第6話ミズハラ家にて

ミズハラ=リョウマは部屋の中でタカヤと執事のアルフレッド(セバスチャンよりも数が少ないが、執事の名前としてはよくある名前だ)と一緒に話を聞いていた。

「タカヤ。確かに話は聞いた。冒険者の固有能力を利用した犯罪についてだ。」

「………たかやさんは根拠がないと言っていましたけど。」

「根拠が見つかったと言ったら?」

「!!!!!」

「……トリックについてもその能力を使用したのだろうな……。」

そう言いながらも、ため息をつくリョウマ。

「……だが、掣肘する力がない。商売禁止にしたとしても他の冒険者を通じてやられたのならば、対処の方法もない。」

「頼みの綱の衛兵があのざまですからな。」

「アルフレッド、最大の問題はそれだ。」

リョウマはそう言って、アルフレッドの言葉を補足する。

「……衛兵の活動のせいで、冒険者の動きが制限されている。そのせいで武力で制圧するという、方法がとれない。」

「ではどうしますか? かつてプレイヤータウンで冒険者をのべ3000人殺した『ジャック・ザ・リッパー』でも探して解き放ちますか?」

「いや、我々の依頼を受けてくれた冒険者もいる。彼等を裏切ることはできない。」

冷静に、かつ温情を示しながら言う。彼には自らの部下・商売相手などを守る義務がある。もし冒険者の町にモンスターを解き放つことで守ることができるなら容赦なくそれをするだろう。

「………ところで旦那様、その根拠というのは??」

「これだよ。私が盗んだ相手の顔を確認して、似顔絵とある冒険者の名前が一致した。」

そう言って数枚の紙を二人に見せる。

「部屋の中に入れないのにどうやって確認を?」

「遠見の鏡だ。あのアイテムの存在を冒険者はあまり気にしないようなのでね。何ヶ所に仕掛けて、犯行現場をしっかり見たのだよ。」

「アイテムも外に飛び出てしまうのでは?」

「もしそうなら盗んでしまうアイテムも外に飛び出してしまうな。」

そう言いながらもリョウマは冒険者の能力についての考察を始める。

「なんと!!」

「……遠見の鏡の存在を忘れていたのか、知らなかったのか、そのままほおっておいたのが運のつきだ。」

一部のクエストでしか使われない、入手不可能アイテムの存在を覚えておけというのは酷な話だ。また持って帰ったとしてもこのアイテムは対のアイテム。もう片方を川に捨てられたのなら価値がなくなってしまう。

「まあ………犯人については他の奴にも情報を回す。今回の件は私の一存ではどうにもできん。」

リョウマはそう言って、いったん言葉を切る。

「しかし、ぼっちゃまと似た名前、同じ顔の冒険者ですか。」

「……自分でもびっくりするぐらい似ていました。」

「……この世界には似た顔が100人いるというが、冒険者と同じ顔とは初めて聞く話だ。」

そう言いながらも、リョウマはそれほど気にすることは無い様子で次の議題に移る。

「これからする話は、3人だけの秘密だ。」

ミズハラ=リョウマはそう言って、二人に口止めをする。

「現在調べている範囲だが、幾つかの記録に矛盾が生じている。」

そう言って、羊皮紙に書かれたメモを二人に渡す。

「例えば『ココニアの実』。愛を伝える果実として2月14日に渡すアイテムとしてよく知られているアイテムだが……。」

(作者注:草中先生すみません。解説の必要上アニメ版の設定を利用しています。)

「ええ、それが?」

「冒険者達が集めるのは12年に1度しか集めていない。貯蓄したとかそういう状況もなく、今の今までココニアの実が足りないという状況はなかった。」

「は?」

「それはつまり、何処からかココニアの実がわいて出たと?」

「そうとしか考えられん。それだけではない。」

そう言って、書かれている資料を次々と見せる。

「他にも12年に1度特定の日にしか現れないモンスターもいるが、それとこれとは話が別だ。」

そういう習性のモンスターなのだろうとリョウマは二人を納得させる。

「……ココニアだけではなく、高級食材になればなるほどこの手の矛盾が大きくなっている。

 正確には、冒険者が扱うような大きなアイテムが……な。」

「……取引した日付と手に入るはずの季節があっていあいと、そういうわけですな。」

そう言って大きくため息をつく。

「そして金貨……これは金ではできていない……らしい。」

「らしいとは?」

「ドワーフの最高の腕をもった職人に金貨を素材の金にしてほしいと頼んだのだが……どれだけコマンドを使おうと、素材アイテムに変化させる事すらできなかったようだな。」

「……それは?」

「金に似た謎の物質。あるいは魔法のアイテムかもしれん。

 だが、タカヤの話を聞く限り、普通の金ではないのだろうな。……クニエどもは何か知ってるかもしれんがな。

 冒険者が空間を買う為に使うアイテムだとすれば、その価値も理解できるがな。」

「つまり、我々には価値のないアイテムだと?」

「いや、冒険者への報酬としての価値が存在する。冒険者にしか使えんとあるが、このアイテムを誰もかれもが使えるようになれば、金貨の量が足りなくなるのは確実だからな。」

冒険者が必要な量だけを使うから、いまだに金貨が残っているのだとリョウマは判断した。

「話は変わるが………遠見の鏡の効果範囲はどれぐらいだと思う?」

「え?? 確かあれは地域内でしたよね。強大な鏡ならば、そういったことを気にせず姿を映せるはずですが、ヤマトで作られた鏡ならばヤマトの中でしか使えないはずでしたよね。」

「そうだ……例え100Mでも地域の外ならば鏡は通じない。対となっていたとしてもだ。ここで問題となるのが何故『ヤマト』なのかだ。」

「リョウマ様の言いたいことがわかりませぬが………。」

「魔法の攻撃範囲とかはおおよそ100Mと円形あるいは直線状になっているものが多い。しかし……だ。通信系のアイテムは距離ではなく、ヤマトの領域が基本単位となっている。

 しかもだ、イースタル・ウェストランデ間でも通じる仕様だ……違う国なのにな。」

そう言って、一息をつく。

「……この組み分けに縛られている物は多い。十三騎士団、大事件の知られている範囲、風習や職業の違いとかがな……。」

そう言って、次の言葉を紡ぐ。

「それの何が問題が?」

「ナカスの商人からのまた聞きのまた聞きになるが……海の向こうは地獄だそうだ。

 少なくとも情報が入ってきているススキノより酷いそうだ。それでも衛兵が動く様子はない。」

「あの冒険者に支配されたというススキノよりもですか!」

「……所詮は『支配』だ。食事に味がどうのという、わけのわからぬ不服を漏らし、自らの力を誇示して服従を強いているが、他の職人を殺したりはしていない。

 魔獣退治とかもしているらしいから、まだ住めないわけでもないらしいしな。

 あちらで起こっていることは『略奪』だ。他の奴の利益になるぐらいならば破壊するというな……。」

苦悩を浮かべながら、リョウマは話を続ける。

「現在我々が考えるべきことは、この冒険者への掣肘の方法だ……衛兵は頼りにならん以上我々独自の方法でやるしかあるまい。」

リョウマはそう言うと、何枚かの紙を準備した。

「私は一度、ヒタチに向かいキリヴァ侯爵と会談を行う。

 商品は例の方法で盗まれぬよう全て持ち運ぶか鍵のつけた部屋に入れておくように。

 もしこれ以上アキバでの商売が難しいと判断したのなら、建物、資材、資源全てを引き払い、マイハマの支店へと退却しろ。」

「わかりました。」

「それとタカヤ。」

「なんでしょう。」

「激動の時代が来る。まるで何かに守られていた時代は終わりをつげ、何が起こるかわからない時代が始まろうとしている。」

「はい。」

「今までミズハラ家は冒険者とそれほど付き合うことはなかった。しかしながらそれでは時代の流れに取り残されるだろう……お前はしばらくアキバに残こり、冒険者達の様子を見ていろ。」

「わかりました。この目でゆくすえを見届けようと思います。」

「そこは、俺が歴史を作るとしますと言ってほしかったかな。」

苦笑しながらやや無欲っぽい答をしたタカヤに声をかけるリョウマ。

「アルフレッド、タカヤを守ってほしい。」

「かしこまりました、リョウマ様。」

忠臣である執事はそう言うと、一礼をした。

「それと、何かあれば遠見の鏡で連絡する。頼んだぞタカヤ。」

商人としての顔をしてリョウマはタカヤに声をかけた。

「わかりました。」

「それと、最後になるが……ご禁制の薬については知っているな。」

「はい、ウエノの盗賊が時々運ぼうとする薬ですよね?」

「そうだ。我々が普通に作る薬とは違う薬だ……。冒険者は今までその薬を手に入れるのを阻止する側に回っていた……。」

「確かに……どれほどの悪党と言われた冒険者でもその薬を手に入れようとはしませんでしたな。」

「その薬を手にしようとする冒険者が現れるかもしれん……その冒険者についての対処を行う必要がある。」

「それは衛兵に任せれば?」

「駄目だ……あいつらに確認をしたが、薬を持ち込んだとしても対処を行わないとの事だ。」

リョウマはそう言って、焦りを見せ始めた。

「……ともかく衛兵は冒険者の暴力行為にしか発動せん。もしもあの薬が冒険者の手に渡ったのならば……。

 アキバ消滅はまだましだ。最悪、イースタルが滅ぶ可能性も否定はできん。」

リョウマの言葉に二人が息をのむ。

「この事はまだ誰にも言うな。ご禁制の薬を持ち込んで冒険者を支配しようとする奴が出てくる可能性も出てくるからな。」

リョウマの苦悩は終わらない。

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