第12話疑惑

「………アキバの最高責任者か。」

たかやはそう言いながらもフルに頭脳を回転させながら記憶を思い出す。

「……出てこねえ。」

「つまりその衛兵の言葉以外、あんたがアキバの最高責任者だって証明する物は無いって事か?」

「……その言葉だけで十分だと思うけどね。」

菫星はその言葉に対して、何も言わずに、腕の装置に手をかける。

「なっ……消えた?」

「こちらです。」

全員が後ろを振り向いたがそこには菫星の姿は無かった。

「……なっ……再使用時間・準備時間が1秒以下の瞬間移動だと……。」

「衛兵の物と同じ瞬間移動か。」

たかやが冷静に判断する。

「そうです。今回の件については衛兵の追跡時間である1時間が過ぎてから貴方達と話がしたいのです?」

「?????なんで?」

「少々、こみいった話です。貴方達が今受けているはずの、ミズハラ家の依頼について。」

「!!!!!!!何故それを知っている!」

「……彼に信頼できる人間に依頼するよう依頼したのは私ですから。」

そう言って菫星はため息をつく。

「……何故あんなものに金を出すのか…私にはわかりかねますがね。」

「??????」

その言葉に違和感を覚えるが、たかや達は横に立つ衛兵の圧力のせいで喋ることができないでいた。

そんな中でウェルカムが茶化すような口調で向こうで幼女を抱いている狐尾族の少年を指さしながら菫星に言う。

「そういえば、あちらで今現在進行形で行われている、幼女誘拐っぽい事件はどうするつもりですか?」

「あそこは我々の活動範囲外ですし、誘拐事件は我々の仕事ではありません。」

(やっぱりか。)

無論ウェルカムも本気で幼女誘拐が行われていると思ったわけではない。

(こいつら、判断がゲーム時代から何一つ変わっていねえ!!!)

攻撃スキルを使えば、衛兵を送れば良いというのは短時間に処罰を決めなければならないゲーム時代だったらそれで良いだろう。

しかしながら帰還ができなくなった、現在ではそれだけでは不十分なのだ。

おそらく、たかやの親父さん達が桁外れの努力をなしていたのだろう。それをそのままの気持ちで活動を続けているのではいつか破たんするのは目に見えていた。

「なあ、たかや………こいつぶん殴ってもいいか?」

ウェルカムがそう言うと、ウェルカムの背中から狼の形をしたオーラが発せられる。

「よせっ! 衛兵が来るぞ!」

「かまわねーよ……どうせこいつらは瞬間移動で回避できるだろ。それに一発ぶん殴らねえと気が済まねえんだよ。」

<サモニング・スピリッツ・ウルフ>。メディスンマンのスキルの一つで、一時的に攻撃能力を上昇させる効果を持つ。

「だからってぶん殴るのはまずいわよ!!」

「うっせえ! どうせ一度も町を見回した事なんてないんだろ! 物が盗まれる重さなんて一切考えていないんだろ!」

ドラゴンナックルも必死に羽交い絞めしてウェルカムを止める。

「抑えろ! 今は抑えるんだ!!」

「今抑えたってどうせ後でこいつらは同じ事をし続けるんだ! どうせならせめて一言言わせろ!」

「言葉をかけるなら、暴力は止めろ。」

とんすとん店主がそう言ってウェルカムに声をかける。そうしてウェルカムの目の前に立って、話をする。

「勿論俺だって今の現状には不安がある。だが今それは暴力では解決できない事態だろ?」

「……わかったよ。」

そう言いながらウェルカムはなんとか拳を収める。

「………しかし、アキバの最高責任者が俺達に何の用何ですか?」

「………『クレセントバーガー』についてです。」


そして1時間後、菫星達は銀行の一室で話し合いをすることになった。

「タカヤ君!」

そこにはタカヤが待機していた。

「……色々とすみません。ですがクニエ一族が冒険者に直接依頼する事ができないとの事なので僕が仲介しました。」

「仲介?」

そのあたりはゲーム時代から考えるとそれほど珍しい事態ではない。クエスト未解決時にネタ晴らしする可能性は色々と低いが。

「ここならば、邪魔をされずに話し合いができます。」

さて、と前置きして菫星はたかや達に話しかける。

「…………『クレセントバーガー』について、貴方達はどれぐらいの事を知っていますか?」

「きちんと『味がする』料理であるという事。レシピなどについては『三日月同盟』が独占をしているという事……。

 ぐらいですね。」

えんたー☆ていなーがそう言って、確認をする。

「ずいぶん認識が違いますね……。」

菫星が頭を抱えて悩む。

「……んで? 街の代表者様はどんな認識何ですか?」

「いきなり謎の流行を見せ始めた謎のアイテム。それこそ、原因不明の流行性と中毒性を持ち合わせるアイテムであり……。

 『ご禁制の薬』が使われている可能性もある危険なアイテムです。」

「ふざけるな!!」

そう叫んだのはとんすとん店主だ。

「貴様らがどれほど言おうと、この流行は当然のものだし、味のある料理は冒険者全てが待ち望んでいたものだ。

 無論それを『三日月同盟』が独占している原因は不明だが……『ご禁制の薬』などわけのわからない物をそう簡単に……。」

「手に入れられる可能性もある……でしょ。『遠見の鏡』みたいに。」

ドラゴンナックルがそう言ってとんすとん店主を止める。

「……だがな……味のあるレシピの可能性もあるだろう?」

「……ありえません。調査できるレシピのうち3%を調査しましたが、『味』と言うものを感じられるレシピは存在しませんでした。」

菫星がそういってたかやの言葉を否定する。

「……それでもあり得ません。『ご禁制の薬』を使い料理に味をつけることは不可能です。」

たかやがそう言って反論を行う。

「……自分が知る限り『ご禁制の薬』は9種類が存在します。

 麻薬っぽい効果を持つ能力が2種類。

 人間の体を化け物へと変化させる能力が6種類。

 儀式などに使われる薬が1種類。

 その全てにおいて、味をつけることができるという存在は思い出せません。また味をつける薬があったとしても、クレセントバーガーは複数種類のアイテムを販売しており、それら全てに別々の味をつける事ができるという可能性は低いです。」

「……確かにそんな系統の薬が使われたーって記憶はねえよな……。」

えんたー☆ていなーがそう言ってたかやの台詞を肯定する。

「ならばこの異常な流行は何だというのです! と言うか複数系統の味とは一体どういう意味なのです?」

「………冒険者が待ち望んだものが手に入った。ただそれだけの事だろ? あと、料理ってのは1つの味じゃないだろ?」

そう言ってウェルカムが『何故そんな事を疑問に思うのか』と言う雰囲気で返事をする。

「それは貴方達の理屈にすぎません。」

菫星はそう言ってウェルカムの言葉をバッサリと断ち切る。

タカヤはおろおろとしながら双方を覗き見るだけだ。

(これはとても言えない事なんだけどな。)

たかやは心の中で自分の意見を黙り込む。

(謎の薬を使って、食料に味をつけるなんて展開、親父達がするはずがない。それに、おいしさの数字できまるなら数字で決まった味を皆が勝手にこの味だと思っているだけだ。)

無論、そんな事は目の前の人には言えない。

だからこそなのだ。たかやの言葉は屁理屈っぽくなっている。

「……このアキバ周辺で、『ご禁制の薬』が手に入るとしたら。」

たかやはそう言って記憶を思い出す。

「交易の中心であるヨコハマ。同じくツキジ。そして、盗賊どもが根城にするウエノ……。

 この3か所が考えられます。都市間移動ゲートが使えないのがこの場合は幸いでしたね。

 そうでなかったら、数がとんでもないことになっていましたよ。」

「都市間移動ゲート? なんなんですそれは??」

タカヤがそう言って、たかやに質問する。

「えっ? 知らないの? アキバの町のど真ん中にあるでかい魔法陣が書いてある建物なんだけど。」

「そんなのあったんですか?もし本当にそんなのがあったのなら、色々と物を運んだりできるんですけど……。」

「残念だけど、プレイヤータウンにしか、配置されてねえんだ。どこもかしこの自由に動けるわけじゃねえ。」

とんすとん店主がそう言って首をすくめる。

「……悪い言い方になるけど、今は動かない方が良かったと思う。下手に動いたら悪徳プレイヤーが自由に逃げ隠れできちゃうから。」

「BANシステムが使えない以上、他所からの悪徳プレイヤーの来訪の可能性が低くなったと諦めるしかねえか。」

「………そう、ですね。誰でも自由に移動できる事が良い事とは限らないって事ですよね。」

タカヤはそう言ってうつむき加減にいう。

「………そう言えば話は変わるけど、大地人はアキバからミナミまで物運ぶとしたらどんな手段を使うんだい?」

「大きくは船ですね。普通の船は風で動きますけど、召喚獣に引っ張ってもらって動かす船もあります。」

「召喚獣に?」

「ええと、レベルが20か30の水中用ゴーレムや巨大鮫に引っ張って貰うんです。

 有名な船となると、海の底に潜れるといわれる、『電光の夢号』が有名ですね。」

「確か、聞いたことがあるぞ。ええとマリアナ海溝ダンジョンに行ける唯一の船だっけ?」

「ええ、ウェンの大地のアレクサンダー=アルバが開発した、最高級の潜水能力を持った船だったよな。」

「はい、その通りです。」

タカヤの言葉に、たかやが答える。

「私達、この世界の事なーんにもわかっていないのね。

 ねえちょっと気になったんだけど、そういう船もコマンドで作るの?」

「何を馬鹿な事を。」

菫星はそう言って頭を抱える。

「全て、コマンドで作るに決まっているじゃないですか。」

「やっぱりねえ……。」

ドラゴンナックルはしょうがないといった雰囲気でそれに答える。

「……ありとあらゆるものがコマンドで作られる世界か……。」

とんすとん店主がそう言って、自分の腕を披露できる機会がない事を嘆く。

「………話を戻しても構わないでしょうか。」

と菫星が言って、一同は『ご禁制の薬』の話に戻す。

「……皆さんに話と言うのは他でもありません。

 三日月同盟が、『ご禁制の薬』を使っているか、又は確実に使っていないという証拠を集めてほしいのです。」

「………問題は俺達は5人……。」

「その指輪の方も含めれば6人では?」

「……含めるんかい!」

「この手のクエストなら、含めるのが普通ですね。」

たかやはそう言いながらも頭を抱える。

「……ですが俺達6人ではどう考えても1ヵ所回るのが精いっぱいです………。

 となると3か所のうち2か所はどうやっても、回れません。」

「……なるべく早いうちから証拠が欲しいのですが……。」

「なら、情報流すといいさ。ここに味のある料理の秘密があるかもしれないってな。場所が示されたら行くやつも増えるだろうしな。」

「………ですが……。」

やや菫星は憮然とした表情でとんすとん店主の言葉を反芻する。

「…………ねえ、たかや。」

そう言ってドラゴンナックルが質問する。

「誰か知り合いに頼むとかできない?」

「……知り合いか。何人か頼める人間はいるけど、流石に報酬無しで動いてくれはまずいだろ?」

たかやはそう言って困った顔をする。

「……私達は確実な情報を持ってないからね。」

「さてどうすっかねえ……。」

たかやは地図を取り出すと、幾つかのパターンの計算を開始した。

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