた。どうやら先ほど銃から発射された弾によって開けられたようだ。鎧の裏も貫通まではしていないものの、大きく外側に凹んでいる。
「貫通まではいかないものの、この威力。どうだ? これでも心配か?」
エドワードは満足そうに確認する。その声には反論など想定していないようだ。
「おお……いつの間にこれほどのものを……」
「これならば奴らを……」
「……素晴らしい」
代表たちは各々感嘆の声を上げる。
「……異論はないようだな」
エドワードは代表たちの顔を見回す。代表たちは皆、納得したようで、静かに頷いた。
「ならば決まりだな。では、戦場への物資の搬出状況と戦場の地形情報を出してくれ」
納得を見せた代表たちは、作戦会議を続ける。
・・・
「お、ご苦労。おーい、これを城内まで運んでくれ!」
「おうよ!」
「じゃ、これ代金な」
マルクス帝国の城門前、2人の男が何やら取引をしている。男の片方はマルク・エドワード、父の仕事を引き継ぎ現在国に頼まれた資材の搬入を行っている。もう片方は城門の警備兵のようで警備兵はマルクに資材の代金を渡す。
「にしてもお袋さんと親父さんが行方不明だっていうのに、あんたはすごいよ」
「いえ、仕事をしなければ生活できないので」
マルクは笑う。だが、その顔は少し暗いように見える。
「で、こんなに何に使うんですか?」
マルクは自分が運んできた荷車を指す。荷車の中には鉄鉱石、魔力の込められた水晶、そして魔力に犯された金属が所狭しと詰められている。
「お前知らないのか? 今度魔族どもと戦争することは知ってるよな? これはその時に使う新しい武器の材料らしい」
「……新しい武器とは?」
「さぁ、そこまでは」
警備兵は肩を竦める。どうやら本当に知らないようだ。
「ま、戦わない俺たちには関係ない話だ」
「そうですね。じゃ、ありがとうございました」
警備兵はマルクの背中を見送る。マルクは一旦自宅へと帰った。
・・・
「父上、帰りました」
「ああ、ご苦労だったな。座りなさい」
エドワード家のとある一室、この部屋は以前ゴートンがエマたちへ支援するための資料や物資などを補完するためにつくられた場所だ。そのため、通常では入れない場所に造られており、防音対策もしっかりしてられている。
そんな周囲が本棚で埋め尽くされているこの部屋の中央でゴートンは机の前に置かれた簡素な椅子に座っている。マルクはゴートンに勧められた父の対面の椅子に座る。
「しかし、理解してくれるとは、信じていたよ」
「ええ、父上の言うとおり……とまでは言う事ができませんが……」
マルクはエマの城を出た後、ゴートンと共に国に頼まれた先ほどの物資の輸送を行った。その際、フィーレ村と同様の、鞭に打たれながら働く村人たちの光景を目にする。この村人たちは元々国などに所属していない独立した場所で、近年マルクス帝国に侵略された土地だった。マルクはそれらの土地を目にし、帝国の行っていることを知った。そのため、魔族に手を貸す、というまではいかないまでも現在大きく動けない父親に国内の情報を教えている。因みにゴートンはメリッサの事もあり、マルクと輸送を行った際に行方不明になったことにしている。
「で、あれは結局何のために?」
「なんでも新しい武器の材料だそうです。それ以上は軍部の人間か上の者にしかわからないと」
ゴートンは顔を顰める。その情報からは国が何を行おうとしているのかわからないためだ。
「……せめてエマさんには伝えるか」
ゴートンは本棚の傍までよるとそこから手のひらほどの透明な丸い水晶とそれよりも2回りほど小さい中央が青い、魔力の内蔵されている水晶を取り出す。ゴートンは青い水晶の魔力を用いて透明な水晶の中に刻まれている魔法陣を起動させる。
「父上、それは?」
「これか、これは遠隔念話水晶と言って、遠くのこれと同じものを持っている者と会話ができるようになるものだ」
「そ……そんなすごいもの……ぜひとも量産して売りましょう!」
マルクは目をギラギラさせて遠隔念話水晶を見つめる。どうやら商人らしくその商魂は凄まじいもののようだ。
「いや、残念ながらそれはできんのだよ」
「なぜ!?」
「これはエマさんから頂いたものなんだ。これに刻まれている魔法陣は現代にはない技術がつかわれている。だから量産は難しいんだよ」
「そ……そうですか」
マルクは肩を落とす。そんな息子の商人としての成長を見てゴートンは嬉しそうに笑みを浮かべる。
魔法陣の起動が終わり、遠隔念話水晶の中に五芒星の魔法陣が白い光を放って浮かび上がる。
『エマさん、いますか? 報告したいことがあります』
ゴートンは遠隔念話水晶に手を当て、念じる。
『あらん? ゴートンさんじゃない。マルクちゃんとはうまくやってる?』
『ええ、おかげさまで』
『それはよかったわ。あの子、少し不安定に見えたから……』
エマの声が少し陰る。少し暗い雰囲気になるが、その空気を塗り替えるように話題を変える。
『で、連絡を入れた理由ですが』
『ん? またマルクちゃんが来てくれるの』
エマは妙に艶っぽい声を出す。ゴートンはその声に息子への危険を感じ、身震いをする。
『い、いえ、そうではありません』
『あら、残念。で、なにかしら?』
『どうやら帝国内でそちらの国と戦争をするという事は以前話しましたよね?』
『ええ、もう王国に宣戦布告されてるわよ』
ゴートンは一呼吸置き、次の言葉を口にする。
『どうやら王国はその際に、新たな武器を使用する、とのことです』
『武器……ねぇ。どんなものまでかは知らないわよねぇ?』
『ええ、残念ながら』
ゴートンは肩を落とす。少し暗くなったゴートンにエマは明るく話しかける。
『ま、私の知り合いにそういうのに詳しい人がいるから。情報ありがとね』
『ええ、また何かあったら報告します』
『あなたも無理しすぎないようにね。メリッサも声には出さないけど会いたがってるわよ』
エマは『じゃ、またね』と最後に残し、念話を終わらせた。ゴートンはほっと一息つく。そんな父親の姿を見たマルクは未だ整理の付かないこの状況に苦虫を噛んだような顔をする。
「で、これのの売り上げはどうだ?」
ゴートンは自分の首に下げてある十字架を模した水晶を突きながら聞く。この十字架はマルクス帝国の宗教のシンボルで、死後、神の身元まで行けるようにと信仰されている。
「それですか、戦争を始めるに際して兵士たちに配りました。おそらくは皆に行き渡ってるでしょう」
マルクは自身の行った成果を報告する。
「そうか、それはよかった。しかし、なかなか広まらないな」
「ええ、やはり教会の圧力が強いですからね。形を変えても男性には売れませんし……」
「こういったことが無いと配れないとは……なんというか、皮肉というか……」
ゴートンは乾いた笑い声を上げ、その後大きなため息をついた。
「これが広まれば、平和へ1歩進むと思うのだが……」
ゴートンは静かに呟く。その視線の先には首にかけた十字架が映っていた。
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