第11話衛兵

「このレシピも駄目か。」

たかや達はレシピを次々と調べながら、味のする料理の秘密をさがしていた。

「……アキバの外も視野に入れた方がいいかもしれないな。」

ウェルカムがそう言って大きくため息をつく。彼らは万世橋の上で休んでいた。

「アキバの外ねえ……。なあたかや。CMか何かで、おいしく料理を食べていたシーンとかなかった?」

「……<エルダー・テイル>は1回アニメ化されていたんだが………。」

たかやはそう言って遠い目をする。

「……参考にはならんぞ。全部おいしそうに食べていたからな。」

「やっぱりここはゲームの中って事か。アニメとかの情報は頼りにならんとそう言う事だな。」

とんすとん店主がそう言って、大きくため息をつく。

「大体自由にアイテムが作れるんだったら……。」

たかやはそう言って、川の方へと目を向ける。

「……あれは??」

そこには1人の狐尾族の少年が少女を抱えて走っていた。

「ありゃナナミじゃねえか……一体何を……ってホワイトアリゲーターだと?」

「何でアキバ下水道のボスがここにいるんだよッ!」

えんたー☆ていなーがそう言って、杖を取り出す。

「待て! そこは……。」

「オーブ・オブ・ラーヴァ!!」

えんたー☆ていなーの杖先から炎が出てきて白い鰐目がけて襲いかかる。

「戦闘禁止区域だ!!」

「はぁ???」

ぬうと、衛兵がえんたー☆ていなーの背中側に現れる。

「……どうなってるんだよ!! 町中に現れたモンスター無視して、俺を狙うって!」

「街中での攻撃スキルの使用は規則違反だ。」

そう言って衛兵が真っ向から刀を構え、えんたー☆ていなーに攻撃を仕掛けようとする。

「<キャッスル・オブ・ストーン>!!」

たかやがそれに割り込み、一時的に無敵化するスキルを使ってダメージを無効化する。

「くっ……ダメージを無効化しても、衝撃が伝わってきやがる!!」

たかやはそう言いつつも、ニヤリと笑う。

「たかや。戦闘禁止区域、スキル使っちゃまずいって!!」

「安心しろ。攻撃スキルは使っていない!!」

ど派手な音と共にたかやが吹き飛ばされながらも、ドラゴンナックルに返事を行う。

(……とはいえ、切り札の<キャッスル・オブ・ストーン>を切らなきゃいけなかったのはまずかったがな……。)

「仕方がないッ。」

たかやはそう言って指輪を前に向ける。

「モード回復専念……。<支援者召喚の指輪>……使用!!」

たかやはそう言って、手に付けていた指輪を目の前に出す。

その言葉に応じて、指輪が光り、たかやの横に鉄鎧をつけ、両手に巨大な盾を持った女性が現れた。

「ちっ!!」

衛兵は迷ったかのように、たかやとえんたー☆ていなーを見比べる。

ホワイトアリゲーターは、よくわけのわからない奴らを無視してさらに狐尾族の少年を追いかけはじめる。

「えんたー☆ていなー! とりあえずこの中に隠れて!!」

ドラゴンナックルがそう言って、えんたー☆ていなーの移動を動かす。

「そうか、あいつらは進入禁止空間には入れないから……。」

えんたー☆ていなーのサブ職業<アスリート>は移動やジャンプにボーナスがつく肉体系のサブ職業だ。

「逃げるが勝ちだ!!」

そう言って、えんたー☆ていなーが慌てて近くの家に飛び込んだ。

「ふう、これで一安心か。」

とんすとん店主がそう言って、突っ伏しているウェルカムの方へと向かう。

「大丈夫か?」

「大丈夫じゃないです。とりあえず自分に<ヒール>してますんで、しばらく休ませてください。」

「そうか。まったく街中でトレインとは……困った物だ。」

「建物の購入を解除し、そこを退け。」

やれやれと言おうとした、そこに後ろから声が響いた。


なお、ホワイトアリゲーターについては狐尾族の少年が倒した。


「……わかっているはずだ。今貴様が買った空間にいる男は、町中で攻撃を行った男だ。庇うとためにならんぞ。」

その衛兵の問いに、ドラゴンナックルは答えない。

「さっさと購入を解除しろ!!」

「ちょっと待て! 攻撃したって言うんだったら、あの鰐はどうなるんだ?」

「モンスターは見逃す。これが太古より決まっている規則だ。」

「…………え??」

一同が目を点にしてその答えの意味を考える。

「ああ、なるほど。そうだったな……。」

たかやがそう言って、フォローを入れる。

「街中でモンスターが現れたとしても、衛兵にはそれを感知する事はできないし、ましてや攻撃もできないとそういうルールだったな。」

「……よく知っているな……。」

「昔色々あってだな……。大変だったんだよあん時は。ロンデニウムって知っているか?

 あそこで『ジャック・ザ・リッパー』ってモンスターが出た事があるんだが、あいついろいろ大変だったんだよ。

 瞬間移動するし、夜だと能力上がるし……。」

「時間稼ぎは良いだろう。さっさと購入を解除しろ。」

「何で解除する必要がある?」

たかやはそう言ってその衛兵の言葉を止める。

「…あそこに何か重要な物でも隠していたのか? それともあそこがお前にとっての重要な施設なのか?

 悪いが、攻撃をしたいだけなら、お前があいつに、空間を買う事を止める権利は無い。」

たかやはそう言って、衛兵をけん制する。

「……待ってくれたかや!」

ウェルカムがそう言って、たかやの言葉を止める。

「町を守るのが私の使命だ。」

その言葉を聞きつつもたかやはドラゴンナックルの方へと歩く。

「……町を守るだと。」

そのことばにとんすとん店主が衛兵をにらみつける。

「とても信じられん。今の今まで『治安』の意味さえ考えずに動いている人間相手にはな。」

「とんすとん店主さん! もうちょっとオブラートに包んでくださいよ!

 どんだけ変に見える行動でも昔ならのプログラムで動いているだけなんです!

 街中での攻撃にしか反応しなかったり、モンスターの攻撃に反応しないのもきちんと考えられて作られているんです!

 ぶっちゃけると、盗みと渡しの判別プログラムが難しすぎて諦めてる状況なんです!!」

たかやがそう言って全力でフォローを行う。

「たかや……。」

ドラゴンナックルが沈痛な面持ちでたかやの方へと向かう。

「フォローになってない。」

「……プログラムだと…何をわけのわからんことを……解除しろ。」

「……解除はしない。もし私の行為が犯罪なら、貴方の手で解除できるはずでしょ?」

「貴様ッ……。」

その言葉と共にその衛兵は刀を取り出す。

「待てっ、お前の言うルールでは空間を買った人間を罰する事はできないはずだ!!」

「例えそうだとしても、事件を起こした奴をそのままにしておくわけにはいかん!!」

「………そういうんだったら、盗みを行った奴も捕まえてくださいよ。」

そういってウェルカムが愚痴る。

「誰が空間を買ったのかわかるんでしょ。だったら暴行事件だけではなく、盗みとかにも対処お願いしますよ……。」

「そんなものは俺達の管轄外だ。」

「5分……。」

たかやがそう言って、落ち着いたようにその男の眼を覗き見る。

「……貴様、何を図っている?」

「……衛兵が追いかける時間は1時間と決まっている。ならばあと55分待てば、お前は下がらなくてはいけないって訳だ。」

「……貴様ッ。」

その言葉と共に、衛兵がたかやに剣を向ける。

「……俺に剣を向けていいのか? あんたの言う規則に問題を起こしていない人間に剣を向ける規則があるのか?」

「ふざけるな……。」

その言葉と共に、衛兵は大きく刀を上段に振り上げる。

「最初に言っておく。今ここで貴様が刀を振り下ろせば、お前たちの言う規則は無くなったも同然になるぞ。」

たかやはそう言って、衛兵をけん制する。

「………たかや?」

「ルールを違反していない物は攻撃できない。それが衛兵の最低限のルールのはずだ。

 それを破る重さはわかっているのか?」

「貴様貴様貴様……今のままでは我々が貴様を攻撃できない事を知って………。」

「ああ、知っているとも。この辺りのルールは基本として知っている。」

「くぅぅぅぅうぅ!」

正論をつかれて衛兵が唸る。

「ルールが変わったのなら告知しろ。それが最低限の規則だろ?」

「貴様、古より続く規則を……。」

「古くからかっこ20年かっことじる。」

「あなたも茶化さないの!!」

ウェルカムの言葉にドラゴンナックルが怒る。

「20年? 馬鹿を言うなアキバの歴史は200年以上だ!!」

衛兵が大きく叫ぶ。

「200年以上?」

たかやがそう言って、頭を抱える。

「俺が始めたのが20年前で、アキバのもそれぐらいでできていたし………。」

「なにをわけのわからんことをブツブツと……。」

「それに20年の間にも色々と規則は変わっているはずだぞ。」

たかやはそう言って、衛兵の台詞にツッコミを入れる。

「……貴様ッ……。」

「大体単一のルールだけで冒険者を縛り続けるなんて無理だろう。」

たかやは軽口を言いつつも、目の前の衛兵から目を離さない。あの一撃はダメージを無効化せねば防げない類の代物だった。

「これからどうしましょうか。マスターたかや。」

(持っている武器が刀……という事はメイン職業は武士。

 ビルドは破壊力重視のソードサムライ……。おそらく攻撃に使った技は<一刀両断>。

 再使用時間短縮は持っていないから2度目は<一気呵成>を使わなければならない……。

 連続攻撃が飛んでこなかったのは幸いだったな……まあ、こう減らず口叩いてるうちは大丈夫だろうけど。)

たかやはそこまで確認しつつ、違和感を覚える。

「え??」

「喋ったの誰だ???」

「………マスターって。」

「……召喚された生物って……普通にしゃべるの?」

「え?? 今喋ったのって『ひーらー』なのか?」

衛兵から目を離さずに、たかやは呟く。

「はい、その通りです。これから先どうすべきなのかの判断を。マスターたかや。」

「いやいやいやいやおかしいだろ! なんで『支援者召喚の指輪』で召喚した人間が普通にしゃべるんだ?」

「……おかしな質問です。マスターたかやに対して私は何度か声をかけた事があります。

 それに対してマスターたかやは、コマンドで命令されたはずですと返事いたします。」

「………ええええええええええええええええっ!!」

たかやは驚愕の声を上げる。

「………何をそんなに驚いているのでしょうかと質問します。」

「………たかや。もしかして<大災害>の後、『支援者召喚の指輪』使ってのこれが初めて?」

「ああ、色々とあったんだが使う機会に恵まれなくてな……。」

たかやはそう言いつつも衛兵から目を離さない。

「……命令はどこまで受け付けるんだ?」

「マスターたかや。それは私ができる全てを受け付けます。

 ただ覚えておいてください。その責務は全てあなたに帰ってくることを。」

「……じゅ重大だな……。」

たかやは冷や汗をかきながらも衛兵から目を離さない。

「何をわけのわからんことをごちゃぐちゃと……いいからさっさと解除しろ!!」

イライラとした声で衛兵が声をかけてくる。

「……悪いけど、解除する気はないわ。」

ドラゴンナックルがそう言って、装備コマンドに手をかける。

「………非公式ラスボスと一戦まじえるってか?」

えんたー☆ていなーもそう言って杖を取り出す。

「衛兵は並以上の守護戦士を一撃で倒す。その上で瞬間移動と再生能力とバッドステータス耐久を持ち合わせている上に攻撃スキルを使ったらさらに来るぞ…!」

たかやはそう言いながらも、両手に盾を持ち合わせる。

「代わりにバッドステータスや範囲攻撃を持ち合わせてはいないがな……それでも街中で戦う限り、衛兵はレイド級ボスを上回る戦闘力を持つ!」

「『白魔丸』みたいに範囲攻撃できて、バッドステータスあたえる武器持っていたらまずかったな。」

「止めて! そういうのフラグだから! 『私が範囲攻撃できないと誰が決めたのかい?』と言って武器持ち出してくるフラグだから!」

「……んなわけあるか。我々の攻撃は単体攻撃が基本だ。」

衛兵がそう言って、ウェルカムの言葉を止める。

「……だが、こうなってくると範囲攻撃の必要性もあるかもしれんな。」

「……やっぱりフラグだったか……。」

地面に突っ伏して倒れこむウェルカムを全員がやれやれと言った雰囲気で覗き見る。

「……時間稼ぎはそこまでにしろ。こうなったら貴様ら全員大神殿送りに……。」

「そこまでです!! 双方武器を収めなさい!!」

そう言って、横から声が響いた。

「……銀行の人がここまで来るとは珍しいですね。」

たかやがそう言って声のした方を向く。

「……誰??」

「この人を知らんのか? この人こそアキバの最高責任者にしてヤマトにおける銀行システムの管理人である……。

 菫星様だ。」




「「「「「誰????」」」」」

全員の声がはもった。

「たかや。知ってる?」

「すまん、知らん。銀行の服を着ていたから銀行の人だと思ったんだが、名前までは……。」

「じゃあ、誰も知らんな。」

「…………………私の知名度ってそんなに低かったのでしょうか……。」

菫星はそう言うと、思いっきり突っ伏して倒れこんだ。

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