幕間『Intermission!/2』
幕間2 〜学園祭・後日談〜
あの一騒動の後、残り半日となった学園祭はあっという間に過ぎた。
俺と希は受付業務に追われ、片瀬は「ケバめ金髪守銭奴支配人JK」よろしくクラス賞のため奔走し、大樹や村上たちお化け役はそんな片瀬にこき使われ、日高と柏木の宣伝部隊は校内を何周もしてまわった。
そのおかげか、俺たちは見事クラス賞に選ばれ––––たわけではなかったが、売り上げに関係なく、審査員や来場客の投票によって選ばれる「特別模擬店賞」を取ることができた。表彰式で理事長が言った言葉を借りれば、この賞はお化け屋敷の完成度、内容の充実度、来場客の満足度が一番高い模擬店に与えられる賞らしい。
クラス賞への執着が他人の何十倍もあった片瀬は目に見えて落ち込んでいたが、俺的には「特別模擬店賞」も十分すごいと思う。だって、来場客が俺たちの『脱出型お化け屋敷』を良かったって評価してくれたってことだろ?それに駅前カラオケのクーポンは逃したが、代わりに駅前商店街からお菓子の詰め合わせが貰えたんだ。実質今回が初めての学園祭だった俺にとっては、かなり嬉しい賞だった。
そんな「特別模擬店賞」を祝うため、学園祭の次の週末、俺たち二年二組は駅前の焼肉屋に集まっていた。どうせ打ち上げにお金を払うなら、豪華に焼肉でも食ってやろう、という片瀬の発案だ。育ち盛りの男子高校生にとっては、カラオケなんかより何倍も良いチョイスじゃないだろうか。
「んじゃ、とりあえず学園祭お疲れ様ってことで、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!」」」
腕を伸ばして、近くの席のやつらとグラスを交わす。今回は俺と他のクラスメイトをもっと馴染ませるきっかけにしたいとかで、希や大樹とは席が離れている。それでも、不思議と緊張はしない。
なみなみと注がれたオレンジジュースの中で、角ばった氷がカランと軽快な音を立てた。
「うし、じゃあ早速肉焼くか!」
俺の目の前に座っている村上が、慣れた手つきで金網の上に肉を並べる。一枚、二枚、三枚、四枚––––脂ののった赤い牛肉は、熱せられた金網の上でじゅうと鳴く。じわじわと脂が溶け、肉汁が染み出す香りが大人数用の座敷一杯に広がった。
やばい、めっちゃ美味そう。
よくよく思い返せば、久しぶりの焼肉だ。ちなみに、家族以外と来るのは初めて。去年はクラスでの打ち上げなんて怠いと思っていたし、クラスメイトも俺を誘うなんて事はしなかったからな。
「ふんふんふ〜ん♪」
鼻歌を歌いながら、村上が肉をひっくり反す。焼けた金網の上で、小さな脂がじゅっと爆ぜた。
「そういやさぁ、陽介」
俺の隣に座る––––ええと誰だっけ、確かやたら女子にモテると噂の綾瀬廉––––が、ふいに村上に話を振った。
「んー?」
「お前、茜音ちゃんに告んないの」
「なっ……!なっ、なっ、何言ってんだ廉っ……ってあっち!」
突然の振りにトングを落っことす村上。慌てて拾い上げた拍子に、今度は金網の淵に指が当たったようで、可哀想に再びトングを取り落とす。
「おいおい、動揺しすぎ。な、紫村」
綾瀬が呆れ顔で俺の方を向いた。まあ、村上だから分からないでもない反応だが、その前に指を冷やさなくていいんだろうか。一瞬だったとははいえ、金網はめちゃくちゃ熱いぞ。
思わず顔を顰めていると、綾瀬は何か誤解したようで「ほら、紫村も呆れてんぞ」とため息を吐いた。確かにモテるんだろう、頬杖を付いた横顔も様になる。
「マジでちょっと待てよ〜俺、まだ告れねーんだって……」
「何で」
「何でって、それはさぁ〜」
村上は眉尻を下げて、情けない声を出した。そして、不安気に周りを見渡しながら俺たちの方へと身を乗り出し、声を潜める。
「ここだけの話、俺、今まで告白したことなくてさぁ。絶対失敗したくねーじゃん?だからいつ告白するか迷ってるうちに、学園祭も終わっちゃうしさぁ」
「え、何。お前そんな事で悩んでんの」
綾瀬がまた呆れ顔をくれた。
「そっ、そんな事とか言うなよ!」
モテる廉には俺の気持ちは分かんねーんだよ、とか何とか呟いて、村上は肩を落とした。––––大丈夫だぞ、俺も告白なんてしたことないからな。
「あのさ、村上」
「ん?」
そっと口を開くと、村上と綾瀬の視線が俺に注がれる。
「初めてならタイミングは重要だろうけど……村上らしくぶつかるのもありだと、俺は思う」
一瞬の沈黙。
「いい事言うじゃん、紫村」
コーラを飲み干し、綾瀬が口元に笑みを浮かべる。若干上から目線な気もしたが、一応褒められたと思っておこうか。
方や村上は、心なしか目を潤ませて俺を見上げていた。
「紫村!いや、玲央!!俺、めっちゃ嬉しい……俺、頑張ってみるな!!」
俺と村上の間にテーブルがなかったら、多分勢いで抱きつかれている。
「お、おう……まあ、頑張れ」
「任せろ!!!」
別に何かを任せた訳ではない。任せるも何も、最後は茜音ちゃんが村上を好きかどうかで決まってしまう。
が、子犬のような瞳で俺を見上げ、ぶんぶんと首を振る今の村上に突っ込む事はできなかった。
「……あの」
村上が意気を取り戻したその時。乾杯から今の今までずっと黙っていた、俺の斜め前の女子生徒––––黒縁眼鏡にお下げ髪のクラス委員長––––がおずおずと切り出した。
「お取込み中、本当に申し訳ないんですけど」
そう前置いて、委員長は本当に申し訳なさそうにテーブルの上を指差す。
「そろそろ、お肉、焼けたんじゃないかと思うのですが……」
「「「あ」」」
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