第2話たかやとタカヤ
「本当にそっくりだ………。」
「……なんなの? 兄弟??」
「えっと冒険者の方なんですよね。というか俺三男なんですけど、ここまで同じ顔の兄弟は見たことないです。」
「………だから言ったろ? 依頼人の顔を見ても驚くなって。」
それよりも驚いたのが自分の名前と同じだという事だ。
ネトゲ社会において、機密の同一性は保たれなければならない。そんな中で自分と全く同じ名前を持つ存在がいたらどうなるだろう。
おそらく、プライバシーの侵害だと叫ばれてしまうのだろう。
(親父が設定したのか?)
そうだとしても、依頼人の名前に自分の名前を使うのは納得いかない。
<エルダー・テイル>の運営会社については様々な規約というものが存在する。
その中にクエスト関係の話もあったはずだし、その中に自分やほかの人間の名前を使ってはいけないというのがある。
これは、シナリオライターの誇示欲を抑えるためとシナリオライターの独占欲を抑えるためだ。
シナリオライターの名前を使ってしまうと、そう言った系統のシナリオが作られやすくなるから……らしい。
たかやは親父からクエストを作る時の注意点としてそれを聞かされていたし、その点においてはシナリオのアイディアを出すときにところどころ聞いた話がある。
ゆえにミズハラ=タカヤという名前はクエスト中にでてきてはいけないはずなのだ。
いけないはずのものが出てきたとして自分一人で考えても仕方がない。
それに顔の問題もある。
冒険者の外見を真似をする。そう言ったスキルをNPCに持たせることは禁止されている。
たかやは、クエストのアイディアを出すときの禁止リストを思い出しながら、考えを巡らせる。
これは、顔をあわせないネトゲにおいて運営側がプレイヤー間の不和をまかない為に設定されている事だ。
NPCの忍者などがメイドや執事になるスキルなどはあるが、それでも冒険者の外見をコピーするスキルは無い。
これは、完全に同じ外見、同じ名前の存在があるという場合、他の冒険者の行為への抑止力が働かなくなる可能性があるからだ。
規約違反で暴れているのか、それともコピーが暴れているのかそのあたりの判断が難しくなるというのが大きな理由である。
元々顔を実際に合わせることの少ないMMOの中では些細な事が喧嘩の材料になりかねない。
その為、この手のスキルに関してはやや神経質ぐらいに禁止が明文化されていた。
「……ここ最近、アキバ周辺で盗みが流行っているらしい。」
「盗み??」
「ああ、話聞いたところによると、馬小屋に馬車を止めていたら急に外に出てしまって、慌てて戻ったら馬車が無くなっていたそうだ。」
話の要約が行われ、たかやは少し考え込む。
「……盗品捜索のクエストか?」
「……探してほしいのは『方法』です。」
「は??」
タカヤがそう言って言葉を紡ぎだす。
「どうやってあの馬車を盗み出したのか、どうやって俺達だけ建物の外へと出したのか、その方法を探してください!」
「なんじゃそりゃああああああああああああああああああああああああっ!!」
たかやは大混乱をしながら叫び声をあげた。
「なに?なに? こんな時普通なら、盗まれた大事なものを返してほしいとかそういうクエストだよね?
新しいスキルが使えるようになったら、使えなくなる推理クエストじゃないよね?」
考え込んでいるたかやに他のメンバーが声をかける。
「俺がクエストを受けた理由はそれだ。そうじゃなきゃ、幾ら依頼所の前でうろちょろしている奴の依頼なんて受けないさ。」
1人の優男風の男が声をかける。
「見た事のないクエスト。推理クエストなんてそれこそ迷宮の中のパズルしかないようなクエストをやるっていうんだ。
もしかしたら見た事のないスキルが使われて、そこから相手の意外な正体からでかいクエストに繋がっていく可能性だってあるんだぜ。」
「……見た事のないスキルによる、完全犯罪だと? そんな推理物での反則っぽいクエストなどあるのか?」
「逆です。新しいスキルの顔見せ用のクエストとしてはこれほど適当なものは無いでしょ?」
そう言われて、たかやを案内した男はポカンと口を開く。
「…なるほど、『ノウアスフィアの開墾』か。」
「ええ、それによる新しいスキルを持ったモンスターの登場の可能性があります。」
「……とりあえず、たかや。あと1人連れてくるっていったけどどこにいるの。」
「ここにあるさ。」
そう言ってたかやは赤い宝石がはめられた指輪を出す。
「秘宝級アイテム『支援者召喚の指輪(サモニング・リング)』これで6人目を呼び出して、とりあえずのパーティーをそろえることができます。」
『支援者召喚の指輪』は、ある種の召喚アイテムだ。習得時に設定した職業のNPCを召喚するアイテムで、自由にカスタマイズできるのが魅力というのが売り文句ではあるが、装備品は自分で買わなければならない。
しかも命令に関しては攻撃・移動・支援・待機の4つぐらいしか扱えない・クエストなどでは1人として扱われる(クエスト上限に引っかかる)為、しかも使用可能時間は1時間で再使用時間が24時間(短縮不可)である。
長めのクエストの場合、時間切れを起こす可能性もあり、長時間に及ぶレイド用には使えないアイテムであった。
たかやが今回このアイテムを使うのは2人メンバーが足りないという事で、サポート用に用意していたこれを出すことにしたのである。
「……課金アイテムだっけ。」
「<エルダー・テイル>はFree to Play(課金なしが課金ありに勝てる)を基礎に考えています。ごくまれに落とすボスも存在しますし、これぐらいならオクに出す人もいますよ。 まあ課金で手に入れあったんですけど。」
オク=オークション。<エルダー・テイル>のシステムの一つで欲しいアイテムを『買い付ける』システムだ。
金貨だけではなく、素材アイテムなどの回収売買なんかも行われている。
「子原さんとかとんでもない課金していたのに、強さ的にはあまり強くなかったですし。」
「子原??」
「知り合いの召喚術師です。」
「……EXPポーションとか、SPドリンクをがぶ飲みして一気にパワーアップしてたからなあの人。」
ドラゴンナックルのフォローにたかやがため息つく。
「……あれをがぶ飲みとか、どんだけ金持ちだったんだよ……。」
「金よりも時間の問題だったと思います。休みの時にしかやれないとか言っていましたし。」
「あの、クエストの話に戻してもよろしいでしょうか?」
話を理解できないタカヤが割り込んでくる。
「はい、構いませんけど。」
「今の所、盗まれたのは食料品がメインで……それも野菜や果実なんかを集めてみるみたいです。」
「……なんじゃそりゃ。」
「他の物も盗まれたりしてるんですが、食料のついでで盗まれたりしています。」
タカヤの言葉を聞きながら、たかやは首をかしげる。
「食料だって?」
「そうです、値上がりしてるものを直接狙ってくるので、恐らく金目当ての犯行だと思います。」
たかやは無言のまま話を聞く。
「……衛兵の方にも声をかけたのですが、『管轄外だ』という事でしたので冒険者に依頼する事になりました。」
「……実際に被害が出てるんだろう?」
「ええ、ですけど逆に怒られたんです。街中で事件を起こしたセタ・ソウジロウと何で商売を続けてるのかって。」
「「「はぁ??」」」
全員が一気に気の抜けた声を出す。
「もうこうなったら冒険者の皆様に依頼を受けてもらうしかないと思って、依頼を出しに行ったら……そのドラゴンナックルさんが声をかけてきて……。」
「それで受けたって訳か。」
「そういうこと。他のメンバーはたまたま通りかかってた人なんだけどね。」
たかやの確認にドラゴンナックルが答える。
「お願いします。他の冒険者さんにも依頼を出そうと思っています。調査をお願いします!!」
「それで、たかやとかいったな。お前はこの依頼を受けるのか?」
「受けるさ。今はやる事が無いからな。」
そういいながらもたかやはそれよりも重要な事をしゃべる。
「……まずは自己紹介しようか。」
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