たかやの道具奮闘記

@force

第1話クエストの始まり

大災害、それはゲーム世界が現実と化し無数の地球人達が冒険者として<エルダー・テイル>の世界に舞い降りた事件である。

その現実と化した世界において人々は、嘆き苦しんだ。


プレイヤータウン<アキバ>にある酒場の一角。

ゲーム時代に宿屋と言われる施設はほとんど存在しない。ゲーム時代、休みたくなったらログアウトすればいいし、わざわざ宿屋に金を払ってまで休みたがる人間はいない。

しかしログアウトが不可能になった為、ギルド所属の人間はギルドハウスなどで雑魚寝や硬い木工細工のベッドで寝るのが精いっぱいであった。

そんな中、小さな酒場(集合場所として利用されていた)が宿屋っぽい事業を始めるとそれは瞬く間に広まった。

小さな部屋とベッドで安く済ませる形なのだ。一応ロイヤルスイートもあるのだが、冒険者が安く済ませようとしていたので、そこそこの需要があったのだ(この当時は)。


アキバを少し離れた街道の近く。

「姉御、本当にこんなので、金もうけができるんですか?」

「ああ、上手くいけば、幾らでも奪うことができる。」

「衛兵に攻撃されませんかね?」

「攻撃なんてされないさ。私達は一切「攻撃」していないんだからさ。

 だから、あいつらは私達を守ってくれるのさ。」

そう言ってその女はくくっと笑った。


「…ご注文は。」

「「「「スープ1つ。」」」」

料理は一番安い料理を頼む。全ての料理に味が無いため、安くてとにかく量の多い物をというのが冒険者のお約束になっているのだ。

「……何で料理に味がしなんだよ。」

「……それ何度目の話だよ。」

「たかや、また説明お願い。」

「………昔は料理に『味』のパラメーターが存在したんだよ。

 それが、色々と不評だったんで全部のパラメーターを0にしたんだ。」

たかやと言われた鉄鎧を着た男がややあきれつつも説明を行う。理由がわかったとしてもそれだけでは納得できない。

「誰なんだよその0にしたの!」

「まあ能力上昇と引き換えにシステムを書き換えたそうだから、当時のプレイヤーの大半っていったところかな?」

「カレーにフレーバーテキストに「辛い料理」って書いてあるだろう?それなのになんで味がしないんだよ!

 アタルヴァ社はアメリカの会社だろう?製造者責任法は一体どうなってるんだよ!」

「ツッコミどころそれかよ!」

「重要だろ! カレーが辛いのは!」

一同がやんやと叫びながらノリツッコミを行う。

「大体フレーバーテキストなんて適当の極みの代物だぞ。レベル50の武器に『まさしく英雄にふさわしい武器である。』と書いてあったりするからな。」

たかやはそう言って首をすくめる。

「……最初はレベル50が上限だったんだよな。」

「レベル50にやたらととんでもないフレーバーテキストが多いのはそう言うわけか。」

そう言いながらも一同は豆のスープをすすり食う。

「まあ、そう言う事なんだろうな。」

その瞬間にたかやの耳に音が鳴り響く。

「……すまん、チャットが入った。」

たかやはそう言って、耳に手を当てる。

『たかや、念話でごめん。』

「どうしたんだよ一体。」

『一つクエストを受けちゃって、ヘルプが欲しいの。』

「『クエスト受けちゃって』って断ればいいだろう?」

『断れる雰囲気じゃなかったのよ。それに、かなり気になる依頼人だったから……。』

「気になる依頼人?」

『名前は……隠す必要はないんだけど、流石に念話だと言えないの。』

無効からの声にやれやれという顔をしながら、たかやは話を続ける。

「あと何名までOKだ?」

『……ごめん聞いてなかった。』

「そうかなら?」

たかやはそう言って頭を抱える。

「報酬はどれぐらいだ?」

『えっと金貨30枚って言ってたけど。』

「(となるとパーティー用か)。そっちに何人いるんだ?」

『4人』

「わかった、こっちで2人分用意するから待っててくれ。」

そう言ってたかやは念話を切る。

「俺はいかねえぞ。」

酒場の中からそんな声が聞こえる。そんなことはわかっている。わけのわからない情報で動くのは怖いのだ。

「……世の中には色々と便利なアイテムがあるんだよ。」

たかやはそう言って、1人で酒場から出ていった。


「待ち合わせ場所はここか。」

別の酒場でたかやはそう言いながらドアをくぐる。

「あれ?タカヤさん? 待合室にいたのでは?」

ドアに入ってすぐ、そんな風に声がかけられる。酒場の給仕が急にたかやに声をかけてきたのだ。

「待合室? 何の話なんだ?」

「ですから、依頼の話で待合室を使うって言っていたでしょ? なんでもヘルプ来るから少し待ってという事でしたし。」

「………????」

たかやは急に混乱する。なぜこの給仕は自分になれなれしいのか。まるで自分が最初からいたかのように話すこの女性は一体何なのか。

「バグかバグなのか。」

たかやはそう言いながらも考えを続ける。

「『バグかバグ』って何の話なんですか?」

「こっちの話だ。それよりもここにドラゴンナックルという冒険者が来てるはずなんだが?」

「あれ?一緒じゃないんですか?」

「一緒??」

「おー、ヘルプが来たのか………は??」

そんな言葉と共に1人の青年が2階のドアを開けてやってくる。

「………どうかしましたか? ヘルプに来たたかやと言います。ドラゴンナックルから話を聞いていませんか?」

「…………あの嬢ちゃんがヘルプが来ても驚くなというのはそういう事か……。」

青年はそう言うと、深く納得したかのように、唸る。

「????????は???」

ヘルプが来ても驚くな? ドラゴンナックルがそう言ったのだとしたらひどい買い被りだ。

自分は運営の人間の息子だ。名前はそれほど知られていないが、それでもゲーム内でビッグネームというわけではない。

「わけがわからんという顔をしとるな。まついてこい。依頼人に合えばわかる。」

その青年の言葉につられてたかやは酒場の2階へと上がっていった。


「……来たぞ。驚くなよ。」

自分の顔の何処に驚愕する要素があるのだろう?

そう考えつつもたかやは部屋に入った。

「なっ!!!」

そこは小さな部屋だった。平凡なテーブルに椅子が幾つか。

そこには4人の男女が座っていた。


「ありえない………。」

「たかや、聞いて。彼の名前は……。」

そう言って一人の女性が声をかける。


タカヤ=ミズハラ。


恐らく漢字で書けば水原貴也とでも書くのだろう。


その名前は奇しくもたかやの本来の名前と同じものを持つ同じ顔の少年がそこにいた。

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