第5幕 //第4話

 教壇に立った希は、俺たちに四人一組の班を作り模擬店の案を一班一つずつ提案して欲しいという旨を伝えた。

 時間が縛られている中、案を集め多数決に持っていくには確かに一番適している方法だろう。重複がなければ大体十個弱の案が出ることになるから、案が出ず時間だけが過ぎたり、全然案がないのに決めてしまうといった事態が起こりにくい。


 他の生徒たちは、早速近くの席同士で固まって話を始めている。



 俺も皆に習って少しだけ椅子を移動させた。と言っても、前と隣が実行委員で教壇に行ってしまった俺の話し相手となるのは、大樹とその隣に座る村上陽介の二人だけだ。


 村上陽介は、今まで見てきたように賑やかなお調子者といった言葉を見事に体現して、つまりは大樹と並んでクラスの中心的存在なわけだが、ちょっと––––いや、かなりの馬鹿、だ。最早馬鹿を通り越して天然とも言えるかもしれない。村上と話すようになってから、こいつの言動に何度呆れ何度笑わされたか。

 でも、そういうところが憎めないヤツだ。

 


「俺はレストランみたいなのが良いな!可愛い子とかイケメンが店員なら客も来んだろ!茜音ちゃん以外でどんだけそのメンツがいるかは微妙だけど!」

 目を輝かせながら、村上は大分失礼なことを言い放った。まあ、本人は何も気にはしていない––––というか多分失礼だとすら思っていない。この前の前でやらかした失態をもう忘れてしまっているんだとしたら、救いようのない馬鹿だ。


 前のグループの女子生徒がちらりと俺たちの方を振り向いたが、その目には全く優しい色はなかった。最早説明する必要もないが、その目に気がついたのは俺一人だった。

 

「まあ喫茶店とかそういう類は無難だよな」

 大樹は逞しい腕を組んで唸る。

「でも俺は、もーちょい賑やかにやれるのがやりてぇな」

「賑やか?」

 俺のクエスチョンマークに、大樹は例えばさ、と続ける。

「よくあるのはスタンプラリーとか、後はお化け屋敷とか。俺たちも一緒にわいわい騒げるじゃん?」

「あー、なるほどなっ!」

「喫茶店も楽しいけど、当日はやっぱ店員だから、そこまではっちゃけはしねーじゃん?準備まではうるせぇだろーけどな」

「確かに!俺も騒ぎてぇ!」

 更に目を輝かせた村上に、大樹は満足そうに頷いた。

「んじゃ、玲央はどう思う?」


 騒ぎたい、というのが果たして模擬店に求められているのかは置いといて、みんなで楽しめるのは俺も賛成だ。折角の機会だし、楽しめるなら楽しんでみたい。


「––––俺もいいと思う。折角の学園祭だしな」

「っし!玲央にそう言われると嬉しーな」

 大樹は笑った。

「じゃあ路線はそれでいいとして、提案するのはどっちにする?」

「路線?何でいきなり通学の話なんだ?」


 ––––––村上、その路線じゃねーぞ。


「そーだな……。俺はどっちもやりてーんだけど、流石にそれは無理だからな」

 村上を完全に無視して、大樹は再び考え込む。

「まあ、校内全部対象だもんな、スタンプラリーってのは」

 俺のイメージしているそれが大樹のやりたいものと一致しているかは分からないが、各ポイントを回ってスタンプを集めてくる(そして大体ポイントには何らかのイベントが待っているものだ、小説や漫画でその手の話はたくさんあった)ってのは大方変わらないだろう。

「そーなんだよなぁ。でも、お化け屋敷は中学校の頃からやりたかったんだよなー」

「クラス内での出し物だしそれがいいかもな」

「おう」



「え?どっちもやればいーじゃんよ」



 何となく話がまとまりかけたところに、村上が口を挟んだ。

「は?いや、だからそれは無理だろうって話を今してたんだよ。お前、ちゃんと俺たちの話聞いてたか」

「何で無理?」

 訳が分からない、そんな顔をして陽介は尋ねる。

「––––村上、何か考えでもあんのか?」

 そう問い返すと、陽介は同じ表情かおのままあっさりと頷いた。


「どっちもやりてーんだろ?それなら、お化け屋敷の中でスタンプラリー的なの、しちゃえばいいんじゃね?」




***




「はい!それでは多数決の結果、学園祭は脱出型お化け屋敷に決まりました!お化け屋敷の中にいくつかポイントを作って、スタンプを無事押してもらえたら脱出成功、という形になります!」

 教壇に立った希の発表に、歓声と拍手が沸き起こった。

「決まったんだからさぁ、みんな絶対参加してよね〜」

「ふふ、それじゃあこれから係り決めをしますね!全員で楽しみましょう!」

「「「おー!!!」」」

 クラス全員の前で笑う希にも片瀬にも、実行委員としての緊張の色はもうなかった。



 多数決の結果は、喫茶店5票、コスプレ喫茶4票、プラネタリウム3票、ドラマ上映4票、残る全員が脱出型お化け屋敷––––俺たちが提案したものに入った。


「益々やる気出てきたな!頑張ろーぜ!」

「めっちゃ怖ぇお化け屋敷にしてーな」

「おう!」

 大樹と村上と俺は、教室の後ろで拳同士をコツンとぶつけた。

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